裁判所・部 | 東京地方裁判所・刑事第二部 | ||
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事件番号 | |||
事件名 | 強盗殺人等 | ||
被告名 | 池内楯雄 | ||
担当判事 | 毛利晴光(裁判長) | ||
日付 | 2005.8.23 | 内容 | 証人尋問 |
被告は、やや太り気味で色白の初老の男だった。 白髪を短く刈り込んでいる。上半身は白いワイシャツ。下半身はグレーのズボン。サンダルを履いていた。 二人の刑務官につれられて入廷。目が細く鼻が丸く唇の片方を常に歪めているが、思ったより凶悪な風貌ではない。開廷と共に縄は外される。 今日は、第二の事件の被害者の長男の、M氏の証人尋問だった。 眼鏡をかけた、頭頂部のやや薄くなった四、五十代の男性。 まずは、検察側が証人尋問を行った。 検事「貴方はHさんの長男?」 証人「はい」 「(職業について)現在、自営業です」 検事「自宅の周りの治安状況は?」 証人「良いと思っていました」 「(人通りについて)昼、夜は人通りは少ないです」 検事「(被害者が)誰かと仲たがいしていたとかは?」 証人「特別に無いと思います」 検事「金の貸し借りは?」 証人「無いと思います」 検事「Hさんが殺されたときになくなっていたものは?」 証人「札入れ、椅子のカバー」(ハンカチで顔を拭いながら) 検事「(札入れは)どのようなもの?」 証人「十、二十センチで、ひも付きです」 検事「図に描いていただけますか?」 証人、図に描く。 検事「これについてうかがいますと、弧を描いている部分がひも、上の部分が口?」 証人「はい」 検事「色やガラなどは?」 証人「無地なのかどうかはちょっと」 検事「何時から使っていた?」 証人「ずっと直して使っていました」 検事「店を閉めているときは?」 証人「お金を入れる袋に」 「(それは)寝室にあります」 検事「お金をいくら入れていた?」 証人「二万です。通常、二万入れていますしいつも二万入っていると思います」 「両替のためのお金です」 「金種が変わっても、二万は変わらないと思います」 検事「椅子のカバーのガラは?」 証人「ガラ付の赤だと思います」 「台所などにあったと思います」 検察、椅子の写真を見せる。 これまでの間、被告は書類を見る、顔をしかめるなどしながら、証言を聞いていた。時折、傍聴席を見回していた。 証人「(札入れを見たのは)事件前の、二十四日の日曜日です」 検事「札入れは事件後に探した?」 証人「探していないと思いますけど」 検事「警察と一緒に確認した?」 証人「したと思います」 検事「それで見つかりました?」 証人「いいえ」 検事「(札入れを)殺した犯人が持ち去った?」 「Hさんはどんな性格の人?」 証人「皆さんから好かれていて」 「お客さんや近所の人とよくお話しますし」 検事「タバコ店は?」 証人「順調でした」 「(タバコ店を始めたのは)昭和四十八年ごろだったと思います」 その前は駄菓子屋をやっていた。 被害者の夫はサラリーマンをやっていたが、昭和六十年ごろにやめ、平成十二年に死去した。 被害者には持病があったが、生活上の不自由は無かった。 詩吟が趣味で、友人もたくさん居た。 検事「証人としてもHさんが亡くなったことが信じられない」 証人「はい、今でもですね」 「(事件の知らせを受けたのは)当日の午後だと思います。工場の会議を始める冒頭で、午後一時ぐらいです」 検事「最初の一報では、事件だと?」 証人「いいえ、隣にいた社長も、母の心臓の持病を知っていたので、発見した人に動かすなと言っていました」 「東上線に乗っているときに、警察の人から事件性があると」 「病院に行くまでは死んでいると言うことが解らず、姉に電話をして、一緒に行けるようにしました」 「どうしたのかな、という感じですね」 「何故、どういうことになっているのか」 検事「納得がいきましたか?」 証人「いきません。何故母なのか」 検事「被告が逮捕されたとき、気持ちに変化は?」 証人「無いですね」 検事「傍聴にこられたことは?」 証人「一番初めから、十回ぐらい来ました」 検事「何故?」 証人「どういう形で母が殺されたのか、どういう犯人なのか知りたかった」 「(何故十回ぐらいしか来ていないか問われて)弁護士さんのやり方があまりにも酷く、何回も同じことを聞くので、時間稼ぎだと。