裁判所・部 | 東京地方裁判所・刑事第五部 | ||
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事件番号 | 平成17年合(わ)第531号 | ||
事件名 | 殺人等 | ||
被告名 | A | ||
担当判事 | 栃木力(裁判長)中尾佳久(右陪席)長池健司(左陪席) | ||
その他 | 検察官:石井隆、吉野太一、中畑知之 | ||
日付 | 2006.2.9 | 内容 | 証拠調べ、証人尋問 |
この日は、22枚の傍聴券が用意され、定員割れしたので12時55分に傍聴券が配付された。 入廷前、金属探知機によるチェック、荷物預かりがあった。 記者席は十数席用意されており、それなりに埋まっていた。一般傍聴席は、ほぼ満席だった。 弁護人は20人近く、検察官は4名居た。 裁判長は、眼鏡をかけた細身の、白髪交じりの老人だった。 被告は、襟足のやや長い、色白の少年であり、黒い服を着ていた。前回と同じく、角度的に少年の顔を見る事は出来ない。公判の間、最後まで、前を向き微動だにしなかった。やはり、裁判所から動かないように命令されているのかもしれない。 刑務官が被告の左右と後ろに立ち、さらに、後ろの刑務官の左右をスーツ姿の男性職員が固めている。審理が始まると、二人の職員は離れた。 先ずは、検察官が被告の調書を読み上げる。 『小一までは父さんから寮の仕事を手伝うように言われなかった。やがて、手伝うように言われるようになり、口調も命令口調になった。中三の時に父が発した言葉が忘れられず、父さんがいなければ俺は自由になれるなあ、と考えた』等という内容。 証拠調べについて暫し会話が交わされる。 続いて、弁護人(確か、Y2弁護人だったと思う)が調書を朗読する。 被告の親族の供述によれば、被告の父親は子供への接し方について悩んでいた。被告のゲームを取り上げた事もあった。 弁3号証によれば、被告の両親は結婚式を挙げていない。 弁4号証によれば、被告の母親は物事を気にするタイプだった。 被告が通っていた保育園の園児の母親の供述によれば、被告の母親は、口癖のように、『疲れた』『死んじゃいたい』と言っていた。笑いながら言っていたので深刻だとは思わなかった。被告の父親に挨拶しようとした事があったが、じろっと睨み返された。 23号証によれば、被告が母親の朝食の用意を手伝っていた。 28号証は近所の人の調書。父親について、冷たく厳しい印象を受けた、という内容。 37号証は、父方の祖父母にあてた被告の手紙。反省が綴られている。 弁78号証は、被告の親族の調書。ナリマサの寮に移り住んで人手が足りないので被告が仕事を手伝っている、と被告の母が言っていた、等という内容。 以上で書証の取調べは終わり、証人尋問に入る。 証人は、眼鏡をかけた黒スーツの3〜40代ぐらいに見える男性。 宣誓を行い、裁判長が偽証罪について注意をする。 先ずは、40代ぐらいの髪が長い女性のカワムラ弁護人からの証人尋問が行われる。 証人の名はX1といい、平成3年に札幌大学を卒業後、1998年にロンドンの大学で児童精神医学を修める。現在は病院に勤め、クリニックにも勤務している。 −カワムラ弁護人の証人尋問− 弁護人「クリニックでは医局長を?」 証人「いいえ、それは病院です」 弁護人「鑑定のご経験は?」 証人は、鑑定の経験について述べる。 弁護人「弁77号証を示します。証人の作成したものですか?」 証人「その通りです」 弁護人「意見書は、証人の知識に基づいて、良心のもとに作成した」 証人「はい」 弁護人「スタンスについて述べてください」 証人「弁護団から依頼があり、少年に一度会い、意見を求められた。私は自分の意見を述べました。弁護団の希望とは違う事を言うかもしれない事も言いました」 弁護士「弁護団の望まない事も言うかもしれないと」 証人「はい」 鑑定の内容は、精神障害の有無、家庭環境の影響。資料は、弁護団から提供された一件記録など。 弁護人「証人は、被告に何回面会しましたか?」 証人「四回です」 弁護人「何分ずつ?」 証人「4〜50分」 弁護人「意見書の2に家族歴などの記述があるが、これは記録を基にしている」 証人「はい」 弁護人「家族歴を知る意味は?」 証人「本人の気質を知る上でも。