裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第五部
事件番号 平成17年合(わ)第531号
事件名 殺人等
被告名
担当判事 栃木力(裁判長)中尾佳久(右陪席)長池健司(左陪席)
その他 書記官:渡邊
検察官:石井隆、吉井太人、中畑知之
日付 2006.3.24 内容 証人尋問

 少年事件とはいえ逆送されて成人と同様に起訴された事件なので、普通は開廷表や審理中でも被告人の名前が出されるのだが、本件は弁護側の要求あってか開廷表にも被告人の名前が記載されておらず、審理中も「A君」と呼ぶことになっていた。
 軽い身体検査があり、持ち物が回収され法廷に入ると、まず目についたのは、証言台を囲っていた大きなつい立だった。
 また、たった1人の被告人に弁護人が15人ほど(5人×3列)ついており、その多さにも驚かされた。
 さらに驚いたのは、被告人が傍聴人に背を向けて座っていたことである。
 また傍聴人が入退廷するときは刑務官と裁判所職員(計3人)が被告人の後ろに立ち、傍聴人から被告人の顔が見えないように徹底されていた。

 この日は2人の証人に対する証人尋問で、まず検察側の証人で被告人の元同級生に対する尋問が行われた。当然証人も少年なので、それに配慮して証言台を大きなつい立が囲っており、傍聴人はもちろん弁護人や検察官からさえも証人の姿は見えないようになっていた(法廷の中で証人の姿が見えるのは裁判官だけ)。

裁判長「これから審理をはじめます。証人は立ってください」
証人「(小さい声で)はい」
裁判長「氏名、生年月日、住所は証人カードに書かれたとおりですね?」
証人「はい」
裁判長「それでは、宣誓書を朗読してください」
証人「(声は小さく、やる気のなさそうに)宣誓、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」
(普通は宣誓の最後に証人の名前も言うのだが、今回は証人が少年だったため省略された)
裁判長「ではね、今宣誓しましたから、うそを言わないようにしてくださいね。うそを述べると、あなた自身が偽証罪に問われることがあります。では検察官、質問をどうぞ。あっ、この裁判では被告人の名前は伏せられていますので、『A君』ということで」

−石井検事の証人尋問−
検察官「では被告人をA君ということで質問をします。君は平成17年6月20日に自分の両親を殺害して爆発を起こした被告人のことを知っている?」
証人「はい」
検察官:君はA君と中学2年と3年のとき同級生だったということだね?」
証人「はい」
検察官「この事件が起きた後、Y3さんという刑事にA君について聞かれた?」
証人「はい」
検察官「そのときは、Y3刑事に記憶通りに話せた?」
証人「はい」
検察官「調査書を作った?」
証人「はい」
検察官「内容に間違いはない?」
証人「はい」
検察官「では、それに基づいて聞くね。君は中学2年からA君と付き合い始めた?」
証人「はい」
検察官「A君はいつ頃転校してきた?」
証人「中2です」
検察官「春ごろ?」
証人「記憶ははっきりしません」
検察官「君から見てね、事件前のA君の印象は?」
証人「ごく普通でした」
検察官「変わったところはない?」
証人「はい」
検察官「怒りっぽいとか、生真面目とか」
証人「冷静な子だと思いました」
検察官「あんまり怒ることはない?」
証人「はい」
検察官「調書の中に、『やんちゃな感じ』とあるけど」
証人「はい、いたずらをしていたので」
検察官「A君とはどんなつきあいだった?」
証人「普通に、同級生としてです」
検察官「どういうふうにつきあっていた?」
証人「3人でグループを組んでました」
検察官「3人というと、もう1人は?」
証人「Y4’君です」
検察官「ああ、そこは名前を挙げていいです」
証人「Y4君です」
検察官「どんないたずらをしたの?」
証人「上履きで学校の外をかけまわったりとか」
検察官「(少し笑う)他には?」
証人「別にないです」
検察官「中3のときに一度A君の家に行ってるね?」
証人「はい」
検察官「いつごろ?」
証人「夏ごろです」
検察官「家の中には入った?」
証人「入ってません。家の前で話しただけです」
検察官「どこで話した?」
証人「駐輪場です」
検察官「そのとき、A君のお母さんと挨拶した?」
証人「はい」
検察官「どんな人だった?」
証人「他と同じ、普通でした」
検察官「どんな話をした?」
証人「挨拶だけです」
検察官「そのとき、家には入っていない?」
証人「はい、でもA君からカードと刀を見せてもらいました」
検察官「刀というのは日本刀?」
証人「そうだと思います」
検察官「それは本物?」
証人「わかりません」
検察官「A君は趣味で日本刀を集めていたの?」
証人「そうだと思います」
検察官「君が見せてもらったのは1本だけ?」
証人「そうです」
検察官「A君はその刀についてどんなことを言っていた?」
証人「値段とか長さとか。一本10万〜数十万って言ってました」
検察官「どれくらいあるって言ってた?」
証人「数十本くらいとか言ってました」
検察官「どこで手に入れたのかな?」
証人「インターネットで買ったと言ってました」
検察官「お金はどうしたんだろう?」
証人「・・・わかりません」
検察官「君自身も買った?」
証人「ほしいとは思いましたけど、買おうとは思いませんでした」
検察官「それは、どうして?」
証人「だって、法律違反じゃないですか」
検察官「A君は頭は悪くはないが、勉強しないとあるけど、どうして?」
証人「英検と漢検を取るために勉強して、それでいやになったって言ってました」
検察官「調書によると、中2の二学期頃から『おやがうざい、うるさい。小5から勉強にうるさくなり、ことあるごとなぐられる』というようなことをいっていたようだけど、ここでいう親は、どっちのことかな?」
証人「勉強は母親の方だと思います」
検察官「A君が親がうるさいといったことを変に思ったことは?」
証人「ないです」
検察官「君自身は、そういうことを言われたことある?」
証人「あります」
検察官「中3の夏ごろから変わったことは?」
証人「よく『うぜー』とか『死ね』という言葉を聞くようになりました」
検察官「それは親に対して?」
証人「そうだと思います」
検察官「『殺す』という言葉もあった?」
証人「はい」
検察官「どういうときに言ってた?」
証人「休み時間とかです」
検察官「話すとき、周りに誰かいた?」
証人「友達とかがいました」
検察官「それに対して何か思ったことは?」
証人「・・・特にないです」
検察官「夏ごろから親を殺す方法を具体的に話すようになったということだけど、聞いたことはある?」
証人「はい」
検察官「具体的には?」
証人「寝ている間に斧で父親を殺し、父親を殺したらばれるので母親も殺すと言ってました」
検察官「何回も話してた?」
証人「一回だけです」
検察官「いつごろ話してた?」
証人「・・・夏休み終わったくらいですから、秋頃です」
検察官「それはどういう場面で話してた?」
証人「 休み時間です」
検察官「他の友達も聞いていた?」
証人「はい」
検察官「君はどう思った?」
証人「殺しても意味ないじゃんと思いました」
検察官「それはそのときA君に言った?」
証人「はい」
検察官「どこまで本気だと思った?」
証人「学校の休み時間にバトルロワイルや完全自殺マニュアルを読んでいたので、やると思いました」
検察官「バトルロワイルはどんな本ですか?」
証人「学校で殺しあう小説です」
検察官「完全自殺マニュアルは?」
証人「自殺や殺人の方法が書かれている本です」
検察官「A君がどの程度本気で言っていたと思う?」
証人「いや、そこまでは考えてませんでした」
検察官「もしかしたら、やるかもしれないと思った」
証人「はい」
検察官「そのことを大人や先生、親に報告した?」
証人「いえ、してません」
検察官「それは、そこまで本当に殺すとは確信してなかったってこと?」
証人「はい」
検察官「平成17年の春ごろに君が「何だ、親殺してないじゃないか」と言っていたようだけど」
証人「はい」
検察官「それに対して、A君はどんなことを言っていた?」
証人「約束みたいなことは言ってました」
検察官「どんな約束?」
証人「受験に受かったら殺らない。落ちたら、殺す」
検察官「それはいつの話?」
証人「まだ受験の結果がわかってないから、2月か3月だと思います」
検察官「よくわからないんだけど、高校に受かることと関係あるの?」
証人「受かったらうれしいし、落ちたら嫌な気持ちになるし、そこから生まれたんだと思います」
検察官「君が『何だ、親殺してないじゃないか』と言ったことについてどう思った?」
証人「不安に思いました。寝ている間にオノで殺すと言っていたので」
検察官「A君は3月に高校に合格したね?」
証人「はい」
検察官「君はA君が高校に合格したから殺さないと思った?」
証人「はい」
検察官「実際には平成17年6月に親を殺したわけだけども、君はこの事件が起きたときどう思った?」
証人「少し残念でした。約束を破られた気がしたので」
検察官「今、A君に言いたいことは?」
証人「特にありません」
検察官「恨んでるとか」
証人「ないです」
検察官「今後、彼が(刑務所から)出てきたらまた付き合う?」
証人「はい」
検察官「終わります」

