裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第六部
事件番号 平成17年合(わ)第709号
事件名 強盗殺人
被告名
担当判事 合田悦三(裁判長)白坂裕之(右陪席)加藤雅寛(左陪席)
その他 検察官:市木、山田、他一名
日付 2006.1.18 内容 初公判

 裁判長は、横広の体つきで、やや顔の四角い、眼鏡をかけた白髪の5〜60代の男性。
 傍聴席は、この事件の前に行われた審理の時から殆ど埋まっていた。記者席も数席指定されていた。
 前に行っていた事件(不法入国した若い女性の裁判であり、初公判で執行猶予付きの判決が下された。)が、30分までの予定のところ、7分延期されたので、開廷したのは40分ぐらいからだった。
 検察官は、黒いスーツ姿で30代ぐらいの、眼鏡をかけた男性一名と、丸顔の男性一名。
 弁護人は、30代ぐらいの男性1名。
 開廷前に、スクリーンと映写機が運び込まれる。
 被告人は、黒い髪を七三分けのオールバックにした、痩せた小柄な初老の男。物凄く頬がこけていて、尖った印象を与える顔立ち。ノーネクタイの黒いスーツ姿。開廷前は概ね俯いていたが、弁護人に何か(スクリーンの事か?)を尋ねてもいた。身に纏う雰囲気は沈んでいて、暗い。問いに対する答えも、聞こえるか聞こえないかぐらいの小声だった。しかし、調書等で明らかにされた限りでは、被告は相当に粗暴な性格の持ち主の様だった。

裁判長「被告人、前へ」
被告は、証言台の所に立つ。
裁判長「名前は?」
被告「A」
裁判長「生年月日は」
被告「昭和19年4月6日」
裁判長「61歳ですね」
裁判長「本籍は」
被告「東京都荒川区」
裁判長「強盗殺人で起訴されているので、調べます。3回の審理が予定されています。検察官、起訴状を朗読してください」

−起訴状−
被告人は、東京都板橋区「太陽」でaを殺害し金品を強取しようと考え、平成17年10月10日、42センチメートルの刺身包丁で突き刺して殺害し、金品等を強取した。

 裁判長は、被告人に黙秘権について告げる。
裁判長「起訴状に間違いは?」
被告「無いです」
裁判長「弁護人は?」
弁護人「違いはありません」
 被告人は、被告人席に戻る。
 丸顔の検察官が冒頭陳述を行う。冒頭陳述の間、犯行に至る経緯を表した表、現場見取り図がスクリーンに写し出され、検察官がそれに解説を加える。

−冒頭陳述−
 被告人は、昭和19年神奈川県で出生。中学卒業後、職を点々とする。犯行時は無職だった。3回の離婚歴がある。ホテルで生活していた。窃盗での逮捕歴がある。
 被害者は大学卒業後、カプセルホテル等で稼動。5人兄弟の末っ子。
 被告人が被害者に殺意を抱く経緯。
 平成16年10月5日、被告はホテル「太陽」の従業員となり、被害者と、平成17年4月に同僚となる。そして、物言いの事で被害者に不満を募らせ、身内に不幸があったといって一旦離職したが、結局食べていくためにまた「太陽」に戻る。しかし、被害者は事情を見抜き、被告の辞職勧告を勧めたため、被告は、被害者が自分を辞めさせようとしていると考え、被害者に暴行を加え、平成17年9月11日、「太陽」の売上金34万円を持ち逃げする。
 その後、「太陽」の頃の堅実な生活を奪ったのは被害者であると考え、恨みを募らせ、金のためにも殺害を決意する。平成17年9月30日に包丁を購入し、10月1日に「太陽」に侵入するも失敗し、一度は被害者の殺害をためらい、ラブホテルで働く。しかし、仕事は疲労が溜まり、10月8日に被害者の殺害を再度決意する。
 失敗してはいけないと考え、大量の凶器を、持っていたサバイバルナイフも持ち込む。
 午前3時頃と8時頃に、被害者が仮眠の為に出入りする事を「太陽」の室外機の陰から確認する(ここで、現場見取り図の説明が入る。検察官は、スクリーンに映された映像を示しながら説明する。被告は、かつての自分の寮に侵入していた。控え室に一旦隠れ、室外機の陰に移動して確認した)
 午前10時前にマッサージ室に移動する(見取り図の説明。被告は、5階から3階に行き、フロントの反対の入り口から店舗内に入り、マッサージ室に侵入する)
 売り上げ集計中だった被害者は、マッサージ室に行き、被告を発見する。被告は、被害者を、刺身包丁でメッタ刺しにして殺害する(見取り図の説明。被告は、フロントで被害者を転倒させ、被害者を突き刺して殺害する)その際、被告も手に切創を負う。血液が、被告人の物も含め多数検出された。
 刺身包丁を捨てながら逃走する。東武東上線に乗り、池袋に向かったが、出血を乗客に見咎められ、電車を降りてタクシーに乗って逃走する。
 その後、奪った金銭を遊興に消費しながら生活していたが、ホテルで働いていたところを警察に通常逮捕される。