影響をどのように与えていたかも解るし、どのような悪影響を与えていたのか、それが無いにしても、これからを如何すればいいかも考えられる」 弁護人「重要?」 証人「重要です」 弁護人「両親が結婚に至る経緯から注目している」 証人「はい」 弁護人「重要なエピソードについて、父母の関わりの問題は?」 証人「お父さんなんですけれど、お父さんは、どちらかと言うと結婚に至る経緯からして誠実な面が見られていない・・・・聞いていませんか?」 弁護人「被告に対するかかわりについてです。お母さんは?」 証人「恐らく保育園までは問題は無かった。保育に積極的だったと思われます。(後には)恐らく鬱病状態にあったと」 弁護人「お父さんについては?」 証人「少年が熱性痙攣に倒れて病院に運ばれた時、冷たい態度だったとある」 弁護人「被告が、犬の入っていたダンボールに入れられた事については?」 証人「かなり怖い目にあった。それを楽しそうに見ていた、とあったと思う。どの程度かは解らないが、少年は怖かったと語っている」 弁護人「恐怖心が芽生えるのが当然ですか?」 証人「だと思います」 弁護人「時間が無いので・・・・」 ここで、弁護人は、裁判長に、証人がちゃんと証言できるようにするよう注意される。 証人「恐怖心を覚えるのはあると思う。子供が遊んでいて恐怖心を覚えることはありますが、それを無くしてあげる事が大事です。でも、それが見られない」 弁護人「被告は、このエピソードを忘れていて、弁護人との接見の中で思い出したが」 証人「物凄い恐怖なので、逆に印象深く残っていると思う。しかし、よくある事なので忘れてしまったのかもしれない」 弁護人「こういうことが良くあったと」 証人「かも知れません」 弁護人「忘れてしまう事を如何言いますか?」 証人「乖離とか回避とか・・・・?」 弁護人「カタカナ言葉で・・・・じゃあいいです。(犬の入っているダンボールに一緒に入れるのは)虐待の定義に入りますか?」 証人「悪性の扱いというか、広義の虐待に入ると思う」 弁護人「狭義の虐待とはどのようなものですか?」 証人「身体的な虐待、ネグレクト、精神的虐待、性的虐待」 弁護人「広義の虐待には、不適正養育が入ると」 証人「はい」 弁護人「広義の虐待か狭義の虐待かについて、子供に与える影響に差はありますか?」 証人「酷ければ後遺症を残すという訳でもないし、軽ければ後遺症も軽い、という訳でもない」 弁護人「一言で言えば、心身の発達に悪影響を与える?」 証人「はい」 弁護人「Y1のエピソードについて。Y1という老人から貰った玩具を被告が大事にしていた所、父親がそれを壊し、泣いている被告を押入れに閉じ込めた、というのは如何影響している?」 証人「(少年は)Y1には親しみを持っていたと思う。(Y1との)別れの時に貰った警察官をイメージさせる玩具で、被告は警察官に憧れていて、大切にしていた。それを、父親が取り上げ、殆ど憂さ晴らしに壊し、(父親は)それを喜んでいる様子があった。おまけに、押入れに閉じ込めている。思いのある事をそのように扱われると、大きな影響を与えると思うし、押入れに閉じ込めるのは虐待に定義しても良いと思う」 弁護人「物を大切にするのは、子供にとってどんな意味がありますか?」 証人「具体的に大事にしている物と、自分の中で象徴的に大切にしている物を意味している場合が少なくない。(子供が大切な物を失うのは)大人にとって大切な人を失うのに等しい場合もある」 弁護人「被告が小学生の頃から仕事をさせられていたのは?」 証人「昔は家業を手伝うのは当たり前でしたが、それにより一体感を得る事もあった。しかし、ここでは、仕事を代わりにやらせている、という感じで、一体感や、(仕事が)自分の将来に役立つ事、という実感が生まれていない。使役に近い」 弁護人「そういう仕事をさせられる事は、被告にどのような影響を及ぼしましたか?」 証人「子供にとって重要なのは自由に試してみる事ですが、この時も、被告は仕事をさせられて自由を持てず、悪い影響を与えられたと思う」 弁護人「母親の養育態度の問題性は?」 証人「母親は、最初の段階では、一生懸命養育しようとしていたと思う。保育園でも色々な行事に参加しているし、他の母親の調書でも、良さそうに見える。しかし、頑張り屋らしく、父の協力を得る事無く養育していたが、途中からちゃんとやっていない。最初はトーストを作っていましたが、途中から少年がするようになった。