裁判所・部 東京地方裁判所
事件番号 平成17年刑(わ)第52号等
事件名 強盗致死、死体遺棄
被告名
担当判事 栃木力(裁判長)津田敬三(右陪席)長池健司(左陪席)
その他 検察官:石井隆、吉野太人、中畑知之
日付 2006.2.17 内容 被告人質問

 検察官は、2〜30代の男性2名
 弁護人は、眼鏡をかけた、白髪の、髪が後退した老人。黒いスーツ姿。
 裁判長は、浅黒い、痩せた、眼鏡をかけた白髪の老人。
 傍聴人は、私を除いて10名程度だった。
 被告人は、眼鏡をかけた、色白で太った老人。ノーネクタイの黒いスーツ姿。傍聴席に軽く会釈して入廷する。

 本日は、被告人質問が行われる事になる。
裁判長「被告人、前に出て」
 被告は、証言台の椅子に座る。その時、弁護人は被告人質問の前に、被告人の経歴などが書かれた書証を証拠請求する。立証趣旨は、被告の経歴だった。

−弁護人の被告人質問−
弁護人「貴方の高校卒業後の経歴をお聞きします。長崎の工業高校を卒業」
被告「はい」
 卒業後、ある会社の電子機器部に三年間在籍する。
被告「父が亡くなりましたので、弟と末っ子を転校させて、会社の給料では、やっていけなかったので、退社して営業マンになりました」
弁護人「その自営業が、やがてワールド企画に?」
 被告は、やがて法人を設立する。
弁護人「事業内容は?」
被告「スプレー看板、電子機器の開発、その後、目標を追加して、太陽光発電による発電システムを」
弁護人「当時としては先進的?」
 弁護人は、弁1号証を示す。
弁護人「これに、貴方の会社の設立から最近までの仕事内容が書いてある」
被告「左様でございます」
弁護人「コンクールに出て賞を貰った事は?」
被告「神奈川県屋外広告コンクールというのがございまして、それとは別に、シンボルタワーを設置しまして、光ファイバーで作りましたが、お蔭様で、神奈川県知事賞を受賞いたしました」
 相模新聞でも、被告の事は紹介されていた。
弁護人「会社は何時まで存続していましたか?」
被告「平成15年2月、預金の関係で、手形の不渡りでの取引停止処分を受けまして、個人の破産を含めてお願いしていましたが、経済的な事情により、現在も宙ぶらりんになっています」
弁護人「(被告が関わった)ODAの事は?」
被告「経済的に不幸な国に日本政府が電機をあげよう、という事から、太陽光発電の設備設計について、私の会社で仕事をさせていただきました」
 マレーシアのサバシロという所に行った。太陽光発電のバックアップシステム等を作った。作られたものは今でも作動しているという。
弁護人「会社は平成15年に倒産しましたが、会社と自宅が一緒で、そこで生活していた」
被告「左様でございます」
弁護人「事件を起こして、別の所に転居していて、そこで逮捕された」
被告「左様でございます」
弁護人「逮捕時には生活保護を受けていたが、倒産のためですか?」
 被告は、生活保護の事情について説明する。
 被告は再就職する事ができたが、それまで不摂生な生活を続けていたためか、高血圧などになり、仕事をしていたところ、左目の眼底出血が起こり、それをレーザー治療していた所、右目に眼底出血が起こった。その治療を受けているときに網膜はく離が発見され、入院する。そのために、就職した会社を退職する。
 退院までの治療は自己負担だったが、医師からは半年は重労働に耐えられないと言われた。大和市に、住民票は事情があって移せないと相談したところ、医療費の事についても世話をしてもらい、生活保護を受ける事になった。
弁護人「治療して、目は治った?」
被告「はい」
弁護人「働く事になった」
被告「はい」
弁護人「何か努力を?」
被告「通院は月に1,2回で済むようになったので、再度職安に行きました」
弁護人「答えは短くしてください」
被告「はい」
弁護人「何か職は見つかった?」