−ワタナベ弁護人の証人尋問−
弁護人「弁護人のワタナベです。さっき出てきた、約束についてよくわからないんだけど、約束っていうよりも単なる会話じゃないの?」
証人「でも、実際には(事件が)起こったから・・・
弁護人「それは約束じゃないんじゃない?」
検察官「異議あり、重複です。(検察官の質問もあわせて)すでに4回になってます」
裁判長「お互いに約束したということなんですか?」
証人「こっちは約束したつもりでしたが、A君はどうかわかりません」
裁判長「事件が起こったことで、約束が破られたと思ったということですか?」
証人「はい」
弁護人「別の質問です。A君に「なんだやってないじゃないか」といったことは、挑発にもとれるんだけど、そうではない?」
証人「はい(挑発ではない)」
弁護人「君とA君と、3人のグループでゲームセンターに行った?」
証人「はい」
弁護人「どこのゲームセンターですか?」
証人「地名挙げていいんですか?」
弁護人「どうぞ」
証人「ナリマチのゲームセンターです」
弁護人「学校近くのゲームセンターにも行った?」
証人「はい」
弁護人「中3の夏にA君から親のことについてのメールがきましたね?」
証人「はい」
弁護人「内容は?」
証人「親がメチャメチャきれてむかついたという内容でした」
弁護人「返信はした?」
証人「しました」
弁護人「どういう返事をしましたか?」
証人「内容は忘れました」
弁護人「きれたのはどうしてかな?」
証人「忘れました」
弁護人「親というと、父親の方かな、母親の方かな?」
証人「忘れました」
弁護人「取調べのとき、そのことは言った?」
証人「はい」
弁護人「A君はどうやってメールを送ったのかな?」
証人「親がきれたとき、インターネットカフェに行って、そこからメールを送ったみたいです」
弁護人「それでどうしたの?」
証人「覚えていません」
弁護人「結局どう家に帰ったの?」
証人「知りません」
弁護人「A君は中2のときに転校してきたということだけど、どこから転校してきたのかな?」
証人「東京でない、別のところだと思います」
弁護人「前の学校の人とのつきあいはあった?」
証人「ありました」
弁護人「友達とか先生とかかな?」
証人「先輩と会ってました」
弁護人「それはいつ頃のこと?」
証人「忘れました」
弁護人「それでね、さっき中3の夏ごろから「親を殺す」とA君が言っていたということだけど、あなたはそれを聞いて「やるのかな」と思っていた?」
証人「はい」
弁護人「ただ、確信はしていない」
証人「はい」
弁護人「どうして『やるかな』と思ったの?」
証人「完全自殺マニュアルやバトルロワイアルを読んでいたし、父親の殺し方を話していたからです」
弁護人「それはさっき言っていたことだよね。他には?」
証人「ないです」
弁護人「A君が親を殺すといったとき、『殺しても意味ないじゃん』って思ったと言っていたけど、それはA君に言った?」
証人「言ってません」
弁護人「それはどうして?」
証人「わかりません」
弁護人「さっき言ったような本以外にもそういう類のものは見ていたの?」
証人「ネットで、イラクで人の首が切られた映像を見ていました」
弁護人「それは日本人の人質の?」
証人「違う・・・いや、そうだと思います」
弁護人「香田証生さんのもの?」
証人「はい」
弁護人「それは夏休み明けのこと?」
証人「9月上旬だったと思いますが・・・」
検察官「異議あり、誘導か誤導です。調書には9月となっています」
裁判長「そのあたりは、記憶をたどっても正確には覚えていないでしょう」
弁護人「日本刀を見せられたと言っていましたが、それはどこで買ったかわかる?」
証人「ネットで買ったと言ってました」
弁護人「一本、数万〜数十万って言っていたけど、お金はA君が出していたの?」
証人「そうだろうと思います」
弁護人「中学生がそんなお金ないんじゃないですか?」
証人「そう思います」
弁護人「じゃあ、お金はどうしていたんだろう?」
証人「わかりません」
弁護人「A君は学校の壁をたたいていたことがあったということだけど、このとき周りの人はどうしたの?」
証人「先生が注意してやめさせました」
弁護人「A君が『親を殺してやる』といったことを親や先生に報告しなかったのはどうして?」
証人「そこまで重要だと思わなかったからです」
弁護人「あとで事件が起こるとわかっていたら、報告していた?」
証人「はい」
弁護人「父親と母親を殺す方法を具体的に話していたとき、周りにはどれくらい人がいた?」
証人「クラスの人が全体的にいたので、1人2人どころではないと思います」
弁護人「大勢いたということ?」
証人「大体30人くらいです」
検察官「弁護人、ちょっと声がよく聞こえないのですが」
弁護人「はい、わかりました。えっと、そのことはY4君も聞いていた?」
証人「はい」
弁護人「Y4君はそれについてどう思ってた?」
証人「重要と思ってないけど、まずいとは思っていたみたいです」
弁護人「先ほどのバトルロワイアルという小説についてだけど、A君はよく小説を読むの?」
証人「わかりません」
弁護人「マンガとかは?」
証人「知りません」
弁護人「映画は見る?」
証人「知らないです」
弁護人「君はバトルトワイアルのことは知っていた?」
証人「本はA君に見せてもらいました」
弁護人「映画のことは知らない?」
証人「知りません」
弁護人「テレビの宣伝とかで見たことない?」
証人「テレビ見ないので、知らないです」
弁護人「クラスで話題になったりとかは?」
証人「わからないです」
弁護人「バトルロワイアルは、クラスの誰かが持って来て、出回っていたんじゃないの?」
証人「わからないです」
弁護人「特にA君だけがバトルロワイアルを読んでいたわけではないんじゃないの?」
証人「そこまでは知りません」
弁護人「別の質問をします。A君の家に遊びに行ったことがあると言っていましたが、そのときA君は何をしていましたか?」
証人「寮の手伝いをしていました」
弁護人「どんなことをしていた?」
証人「わかりません」
弁護人「手伝いはたまに?それとも毎日?」
証人「たまにって言ってました」
弁護人「手伝わないとどうなる?」
証人「殴られるって言ってました」
弁護人「殴るのは父親の方?」
証人「そうだと思います」
弁護人「どんなときに殴られたって言ってた?」
証人「聞いてないです」
弁護人「どの程度強く殴られたとか?」
証人「聞いてません」
弁護人「親との関係で悩んでいるとかA君から聞いたことは?」
証人「聞いたことはありません」
弁護人「A君の父親と会ったことはある?」
証人「ありません」
弁護人「先ほど「A君は冷静な子だ」って言ってたけど、A君はけんかとはしたことないの?」
証人「ないです」
弁護人「いじめたこととか?」
証人「ないです」
弁護人「いじめられたことは?」
証人「ないです」
弁護人「検察官も聞いたことなんだけどね、A君は成績はよくないけど頭はいいというのはどういうこと?」
証人「勉強はしないから成績はよくないけど、英単語の小テストでよく満点をとっていたので暗記がすごいから頭はいいと思いました」
弁護人「どうして勉強しないの?」
証人「小5のとき、漢検と英検の勉強をして、そのことを父親に否定されていやになったって言ってました」
弁護人「終わります」