(其の時)母親はテレビを見ていた。それに、父親の仕事を手伝わされているのを見ないふりをしている。鬱病を後に発症していると思う。結果的に父親と共謀関係になってしまったと」 弁護人「父親から馬鹿と言われ、両親から褒められた記憶が無い事は?」 証人「人にとって大切なのは自己価値観です。それが無ければ、将来が見えず、投げ遣りになる」 弁護人「子供が自己価値観を高める事が出来ないと、どういう影響がありますか?」 証人「子供にとって家族が全てで、少年の場合、期待しないというパターンの愛着パターン・・・・回避型の・・・・を示しています。そういう風に影響があったと。」 弁護人「被告が回避型の愛着パターンをとったのは、発達課題を越える上で、どのように影響がありましたか?」 証人「発達課題には色々ありますが、乗り越えずに生きていこうとするので、乗り越えられない可能性が生じてくる」 弁護人「乗り越える事が出来なかった為に被告は未熟だった」 証人「だと思います」 弁護人「そのために、被告の犯行時の心理状態は如何だったと?」 証人「そうですね、どのへんを言えば良いのか把握しきれていないんですが・・・・・」 裁判長「答え易いように」 弁護人は、意見書を読み上げる。 証人「重い・・・・、一般的に言われるトラウマというものはあります。誰が見ても大きい事故はあるが、そうした事故に遭遇すれば、大きなストレス反応が生じる。子供の時にそれが生じた場合、大きな影響を与える。(大きなストレス反応が生じた子供が)未来に対する希望が持てない場合も少なくない」 弁護人「そのような場合、実際にするかはともかく、子供が、親を殺したいと思う事も珍しく無い?」 証人「極端な感覚はある。親の仕打ちに対して、殺してやりたいと思っても不思議ではない。それ自体はありうる」 弁護人「事件前日の出来事をどのように考えていますか?」 証人「きっかけは、『お前は頭が悪い』と言われたという事だが、積み重なっていたものが少量の藁が落ちることで全部崩れていく。些細な切っ掛けで、これまでの積み重ねで生じる。原因であったかのように言われているが、これは些細な藁に過ぎなかったと思います」 弁護人「犯行時の精神状態は?」 証人「軽い高揚状態だったと思います」 弁護人「それまでで結構です。その説明については意見書に書いてある」 証人「はい」 弁護人「精神的現在症については?」 証人「精神障害の疑いは無い」 弁護人「知能検査は?」 証人「数字を見ただけでは解らないが、正常の範囲内だと」 証人「ウェクスラー式知能検査を行っているが、言語性IQと動作性IQの間に差が見受けられる。所見としてとってもいいと思う」 弁護人「今回検討されたのは、どういう精神障害ですか?」 証人「自閉症、アスペルガー症候群、多動性障害、行為障害」 自閉症の場合、視覚情報に聴覚情報が劣る。被告は視覚情報が優位で、偏食傾向があり、興味の対象がパソコンなど、狭かった。店の名を一店舗二店舗と言ってもいた。なので、発達障害の疑いは無いか、というぼんやりした疑いだった。 検察官は、この後の弁護人の、発達障害による処遇選択に関する質問について、仮定である、と異議を唱える。弁護人は、とげとげしい口調で撤回する。 弁護人「発達障害の疑いは、両親の不適切な言動が原因ですか?」 証人「想像すれば、そう解釈も出来る。例えば偏食については、そういう可能性もあるとは言えるが、そうと断言は出来ない」 行為障害は否定されたらしい。人格障害については、本来は18歳以上に適用される概念であるため、被告の年齢ゆえに納得できないらしい。家裁の調査官は人格障害の疑いありとしたらしいが、証人はそれを疑っている。 反社会的傾向に関しては、様々な要因を考慮して考える。 弁護人「危険因子があれば反社会的傾向があると?」 証人は、高血圧を例にとって説明する。 弁護人「危険因子に対立する考えは?」 証人「保護因子です」 弁護人「危険因子と保護因子を総合的に考えて、反社会的傾向を考える?」 証人「それがラターの考え方です」 弁護人「被告の個人的要因について危険因子は?」 証人「見られません」 弁護人「社会的要因については?」 証人「(仮定不和を例にとり説明する)そういうメカニズムがあれば、反社会的傾向の原因となる」 弁護人「家族の不和があったからといって反社会的要因とはならず、メカニズムで考えるべき?」 