被告「郵便局の短期アルバイトと、米軍キャンプで60歳までというのが募集がありましたので、履歴書を送って、アルバイトをしながら・・・・」
弁護人「郵便局には入った」
被告「はい」
弁護人「米軍キャンプの仕事は?」
被告「監督など」
弁護人「それは、仕事に就いた?」
被告「履歴書を送って2週間・・・・」
弁護人「仕事には就きましたか?」
被告「いいえ」
弁護人「そう言って」
被告「はい」
弁護人「履歴書を送ったのも、郵便局で働いたのも、事件の後?」
被告「はい」
弁護人「仕事の事は、役所に相談した?」
被告「はい。働く事にしたと事前に連絡して活動しました」
弁護人「働けるようになれば生活保護を打ち切ってもらうつもりだった」
被告「はい」
弁護人「事件について聞きます。貴方は、今回の事件までに、捕まったり裁判を受けたりした事はなかったですね?」
被告「はい」
弁護人「強盗や殺人は否認しているが、拉致監禁については認めている。でも、拉致監禁も凶悪な事件ですよね。今まで日のあたる場所を歩いてきた貴方が、抵抗はありませんでしたか?」
被告「・・・・振り返ってみると、人間として、理性を、人格を無くしていたと言わざるを得ないと思います」
弁護人「会社が倒産しなかったら、そんな話を持ちかけられても乗らなかったでしょうね。どうですか?」
被告「・・・・・正しく・・・・そうだったと思います」
弁護人「でも、現実には起こってしまった。Eが、『悪い人を2,3日捕まえておけば助かる人がいる。悪い人だから訴えられない』と言っていた」
被告「はい」
弁護人「でも、拉致監禁は悪い事ですよね」
被告「今は解っています」
弁護人「その頃は考えられなかった?」
被告「・・・・全く、軽率な行為だったと思います。よしんば、事件にならなかったとしても、軽率な行為に及んだ以上、計画通りに事が進んで、表ざたにならなくっても、次々と悪の道に行く機転になったのでは、と思います。命を失ったaさんには申し訳ない。検事さんからは、『娘さんにお孫さんが生まれたんだよ』と言われましたが、aさんはお孫さんを抱く事もできない。一生心に刻んでいこうと思います」
弁護人「自首しようとは?」
被告「思いました」
弁護人「何故しなかったのですか?」
被告「勇気がなかったと思います」
弁護人「誰かに・・・・」
 被告は、弁護人の言う事を遮る様に、何かを話した。
弁護人「E等に自首を持ち掛けなかった?」
被告「人一倍強いと思っていた私の正義は何処へ行ったのだろう、と思います」
弁護人「積極的に死体を捨てようとしていますが、どういう心境でしたか?」
被告「aさんがお亡くなりになったのを見て、Eさんに連絡をしまして、Bさんが、『そこの畳をめくって埋めればいい』ときりだされた時、『とんでもない!そんな事は止めてください!』と。そこで、テレビでやっていた富士の樹海のことが浮かんできまして、『あおきが原に富士の樹海があるらしい。床下なんてとんでもない』と」
弁護人「警察に言おうとは?」
被告「正しく・・・・それ以前にaさんが亡くなったのを見て、もうこれまでにしたい、と」
弁護人「aさんが死んで、警察に届けられない、とかそういう事態ではなくなった事は解りましたね。このままでは必ず逮捕される、という考えはありませんでしたか?」
被告「ありました」
弁護人「逮捕された時、どう思った?」
被告「これで助かったと、正直思いました!」
弁護人「死体を隠す事を画策したのを反省しているのは解りましたが、その事でどう裁判されても、やむをえないと思っていますね?」
被告「正しく・・・・私の犯した罪は、もう大変な大罪です!いかなる判断、罪科に関しても、これを真摯に受け止め、罪の償いをさせていただくと共に、自業自得ながら、私の心に刻まれた罪は生涯消えることは無く、社会へと出る事ができるのならば、我が子、孫と共に、正義の心を学んで生きたいと思います」