−2人目の弁護人の証人尋問−
弁護人「父親がA君を殴ったということだけど、どうして?」
証人「わかりません」
弁護人「A君が中3の夏ごろ『親がうざい。死ね』と言っていたけど、どうしてだと思う?」
証人「わかりません」
弁護人「理由は聞いた?」
証人「聞いてません」
弁護人「君のクラスでバトルロワイアルが流行ったことは?」
証人「わかりません」
弁護人「マンガはクラスで出回っていた?」
証人「はい」
弁護人「どの程度?」
証人「わかりません」
弁護人「完全自殺マニュアルは自分で買ったの?それとも親からもらったのかな?」
証人「親からもらったと言ってました」
弁護人「どっちかはわからない?」
証人「わかりません」
弁護人「終わります」

−カワムラ弁護人の証人尋問−
弁護人「弁護人のカワムラです、こちらからは顔が見えませんが。今までの話を聞いていると、あなたはA君が絶対に親を殺すとは思っていないけども、冗談だとも思っていなかったということですか?」
証人「はい」
弁護人「その理由はA君から聞きましたか?」
証人「聞いたと思います」
弁護人「いつごろですか?」
証人「覚えていません」
弁護人「特に印象に残ったことは?」
証人「ないです」
弁護人「ある程度長い時間話しましたか?」
証人「わかりません」
弁護人「中3のときは、4人のグループだったということですね?」
証人「それは中2のときです」
弁護人「中3のときは?」
証人「3人でした」
弁護人「そのグループでは、家庭のこととか進路のこととかをお互いに話し合える雰囲気でしたか?」
証人「俺はそうは思いません」
弁護人「A君にとっても自分の悩みを話せる雰囲気ではなかったということですか?」
証人「そうだと思います」
弁護人「A君が『親を殺す』と言っていたことについて、一度も報告しようとは思わなかった?」
証人「強く思ったことはありません」
弁護人「本当にやるとも思わなかった?」
証人「はい」
弁護人「A君を助けてあげようとか、大人に相談しようとか思わなかった?」
証人「はい」
弁護人「学校では自分の悩みや相談をできる雰囲気でしたか?」
証人「俺自身は悩みはないからわかりません」
弁護人「私からは以上です、終わります」

−ムトウ弁護人の証人尋問−
弁護人「弁護人のムトウです。A君が『親を殺す』といったといき、教室には30人くらい人がいたということだけど、そのとき証人とA君も一緒にいた?」
証人「はい」
弁護人「実際にA君が『親を殺す』といったのを聞いたのは何人くらいだろう?」
証人「大体5〜6人だと思います」
弁護人「その中に中2のときの4人はいた?」
証人「覚えていません」
弁護人「その話(親を殺すという話)は唐突だった?それとも話の流れで出てきた?」
証人「覚えていません」
弁護人「唐突だったら、変だって印象を受けると思うんだけど、どんな話だった?」
証人「覚えていません」
弁護人「どうしてそこだけ覚えているの?」
証人「印象が強かったからだと思います」
弁護人「証人は『意味ないじゃん』と思ったということだけど、他の人はどう思った?」
証人「覚えていません」
弁護人「別の質問をします。A君に見せてもらった日本刀はどれくらいの長さだった?」
証人「表現できません。(証人は手で長さを表現しようとしているようだったが、証言台はつい立で囲まれているため弁護人からもその様子がわからない)」
弁護人「30センチとか50センチとか」
証人「目分量がわかりません」
弁護人「日本刀はさやに入っていた?」
証人「さやから抜いていなかったんで、そうだと思います」
弁護人「私からは以上です」

−栃木裁判長の証人尋問−
裁判長「ちょっと裁判所から聞きます。完全自殺マニュアルはどうして知ったの?」
証人「A君から見せてもらいました」
裁判長「それまで、その本については知っていた?」
証人「知らなかったです」
裁判長「(A君に見せてもらったとき)初めて見たということですか?」
証人「はい」
裁判長「バトルロワイルは?」
証人「A君に本を見せてもらいました」
裁判長「時期はいつ頃ですか?」
証人「覚えていませんが、中3になってからです」
裁判長「中3のときだったということを覚えているのはどうして?」
証人「中2のときではないからです」
裁判長「(法廷にある時計を見て)2時15分・・・次の証人が来るのは(2時)45分でしたね。(他の裁判官や弁護人、検察官に確認するように)もう聞くことはありませんね。では、次の証人が来るまで休廷ということで」

 こうして1人目の証人尋問は終わり、休廷となった。傍聴人は退廷させられたが、その間被告人の後ろに職員と刑務官が立ち、傍聴人から被告人の顔が見えないようにしていた。
 休憩が終わり、再び入廷すると、1人目の証人のためにあったつい立はなくなっていた。あの大きなつい立をどうやって撤去したんだろう、折りたたむことができるのかななどと思った。被告人が横を向いているため、証言台が妙に右(検察官側)によっていた。

裁判長「じゃあ、証人は前へ」
(証人は傍聴席から入廷し、廷吏に荷物を預けて証言台に座る)
裁判長「お名前は?」
証人「X3です」
裁判長「生年月日、住所は証人カードに書かれた通りですね?」
証人「はい」
裁判長「それでは、うそを言わないという宣誓書を朗読してください」
証人「宣誓、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います。証人、X3」
裁判長「では、今宣誓しましたから、うそを言わないようにしてください。うそを言いますと、あなた自身が偽証罪に問われることがあります。では弁護人、質問をどうぞ」