証人「そうです」 弁護人「不適切な養育については?」 証人「虐待が一つと、子供を育てていくに当たり、親がどのように対応していくか」 弁護人「不適切な養育が被告の危険因子」 証人「そうです」 弁護人「それ以外は無い」 証人「そうです」 弁護人「『被告の反社会的傾向は強くない』と書かれているが、無いというのと強くないというのは分けている?」 証人「ほとんど無い、です。厳密に言ったらそういうことです。未来には持たないとは言えないので、ぼかして書いた」 弁護人「本件は、被告の反社会的傾向の表れではない?」 証人「そうです」 弁護人「『危険因子についてはこれからの経過を見ていく必要がある』と書いてあるが」 証人「法的なものだというのは解っていますが、医学的に書いてしまいました。これから反社会的要因をどのようにケアすればいいか考えてしまう」 弁護人「再販の恐れについては?」 証人「危険因子と保護因子から考えれば低いと思う」 証人「反社会的傾向が犯罪を犯す事だと考えれば、低いと思う」 弁護人「これからどうすれば良いと?」 証人「回復不可能ではない。温かい関わりの中で変わっていく事も少なくない。少年の発達を促す温かい環境が必要と」 弁護人「そうした人間関係の継続性については?」 証人「大事です。養育者がころころ変わるのは望ましくない。少人数でお互い協力し合うのが望ましい」 弁護人「少年には施設での処遇が必要ですか?」 証人「少年の発達そのものだけを考えれば施設は望ましくない」 弁護人「被告の善悪の理解については?」 証人「理解はしていると思う」 弁護人「被告に今後接する上での大人の接し方はどのようなものが望ましい?」 証人「繰り返しになりますが、発達を促す関係が望ましい」 弁護人「逆送後の被告の日記などから、被告の発達可能性についてどう思いますか?」 証人「希望が見えないようだったが、『自分も温かい家庭を作っていきたい』と書いたのを見て、良かったな、と思った」 検察官は、日記とは何か、と弁護人に質問する。証拠として提出したものではなかったらしい。 2時40分から3時5分まで休廷となる。 傍聴人は退廷させられる。休廷が宣言されると共に、職員二名が被告の後ろに立つ刑務間の脇を固める。 3時7分ぐらいに再入廷が許される。休憩後は、傍聴人は若干減っていた。 被告の後ろの刑務官の脇を職員二名が固めていた。 公判が再開され、二人は離れる。 −検察官の証人尋問− 検察官「平成三年に医学部を卒業された」 証人「はい」 検察官「その後、東大の教員の助手となった」 証人「はい」 検察官「臨床に携わったのは何時からですか?」 証人「平成三年の六月からです」 検察官「それは、東大の?」 証人「はい」 検察官「研究していたのではなく、臨床に関わっていた」 証人「そうです。研修です」 検察官「その後、ロンドンに留学するまで東大にいた」 証人「詳しく言うと、平成三年の6月から、五年の3月まで、東大で学んだ。平成五年の4月から、小児科病院で少し研修し、その後、東大に戻った。97年9月にイギリスに行き、3ヶ月間語学を学んだ」 検察官「日本に戻ってから、平成12年8月から病院に勤める」 証人「半ばからです」 検察官「失礼ながら、先生はお若く見えますが、今、いくつですか?」 証人「39です」 検察官「相当の件数の診察をしている?」 証人「どの位かは・・・・」 検察官「臨床に携わったのは十数年」 証人「そうですね」 検察官「先生の専門は?」 証人「児童精神医学」 検察官「その中でも、細かいものがあるわけではない?」 検察官「特異なものもある?」 証人は、拒食症、などと述べる。 検察官「毎日診療に当たっている?」 証人「病棟を見ています」 検察官「病棟とは、入院している患者さん?」 証人「そうです」 検察官「十数年のうちには、問題のある児童の診療にも当たってきた」 証人「はい」 検察官「親に会う事もある」 証人「あります」 検察官「え?」 証人「あります。お母さんしか来ない事もあるが、そういうのは嫌いなので、ご両親とも来てもらう」 検察官「何故そういうことをする?」 証人「普通すると思いますが。子供から養育歴の全てを語ることは出来ませんし、学校からも情報が欲しいですし、両親から、子供の知的な遅れが子供だけなのか・・・両親が放っておけば、多動になる。両親に会うのは大事です」 検察官「先生が見るのは何歳ぐらい?」 