裁判所・部 | 東京地方裁判所・刑事第三部 | ||
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事件番号 | |||
事件名 | 強盗殺人等 | ||
被告名 | 謝依俤 | ||
担当判事 | |||
日付 | 2005.9.15 | 内容 | 被告人質問 |
被告は、髪を短く刈った、眼鏡を掛けた20代ぐらいに見える男性。上半身は英語の書かれた長袖の服、下半身は縞の入ったズボン。両方とも黒を基調とした色。黒い靴下にサンダル履き。開廷前に、何か書類を読んでいた。 主任弁護人の、大熊弁護人が遅れる。 まずは、弁護人が異議を述べる。 弁護人「平成17年の意見書に記載の通り、供述調書は被告の任意ではなく、被告は弁護権を侵害された。調書は証拠採用されるべきではない。任意同行は実質的逮捕である。被告が同行を拒んでいないというが、警官が大勢乗り込んできて、日本語が不自由な被告では同行の拒否は不可能。違法逮捕において証拠能力が否定されなくても、その他の証拠に基づいて否定されるべき。第三に、本件は、弁護人の選任権が侵害されている。刑事は、弁護人は金がかかる、裁判に時間がかかる、公判では裁判所で弁護士をつけてくれる、と述べており、弁護人を拒ませようとしたのが明らか。決定の、被告が選任しにくい雰囲気を勝手に感じたとするのは誤り。山寺警察官は、被告人の弁護人選任権を侵害した。それを利用し甲4号証を作成したものであり、証拠として違法。本件は別件逮捕である。司法はこれに対し厳格に対するべき。再逮捕後の取調べは、違法。余罪に対しても取調べ受任義務を行うのは、冤罪の温床となり違法。また、調書に任意性はない。山田は、『もしあんたがちゃんと話さなければ、鬼のような上司にきて取調べをやってもらう』と言ったと被告人は述べている。被告は、取調べの際、畏怖していた。以上の通り、調書は任意性を欠いており、証拠収集も違法である」 検事「何れも被告の公判における供述に基づいている。それらは誇張に塗れており、異議に理由は無い」 異議は棄却された。続いて、検察官からの証拠採用請求があった証拠について 検事「乙4号証は、犯行のナイフの状況。乙5号証は、犯行時の着衣の説明内容。乙10号証は、被告の、検察官に対する供述。犯行に至る経緯と、以前の生活状況。乙14号証は、本件の凶器と同型のナイフの確認に関して。乙17号証は、被害者殺害後の物色状況。乙19,20号証は、犯行後の状況」 裁判長「証拠決定に対しては?」 弁護人「異議があります」 続いて、被告人質問が行われる。 −弁護人の被告人質問− 弁護人「aさんのご主人を殺した後、1,2,3階を物色したという事ですね」 被告「はい」 弁護人「何を持ち出したの?」 被告「宝石箱に入っていた宝石、現金、アクセサリーです」 弁護人「犯行後、何処に?」 被告「自分の部屋に」 弁護人「その時の心境は?」 被告「頭が混乱していた、自分の感情をコントロールするのが難しく、怖かった」 弁護人「殺してしまったとは?」 被告「その時は考えませんでした」 弁護人「何故?」 被告「自分のやった事がどのような大変な事になっているかも知りませんでした」 弁護人「パニック状態?」 被告「かなり混乱していて、自分が何をやったかもよく認識していませんでした」 弁護人「自分の部屋で何を?」 被告「その時は解らなかったのですが、後になって解ったのは、バッグに物を入れて出てきた事です」 被告「やった事でどのような結果になるか解りませんでした。少し自分の部屋を出て、冷静になろうと」 弁護人「部屋を出て何処へ行こうと?」 被告「特にありません」 弁護人「それで、タクシーで池袋に行ってますね」 被告「運転手から聞かれたので、適当に池袋といいました」 弁護人「池袋で何をした?」 被告「その時も、夜1時〜2時だったと思うが、c達が池袋にいると聞いたので行こうと思いましたが、その時は混乱していました」 弁護人「誰に会った?」 被告「c達と」 弁護人「それで?」 被告「会って、eに電話して、出て来い、と」 弁護人「会って何を?」 被告「私自身としては、親しくしていた人がそう居なかったが、誰か側にいて欲しかったので」 弁護人「何処にいた?」 被告「地下一階、B1の店」 弁護人「其処で何を?」 