裁判所・部 | 東京地方裁判所・刑事第二部 | ||
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事件番号 | 平成16年合(わ)第354号 | ||
事件名 | 銃刀法違反等 | ||
被告名 | 熊谷徳久 | ||
担当判事 | 毛利晴光(裁判長)宮本聡(右陪席)大村るい(左陪席) | ||
その他 | 検察官:湯澤昌己、南智樹、中山大輔 | ||
日付 | 2005.11.11 | 内容 | 被告人質問 |
開廷前、休憩室で、熊谷被告の弁護人二人が話をしていた。内容は、裁判の打ち合わせなどだった。その時の会話によると、Yさんの腹を撃った事について、本人は「未熟だった」と言っている。 また、自著伝を書いていて、出来れば出版したい、と接見では言っている。 その他にも、求刑は如何なのかと尋ねているらしい。その事に話が及んだ時、年をとった方の弁護人は、若い弁護人に、「たかだか一人だから死刑は無いと思いますよ」と言っていた。 弁護人は、黒いスーツに、眼鏡を掛けた髪の短い若い男と、白髪を後ろに撫で付けた、眼鏡を掛けた六十代のスーツ姿の男。前回と同じである。 検察官は、開廷表には、湯澤昌己、南智樹、中山大輔の、三名の名前が書かれていたが、出廷していたのは二人だった。 眼鏡を掛けた30代ぐらいの男性二名。前回の10月17日の公判に出廷していたメンバーで、名前は、南と中山だったと思う。 裁判官も、前回と同じメンバー。 被告は、スキンヘッド。やや色白か。上半身は、黒い革ジャンの下に赤い服を着ている。下半身は青いジーンズ。サンダル履き。青いタオルを持って出廷した。 傍聴人は、十数人ぐらい来ていた。前回、被告に険しい視線を向けていた傍聴人も来ていた。公判は、2時30分から開始された。 検察官は、甲306号証などの取調べを請求。弁護人は何れについても同意し、採用される。 306号証は、Zさんの証言を記載した調書。 −内容− 父親は、現在、脳梗塞で寝たきりの状態。 母は、父の見舞いに行く以外は、Yに付き添っている。 Yは、右足は回復の見込みが無い。筋肉が全く働かない。装具を着けなければならないが、着けるのは難しい。先日は、装具を着けようとして転倒し、頭から血を流して病院に運ばれた。 近所の子供がYを見て、「あの家にはロボットが居る」と言っていた。 (Yは)障害者と見られるのに劣等感があり、車椅子は使っていない。また、装具による疼痛に悩まされている。 (怪我のための)トイレや風呂の改装で十万円かかった。 勤務先の東京に鴻巣から通うのは困難である。 Yの精神状態は、無気力、不安定で、自暴自棄。震災の被災者に対し、「皆死んでしまえばいい」などと言っている。私に対しても、「俺の体は解らないだろう」等と言う。また、家族に茶碗を投げつけるなどしている。 私からは、症状が改善しているとは思えない。 (Yの)生活は、病院に行く以外は、家に引きこもっている。外出を勧めても、「絶対に嫌だ」と言っている。理由は、周囲の目が気になるからで、「こんな体で勤めをしている人が居るか」とも言っている。家族は外出を勧めているが、断っている。 母は疲れきっている。 保証金が続くのは十二月までで、それ以降のめどは立っていない。それ以降に支給される見込みはない。 (家族の間では)犯人や事件の事は話題にしない。犯人は極刑にして欲しいが、本当は、Yと同じ苦痛を味わわせて欲しい。言っても仕方が無いが、Yを元に戻して欲しい。 308号証は、Yさんの精神科医の調書。 Y氏の症状は、睡眠障害などがあり、病状が何時治るかは不明。社会復帰を急がせない事、などと供述している。 Z氏の調書を読み上げる間、被告は下を向き、下唇を噛み締める等していた。 弁護人は、Xさんの事件以外は自首が成立する、と述べる。 そして、被告人質問に入った。短い時間なので被告が立ったままで行われる事となり、被告もそれに同意した。 先ずは、六十代ぐらいのアラキ弁護人から。 −アラキ弁護人の被告人質問− 弁護人「Yさんの立証が検事からあったが、聞いていたね」 被告「はい」 弁護人「面識があるわけではないから、ただ金が欲しかった」 被告「はい」 やや強い声。 弁護人「狙ったのは足」 被告「はい。興奮していたから」 弁護人「腰にも当たっている」 被告「はい」 弁護人「足を狙って当てる自信は?」 被告「いえ、自信はあまり無いです」 弁護人「白楽天のXさんは、家に入らないので頭をとばした」 被告「はい」 弁護人「金が欲しいので命はとらないと相手に伝えた認識は?」 被告「ありません。少しはありますけど」 弁護人「家には誰も居ないと」 被告「はい」 弁護人「でも、息子さんがいたね」 被告「はい。そうらしいですね」 弁護人「鑑定書は読んだ?」 被告「はい」 弁護人「(鑑定書には)自分の存在を知らせたい欲求がある、等と書かれていた」 被告「はい」 弁護人「当たっていると?」 被告「違うと思いました」 弁護人「自分を知らせる欲求は?」 被告「ありました」 弁護人「Yさん、Xさんの事件は、慣れた人がやるとは思えないが」 被告「はい」 弁護人「度胸だけは在ったつもり?」 被告「はい」 弁護人「未熟だった?」 被告「はい。