裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第三部
事件番号 平成14年合(わ)501号
事件名 住居侵入、強盗殺人、出入国管理及び難民認定法違反
被告名 陳文貴こと謝建松こと謝依俤
担当判事 成川洋司(裁判長)柴田誠(右陪席)牛島武人(左陪席)
その他 検察官:神渡史人
日付 2006.3.7 内容 被告人質問

 検察官は、前回の証人尋問の時も出廷していた、眼鏡をかけた30代ぐらいの男性が一名。
 被告人は、髪の短い、眼鏡をかけた、痩せた20代の男性。上半身は黒い服、下半身は白いズボン、といういでたち。ミニタオルを持って出廷する。
 弁護人は、眼鏡をかけた、太った大熊弁護人。もう一人の、浅黒い、白髪の、髭を生やした初老の弁護人は、やや遅れて10時3分ぐらいに入廷する。
 傍聴人は、私を除いて5人程度だった。
 弁護人が、まだ大熊弁護人しか来ていない時に、開廷となる。

 前回の、弁護人の証人請求に対する検察官の意義に対して、大熊弁護人は「意義には理由が無い」と述べる。検察官の異議は棄却される。そして、大熊弁護人からは被告人質問の請求が成される。
 この時に、もう一人の弁護人が入廷する。
 証拠請求について双方は争う。
大熊弁護人「内容に問題が無ければ同意するべきだ、というが、被告人に不利なものまで同意する事はできません」
 前回までに請求されていた証拠の内、留保されていた遺族の調書について、検察官はいずれも撤回する。弁護人側は、撤回するものは無い。
 大熊弁護人は、証人請求が棄却された事に対して、違法であるなどと異議を唱える。
検察官「弁護人の意義には理由が無い。長時間の証人尋問は行ってあり、こちらも出来る限り同意した。適正手続きには反しない」
 弁護人の異議は棄却される。

 被告人質問が行われる。被告人は促されて前に出て、証言台の椅子に座る。

−大熊弁護人の被告人質問−
弁護人「前回の被告人質問の後、ご遺族の方の二人の証人尋問がありました。その証人尋問を聞いていて、どのように感じましたか?」
被告人「とてもつらかったです。ご遺族の方たちの気持ちも理解できたので、とてもつらい気持ちでした。何かの形で贖罪していきたいと思います」
弁護人「例えば、何が出来る?」
被告人「今は、祈ること、事実を述べることしか出来ません」
弁護人「謝罪したい気持ちはある」
被告人「はい」
弁護人「謝罪の手紙を何通も書いて、私に預けていますね」
被告人「はい」
弁護人「ご遺族に確認したところ、あまり受け取りたくないと言われた」
被告人「はい」
弁護人「どう感じた?」
被告人「遺族に対して自分の気持ちを申し上げたいが、これ以上自分の気持ちを貫くと、遺族の気持ちを傷つけるので、今は祈るしかありません」
弁護人「遺族の気持ちが変わったら渡しても良い?」
被告人「はい」
弁護人「貴方のために、X1さんが証人に出て証言してくれましたね」
被告人「はい」
弁護人「X1さんが証言してくれた事について、どう思う?」
被告人「先ず、法廷で証言してくださった事について、感謝の気持ちを申し上げます。会って、色々な事を教えてもらいました。(中国のことわざを引用して、自分を変えてくれた事に感謝を述べる)今後、自分がどうなるかわかりませんが、生きているなら真面目に生きますし、死んでも魂は真面目に生き続けると思います。体は生きていても、魂は死んでいることはありますので」
弁護人「前回での、お姉さんと弟さんの証言について、どういう気持ちでした?」
被告人「先ずは、私のために来てくれたことにありがたく思っています。証言を聞いて、中国での生活を懐かしく思い出しました。私のことを考えてくれるだけではなく、私の罪まで一緒に背負ってくれるのを見て、ありがたく感じました。後は、この法廷での事でしたが、私の兄弟は悪い事をしたわけではないのに、検察官の質問でプレッシャーをかけたことを申し訳ないと思います」
弁護人「検察官は、私でも聞いていて腹の立つような、貴方のお姉さんを苛めているような事を聞いて・・・・・」
検察官「異議があります。弁護人の意見です」
 検察官は、立ち上がって異議を述べた。大熊弁護人は、裁判長に、言い方を直すように言われる。
弁護人「検察官は、貴方のお姉さんに対して、かなり厳しい言い方をしていましたね」
被告人「犯罪者を問い詰めるようで、苛めている様にも見えました。私に対してしか出来ないようであるべきです」
弁護人「父母があなたを死ぬまで気遣っていた事については?」
被告人「私は、本当は、死にたいという気持ちでいます。祖母の期待も裏切る事になりました。祖母には子供が出来ず、両親によって私につながってきていたので、とても大事にしていました。家庭のことも心配しながら亡くなっていきました。こんな事になるとは、自分も思っていなかった」
 被告人は涙声になり、タオルで涙を拭う。
弁護人「兄弟四人でまた一緒に暮らしたいと思っていますか?」
被告人「はい」