被告「彼らが、其処で踊ったりしてました」 弁護人「貴方は?」 被告「踊りませんでした」 弁護人「では、それを見ていたの?」 見ていたらしい。 弁護人「其の時、どういったことを考えていた?」 被告「前日に、自分がやった事をどんなに大変な事かと考えながら、心は気持ち悪く、辛かったです」 弁護人「貴方は、通報した?」 被告「その知り合って間もない友人達と話をしたが、心の辛さは和らがなかったので、警察に通報しました」 弁護人「何を話した?」 被告「自分自身としては自首しようと思っていたが、両親とまだ話をしていなかったので、国際電話で両親に電話をしようと思い、とりあえず事件が起こったことを通報しました」 弁護人「気になっている事が有って通報した?」 被告「はい」 弁護人「其の時、チンと名乗っているが?」 被告「日本に来てから、私は、チン・ウンキと名乗っていた」 弁護人「それで、警察の捜査が向いてくるとは?」 被告「自分なりに心の準備が出来ていたので、私がやった被害者がまだ助けられるかもと思っていたので、通報しました」 弁護人「8月31日の午前中、dとB2で会った事は?」 被告「はい」 弁護人「貴方とdはどんな関係?」 被告「特別な関係ではない。現場で働いていて知り合ったんです」 弁護人「何か話を?」 被告「昨夜、自分がやった事を、大変な事をやってしまった、どんな事か話しました」 弁護人「二人を殺したとは?」 被告「殺したという言葉は使いませんでした。当時はまだ知らなかったので」 弁護人「何と言った?」 被告「昨夜、自分をコントロール出来ず人を刺してしまったと」 弁護人「それで、dは?」 被告「何故そんな事をした、と聞かれたので、物を盗みに入った、と言いました。そしたら、何を盗んだか聞かれました」 弁護人「それで?」 被告「盗った宝石類を如何処分したらいいか解らないと言ったら、dが、私に任せてください、と言いました」 被告「dは、私に任せてくださいと言ったが、ニュアンスとしては、私に売ってください、という感じでした」 弁護人「それで?」 被告「一週間後、私にお金がなくなってから売りました」 弁護人「その時は売ると決まってなかった?」 被告「私自身としては、売るつもりはなかったので」 被告「その時は、私の心も揺れていました」 弁護人「dは、8月13日に、貴方から5万円貸してくれと頼まれたと言っているが?」 被告「ありませんでした」 弁護人「dによれば、それを断ったところ、貴方の方から、池袋東口の方に荷物が三つある、ネックレスなどが在るから取りに行ってくれと言われた、となっているが」 被告「それは事実と違います」 弁護人「宝石に関してはまた聞きますが、結局、dに宝石を売ったことはあるね」 被告「はい」 弁護人「何時ごろ、どんな風に?」 被告「9月の8,9日にお金がなくなっていたので、dに前に宝石を渡せば五万くれると聞いていたので」 弁護人「それで」 被告「はい」 弁護人「それで、それをdに売った」 被告「はい」 弁護人「実際には幾らで売った?」 被告「40万と言う事でしたが、dが半分分けて欲しいと言うので、私は20万貰いました」 弁護人「dの方から先に売ってくれといってきたという事ですね?貴方ではなく」 被告「ブローカーがいるので、半分はいる、という話でした」 弁護人「dの方から?」 被告「はい、dの方からです」 弁護人「dは、貴方の方から頼んできた、と言っているが」 被告「dの言った内容ではないです」 弁護人「dが宝石売買のルートを知っていると、知識としてあった?」 被告「それは知りませんでした。それほど深い付き合いではないので」 弁護人「仕事の現場で一緒だっただけ?」 被告「はい」 弁護人「それで、得たお金は何に?」 被告「車に乗るのに使ったり、家賃、食費です」 弁護人「大家さんの住んでいるアパートを一日幾らで借りていた?」 被告「はい」 弁護人「そうした諸々の事に使ったんですね?」 被告「ホテル代、家賃で一日3千。その他にも食費がかかりました」 弁護人「宝石を売ってはいけないとか、そういうことは考えなかった?」 被告「自分自身としては売って良いか悩んでいました。本心としては売りたくなかったが、お金が無かったので」 弁護人「何故売りたくなかった?」 