−イチバ弁護人の証人尋問−
弁護人「弁護人のイチバです。鑑定書の中で被告人のことを『少年』と表記しているので、ここでは『少年』ということで質問します。まず、証人の略歴を教えていただけますか?」
証人「私は岐阜大学医学部で精神医学を専攻しました。卒業後は臨床の経験をつむために、ロンドン大学に5ヶ月留学し、それ以降も日本の大学病院で臨床の経験をつみ、現在はX協会の理事をしております」
弁護人「鑑定のご経験は?」
証人「本鑑定は19件、弁護人依頼の私的鑑定が2件、起訴前の簡易鑑定が42件、合計63件です」
弁護人「少年事件の鑑定のご経験もありますか?」
証人「4件ほどあります」
弁護人「少年事件の鑑定に携わり、何か思うところはありますか?」
証人「はい、少年事件では現在に至るまでの生活環境、生育環境が人格の形成に大きく影響しています」
弁護人「ここに、弁81号証を示します。これは証人の作成した鑑定書ですね?」
証人「はい」
弁護人「署名、押印をしましたね?」
証人「はい」
弁護人「誠実に鑑定を行いましたね?」
証人「はい」
弁護人「X1鑑定人の鑑定書をご覧になりましたか?」
証人「はい」
弁護人「証人は少年と何回接見しましたか?」
証人「2回接見しました」
弁護人「少年に対してどのような印象を抱きましたか?」
証人「最初会ったときは、礼儀正しい子だという印象を受けました。2回目に会ったときは、一回目に会ったときよりもたくましくなり、成長したなという印象を受けました」
弁護人「証人は発達歴を重視しておられるとのことですね?」
証人「はい。人間は環境が重要な影響を与え発達します。もし、悪い環境で育てば、成長は止まったり、歪みが生じます」
弁護人「証人は家庭内の3人の関係に注目して鑑定をしたということでしたね?」
証人「はい、3人の関係の変化から3つの段階に分けました」
弁護人「3人の関係というと、3通りの組み合わせがありますが?」
証人「特に、父と母の関係を重視しました」
弁護人「では、第一期について説明してください」
証人「はい、第一期では父・少年の関係と母・少年の関係とも一致しています。生まれてから少年は父と母に支配されていますが、父と母の間に支配・被支配の関係はありません。父親は母から逃れようという心理があり、母は少年を育て父に対抗しようとしていました。しかし、この関係はそう悪くはありません。なぜなら、父親と少年との間に虐待・被虐待の関係は成立していないからです。しかし、2つのエピソードがあります。1つは、父親が少年を犬と一緒にダンボール箱に入れて笑うということがありました。人は非常に不快でつらい記憶を水密区画というコンパートメントに閉じ込めることがあります。「すいみつ」という字は、飲む水に秘密の密という字を書きます。こうしたことは意識的行われるものではなく、虐待など心的外傷を受けた人にみられます。先ほどの、犬と一緒にダンボール箱に入れられ、それを父が笑うということは心的外傷を与えていることに間違いありません。もう1つのエピソードは父から「掃除しろ」といわれ、少年が掃除をすると「なんでこんなところを掃除したんだ」と怒鳴られたというエピソードがありました。1つの支配を行っているのに、それと正反対の支配を受け問題に直面することを二重拘束といいます。この二重拘束状態に陥ると自分の考えで行動ができなくなり、ひたすら受身になってしまい、養育されるものの主体性が奪われていきます」
弁護人「第一期の少年・母親関係については?」
証人「母親は少年を父親に対抗できるように育てるべく少年を教育によって支配しようとします。一方、少年は母親に対し一体化願望を抱いていました。一体化願望とは、平たく言えば「お母さんと一緒にがんばるぞ」ということです。こうした一体化願望がよいかどうかは養育者によります。しかし、今回の場合では母親が少年の一体化願望を受け止めていません」
弁護人「第二期については?」
証人「第二期は、少年が小学5年生から中学2,3年生のときです。ここで関係に変化が起こります。まず、父・母の間で支配・被支配関係が始まります。父から少年に対する虐待が行われます。また、母・少年関係においても、少年は母に対して一体化願望を抱き続けているのですが、ここで混乱が生じています。母親も広い意味で少年の虐待に加担し始めたのです」
弁護人「母親が虐待に加担するようになったのはなぜでしょうか?」
証人「母親はそれまで少年を教育によって支配しようとしていましたが、それができなくなりました。それを象徴するものとして『これまでかっこよかったのに、なんでこうなったの?』という母親の言葉があります。母親は子を育てることで父に対抗することをやめ、父親とともに少年の虐待に加担するようになります。それを象徴するエピソードとして、少年が母親に『うるせーよ』と言ったことを母が父に告げ口したことが挙げられます。こうしたことは、母は忍耐強く耐え、父は言い出したことはとことん貫くというような支配・従属という関係が成り立っていないと起こりえないことです」
弁護人「父親・少年関係についてはどうでしょうか?」
証人「父親と少年の関係については、虐待・被虐待の関係が始まりました。まず寮における強制的使役が行われました。寮での労働を断れば、殴られる・蹴られるといった不利益が待ち構えていました」
弁護人「子どもの権利条約第32条によると、『児童が経済的な搾取から保護され及び危険となり若しくは児童の教育の妨げとなり又は児童の健康若しくは社会的な発達に有害となるおそれのある労働への従事から保護される権利』が認められていますが、こうした労働についてどう思われますか?」
証人「精神的に悪影響があるのは間違いありません。社会的にも道義的にも問題があり、少年の発達に悪影響が及ぼされました。少年の聴聞人権、意見表明権を侵害していると考えますが、私は法律の専門家ではありませんので、これ以上の意見は差し控えさせていただきます」
弁護人「母親・少年関係についてはどうでしたか?」
証人「少年は一体化願望を持ち続けていたのですが、混乱が生じています。それは母親が少年の虐待に加担し始めたからです。従属的な者が第二の虐待者を見つけることはよくあることです。少年の母に対する気持ちは裏切られます。それを象徴するものとして、『くそ、このやろー』という少年の言葉があります。これが一時的なもので終わればよかったのですが、残念ながら3年もの間同じ状況が続きました。この3年で父・母の支配関係が続き、完成されました。母は外で働くようになり、『疲れた、死にたい』と口にするようになります。母は『メシがまずい』と父に怒鳴られ、しだいに母はツーリングに行くようになります」
弁護人「父・少年関係についてはどうでしたか?」
証人「こうした間に父による少年の虐待が進行していきます。寮での仕事の割合は少年:父で9:1になりました。それにつれ、少年の感情にも変化が生じています。それまで少年は同年代の友人に対して、『いつか殴ってやろう』と言っていましたが、それが『いつか殺してやりたい』に変えわっています。同年代の友人にこうしたことを話すことは実際に行動に及ぶことを抑止する効果があると考えられます。平たく言えば、うっぷんを晴らすといったところです。しかし、こうした環境で虐待が進むと、ひたすら受身になってしまい、自分の感情や意思をのびのびと表現できなくなります。こうした状態を精神医学の用語では狭窄といいます。虐待から逃れられないために、意思や感情を閉じ込めてしまうのです。こうしてひたすら受身になって自分で考えることができなくなります。怒りや恐怖が中に閉じ込められ外からはみえなくなりますから、表面上は普通ですが正常ではありません。例えていうなら、鎧に閉じ込められ、外からは怒りには触れられないという状態です」