証人「病院に入院しているのは成人です。中、高生ぐらいは見ます。児童は児童相談所に行きます」 検察官「幼稚園から、中、高生ぐらいまで」 証人は、出来るだけ家族の情報を集めたい、と述べる。 検察官「本人の言うことだけでは限界がある?」 証人「本人の内面の苦痛と、外から如何見えるかの不一致を見つけるのは重要です」 検察官は、問題のある家庭の症例について、証人に尋ねる。証人は、現在見ている拒食症の患者を例にとって説明する。 検察官「犯罪の関わった少年の診察に関わる事もある?」 証人「そんなに沢山はありませんが、弁護人の方から、自閉症らしいとか言うことで、調査官や保護司の人と協力してやっていく事もある」 検察官「本鑑定(を行った事件)は、どのような事件ですか?」 証人「本鑑定の対象は、成人ですが、自閉症です」 検察官「どのような事件?」 証人「言わなければいけませんか?」 裁判長「言っていただければ」 証人「軽微なんですが、暴行事件です」 検察官「鑑定書を手がけた事がある」 証人「中身を言うのを躊躇しているんですが・・・・・」 裁判長「具体的な内容はいいです。責任能力の有無とか」 証人は、まだ躊躇する。結局、内容は述べない。 検察官「依頼されたのは、家庭裁判所?」 証人「いえ、成人ですから」 他には、証人は、殺人と器物破損の事件を、別の先生について鑑定した。 検察官「本件は、何時ごろ依頼がありましたか?」 証人「正確な日にちは忘れました。経緯がありまして、日本自動精神医学会というのがありまして、少年犯罪が多いので、児童精神医師がその鑑定を行うべきだと考え、鑑定人リストを作り、Y2という人が、東京でこの事件の鑑定をする人はいないか、と考え、私が、10月ごろに・・・・」 検察官「Y2医師からの紹介があった」 証人「はい」 Y2氏は、証人と会った時に、自閉症が疑われるかもしれない、と言っており、鑑定事項についてはぼんやりした見解だった。 証人「Y2先生から依頼を受けたのは、(少年の)自閉症やアスペルガー症候群の疑いについて調べてくれ、と」 検察官「Y2先生は、岐阜の人ですね」 証人「はい」 検察官「東京に来るのが難しいから、証人に頼んだ」 証人「だと思う」 検察官「(少年について)自閉症、アスペルガー症候群は否定されている」 証人「はい」 鑑定内容については、証人は、東京拘置所で被告人と会った後に、弁護人と会う。 検察官「平成17年12月27日」 証人「はい」 検察官「証人の印象としては、自閉症は認められない、と弁護団に言った」 証人「時間が与えられていなかったので、質問をだーっと続けた。Y2氏がアスペルガー症候群ではないかと疑っていたので、アスペルガーか否かをまずは徹底的に見た」 弁護人には、処遇についての意見と、反社会的傾向について述べた。 検察官「少年には四回会われた」 証人「はい」 検察官「それぞれ40分前後」 証人「はい」 検察官「少年は、心を開いてはくれた?」 証人「そうですね、意外なくらい良く話してくれました」 検察官「少年の作った上申書や、警察の作った調書を参考にしている」 証人「はい」 検察官「それらで内容が違うという話は出ていない」 証人「じっくり調べているので、少年の言っている事と周りの言っている事が違うのは、いくつかあった。それは書いています」 検察官「少年の書面と違っている事は?」 証人「ちょっと自信を持って言えない」 検察官「意見書の前段では、精神障害、遅滞共に無い、という判断」 証人「そうですね」 検察官「発達障害とはどういうもの?」 証人「発達障害とはかなりあいまいな表現だと思うが、アスペルガー症候群などです。現在はもっと広く、多動性障害や精神遅滞も含むのが一般的。これでは狭く書いた」 検察官「アスペルガー症候群は病気ですか?」 証人「そうですね」 検察官「物の本によれば、先天的とあるが」 証人「そうですね。そういう視点でいけば」 検察官「自閉症やアスペルガー症候群は、養育によってなるものではない、と考えて良い?」 証人「養育によってなるものではない」 検察官「反社会的傾向、という概念ですが、何のための概念、何のために検討するのですか?」 証人「反社会的傾向が・・・・・?」 検察官「つまりですね、刑事裁判では再犯の可能性と言いますが、そういう事について」 証人「反社会的傾向は、少年を扱っている以上、考えなければならない。