被告「今更言っても信じてもらえないだろうし、遅すぎたと思うが、何れは自首するつもりだったので、そうしたものは持っていようと」 弁護人「でも、お金が無いから売った」 被告「はい」 弁護人「宝石は、遺族の人にとっては形見になる大事な物だと思うが、そんな事をしたことについて今は如何考えていますか?」 被告「それを売る決心をしたことは、今ではとても後悔しています。今でも思い出すと辛い気持ちになります」 弁護人「8月31日には何処へ?」 被告「ホテルにいました」 弁護人「何故?」 被告「自分が何処にいたらいいか解らなかったので」 弁護人「夜は?」 被告「eの家に」 弁護人「何故?」 被告「eの方から、私の家に来ては、と言われましたので」 弁護人「其処では何を?」 被告「中国に電話しました。知人や近隣の人に電話しました」 弁護人「内容は?」 被告「国際電話をかけようと思ったがやり方を知らなかったので、教えてもらって母と電話しました」 被告「西小山にいる友人に話したら、早く両親に電話をしろと言われたので電話しました」 弁護人「それで?」 被告「eが寝た後、公衆電話から母に電話しました」 弁護人「この日、fが来ているが、その後に?」 被告「帰った後です」 弁護人「fとの話を聞きます。この日、何時ぐらいに来ました?」 被告「夜7,8時頃です」 弁護人「何故eさんの家に?」 被告「eの所に居たが、何を如何したらいいか解らなかったので、来てもらおうと思って」 弁護人「fに何かしてもらおうとは?」 被告「fを呼んだのは私ではなく、私も用は無かったんですが、二人では退屈なのでeが呼びました」 弁護人「来てから何が?」 被告「酒を飲みました」 弁護人「誰が買いに行った?」 被告「fとeです」 弁護人「貴方はビール券を渡した?」 被告「それと、二千円を渡しました」 弁護人「どうやって手に入れた?」 被告「aさんの家から手に入れたものです」 弁護人「何故遣おうと思った?」 被告「特に深く考えていなかったが、少しでも酒を飲んで自分を麻痺させたいと思いました」 弁護人「自分のやった事から気をそらせたいと?」 被告「はい。自分のやった事から気をそらせたいと思いましたので」 弁護人「ならば、悩んでいた?自分のしたことを」 被告「はい」 弁護人「fとはどんな話を?」 被告「其の時、もう一人女性が来ていましたが、fと親しかったので、紹介してfの彼女にしようと」 弁護人「其の時、女性は来ていた?」 被告「いいえ」 弁護人「fの話では、『人を殺した、逃げる時人に見られた』と言っていたということだが」 被告「それは事実と違います」 弁護人「fは、『目黒のあの人か』と聞いたところ、貴方が頷いたと述べているが」 被告「それはありません」 弁護人「fが何人で強盗に入ったかと聞くと、貴方は、『一人だ』と答えた。『5万にしかならなかった。5万にしかならなかったのは偽の情報だったからだ』と答えた、と言っているが」 被告「それはfが言った出鱈目です。それも捏造です」 弁護人「eさんには人を殺したとは?」 被告「eにも話していません」 弁護人「人を刺したとか、そういった事は?」 被告「直接そのような話をしたわけではなく、貴方は人を刺した人と一緒に生活できるか聞きました」 弁護人「31日に話した?」 被告「いいえ」 弁護人「31日ではない」 被告「はい」 弁護人「何時話した?」 被告「gの部屋で言いました」 弁護人「貴方は、fに対し、パスポートを手に入れてくれと話した?」 被告「私の記憶ではそのような話はないが、fの方から言ったかもしれない」 弁護人「『パスポートの写真を入れ替えて逃げる、50万出す。マレーシアのパスポートがいい。友達で持っている奴がいないか』と貴方から言われた、と言っているが」 被告「いいえ」 弁護人「eによれば、fの方からパスポートの話をしていたといっているが、それは記憶に無い?」 被告「eがそう言っているのならば、eの記憶には間違い無いと思います」 弁護人「少なくとも貴方の方からfにパスポートを頼んだ事はない?」 被告「ありません」 弁護人「パスポートの費用について、もう一つ強盗の出来る場所があると貴方が言ったとなっているが」 被告「そのような話はしていません。私の記憶としては、fの方から、自分には窃盗をやっている仲間がいるので一緒にやらないか、と言っていたとは思うが」 弁護人「窃盗とは?」 