弁護人「どうしてそういう状態になるのでしょうか?」
証人「そうしてバランスをとらざるをえないからです。そうしないと身体が崩壊して自分の生命にかかわるのです」
弁護人「父・少年関係を象徴するエピソードはありますか?」
証人「はい、少年は『なぜ(寮の)仕事をしなければならないのか』と数回聞いていますが、それを聞くとよりひどい虐待をされました。また少年は空き家に忍び込んだことがありましたが、そうすることで少年は開放感を得るどころか教頭や父親にひどくしかられました。背景を省みない叱責のために少年は選択肢が狭くなり、未来がないと感じました」
弁護人「母親が少年の虐待に加担することでどのような影響が出ましたか?」
証人「少年には一体化願望が残っていましたが、絶望のほうが上回るようになります。母親が「疲れた、死にたい」と言ったのに対し少年が『元気出しなよ』と言ったのに母が『うるさい』と言ったというエピソードがあります。これにより少年の一体化願望が低下し、絶望がそれを上回ったのでしょう。また『なぜ労働をしなければならないのか』という質問について十分に答えられず、父と同様に虐待するようになりました」
弁護人「鑑定書に中にマルトリートメントという言葉がありますが、これはどういうことでしょうか?」
証人「マルトリートメントとは虐待を広くとらえたものと、狭くとらえたものを考えたとき、広いものから狭いものを引いて残ったものを指します」
弁護人「マルトリートメントの方が狭い虐待よりも強い影響を与えることもあるんですか?」
証人「しばしば起こります」
弁護人「証人は虐待とはどのようなものだとお考えですか?」
証人「養育者が被養育者に対して反復的に行うものであって、身体的・精神的に外傷を与えることであり、その本質は誇りを奪うことです」
弁護人「それは精神医学における定義ですか?」
証人「はい、そのとおりです」
弁護人「少年はうそを言っていると思いますか?」
証人「いいえ、少年の言っていたことは全て精神医学的に説明がつきます」
弁護人「では、第三期についてはどうでしょうか?」
証人「第三期は事件直前です。事件前夜、父親はテストの成績が悪かったことを叱り『お前はこんなものか。俺はお前よりも働いているんだ』と怒鳴り、頭を激しく揺さぶりました。頭を揺さぶるという行為はこれまで採用されていなかった方法であり、少年は大きな衝撃を受けました。狭窄状態でぎりぎり保っていたものも否定され、鎧も崩れ去る、ラスト・ストロークが起こります。このラスト・ストロークは、英語になじみのある方はわかるでしょうが、父親の言葉が重いか軽いかではなく、バランスが崩れてしまったというところに力点があります。父親は少年が大学に行くことを望んでいました。それは自身が工業高校中退で息子もそうなることを恐れていたからです。しかし、少年に『あんただって工業高校だろ。しかも中退だし』と言われたことで、自らの人生を否定され、また息子も同じ道をたどると思い、これまで採用されていなかった手段を以って少年を叱りました。しかし、そのために少年の中で鎧が崩れ、中に閉じ込められていた怒りや凶暴性が露出してしまったのです」
弁護人「家庭裁判所の決定によると・・・(手元に資料がないらしく、やや手間取る)」
検察官「正確に引用してください」
(左陪席の裁判官がすぐ隣にある資料棚から記録を書記官を経由して弁護人に渡す)
弁護人「(記録のページをめくって)家庭裁判所の検察官送致決定の理由によると、「少年は暴行を加えられ、追い詰められていたとは認められない」とありますが、どう思われますか?」
証人「それは身体的な側面しかみていない短絡的なものです。前夜と事件を一対一対応にしかとらえていないため問題があります。心理的な虐待は経験のないものが行うため、自分では虐待をしていると気づかないところに問題があります。身体的な傷は、例えば刀の切り傷ならすぐに治りますが、心理的な傷はなまくら刀で切り刻んだ傷のように治りにくいのです。前夜の出来事は、少年の発達歴を広い視点から位置づけなければなりません」
弁護人「少年は父親だけでなく、母親まで殺害しましたが、これについてはどうですか?」
証人「少年は母親に対する一体化願望を持っていましたが、もはや絶望の方がそれを上回ってしまいました。そのため、父親から逃げて母と二人で暮らすといった柔軟な発想ができませんでした。父親に従属する母に虐待される自分を投影し、母に共感し、楽にしてかげおうと思ったと考えられます。そして遂に情動行為に及び、母を殺害しました。父親は一回しか刺していないのに母親は何度も刺し、また記憶欠損があることから母親殺害時には情動行為にあったと考えられます」
弁護人「家庭裁判所の決定では『この機会(父親を殺したこと)に母も殺そうと思い、父殺害後帰ってきた母を殺害した』とありますが、どう思われますか?」
証人「強い殺意がないと多く刺すことはないので矛盾しています」
弁護人「少年は犯行後、部屋を爆破していますが、これについてどう思われますか?」
証人「少年は絶望していたため、選択肢が非常にせまくなっていました。母を殺してしまったことで夫婦で天国に送ったという達成感を周囲に知らせたいという気持ちから、部屋を爆破したと考えられます」
弁護人「家庭裁判所の決定では証拠隠滅のためとされていますが?」
証人「爆破によって発見が早くなってしまうので矛盾しています」
弁護人「情動行為とはどのようなものですか?」
証人「驚愕、恐怖に直面したときに不合理な行動に及ぶことです。簡単にいえば「パニクった」といったところでしょう。父親を殺してしまったことや、母親が思ったよりも早く帰ってきたために情動行為に陥ったと考えられます」
弁護人「事件後、少年は旅行をしていますが、これについてどう思いますか?」
証人「狭窄が解けたことで、自由が増大したことで行われたものです。計画的なものではないので、逃亡とはいえません」
弁護人「宿泊先で事件の報道を見て現実感が増し、拘束されてからは罪の意識を感じるようになったと少年は言っていますが、こうしたことはありえますか?」
証人「犯罪を犯した後、しばらくしてから罪悪感を感じるようになることはよくあることです。精神医学の知識がないと罪悪感がないと思うかもしれませんが非難されるべきものではないのです。少年には罪悪感が芽生えていますが、すぐに罪悪感が出てしまうと、過剰なものになっていまい、自己破壊に陥りますからサポート必要です」
弁護人「少年は虐待によって発達が阻害されていますが、これから健全に発達していくことは可能ですか?」
証人「はい、可能だと思います。2回目接見したときに、周囲に助けを求めてもいいのかとたずねてきました。これからは周囲と協調して生活できるでしょう。また父母に対して「ばかなことをした」ともいっています。少年は法律の面では多いにサポートを受けていますが、他の様々な面でのサポートないのが心配です」
弁護人「少年は(刑務所に)どの程度収容されるべきですか?」
証人「収容はそれほど必要ではありません。それよりも周囲のサポート体制が重要です」
弁護人「終わります」