−検察官の被告人質問−
検察官「車を借りた事で、何人かの人を巻き込んでいますね。その事についてどう思っていますか?」
被告「私は・・・」
検察官「端的に」
被告「些細な事と考えていた事が、大切な人命を失ってしまったと思います」
検察官「拉致した時、被害者の表情や様子は?」
被告「はい・・・・あの・・・・もう・・・・何度か見ました夢の中で、aさんの顔を思い出しますと、苦痛に歪んだ顔で、何度冥福をお祈りしても、たりないと」
検察官「Bの家に連れて行き、激しい暴行を加えた。その時に、被害者は、『もう殺してくれ』と言っていたんでしょう?どういう様子でした?」
被告「裁判で言いましたとおり、私はaさんの言葉を筆記する役割でして、よく見ていませんでしたが、察するに余りあると」
検察官「ならば、どう思った?」
被告「Eさんは何故止めないのだろう、とは思っていましたが、私の方から止めなかった事に、私の正義感の足りなさと、腰抜けさが。今から思っても足りないくらい悔やんでいます」
検察官「被害者は9時間暴行を受けて亡くなっていますが、どういう気持ちだったと思いますか?」
被告「無念と怒りと・・・・復讐心を持って、無念だったと思えます」
検察官「今回、Bが被害者の首を絞めて殺していますが、理由は知っていますか?」
被告「Eさんを呼んできて、そのいきさつを聞いたのを思い出すに、『声を出していて、首を絞めたら息をしなくなった。私を呼びに来たら、舌を噛んだようだった』と言っていましたが、実際は、首を絞めて殺害したと思います」
検察官「被害者が大声を出したのはどうしてだと思いますか?」
被告「恐らく、肉体的な苦痛よりも、精神的な苦痛が勝っていたと思います」
検察官「大声を出す事を考えると、貴方のやった事は普通だと?」
被告「異常な事だと思います」
検察官「監禁されていた人の気持ちが想像できますか?」
 被告は、言いよどんだ。
検察官「出来ないんですか!?」
被告「出来ます」
検察官「何等おかしくない事が起きたと思いますか?」
被告「まさか、あのような暴力を加えられるとは、毛頭考えていませんでした」
検察官「貴方の責任は、どう考えていますか?」
被告「正しく、私が弁護士の先生から教わる以前から思っていた通り、私が首を絞めたわけではないんですが・・・・・正しく、私がaさんの首を絞めたも同然な、連帯責任、一蓮托生と思います」

−裁判官の被告人質問−
裁判官「貴方の事件時に住んでいた綾瀬市の家は、どうなりましたか?」
被告「娘が連帯保証人として借りていましたが、刑事さんに息子に連絡を取っていただいて、既に大家さんにお返ししていると思います」
裁判官「その家のあなたの荷物は?」
被告「父の位牌、神様の神棚を除いて、全て廃棄処分したと」
裁判官「貴方は今、住所は無い?」
被告「はい」

裁判長「では、終わりましたから席に戻ってください」
 被告は席から立たず、裁判長から再び言われて、席から立つ。
被告「申し訳ございません」
 証言台から、裁判長達と検察官達に礼をして、被告席に戻る。
 次回期日は3月29日午前10時から。遺族の意見陳述、論告、弁論が行われる。

 被告は、傍聴席に軽く会釈して退廷した。事件についての被告人質問に答えるときは、声が震えている事があった。
 10時45分までの予定だったが、10時43分に終わった。廊下では、弁護人と、被告の関係者らしき人が話をしていた。

事件概要  A被告は他4被告と共に、2004年9月24日、東京都江東区の路上で会社経営者の男性を拉致監禁し、50万円やクレジットカードを奪い、その後殺害したとされる。
報告者 相馬さん


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