万引きなどの非行は身近な問題ですが、そうした逸脱行動を如何に防ぐか、心理的背景はどういうものなのか、表出しているものが何を示しているのか。繰り返すのか繰り返さないのか、親は知りたいわけです。指導するために反社会的傾向という言葉を使っている」 検察官「カウンセリングの道具として使うと」 証人「そうです」 検察官「反社会的傾向の社会的要因の中で、不適切養育について言及している。意見書の中では、心理的虐待と身体的虐待の二つに分けている」 証人「ここで言っているものについてはそうですね」 検察官「36ページの下について見ると、『父の身体的虐待については被告の証言に頼るしかないが、心理的虐待については周囲の証言から確認できる。』と書いていますが、身体的虐待については留保している?」 証人「そうですね」 検察官「両親が被害者になっているから聞けない」 証人「そうですね」 検察官「両親から話しが聞ければ違った見方も出てくると?」 証人「話を聞けないからなんとも言えませんが、そうとも言えるし、そうでないかもしれない」 検察官「第二期の反抗期については?」 証人「独立ですね。親から離れて自分の力を試していく。仲間を作る。規範を自分に内在化するために、攻撃する側に同一化し、正義の味方になってみる・・・・一般論ですよね?」 検察官「はい。正論を吐いてみる、等も特徴として見られる?」 証人「はい」 検察官「親だけではなく、周囲の権威に対しても反抗する」 証人「はい」 検察官「被告の場合、反抗期は如何影響している?」 証人「(反抗期の時は)親は試される対象となるが、(被告の)お父さんの場合は、虐待していて、試す対象にならない。お母さんは対象にならないので、試す相手から感触がない」 検察官「威圧的な父親に対して反抗するようには向かわない?」 証人「反発はすると思う」 検察官「そういった面で親に対する反発があり、必ずしも中立な見方をしていない、それゆえの供述と・・・・」 証人「あー(遮るように言う)、意図がわかりました。実際に両親には会えないので、僕は慎重に書いたつもりです。そういうのは、少年が反発しているので、親がそうしている、という事ですよね」 検察官「被告の供述について」 証人「何回言っても、そうとしか言いようがない」 検察官「心理的虐待について、確立した考えはある?」 証人「ここに書いたと思いますが、原本は、カリフォルニア州法から拾ってきたと思います」 検察官「日本でも虐待の定義があるのはご存知ですね」 証人「はい」 検察官「そこで言う定義には当てはまると、先生は考えた?」 証人「ちょっと解りません。心理的虐待ですよね・・・・・」 検察官「日本の法律との兼ね合いについて考えましたか?」 検察官「先生は、小平の方で嘱託医をしている」 証人「はい」 検察官「どんなお仕事を?」 証人「障害者手帳の交付申請が多いです。児童福祉士の要望に答えたり、どこかを紹介したり」 検察官「児童虐待の定義に当てはまるか、という判断基準は、どうやって考える?」 証人「ん〜〜〜〜〜〜、当てはまるかどうかという件ですが・・・・」 検察官「こういう項目があれば当てはまるとか」 証人「あるかもしれないが、私としては良く知らない」 検察官「日本の法律上の定義に当てはまるかも検討していない」 証人「はい」 検察官「心理的虐待の根拠は?」 証人「そうしたエピソードを親族も発言しているので、総合すれば、近い事もあったと」 検察官「熱性痙攣のエピソード、ダンボールの中に犬と入れられたというエピソード、Y1という人のエピソードに基づいている?」 証人「それは被告が言ったと。仕事をさせていたとかゲームを取り上げたとかいう事ですね」 検察官「それは、仕事をさせていたのと、ゲーム機を壊したという事?」 証人「そうですね。それと、馬鹿にしたような対応をしていた、というのも」 検察官「父の態度は、勉強しろ、仕事をしろ、そして、反抗すればゲームを壊されると、先生は認識している?」 証人「はい」 検察官「先生も、今回の事件はそれが原因と認識している?」 証人「そうですね、それが背景にあったと」 検察官「有効性のないという所で、『父が、被告に、現代の日本文化では以上と思われるほどの労働をさせているとは・・・・』とかいう所で、留保している?」 