−石井検事の証人尋問−
検察官「本件の意見書作成の経緯を説明していただけますか?」
証人「弁護人から精神医学的見地から鑑定してほしいと頼まれました」
検察官「弁護人が証人個人に依頼したということですか?」
証人「私は日本児童生命精神医学会に所属しておりまして、私どもは少年事件に強い関心があります。そのため、弁護士の方々との交流を開始した直後にこの依頼を受けました」
検察官「証人の精神科医としてのキャリアについてご説明願います」
証人「はい、私は行政の場において精神医療のあり方について意見交換をし、厚生労働省に意見を反映させています。最近では、精神障害者福祉法や精神障害者の支援に関して意見を述べさせていただきました」
検察官「鑑定人として発達障害のある少年に接見したことはありますか?」
証人「少年ではなく、成人でしたが発達障害のある者の鑑定はしたことがあります」
検察官「精神医学と犯罪心理学はどのような違いがありますか?」
証人「そもそも学問の起源が異なります。心理学は正常者の研究から始まって異常者までカバーする学問ですが、精神医学は異常者の研究から始まり正常者までカバーする学問です。また犯罪心理学は心理学の一分野で精神医学は医学の一分野ですから携わっている人も違います」
検察官「証人は精神病理学についての文献は?」
証人「はい、何冊か書いております」
検察官「子供の診察や相談に乗ることもあるということですか?」
証人「はい、自閉症の子がよく来ます」
検察官「意見書の要旨は、第一に被告人が父から虐待、折檻を受けていたということとその分析、第二に被告人と父親との前夜のやり取りで狭窄状態が崩れ犯行に及んだ、第三に殺害を考えないうちに母が帰ってきてしまったために情動行為として母を殺害した、第四に犯行後の爆発は証拠隠滅のためではないということでよろしいですか?」
証人「仰せの通りです」
検察官「証人は虐待の定義を「養育者が被養育者に対して反復的に行うものであって、身体的・精神的に外傷を与えることであり、その本質は誇りを奪うこと」としていましたが、体罰として叩くといったことは虐待にあたりますか?」
証人「反復して行われれば虐待ですが、一回であれば虐待にはあたりません」
検察官「父親が被告人に寮の手伝いをさせたり、手伝いを怠けたことで罰を与えることは虐待とは思えないのですが?」
証人「いいえ、父親は少年に対して大人以上の労働を課していました。また、罰というのもパソコンやゲーム機を壊したり、バカにするなど制裁としては行き過ぎています。そうした制裁は少年から寮の仕事をする以外の選択肢を奪うことになるのです」
検察官「・・・よくわからないんですけど、寮の手伝いをさせることがどうして虐待なんですか?」
証人「手伝いではありません。強制的労働といってもいいでしょう。少年が『なんで仕事をしなければならないのか』と聞けばパソコンやゲーム機を壊され、何を言っても仕方がないと思うようになります。そうして労働に従事するしかなくなるのです」
検察官「・・・別の質問です。意見書の中には母親が告げ口をしたとありますが、子供が母親に『うるせーよ』といったことを父親に言うことは『告げ口』とは言わないんじゃないですか?」
証人「質問の意味がよくわかりません」
検察官「子供が親に『うるせーよ』という口のきき方をしたら叱るのが普通じゃないですか?」
証人「それは検事さんの家庭でということですか?」
裁判長「ちょっ、証人!落ち着いて!なんで質問の意味が理解できないのか、裁判所の方としてもわからないのですが、『告げ口』という表現はマイナス過ぎるのではないですか?」
証人「父親と母親に従属関係があるからおかしなことになるんです。健全な家庭の親なら、どうして少年がそういう発言をしたのか、ワンクッションおいて考えるはずです。あえて『普通の家庭』とは言わず、『健全な家庭』と言いましたが」
検察官「ワンクッションおいて父親に報告したのと、ワンクッションおいてないのとの区別がつくんですか?」
証人「はい、つきます。健全な家庭の親なら、少年がどうしてそういう発言をしたのか、仕事をやりたくないのか、休みがほしいのかなどと推し量るはずです。そうして母だけで対応できなければはじめて父親に相談するべきでした。母は父との従属関係がなければ適切な対応がとれたはずです」
検察官「掃除のエピソード、二重拘束のことについてですが、このエピソードは少年が語ったことですか?」
証人「はい」
検察官「父から『掃除しろ』といわれ、少年が掃除をすると『なんでこんなところを掃除したんだ』と怒鳴られたということですが、最初の『掃除しろ』という命令は少年の勘違いということはありませんか?」
証人「いいえ、意図的なものです。仮に無意識的なものでも関係ありません(少年にとっては同じこと)」
検察官「他に二重拘束の例は?」
証人「これ以外確認していません」
検察官「空き家に侵入したことについてお聞きします。周囲の対応が不適当だったということですが、他人の家に入ることは叱責の対象となりますし、法律的にも問題がありますよね?」
証人「教師は親はそうした行動に至った背景を考えて叱責すべきであって、今回の場合はそれを全く考えていないので不適当な対応です」
検察官「母親は第一期において、教育的支配を行っていたということですが、どうして「支配」になるのでしょうか?」
証人「子を父に対抗できるよう育てるためです」
検察官「証人、それは前に答えました。ピアノや英語を習わせることがどうして「支配」になるのでしょうか?」
証人「そう考える方が合理的だからです」
検察官「では、マスコミで報じられる『お受験』も支配ですか?」
証人「私の知る限りそれも『支配』です」
検察官「児童福祉法によれば、虐待を発見した者が児童相談所に通告する制度がありますが、仮に証人が事件前の被告人に会ったら通告していましたか?」
証人「通告していました。そして、一国民として、専門家のはしくれとしてサポートをしていたと思います」
検察官「児童福祉法28条によれば、保護者がその児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合において、都道府県は家庭裁判所の承認を得て少年を施設に入所させる措置をとることができるとありますが、証人としてはそうするべきだと思いますか?」
証人「私は法律家ではありませんので、私の判断することではありません。しかし、選択肢のひとつとしては考えられると思います」
検察官「では、警察に通報するなどは?」
証人「私の判断することではありませんが、選択肢のひとつとしては考えられると思います」
検察官「本件は著しく監護を怠る場合にあたると思いますか?」
証人「私は法律の専門家ではないので、差し控えさえていただきます」
検察官「甲1号証を示します。家庭裁判所の決定ですが、『少年は寮の手伝いをさせられ、口答えをするとゲーム機を壊されたり、ほうきでたたかれるなどしたが、少年が追い詰められたとは認められず、酌むべき事情ではない』とあり、証人の意見は考慮されていると思うのですが?」
証人「事実の記載はありますが、心理学的知見から重要な点が反映されていません」
検察官「それは恐らく証人の方が勘違いなされていると思うのですが、これは刑事裁判での、2人の人を殺し、爆発を起こしたことについての酌むべき事情です」
証人「私は情状鑑定のつもりだったのですが、そうなると私の答える範囲を超えます」
裁判長「あまり議論になることはやめましょう。意味ないですから」
検察官「父親殺害について、犯行前に『友人と寝ている間に父親を斧で殺す』というような話をしていますが、これは殺害方法を事前に考えていたといえるのでは・・・」
弁護人「異議あり、斧とは言ってません、誤導です」
検察官「誤導ではありません、『斧で殺す』ということが正しいという前提の質問です」