(金稼ぎ、このままでは裁判に十年以上かかる、とも言っていた)」 「裁判は無罪か有罪かを決めたり、何故起こったかを解明するところなのに、そうした姿勢が見えない」 検事「遺族の気持ちが反映されていると?」 証人「いいえ、全然無いです」 「(気持ちの整理は)全然つかないです」 「父の時は最期を看取っていますが、母のときはそうではありませんし」 「(被告について)希望としては一生刑務所に居て欲しい」 検事「一生出てきて欲しくないと言うのは?」 証人「母のほかにも二件おこして、合計四人の命を奪ったと言うことですね。それは死刑では償い得ないので、一生刑務所に居て欲しい。出てきたら再犯の可能性が高い。無期ならば出て来るかもしれないので、償いのためには一生出てこないようにして欲しい」 「(裁判に関して)出来るだけ早く結論を出して欲しい」 別の検事がこの後、被害者感情について質問する。 被害者は、証言の間、涙ぐんだり話しにくそうにしていたらしい。 証人「四人なんだったら、蘇生させて、四回死刑にすると言うならば、死刑にOKします。世の中のためにならない人は、この世に居ないほうがいい」 弁護士の質問に移る。 まずは、若い、小太りで眼鏡の大熊弁護人からだったと思う。 弁護人「検察官と事前に打ち合わせは?」 証人「しました!」 弁護人「何回?」 証人「一回です!」 答えたくない、時間を有効に使って欲しい、など、証人は怒った口調で言う。 弁護人「お母様が亡くなるまで、ずっと同居されていた?」 証人「はい」 弁護人は、周辺の治安状況を尋ねる。証人は、人通りが少ないと答える。また、弁護人は車の通行量についても尋ねる。 証人「来たからわかるでしょう」 弁護人「自転車で行きかう人は?」 証人「います」 弁護人「この被告人を事件前に見たことは?」 証人「見ません」 弁護人「お母様が付き合っていた友人、知人は?」 証人「百人ぐらいです」 弁護人「仲たがいしている人は?」 証人「いません。(さえぎるように言う)」 仲たがいして仲直りした人は?という問いに、同じ事を聞くな、という主旨の答えをする。 弁護人「金の貸し借りなども?」 証人「無いです。借金したことはありますが、それは公的機関からで、個人的には無いです」 弁護人「タバコ店には何人ぐらい出入りを?」 証人「さあ、わかりませんね」 弁護人「テント暮らししている、被告人もそうですが、そういう人がタバコ店に来ることはありますか?」 証人「金が無いから、こないんじゃないですか」 「(ホームレスを)見てはいますけど」 弁護人「どういう公園で?」 証人「デンチョウ(?)公園です」 弁護人は、札入れの金のこと、金種などについて尋ねる。その問いに、証人は、事件に関係あるんですか、と、苛立ったような答えを返すこともあった。 証人「答えると時間がかかって、進みが遅くなるのが嫌なんですよ」 弁護人「(ジャラ銭が)普段はどこにあるのか?」 証人「答えたくありません!」 裁判長が、証人を諭す。 証人は、ここからまた派生して横道にそれる、と述べる。 裁判長「今のだけで打ち切りますので」 証人「入れ場の中の決められた場所に入っています」 その後、弁護士の質問に、そのお金はなくなっていないので関係ない、と述べる。 弁護士は何か言うが、証人は反発する。 裁判官が、取りますように証人に質問した。 弁護人「この日の朝は何時ごろに家を出た?」 証人「九時半ぐらいです」 弁護人「出たころからお金は奥の部屋にあったのか、それとも後から気付いたのか?」 証人「関係あるんですか?またそちらに話を伸ばそうとするんですか?」 「盗られていないんですから」 弁護人「関係あると思ってますが。これは金目当ての強盗殺人ですから。(困ったように笑う)」 「今回なくなった財布は使い始めてからそれほど年数は経っていない?」 証人「はい」 弁護人「どのくらいかは?」 証人「解りません」 弁護人「上着を着ているので、たすきがけをしている札入れは外から見えないのでしたね?」 証人「はい」 弁護人「それは事件当日も?」 証人「はい」 弁護人「(証人が)それを使ったことは?」 証人「私自身は無いです」 弁護人「(財布は)上をあける訳ですよね」 「どうやって?チャックとかですか?」 証人「あったかもしれないし無かったかもしれない(苛立った声)」 証人「(あけ方は)広げるだけで良いんじゃないですか?」 「(財布の材質は)布製です」 弁護人「しっかりしている?」 