被告「ピッキングです」 弁護人「何故fはそんな事を?」 被告「マレーシアの人達が何を考えてやっているか解らないが、其の時熱心に勧めてきた。それから考えれば、私が加わればfは何かメリットがあると思いました」 弁護人「それで、応じた?」 被告「いいえ」 弁護人「何故?」 被告「その時は自分のやった事で死ぬ覚悟も出来ていたので、そんな事をする気はありませんでした」 弁護人「eさんに、もし自分と一緒にいなければもう一度会いに行く、と述べていたというが」 被告「いいえ」 弁護人「eさんによれば、31日に自分と一緒にいなければ奪いに行く、と述べたとなっているが」 被告「もう一度お願いします」 被告「eを奪い返すという意味ではなく、eが一緒にいなければもう一度強盗するという意味だと思います」 どうやら話が混乱しているらしい。 被告「eが誤解しているのだと思うが、eが離れていたら私は自暴自棄になる、と言いました」 弁護人「何故?」 被告「当時はeと両思いだったので」 弁護人「eを引き止めるために?」 被告「eが自分にとって大切な人だと知ってもらいたかったので」 弁護人「実際に自暴自棄になって強盗を?」 被告「そうは思ってません」 弁護人「他には何処か?」 被告「gのところに」 被告「2〜3日です」 弁護人「それからは?」 被告「fのところです」 被告「4〜5日です」 弁護人「それからは?」 被告「ホテルに行って、それからeの所に」 弁護人「それで、eさんの所で逮捕された?」 被告「はい」 弁護人「fの所に泊まっている時、ナイフ等をロッカーから取りに行った事があるね?」 被告「はい」 弁護人「それは何時?」 被告「9月の7日か8日」 弁護人「fら3人で行った?」 弁護人「fの所に持ち帰った?」 被告「最初預けていたが、fの所に持っていった」 弁護人「何故?」 被告「其の時お金に困っていたので、宝石を売って生活費に当てようと」 弁護人「それがdに処分してもらう事に繋がる」 被告「はい」 弁護人「宝石を全部dに渡したわけではないね?」 被告「はい」 弁護人「どういったものを渡した?」 被告「新しい宝石を」 弁護人「ナイフも持って帰っているね?」 被告「はい」 弁護人「このナイフをfが洗った?」 被告「はい」 弁護人「貴方が頼んだ?」 被告「いいえ」 弁護人「何故洗ったと思う?」 被告「私はバッグのものをfの所で出していた。それで、fが血痕がついているのに気付いて洗ったと思う」 弁護人「eもfも、貴方がfに洗うように言ったと述べているが」 被告「私自身は言った覚えはないが、fが自主的に洗って、私が、fに、洗ったのかと聞きました」 弁護人「それでは勘違いしていると?」 被告「私自身は、fがナイフを洗ったのに気付いた時にびっくりしたので、洗ったのかと聞きました。聞いていたら私が洗わせたと思うかもしれません」 弁護人「貴方は、ナイフを捨てるようにfに言った?」 被告「いいえ」 被告「一度もありません」 弁護人「ではどうさせようと?」 被告「どのようにして欲しいと思ったことも無い」 弁護人「貴方は、ナイフを自分で持っていきませんでしたね」 被告「はい」 弁護人「何故fの所にナイフを置いて欲しいと?」 被告「私がfの所から出て行くときは、ずっと出て行くつもりではありませんでした。私が出た後B2で女の人と喧嘩になって、それでfの所に行かなかった」 弁護人「fに預かってもらおうと?」 被告「はい」 弁護人「取りに行こうと?」 被告「はい」 弁護人「いつ?」 被告「9月12日です」 弁護人「貴方は、取りに行こうと?」 被告「fに、eの所に持ってきて欲しいと言いました」 被告「結局取ってきてくれませんでした」 弁護人「何故?」 被告「fが色々言い訳をしていた。ナイフを持っているのを見つかると警察に睨まれる、等と言って持ってこなかった」 弁護人「何故持ってきて欲しいと?」 被告「自分自身として、自分のやった事に対し、自責の念を抱いていたので、持ってきてもらう事に心の揺れがありました。自首するために必要でしたし」 弁護人「dに売らなかった宝石を捨てて欲しい、通帳などを焼き捨てて欲しいとfに頼んだ事は?」 被告「ありません」 弁護人「これらはfの家から持ってきてませんね」 被告「はい」 弁護人「どうしようと?」 被告「とりあえずfに預かってもらおうと。