裁判長「(他の裁判官とヒソヒソ話をして)異議は理由なしとして棄却いたします。質問を続けてください」
検察官「平成17年秋、友人に殺害方法を語ったときですが、このときに犯行が実行されなかったのはどうしてでしょうか?」
証人「そのときはまだ狭窄が生じているからです」
検察官「犯行時は狭窄が崩れたから怒りや攻撃性が爆発したということですか?」
証人「そういうことです」
検察官「少年は父親をつるはしで刺し、母親を鉄アレイで殴って殺害した後、めざましを使った爆弾でガス爆発を起こしています。怒りが爆発したというには計画的すぎるのではないですか?」
証人「それは怒りと攻撃性が原動力となった計画性です。母親殺害についても一回睡眠をとっています。浅い睡眠の後に人を殺すことはありうることです」
検察官「母親殺害は寝る前に計画したということですか?」
証人「いいえ、違います」
検察官「では、決意したということですか?」
証人「決めていたが、具体的に決めないうちに母が帰宅したので、情動行為として母親を殺害してしまったということです。少年は母親殺害について記憶欠損がみられますから、それが情動行為にあったという証拠です」
検察官「では、犯行直前に衝動的に殺意が生じたということですか?」
証人「質問の意味がわかりません」
裁判長「母親を殺そうと思ったのは、前夜ということですか?」
証人「方法を除けば、そういうことになります」
検察官「犯行後に爆発を起こしたのはどうしてだとお考えですか?」
証人「証拠隠滅の方法は他にもいろいろありますから、それが目的ではありません」
検察官「少年は世の中で起こっていることが理解できないような精神状態だったということですか?」
証人「そのような精神状態ではなかったと考えます」
検察官「終わります」