証人「手製ですから」 弁護人「この店にお客が来て、一万で安物を買うとしますよね」 「タバコなんですが、自動販売機のほかにも店内に?」 証人「はい」 弁護人「種類は一緒?」 証人「はい」 弁護人「店内でタバコを買う人は結構いたんですか?」 証人「はい」 弁護人「一万でタバコを買う場合ですが、お母様は店のものをお渡しするんですか?」 「自動販売機だと一万は使えない?」 証人「はい」 ここで、髭の弁護士に交代する。 弁護人「タバコをカートン単位で販売されていた?」 証人「はい」 弁護人「お客がカートン単位でタバコを買ったとき、如何していた?」 証人「両替用なので、財布の中は変わらない」 弁護人「売上金は別の場所においている?」 証人「はい」 弁護人「事件が起きた当時、平日はほとんど貴方は店に居なかった?」 証人「はい」 弁護人「お店のことはわからない?」 証人「休みの日なら解ります」 弁護人「お答えや調書を見ると(札の交換のやり方などを聞く)」 証人「はい」 弁護人「巾着の中に千円が足りなくなったことは?」 証人「無いです」 弁護人「それはあなた自身が確認を?」 証人「はい」 また、大熊弁護人に交代する。 弁護人「(椅子の)カバーは手製だと言うことですが、何時頃作られたかは?」 証人「覚えていません」 「(ガラが)同じ、もしくは違うか、はっきりしないです」 「(材質は)布製だと答えたはずです」 弁護人「カバーがなくなった椅子ですが、それ以外に変わったことは?」 証人「無いです」 弁護人「(カバーが盗られた理由について)何故か解りますか?」 証人「被告人に聞いてください」 「(カバーは)被告人が持っていったと思います」 弁護人「そのカバーですが、被せるだけなのか、何かで止めていたのか」 証人「紐で止めていました」 「(カバーが取れるのにどれだけの力が必要かについて)被告人に聞いてください。私はしたことが無いので」 「(カバーは)椅子が倒れたぐらいでは落ちません」 弁護人「先ほどお答えになりたくないことがありましたが、これで終わりにしますのでお答えください。(Hさんの一万円を出す客への対応について尋ねる)」 証人「弁護士さんは、訳のわからないところで、一万円札で買います?」 弁護士「欲しければ頼んで買います」 「客商売だから、(一万円札でも)気になさらない?」 「そのために準備をしているんだから、変な対応は取らない?」 証人「そのために準備をしているんですから」 検察側の証人尋問に移る。 被害者の上着に関して質問する。 証人、覚えていないと言う。 カバーの形状についても質問する。 別の検察官が、周囲の治安状況についても質問する。 検察官、証人に、裁判官に対して何か言いたいことがあるか尋ねる。 証人「(裁判官に対し)出来るだけ早い審理をお願いします。よろしくお願いします」 検事、裁判のことについて、弁護人に注意する。 証人「弁護士さんだけが問題だと思います」 弁護人は、被害者が愛想のいい人だったか尋ねた。 そうでなければ客商売は出来ない、と、証人は答えた。 裁判官の証人尋問に移る。 裁判長「今の札入れのことですが、紐について聞きます。体のどのくらいのところに札入れが来ますか?」 証人「腰のところです。母は小柄なので」 「紐は八十センチぐらいです」 裁判長「今回の第一報のことだが、母の状況を教えるように、会社の社長に頼んでいたのか?」 会社の社長は、母親の健康状態を知っていた。 証人「いいえ、母を発見した人が会社の下請けの人だったので」 これで質問は終わり、証人は傍聴席に戻る。 その後、証拠の整理を行う。 弁護人は、鑑定の信用性には疑問がある。医学的な鑑定については、血痕が被害者のものとは言い切れない、血痕のDNA型がHのDNA型と一致するとは限らない、と述べる。 また、靴下、タオルの血痕は、Hの血痕と一致すると証人は述べ、被告人のDNAとも一致するが、両者が混合していることを考慮されておらず、証拠としての信用性に欠ける、とも述べる。 次回公判について、証拠開示などの打ち合わせ、証拠採用、証人尋問の打ち合わせなどを行って閉廷した。 被告は、裁判の間中、きょろきょろしたり顔をしかめたりして落ち着かなかった。 証人の弁護人に対する反発を、裁判官がとりなすことがしばしばあった。 検察官、裁判長は柔らかい雰囲気の人達だった。裁判は五時まで予定されていたが、三時ごろに終わった。 | |||
報告者 | 相馬さん |