自分としてはまたfの家に戻ろうと思っていましたので」 弁護人「この点について、fやeの話で、fに捨てるように頼んだと、二人とも言っているのですが」 被告「宝石に関しては、捨てろと言ったことはありえない。通帳に関しては自分のものではないので、どうにかして下さいと言ったとも限らないが、当時の自分は混乱していたので、記憶がはっきりしない」 弁護人「それから、hの家に?」 被告「はい」 弁護人「女性とトラブルになった?」 被告「はい」 弁護人「相手の人は?」 被告「その女性は余り好かれていない、評判の悪い売春婦です」 弁護人「その人に、貴方は何をした?」 被告「カウンターバーにいたときに、eと一緒に居たのですが、eに近付くな、誘惑してはいけない、と言いました」 弁護人「eの供述でも、貴方がよく思っていないと言っているが、貴方は嫌いだった?」 被告「eは彼女の正体を知らなかったと思うので、警告しました」 検察官は、犯行後の状況に関係ないのでは、と述べる。弁護人は、関連性はある、と述べる。 裁判長「被告人の粗暴性に関するということで、異議は棄却します」 弁護人「それで、貴方は実際に何をした?」 被告「他の人が皆踊りに行っている時にeとカウンターに居たが、其の時彼女が話しかけてきた。eに悪い影響を及ぼすと思い、彼女に近付くな、と言いましたが、言う事を聞かなかったので、自分をコントロールできなくなり、手を出しました。その時は気分が落ち込んでいて、eに側にいて欲しかったので」 弁護人「瓶で殴った?」 被告「はい」 弁護人「思いっきり?」 被告「どの程度か解りません。瓶が滑った事によって、自分の手を切ってしまいました。相手の人も血を流したかもしれないが、私も血を流しました」 弁護人「何回も?」 被告「一回です」 弁護人「貴方は普段からよくこんな事を?」 被告「その時は気持ちが落ち込んでいて支えが必要でeしか居なかったので」 弁護人「普段は違う」 被告「はい」 弁護人「今では悪かったと?」 被告「殴った時に悪かったと思ったので、一回しかやりませんでした」 3時30分まで休廷となる。 再び開廷したとき、傍聴人は私以外は3人になっていた。 若い小太りで眼鏡の大熊弁護人が被告人質問を行う。 −大熊弁護人の被告人質問− 弁護人「8月31日に貴方はお母さんに電話をかけた」 被告「はい」 弁護人「其の時、どんな話を?」 被告「私は、大変な事件を起こしてしまったといいました。そうしたら、母に、自首せず隠れているよう言われました」 弁護人「それで、貴方は?」 被告「余計に迷い、どうしたらいいか決心がつかなくなりました」 弁護人「お母さんはどんな人?」 被告「専業主婦の優しい人です」 弁護人「善悪の区別はつく人?」 被告「はい」 弁護人「どんな気持ちでそう言ったと思う?」 被告「母は、息子である私の事が可愛くて仕方が無かったと思う。私から話を聞いたときはすごく怒ったが、後に、起こってしまった事だから仕方が無い、と思ったと思う」 被告「どっちにしても、二人の命を奪った。私に恨みもつらみもない人をやってしまったと」 弁護人「自首しようと思った?」 被告「母に電話をかける前、そう決心して電話をかけました」 弁護人「eさんに自首の決心を話したことは?」 被告「私は、eに、私は自首するつもりで、貴方と別れることになると言いました」 弁護人「何時何処で言ったと?」 被告「e、g、fの家で言いました」 弁護人「eさんは?」 被告「自首する事に同意しませんでした。何があっても貴方と離れないと言いました」 弁護人「どう思った?」 被告「eも心から私が好きだと」 弁護人「eさんによれば、貴方が自首しようと外に出るが、結局戻ってきて泣いている事があったというが」 被告「ありました」 弁護人「本当にしようとした」 被告「はい」 弁護人「何故出来なかった?」 被告「自分の両親から離れることができませんので」 弁護人「自首したら両親と離れることになりますね?」 被告「自首すれば死刑になると思いましたので」 弁護人「事件を起こしてから逮捕されるまで、泣いたり涙を流したりした事はありますか?」 被告「自分の両親の事を思ったり、a夫妻に申し訳ないと思って、人の居ないところで何度かありました」 弁護人「夜はよく眠れました?」 