証人「家業の手伝わせを否定はしないが、たいていの人はこれはやりすぎだと思ってしまうのでは、というのを慎重に表現したらそうなってしまった」 証人は、子供が家業を手伝っているというのには異常である、と考えているらしい。裁判長に問われ、証人は、自分は遊んでいて子供に仕事をさせる、というのは異常と思う、等と述べる。 検察官「それは、少年が掃除をしている時に、父はパソコンをいじったり、テレビを見ている、という事?」 証人「そうですね」 検察官「先生は、管理人の業務はどういうものと思っている?」 証人「パソコンで管理人業務をしているのならば、そう説明すれば成立します」 検察官「管理人業務であれば、パソコンは遊び、という前提は覆されますね」 証人「ならば、パソコンをいじる事は管理人業務である事が証明されなければ」 裁判長は、証人の判断の根拠について問う。証人は、パソコンについては調べてみなければ解らない、フィールドバックが必要である、と述べる。 検察官「仕事であると説明が必要と」 証人「はい」 検察官「管理人業務というのは公私の区別は付けにくいですよね。管理人というのはそれほど多い家族形態ではない」 証人「だと思います」 検察官「そうすると、どこまでがスタンダードか、というのはサラリーマン家庭とは違った考え方をしなければならないと思うが」 証人「団結していて、家族でしていたのならば問題は無いと思う」 検察官「被告の父親の父親が、何をしているかはご存知ですか?」 証人「お父さん・・・・?」 検察官「被告の祖父に当たるんですが、管理人をしていましたが、ご存知でしたか?」 証人「今は解りません」 検察官「一点だけ確認しておきますが、幼児期の熱性痙攣で、『死んでも仕方がない』というお父さんの発言があったらしいですが、それがエピソードの一つですか?」 証人「そうです」 検察官「お父さんは、ある宗教に入っていたが、それがお父さんの死生観に影響している可能性は考慮しましたか?」 証人「死生観ですか・・・・」 検察官「それは考慮していない?」 証人「今考えている意見ですが、その態度が、深い宗教観に基づいて語っていると周りは思わなかったと考えています」 検察官「母は抑うつ状態だった、と書いているが」 証人「たぶん鬱病だったと思います。様子が変わってきているのと、年賀状で注意力が散漫になっているのとでそう考えました」 検察官「診断には問診が不可欠ですね」 証人「そうです」 検察官「殺害の動機については、調書の通りと考えている」 証人「はい」 検察官「軽い高揚状態にあった、というのは、前日の父とのやり取りから?」 証人「前からかもしれないし、後からかもしれない。精神状態について説明すると、これが一番近いと思う」 検察官「やり取りから殺害まで、準備をしているが」 証人「そういう事も考えて、軽い高揚状態だったと。高揚というのは、躁状態です。徹夜の時等がそうです。そういう状態だと、合理的に行動しているように見え、心理的な葛藤もあるが、それを乗り越えて実行できる」 検察官「最後に、被告について述べているが、それは精神医学的な見地から?」 証人「そうです」 検察官「被害感情や、難しいですが、正義ではなく、先生の専門である精神医学的な見地から」 証人「そうです」 検察官「教育の浸透までに時間がかかるとあるが」 証人「かなりのケアが必要な少年だと思っています。これだけのIQを持っていますし」 検察官「(時間は)どのくらいですか?」 証人「正確には解りませんとしか私には答え様が無くって、私が主治医となったとしたら、相当長期間ケアが必要だと申し上げると思う」 検察官「相当長期とは、どのくらい?」 証人「私だったら少なくとも、成人して何らかの仕事についてやっていけるとして、私が主治医だったらそれまでフォローしたいと思います」 検察官「成人して5年ぐらい?」 証人「大学まで行く人は少ないので、仕事をして・・・・二十数歳だと思います」 検察官「施設とは、どれとは言っていない?」 証人「私はそうした施設の中は知らないので、どれが良いとは言えない」 検察官「そうしたアプローチが必要」 証人「そうです」 検察官「『現行の刑事施設では反社会的傾向の持ち主との接触を増やす』と言っていますが、それは可塑性に富む少年に対して良くないと」 証人「そうですね」 検察官「それは、少年一般に当てはまる?」 