 検察官の証拠調べ請求に対し、弁護人は同意し、甲号証は次回に取調べを求める。
 続いて、検察官は証拠の内容を告げる。

−書証の告知−
・甲1〜3は、死体発見時に関するもの。
・甲1号証はY1の調書。Y1は、Y2と共に被害者の死体を発見した。
・甲2号証は、Y2の調書。「午前5時ごろにフロントに行ったところ、フロントに血のようなものがあった。周りを見ると、Y1が立っていた」等、死体発見の状況が書かれている。
・甲3号証は、同じく「太陽」従業員の調書。「Y2に知らされて3階に行ったところ、aさんが血を流して倒れているのが見えた。自動販売機などに血が点々とついていた。aさんは几帳面で信頼できる。被告は、客に対してすぐキレる性格だったので、従業員は『Aと働くのは嫌だ』と言っていた」という内容。
・甲4号証は、死体検案書。被害者は他殺と思われるとある。
・甲6号証は、死体の状況。顔面など、16箇所の刺し傷を認める。骨折なども認められる。死因は、2箇所の刺し傷による失血死。被害者の血液型はO型。
・甲7号証は、刺し傷に関して解説されている。
・甲8号証は、検案調書。
・甲9号証は、臨場した救急隊長の調書。被害者は医師に引き継ぐまで蘇生しなかった、という内容。
・甲11号証は、カプセルホテル店内の検証調書。
・甲12、13号証は、見分時にホテルの入り口などで採取した血痕と大山駅の血痕を照合した所、ホテルのフロントではO型、他ではB型のと結果が出ている。カウンター内の収容扉の血痕は人血であるとされており、O型である、という内容。
・甲16,17号証は、被告人の唾液の血液型の検証。
・甲18号証は、刺身包丁について。
・甲22〜25号証は、刺身包丁に付着した血液、被告の口の中の細胞、フロントの人血について分析したもの。刺身包丁の血痕は、被告と一致するか、被告と被害者のものが混合していた。
・甲26号証は、「サカマツ」で働く従業員の調書。「客が包丁『銀江戸奴』を買った。その客は、料理店をやっていると言ったが、包丁選びに迷っており、外見も清潔感が無い」
・甲31号証は、10月10日午前10時15分から池袋大山行きの電車に乗った客の調書。「私の近くに、浮浪者風の男が立っていた。そわそわしており、窓ガラスを拭いていた。周りに血痕が落ちていた。男は北池袋駅で急いで降りた。その男は手に怪我をしていると思った」という内容。この客は、被告の写真を見せたところ、その男であると確認した。
・甲35号証は、被害金の特定。総売上金は24万4570円とaの記載により確認されている。それに間違いは無く、被害金額は24万4750円。被害物品は、チャック式ビニール袋、会計表一束、伝票一枚など。
・甲40号証は、被告人の足取り。「太陽」の従業員の調書。「被告人が給料を取りに来た時、退職届を見せた。aさんから被告はやめると聞いていたが、被告はやめようと思っていないようだった。なので、退職届は書かせなかった。
・甲41号証は、被害者の隣人の調書。「aさんの部屋の前で、被告は、『何で俺がクビなんだ、何で俺がクビなんだ』と大声で怒鳴っていた。どんどん、と音がして、aさんが『痛い痛い、止めろ』と言っていた」という内容。
・甲44,45号証は、Y3の調書。「勤務中に、『太陽』の電話に、被告から電話が3回かかる。一回目は、持ち逃がした金を返す、と言っていた。二回目は、自分の事を話し、『俺は決着をつけなければいけない』と言っていた。三回目は、『金はaに返す』と言い、(被害者の)勤務時間を尋ねたので、教えてあげた」という内容。
・甲48号証は、台東区根岸のラブホテル経営者の調書。「被告は、10月から働き始めた。タオル運びなどを行う。従業員はエレベーターが使えない。被告は、仕事がきつそうな様子を見せず、『楽勝ですよ、新宿の頃と比べれば楽ですよ。』と言っていた。楽な仕事ではないが、女性もやっているのできつくは無いと思う」と述べている。