−左陪席の判事の質問−
裁判官「裁判所の方から質問しますね。少年は狭窄が崩れたことで、どうして殺人という重大な行動に至ったのでしょうか?」
証人「殺さなければ、不利益を被るからです。また、選択肢が狭くなり、柔軟な思考ができなくなっていたためそれしか思いつかなかったのでしょう」

−栃木裁判長の質問−
裁判長「母親に対しては一体化願望を抱いていたが、絶望がそれを上回ったために殺害に及ぶということは飛躍しているように思えますが?」
証人「少年は母に離婚を勧めるとか、別のところに逃げるといった選択肢が思いつかなかったため、そうした行動に及んだと考えられます」

裁判長「はい!じゃあ、終わりました。ありがとうございました」
(証人は廷吏から荷物を受け取り、退廷する)
裁判長「記録を残すので、先ほど異議を申し立てた弁護人の名前は?」
弁護人「(笑)ムラナカです」
裁判長「弁護人請求のX4証人、これは採用して取調べをいたします。はい、じゃあ今日はこれまで。次回は4月27日、1時15分から、審理を続行します」

事件概要  少年は2005年6月20日、東京都板橋区で長年の父親への不満をきっかけに両親を殺害し、住んでいた社員寮をガスで爆破したとされる。
報告者 Doneさん


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