証人「そうですね」 −カワムラ弁護人の証人尋問− 弁護人「虐待について聞きますが、一件記録も慎重に考慮して判断した」 証人「はい」 弁護人「被告しか語れていない事実もある」 証人「そうですね」 弁護人「信用性について、如何思っている?」 証人「慎重に考えたつもりです。こうではないかと想像することがありますね。例えば、少年は工業高校に入ったが、それで悩みがあるのではないかと普通の人は思い、想像する。それと、空き家に進入して何度も入っている。それがだめになったのが、少年の居場所がなくなったのではないかと、想像するんですよ。でも、そういうことは言わないし、都合の良い事は言わないし、他の人の言う事とも違わないので、正直に話しているのでは、と」 弁護人「証人は、意見書全体の表現を慎重にした?」 証人「そうです」 弁護人「意見書の34ページ、『不適切な養育について、身体的虐待については、被告の供述に頼らざるを得ない』としていますが、身体的虐待とは?」 証人「(父に)おもちゃを壊されて、何時までも泣いてんじゃねえ、と言われて、叩かれて押入れに閉じ込められた事ですね」 弁護人「仕事をさせられていた所については、身体的虐待に当たりますか?」 証人「ちょっと迷います」 弁護人「不適切な養育だったと」 証人「はい」 弁護人「それは、被告の言う事だけではなく、周囲の証言からもそう判断した」 証人「そうです」 弁護人「反抗期については、被告の言動か、年齢がそうだということか」 証人「年齢が発達課題を持つ時期だと」 弁護人「年齢だと」 証人「はい」 弁護人「発達課題としての反抗はできている?」 証人「発達課題としての反抗はできていません」 弁護人「反発しているとあるが」 証人「発達課題としての反抗はできていない」 証人は、虐待については、児童精神科医として判断している。 弁護人「長期のケアとは、児童精神科医としてのケアで、施設の中での処遇とは考えていないという事でよろしいですか?」 この後も、2つばかり質問が行われた。 続いて、眼鏡をかけた初老の男性であるY2弁護人による証人尋問。 −タカオカ弁護人の証人尋問− 弁護人「検察官から動機に関する質問が一点ありましたが、証人は動機に関して弁護団から依頼されていますか?」 証人「いいえ、動機に関しては無いと」 弁護人「動機に関してはY2氏に依頼しておりますので」 証人「動機に関しては、私もそういう視点で書いてはいない」 −裁判長による証人尋問− 裁判長「虐待のエピソードに関しては、事実として断定するのは難しいが、少年の供述が基本になる?」 証人「それと、一件記録、情報筋がはっきりしていて、妥当という所を持ってきている」 裁判長「親族がこう言っているのだから間違いないだろう、というのがあると」 証人「はい」 裁判長「事実の受け取り方が違う事は?」 証人「あると思うが、そういう時には、ある人はこう言って、少年はこう言っている、と私は書いている」 尋問は終了し、証人は退廷する。証拠採用について争い、弁護人側のものが採用される。 裁判長「次回の予定ですが、3月2日午後1時15分からですが、弁護人のX2証人と、少年のおじさんおばさんを証人として採用して取り調べます。順番は?」 弁護人「順番については、X2証人から。おじさんおばさんについては、こういう法廷に連れて来られるのは問題があると」 裁判長は、それに関しては考えておく、と述べる。 検察官「X2証人については必要が無いと異議を述べさせていただきます」 検察官は、その根拠について述べる。 裁判長「弁護人のご意見は?」 弁護人「当然の事ですが、必要性はあると思います」 裁判長「検察官の異議は理由が無いものとして棄却いたします。双方とも書面を用意しておくように。次回は3月2日午後1時15分。X2証人と被告人のおじさんおばさんについて取り調べます」 4時30分までの予定だったが、4時48分ぐらいに終わった。 傍聴人は公判が終わるとすぐに退廷させられ、すぐに職員二人が、少年の後ろに立っている刑務官の脇を固めた。 検察官からの証人尋問が行われている時、何処からか笑い声や話し声が聞こえた。被告人は、最後まで全く動かなかった。 | |||
事件概要 | 少年は2005年6月20日、東京都板橋区で長年の父親への不満をきっかけに両親を殺害し、住んでいた社員寮をガスで爆破したとされる。 | ||
報告者 | 相馬さん |