被告「殆ど眠れません」 弁護人「笑顔がなくなったとeは言っていたが」 被告「殆ど笑う事はできません」 この時、被告は涙声になり、鼻をかんでいた。 弁護人「a夫妻については?」 被告「申し訳ないと思っています」 弁護人「eさんに対して、被害者の為に線香をあげに行ったり、という事を述べた事は?」 被告「あります」 弁護人「何と?」 被告「横浜、川口に仏教のお寺があると聞いていたので線香をあげに行こうと」 弁護人「そういう気持ちだった?」 被告「はい」 弁護人「eさんからお守りを渡された事は?」 被告「観音像のあるものです」 弁護人「何時まで持っていた?」 被告「逮捕されるまでずっと」 弁護人「何故?」 被告「観音像の裏に経典が書いてあったので、それを読む事ができたので」 弁護人、お守りを見せる。 弁護人「これですか?」 被告「そうです」 弁護人「裏を見ると、お経が書いている?」 被告「はい」 弁護人「これを持っていて、私に託されていた?」 被告「はい」 弁護人「入れ物はeさんが持っていた?」 被告「はい」 弁護人「お経を読んだりは?」 被告「それを見ながらお経を上げていました」 弁護人「貴方自身、被害者の冥福を祈りたいと思っていたね?」 被告「はい」 弁護人「逮捕された時、eさんの家に居た」 被告「はい」 弁護人「警察官は?」 被告「7〜8人いました」 弁護人「何をした?」 被告「何も私に見せずに、私を連れて行きました」 弁護人「貴方に触れて連れて行ったのは一人?複数?」 検察官が、逮捕時の状況に対し既に尋問しているとして、重複だと述べる。弁護人は、重複ではなく詳細に聞いている、裁判所の決定が出ているので絞って二、三点聞いていきたい、と述べる。 裁判長「情状ではない?」 弁護人「はい」 検察官「情状でないのならば、裁判官が既に決定を出しているから重複である」 裁判長、双方の言いたい事を整理する。 裁判長「異議は棄却しますが、ポイントを絞って聞いてください」 弁護人「はい」 被告「ズボンに手をかけたのは一人で、入ってきたのは7,8人居ました」 弁護人「拒否できる状況?」 被告「何も私に行くか行かないか質問は無く、私を連れて行きました。その中の一人が着替えの衣類や洗面道具を持って行けという話もあったが、それも出来ず連れて行かれました」 弁護人「私が当番弁護士として面会した時の事ですが、接見を妨害されたのではなく、貴方が会いにくい雰囲気を感じ取ったに過ぎないと裁判所の決定ではなっているが」 被告「言わない方が良い雰囲気もありましたが、会わない方が良い、取調べの時間が弁護人と会うと長引く、取調べが不利になる、と言われ、私は不安になりました」 弁護人「妨害されたという思いも?」 被告「そのように思います。警察官は私を弁護士に会わせたくない、と感じました。私は5時に留置所に連れて行かれた時、弁護人と、通訳と居た人も見たが、話は出来ませんでした」 弁護人「起訴された頃、自殺したいという気持ちは?」 被告「警察に居た時に、既にそういう気持ちはありました。起訴された時もありました」 弁護人「貴方のご両親について聞くが、もう亡くなっている?」 被告「はい」 弁護人「何時?」 被告「一昨年です」 弁護人「何故?」 被告「私のために法事をやっているときに、火事になって亡くなりました」 弁護人「貴方が拘置所に居る時に知らせを受けた」 被告「母親から手紙が来ていたが、暫く来なくなって、半年経って姉さんから知らされました」 被告「辛かったです」 弁護人「ご両親が裁判の行方を気にしていた事は?」 被告「聞いたことがあります」 弁護人「どのように?」 被告「母が私のために遠くまで行って線香をあげて祈っていたと」 −弁護人の被告人質問− 弁護人「事件から丸三年経っているが、aさんご夫婦や遺族に対して如何思っていますか?」 被告「今の私は自分のやった事を後悔しているし、その事で贖罪をしたいと思っています」 弁護人「貴方は、殺意や計画性について詳しく述べてきたね?」 被告「はい」 弁護人「それは一切嘘を言っていない?」 被告「嘘をつく必要はありません」 弁護人「調書に書いてあることと矛盾するが、何故こうなってしまったの?」 被告「取調べを受けている時は、命に代えて償いをしたいと思っていました。取調べの時には彼らの言う事に従うことが償いだと思っていたので、そうなってしまいました」 弁護人「事実を述べてきて、何か変わった事は?」 