−神渡検察官の被告人質問−
検察官「色々な人が証言台に立ちましたね」
被告人「はい」
検察官「被害者のご遺族の証言内容は覚えている?」
被告人「覚えています」
検察官「被害者夫婦の長男の証言の中で、貴方がだらだらと殺意や強盗の犯意を否認している事に腹を立てている、と言っていたのを覚えている?」
被告人「はい」
検察官「今日で51回目の公判ですが、事実について、話してきた事を変更する事はありませんか?」
被告人「自分の知っている事実はここで申し上げました」
検察官「今までの証言が、良心に基づくものですか?」
被告人「私は、神から良心をいただいて、ここで事実を述べていると思っています」

−裁判長の被告人質問−
裁判長「貴方の言う事は、証拠に照らして信用しがたい部分があります。亡くなられた被害者のためにも隠さないで素直に話す事は?」
被告人「私は、今までに事実を話さなければ、他に事実を言う機会はありませんでした」
 これで被告人質問は終わり、被告人は席に戻る。

 検察官は、弁護人が提出する証拠はどのようなものなのか、釈明を求める。
 弁護人は、被害者の遺体を解剖した意思の証言の信用性について争う趣旨で、別の法医学者に鑑定を頼み、また、同種事案の裁判に関する書証を請求する。別の法医学者は、既に決まっていて、話もしている。
 検察官は、既に立証は尽くされている、と反論する。
裁判長「裁判所は、罪体、情状に関しては立証は十分と考えていますが、さらに要求するのであれば考慮したい。ただ、速やかに証拠を開示して欲しい」
大熊弁護人「弁護人の立証となったら急かすのはいかがなものかと。捜査機関の有利性を考えれば、弁護人の方に時間を与えるべきですが、検察官の立証に漫然と時間を与え、弁護人の立証について急ぐように言うのは承服できない」
 裁判長は、認識が違う、と述べる。判例については判例集を指摘すれば斟酌する、基本的に立証は十分だがさらに要求するのであれば考慮する、と述べる。
 続いて、弁論期日について争う。大熊弁護人は、弁護人の準備も考慮して欲しい、と述べる。
大熊弁護人「50回に渡る公判で、被告人が外国人なので、二ヶ月で弁論が出来るとは・・・・・・」
裁判長「争点は予想が付くと思うんですよね?」
 弁護人は釈明するが、検察官は、本日中に弁論期日を決めるように求める。
 大熊弁護人は、準備期間が必要であり、無理な期日を決められても困る、と述べる。
裁判長「弁論期日は本日は指定しませんが、論告の争点が予想されるものであれば、それから二ヶ月以内に期日を指定する事にします」
大熊弁護人「二ヶ月と言いますが、準備は大変です。二ヶ月とぱっと言われても非常に難しい。本人にも論告の内容を見てもらわなければいけないし、東京拘置所で打ち合わせもしなければいけない。準備が出来ていなくても間に合わないならそれなりのものを出して終わらせよう、とは考えていない」
検察官「弁論期日は次回に決めると明言した。異議を申し上げる」
裁判長「あくまでも、事前に予想の付く範囲内であればです」
弁護人「予想のつく範囲内と言い張られたら困ります」
裁判長「(争点が)本日の時点で予想できるものであれば、それ以上必要ないと思います」
弁護人「弁論の準備は、様々な証言があったため、準備はしておりません。そういう状態で弁論するのは許されないと思っています」

 次回3月27日午後1時30分から論告、と期日が指定され、裁判長は、被告人を証言台に立たせ、それを告げる。
 12時まで予定されていたが、10時45分に公判は終了した。

 廊下では、大熊弁護人と、被告人の関係者らしき女性(被告人の姉だったかもしれない)が、歩きながら話していた。
 書記官は、廊下に居た傍聴人に、次回は傍聴券交付の可能性がある、と告げた。
 検察官は、エレベーターの所で、通訳の女性に対して何か愚痴っていた。

事件概要  謝被告は、2002年8月31日、東京都品川区で自分のアパートの大家にあたる製麺業夫婦を刺殺したとされる。
報告者 相馬さん


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