裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第五部
事件番号 平成17年合(わ)21号
事件名 強盗致死、死体遺棄
被告名
担当判事 栃木力(裁判長)津田敬三(右陪席)長池健司(左陪席)
日付 2006.1.19 内容 最終弁論

 弁護人は、眼鏡をかけた黒いスーツ姿の、太った白髪の老人。前髪が後退している。開廷前に、検察官や書記官と何か話していた。
 検察官は、30代ぐらいの男性。開廷前、何か書類を読んでいた。
 傍聴人は、私を除いて24名ぐらい居た。
 被告は、腰が少し曲がった、白髪交じりの、6〜70代ぐらいに見える痩せた初老の男性。眼鏡をかけており、ノーネクタイの黒いスーツ姿。

裁判長「今日は弁護人の弁論」
弁護人「はい」

−最終弁論−
 弁論に先立ちまして、被害者の冥福を被告と共にお祈りさせていただきます。
 本件は、強盗致死ではなく、強盗として判断すべき。
 死体遺棄については、Eが被告人に死体を見せたのは、金銭の回収が全うできなかった事への言い訳である。
 被告人は、友人である被害者を死に至らしめるつもりは無く、共犯者らの供述などからも裏付けられている。にも拘らず、検察官は間違った判断を下している。
 手を下したのはBであり、死の責任はBにある。
 被告人の責任は、Bを選び、同人と監禁を共謀した事である。
 Eは、被告人の依頼を全うできなかった事、被害者の死、金銭の回収の失敗に葛藤していた。被害者の死体を被告に見せたところで、Eの責任は軽減されず、検察官の主張は失当である。
 Eは「社長から死体遺棄に関する指示は無かった」と述べているが、検察官は信頼できないとしている。しかし、Eは理路整然と証言を述べており、また、「死体遺棄の指示は受けず、その報酬をもらえるとも思っていなかった」とも述べている。理路整然かつ合理的であり、自分に不利であると理解した上で述べられており、信頼性は高い。
 Eは、自分の調書に目を通していないとも述べている。Eの弁護人との打ち合わせは、実行行為に絞られていたと思われる。本法廷におけるEの証言は理路整然としており、調書における発言時間の食い違いも指摘している。
 検察官は被告人の27号証を引用し、被告人の責任を免れがたい意思が現れており、迫真性があり、死体が発見されれば被告人の責任は免れず、本法廷における主張は信用できないと主張する。しかし、aの死を知って頭が真っ白になったと被告人は述べている。Eは、死体遺棄に被告を排除している。
 検察官は、被告人が「どうしてくれるんだ」と言った事について、死体を如何するか尋ねたとしているが、約束をEが果たせなかった事について言っていると考えるのが正当である。死体遺棄に限り、検察官の主張は根拠が乏しく、被告人とEの法廷における主張が正当である。
 強盗致死については、B、Eの犯行であり、被告人の責任は、監禁、脅迫の範囲内である。
 被告人とEの調書を比較して、被告人のものには、「手荒にやって、痛めつけてもらわなければ」とあるが、Eの調書にはそれは無い。しかし、被告人は、「長期戦を覚悟しろ」と言っているが、Eは、「社長、2ヶ月は長いですね。殺した方が早い」と言っている。前記の一文は、検察官の創作である。Eが短期戦、即ち暴力を選択したとしても、Eの意思によるものである。しかし、検察官は、被告人の言った事を元に、Eは暴力を振るうよう暗示されたとしており、牽強付会である。少なくとも被告人の依頼の趣旨、Eとの共謀は、被害者に暴力を振るわず、監禁し、金の在り処を言わせる事であった。
 被告人が右翼の名刺を作ったり、Eが暴力団組員だったからといって、暴力を振るおうとしていたとは言えない。被告人とEの会話からも明らかな通り、監禁を継続する事で被害者から金の在り処を自白させようと意図しており、死亡させようとは思っていなかった。
 Eは、暴力を振るって金の在り処を言わせようと考えていたが、被告人に(その考えを)確認したわけではない。
 Bの性格は、酒を飲んで凶暴になるわけではなく、本件をEから聞いた時に(被害者を)殺害する事を真剣に考えており、日常的に凶暴である。拉致のときは、「警察だ、解っているだろう、来い」と言い、被害者ともみあいになり、車に突き飛ばしている。
 被告人は、警察関係者に見せかけ、穏やかに拉致しようとしていた。
 Bは、Eから指示を受けずに、車中で、被害者のネクタイを掴んで引き寄せ、殴り、縛るなど、暴力を加えている。後には、被害者が暴れれば首が絞まるように緊縛行為を行っている。被害者に喝を入れ、全力で被害者を突き、隣の部屋の人が居なくなったのに気付かないほど暴力を振るっていた。被告人の意図した行為とはかけ離れている。被告の考え、被告とEの共謀からも隔たったものとなっている。
 被害者が動物のような「わっ」という声を上げた時、Bは声が隣に聞こえると思い、被害者の首を絞めて殺害した。(被害者は)Bらの暴力や緊縛で苦しくなって声を上げたと思われる。
 被告人は、暴力を振るわず監禁し、周りに気遣いの無い一軒家に拉致する予定だった。本件は意図不可能であり、予期したものではなかった。Eとの強盗の共謀をもって処断すべき。
 本件は、10年の友人関係を重ねてきた被害者に、被告人から多額の金銭が何度にもわたって渡り、それが返還されなかった。被害者が態度を豹変させ、被告人を小ばかにしたのが原因であり、Eに債権の回収を依頼する事になったものである。被告人の行動を肯定するわけではないが、一定の理解はしていただけるものと考える。
 また、被告人の依頼の段階から隔たった犯行様態となっている。
 被告人は、1円も得ておらず、Eらに数百万円支払っている。
 被告人には前科は殆ど無い。
 被告人の妻子は、被告人の出所を待ち望んでいる。被告人も自分の軽率な行動を悔やんでいる。これらの事を考慮すると、被告人の更正の可能性は十分である。
 被告人と被害者は、家族と食卓を共にする仲であり、被害者が困った時には、お金を気前よく貸していた。
 量刑であるが、様々な事情を考慮して、許される限りの減刑、有期懲役が相当であると考える。

裁判長「被告人、審理は終わりますが、最後に何か言いたいことは?」
被告「aさんの御遺族の方々に、深く深くご容赦と反省の念がたえません。私とaさんは10年来の友人でした。私の浅はかな行為により、重大な事件を作ってしまいました。カオリさん達に深くお詫び申し上げます。私も悔しいです。潔く刑に服すると共に、aさんに、許して下さいの気持ちで一杯です」
 次回期日の事などを少し話し合う。
裁判長「次回は判決。3月9日に言い渡します」

 被告人は、目をきつく閉じて弁論を聞いていた。退廷する時には、少し傍聴席に目を向けていた。
 11時までの予定だったが、10時30分ぐらいに終わった。

 書記官に聞いた所、この事件の初公判は2005年6月ぐらいで、今回も含め6回程度の公判を行っているらしい。

事件概要  D被告は他4被告と共に、2004年9月24日、東京都江東区の路上で会社経営者の男性を拉致監禁し、50万円やクレジットカードを奪い、その後殺害したとされる。
報告者 相馬さん


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