被告「この三年間の間、私は色々な人から支援を受けて、知らない色々な人に会うことが出来ました。私は教養の無い人でしたが、キリスト教の教典を教えてもらって、真実を話す気になりました。それで気付いた事は、命は神様が与えてくれたもので、粗末にする事は出来ない。それで事実を話す気になりました」 弁護人「ご両親が亡くなった事も影響している?」 被告「勿論あります。私にとってとてもショックな事でした」 弁護人「それと本当のことを話すのと、如何関係が?」 被告「天国に居る両親に、本心を解って欲しい、そんなに悪い人ではないと解って欲しいと」 弁護人「そのまま裁判を終えたくない、という事ですか」 被告「天国に居る両親が安心できるように、自分の本性の事を言う事にしました」 弁護人「捜査段階の供述の中で、貴方が一番真実と違うと思っていることは?二〜三でいいから挙げてくれますか?」 被告「強盗するためにナイフを用意した、それが強盗にも適していた、それと、そのナイフを磨いた、という所」 被告「あと、10月8日の件ですが、仕事を探してもらうというところで、iという人が出てきて、その人が悪い人と言う事になっているが、誘導です」 被告「自分が強盗に入ったときの着衣や持ち物が、計画していたかのようになっている事です」 弁護人「体が良くなさそうに見えるが、体調は如何ですか?」 被告「以前と大して変わりない。まだ眠れない状態が続いています」 被告「以前よりまだ悪くなっていまして、大声で叫ぶ事もあり、鎮静剤を飲んでいます」 弁護人「眠れない時は何を考えている?」 被告「どのようにして自分の罪を償っていくか、という事と、両親の事を考えています」 弁護人「最近そのために何かしたことは?」 弁護人「そういった気持ちを警察官に漏らしたことは?」 被告「自分の部屋の中で被害者に線香をあげたり。命日にあたっては線香をあげるところがあるので、後、部屋の中でお経を唱えたり」 弁護人「何時大声を上げたくなる?」 被告「夜中が殆どですが、大声で叫びたくなり、自分がコントロールできなくなる」 弁護人「それは事件の事が?」 被告「とても後悔していて、苦しい辛い気持ちです」 弁護人「貴方が事件を起こした原因は、何処にあると思う?」 被告「自分はとても愚かで幼稚で教養が無く、物事を深く考える事が出来ず、自分がコントロール出来ずこんな事をやってしまいました」 弁護人「(日本に)来てから2〜3ヶ月は、現場仕事が飛び飛びにあるだけだった?」 被告「日本に来て2〜3年は経っていたが、食事が安定せず、今日何とか出来ても明日は分からないと言う事が続いていました」 弁護人「それで、お酒を結構飲んでいた?」 被告「はい」 弁護人「毎日不安な気持ちがあった」 被告「日本における生活がそうであったのと、中国での借金があったので、自分の負担がとても大きくなってしまいました」 弁護人「事件を起こす前に、そうした事が相談できる人は?」 被告「いませんでした。中国に居る親にはとても話せず、日本人はとても自分のことで忙しそうでした」 弁護人「相談相手が居ないので、自分が制御できないようになっていった?」 被告「特に最後の1〜2ヶ月に酒をあおるようになっていきました」 弁護人「仕事が現場仕事になったり、中華料理店『旬』で働くようになった事で」 被告「色々の事が起りましたが、自分の在留資格等があったので、苛められたりしてもそうした事を我慢していました」 弁護人「何があった?」 被告「始めの仕事だと、春日部で解体の仕事をしていた時、家賃で6万引かれ、私達が必要ないはずの保険金も引かれていたので、手元には少ししかありませんでした。家賃を取っていたが、私達を倉庫に住まわせ、私達を搾取していた。後、旬の家で働いていたとき、日本人の店長に苛められてやめる事になったが、其処のチーフが私に目をかけてくれて、その店長が居なくなってからまた其処で働く事になりました。また、整体院で働く時は、勉強しながら働く事になっており、10万とられていたが、その他にノルマで」 弁護人「授業料の他にもノルマで収入が保証されていた?」 被告「月額最低5万保証されると言う事でしたが、約束は履行されませんでした」 検察官は、既に詳細に聞かれているので少し抑えるように述べる。裁判長は、簡潔に質問するように言う。 