未熟だったと思います」 弁護人「東京事件で金が入れば、ボスのホリイさん等に金を届けようと言っていたが、そう思っていた?」 被告「はい」 弁護人「二人が、金を喜んで受け取ると?」 被告「いいえ、犯罪の金ですから」 弁護人「日頃の熊谷さんの言動からすれば、悪事を働いたと思われると」 被告「はい」 弁護人「今から考えれば、素直に受け取らないと」 被告「はい」 弁護人「当時は、男を上げようと」 被告「はい。当時としては、男っ気がありすぎちゃったです」 弁護人「どのへんで、受け取ってもらえないと?」 被告「自分が、その・・・・お金が無いのに何処から持ってきたと追求されると」 続いて、若い弁護人による被告人質問。前回と同じ人間だが、今回は、トヨタと自分の名を言っているように聞こえた。どちらが聞き間違えかは解らない。 −(若い方の)弁護人の被告人質問− 306号証を示す。 弁護人「この調書は、Yさんの兄のものだが、拘置所に送付したが読んだ?」 被告「はい」 被告「もう、何と言うか、如何したら・・・・謝っても謝りつけない。それを考えたら、御免なさいでは済まない。そういう気持ちです」 −南検察官の被告人質問− 検事「六月末に、Xさんの親族二名が法廷で供述したが」 被告「謝っても謝りつけない事をしてしまった。ごめんなさいと。それしか出来ないです」 検事「謝る事しかできないと」 被告「どんな罰でも受けます!年をとってこういう事をしたのですから。どんな罰でも受けます。終わりと思ってます。本当に御免なさいです」 −左陪席裁判官の被告人質問− 裁判官「鑑定人の話で、自分が思っていたのと少し違うところがあると、弁護人に言っていたが、何処ですか?」 被告「どういう違う?」 裁判官「聞き方を変えます。全部納得できましたか?」 被告「はい。全部納得できました」 裁判官「これでいい?」 被告「はい」 −右陪席裁判官の被告人質問− 裁判官「前回、Fさんは、宗教にでも触れなければ(被告は)変わらないと言っているが、如何?」 被告「いえ、宗教は信じていません。若い頃は悪いことはしていましたが、小さい頃から国は愛していました」 裁判官「若い頃から裁判を受けているが、今回は如何思っている?」 被告「もう終わりだと。この年ですから」 裁判官「刑務所・・・・拘置所では如何考えている?」 被告「小さい頃の事から反省、いえ、振り返って考えています」 裁判官「それだけ?」 被告「はい。もう終わりだと」 −裁判長の被告人質問− 裁判長「貴方は、パフォーマンスという部分もあると言っていた」 被告「はい」 裁判長「出頭もそういう面があると」 被告「はい」 裁判長「それを考えると、反省もパフォーマンスではないかと思えるので聞くが、反省しているか」 被告「はい。今回はそう思っています」 裁判長「反省の仕方は人それぞれだが、貴方は、さばけているとも思うが、どう?」 被告「世間を騒がせてしまって申し訳ない。本当に思っています」 裁判長「Xさんに冥福を祈っているか?」 被告「毎朝、東に向かって頭を下げています。Yさんの事もありますし」 裁判長「その他には?」 被告「自分の人生の事を書いています。それだけです」 裁判長「どういう気持ちで?」 被告「娘にもう会えない。最後の締めくくりと思って書いています」 裁判長「一切合財含めて書いている」 被告「はい」 裁判長「娘さんの事はあるが、亡くなったXさんや重態のYさん等の被害者について、何かしている事は?」 被告「自分としては、何とかして、Yさんや家族に惨めな思いをさせて、何かやってやりたいけど、何も出来ない。御免なさいとしか言えない。本を書いているが、何とかして、Yさんのためにならないかと思うが、人がどうかしなければなりませんけれど」 裁判長「印税が入って、それを被害者が受け取ると」 被告「はい」 裁判長「貴方は、金銭では被害者に出来る償いは無いと」 被告「はい」 裁判長「本が売れたら、それで償いたい」 被告「そうです」 裁判長「書き物を読んでもらって、(被害者に?)気持ちをわかってほしいとは?」 被告「それもありますが、何と言ったら、世の中は、生活力がなければ。何とかしてやりたいと」 裁判長「それは、貴方が?それとも、他の誰かから言われて?」 被告「そういうのは全くありません!私自身の考えです」 質問は終了し、被告は席に戻る。被告は証言の間、拳を握り締めていた。 これで今日の予定は終了し、次回を論告とする。弁論の期日を、来年の1月10日午前十時からに指定する。そして、それを被告に確認した。 五時までの予定だったが、三時を少し過ぎた辺りで審理は終了する。 被告は、退廷するとき、傍聴席に目を向けなかった。 険しい視線を向けていた傍聴人は、被告の背を見ていた。 | |||
事件概要 |
熊谷被告は主に以下の犯罪を犯したとされる。 1:2004年5月29日、神奈川県横浜市で強盗目的で中華料理店経営者を射殺した。 2:同年6月23日、東京都渋谷区の東京メトロ渋谷駅で強盗目的で駅員を銃撃して重傷を負わせた。 その他、余罪多数。 熊谷被告2004年6月26日に逮捕された。 |
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報告者 | 相馬さん |