 次に紹介されたのは、医師の調書で、内容は被告の来院について。
 その次の調書の内容は「平成17年10月18日に被告がムラカミ・ススムという名で働きに来た。被告は良く働いたが、勤務時間外にはよく公衆電話で電話をかけていた」という内容。
 その次はY3の調書で、「被害者は、仕事では厳しいが、優しい人。被告には厳しかった。被告は副店長のような役割だったからではないか。被告は『aは女の腐ったような奴だ』と言っていた」という内容。
 次は、「太陽」従業員の調書で、「被告は仕事のミスが多い。そのため、被害者は厳しかった。被告は、社長が来た時に、フロントから飛び出し、灰皿を掃除しだして、社長から『うろうろせずフロントに居ろ』と怒鳴られた事もあった」という内容。
・甲54号証は、被告の一番目の妻、Y4の調書。「被告は結婚するまで本名を言わなかった。仕事は、人前では働くが、それ以外はあまりやらない。髪が上手くきまらない等の理由で、私を布団に包み、殴る蹴るの暴力を加えた。6回妊娠したが、堕胎させられ、子供が産めない体になった。被告は浮気もしていた」という内容。
・甲55号証は、二番目の妻の調書。「(被告は)借金があった。優しかったが、嘘を嘘で固める人」と述べている。
・甲56号証は、三番目の妻の調書。「(被告は)結婚するまで6歳年を偽っていた。優しい人だったが、職場の不満をよく漏らし、『あのやろう、ぶっ殺してやる』と顔色を変えて言っていた。離婚する時には、『お前は男が出来たな。会わせろ。ぶん殴ってやる』と言っていた」という内容。
・甲57号証は、被害者遺族の調書。長兄のもの。「被害者は人からよく頼られ、いつも中心となっていた。新聞社にも勤めたが、それを鼻にかけず、優しい人だった。私達の誇りだった。離婚した後は連絡が途絶えていたが、いつか戻ってくると思っていた。被害を知った後は、悔しくて仕方が無く、犯人を思いっきりぶん殴ってやりたい。姉は、より体調を悪化させた。aは恨みを買う人ではない。恨んでいても、何故殺す必要があるのか。逆恨みに違いありません。刑罰は法に任せるしかありませんが、犯人は絞首刑にしてください」と述べている。
・甲58号証は、次兄の調書。
・甲59号証は、三兄の調書。「霊安室を出た後、じわじわと悔しさがこみ上げてきた。犯人に対しては、aが殺された時の事を考えれば胸が締め付けられる。同じ思いを味わわせてやりたい。61歳という分別盛りで人を殺す人に社会復帰して欲しくない。出来ればこの手でaの無念を晴らしてやりたい」と述べている。

 裁判長に言われ、被告は証言台に立つ。
 検察官は、被告に物を見せる。大きな包丁だった。
検察官「この包丁を使った。間違いありませんね」
被告「間違いないです」
検察官「貴方の物ですか」
被告「はい」
検察官「もう必要ないですか」
被告「はい」
 被告は、席に戻る。
 双方の立証について打ち合わせを行う。
裁判長「次回は証拠調べを行います。その期日の手続きを水曜日に行うので、必ず出廷してください。終わります」

 検察官は、遺族の調書を読み上げる時には声を強めていた。
 被告は、公判の間中、終始俯いていた。退廷する時は、俯いたままで、傍聴席を見ることは無かった。
 11時40分に初公判は終了した。

事件概要  A被告は2005年10月10日、東京都板橋区で強盗目的でサウナ店店長を刺殺し、24万4750円等を奪ったとされる。
報告者 相馬さん


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