弁護人「旬の家では何をされた?」 被告「些細な事ですが、新しいタイムカードが用意されていませんでした。それで、私はサインしようと思ったんですが、私はサインさせてもらえなかった。他のホールの人はサインさせてもらっていた。その日の分の給料が入らない事になります」 弁護人「給料が入らない事になって、それで気分が追い詰められていた?」 被告「はい」 弁護人「貴方は蛇頭にお金を払って日本に来たが、もっと早くに蛇頭から違法行為に誘われたりは?」 被告「あったけど私は断りました」 弁護人「一度も染めた事はない?」 被告「はい。未だにその借金は払い終えていません。蛇頭は私達の連絡先を把握していて、仕事の無い人には犯罪の誘いが来る」 弁護人「犯罪をやって金を稼いで中国に帰ろうとは?」 被告「お金は欲しいですけど、悪い事をしてまでお金を手に入れるのは私の本意ではありません。悪い事をしようと思えばわざわざ日本に来る必要はありません」 弁護人「起訴された後、教会の人から連絡があったと聞いたが?」 そういえば、休廷になる前、シスターの格好をした中年女性が居たような覚えがある。 被告「はい」 弁護人「どの位のペースであっていますか?」 被告「週一回です」 弁護人「そういう人と話ができる事を、貴方はどう思っている?」 被告「私に会いに来てくれる人は、かなりの人格者です。今悔やむのは、事件を起こす前に何故このような人と接触する事が出来なかったか、です」 弁護人「そのような人と出会っていれば、犯罪を犯す事はなかったと?」 被告「そのような人が居て、私のような人を導いてくれていたら、色々な悲劇は起らずに済んだのではないか、と言う事です」 弁護人「取調べを受けているときは、命で償おうと思っていた、と言いましたね」 被告「はい」 弁護人「どんな気持ち?」 被告「自分のやった事に対する良心の呵責と、肉親に合わせる顔が無いので生きていく気持ちも無くしてしまったと、そういう気持ちでした」 弁護人「どのようにそういう気持ちが変わっていったのか、説明してくれますか?」 被告「さっきも言ったのですが、命は神様から授かったもので、粗末にしてはならない、大切にしなければならない、自分で償っていかなければならない、と教わりました。誠心誠意懺悔をし、償う気持ちを持ち続けること」 弁護人は、夜中に叫びだす、という件について尋ねる。 被告「気が狂うのではないか、頭がおかしくなるのではないか、となります」 弁護人「被害者に、どのような償いが?」 被告「今の私には何も出来ない。それが一層私を辛くしている。今の私に出来るのはお祈りをすることだけです」 弁護人「さっき、自分は思慮が浅いということを言っていましたが」 被告「はい」 弁護人「今の時点から振り返って、その時点より大人になった、反省できるようになったと?」 被告「色々な教訓を得ることが出来ました」 −大熊弁護人の被告人質問− 弁護人「今出来るのは祈りを続ける事だけだと言っていたが、今でも祈っているのか?」 被告「勿論です」 弁護人「具体的には?」 被告「以前私は仏教徒だったのでそれでお祈りしていましたが、来てくれる人がキリスト教徒なので、ロザリオ(通訳はここで戸惑っていた。)を読むようにして、被害者の冥福を祈っています」 弁護人「正座をして祈っていると言うが、膝の皮が剥ける状態に?」 被告「痣が出来ています」 弁護人「毎日、被害者や貴方の両親の為に祈っている?」 被告「はい」 弁護人「これから先もそのような気持ちを持ち続けたい?」 被告「はい」 この後、公判の打ち合わせを行う。弁護人がお守りを証拠として申請し、検察からの反対が無かったので採用される。 弁護人は、被告の姉などを証人として請求する。検察は、これにも反対しなかったが、重複の無い様にして欲しい、と述べた。 姉と弟は、証人として採用される。弁護人から採用の要求が鑑定があった鑑定に対しては、不必要として却下される。 次回期日を指定して、閉廷した。 | |||
事件概要 |
謝被告は2002年8月31日、東京都品川区で強盗目的で、被告自身が借りているアパートの大家である製麺所夫婦を刺殺したとされる。 謝被告2002年9月19日に逮捕された。 |
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報告者 | 相馬さん |