裁判所・部 千葉地方裁判所・刑事第三部単独2係D
事件番号 平成19年(わ)第2272号等
事件名 詐欺、恐喝
被告名 D、B、C、A、E、G
担当判事 矢野直邦(裁判官)
その他 書記官:平田トモコ
弁護人:サカトモ
日付 2008.7.14 内容 被告人質問

 保釈中の被告人は全員スーツ姿で入廷してきた。
 紅一点のCは土色の肌で長い髪で杖をついている、Bは茶髪で色白の繊細そうな青年、Gは眼鏡をかけてやや太めの中年男性、Aは褐色の肌に茶髪がかった青年、Dは黒い髪の肌黒の青年、Eは白髪が入り混じった困ったような表情をした痩せた中年男性。
 傍聴席はAやBの内妻らしき女等被告人の関係者でほぼ満席であった。

 Gは示談の取りまとめのとき被害者に目を見てもらえなかった、今後は相手のことをもっと考えたいと述べたが、検察官から小さな文字で書かれたKサイトの利用規約は一般の人に読める大きさなのかと言われたときは曖昧な返事をしていた。
 インターネットの豊富な知識をAに買われたBは、また同じようなことをして一攫千金を企む人が接近してきたらと聞かれると人生初めての逮捕・勾留経験は2度としたくないと述べていた。
 Cは私設私書箱を隠れ蓑にしていたのではないかと言われると、インセンスの名前で登録していたのでそれはない、患った関節リューマチは治癒する見込みがない、大田区役所で被害者からお叱りを受けると思っていたが、冷静に対応して自分の体のことまで心配してくれたと述べた。
 3人の被告人質問が終わると主犯格のA被告が証言台に立つ。肩書きと風貌と大胆な犯行の割りに、他にも訴追されるようなことがあるのか、声がやたらと小さい。

−弁護人によるA被告への被告人質問−
弁護人「あなたが本件当時インセンスの代表取締役だったのですね」
被告人「はい」
弁護人「当時インセンスグループが形成されていった過程を教えてくれますか」
被告人「平成12年にインセンスを設立し、平成16年にアクシブ、マイワーク、グラフィックスを設立しました」
弁護人「インセンスでは当時どのような事業を行っていたのですか」
被告人「携帯のコミュニティサイトのプログラムの設立、サーバー関係、ウェブの企画・デザインなどです」
弁護人「インセンスグループは4月以降経営に困る状況だったのですか」
被告人「全く違います」
弁護人「事業は順調にいっていたと」
被告人「はい」
弁護人「あなたが本件画像サイトを知ったのはいつですか」
被告人「平成16年の3月に知人の会社で知りました」
弁護人「本件の平成18年3月とは2年ぐらい前ですね」
被告人「誰かに誘われて、知人の運営している会社からこういうサイトがあるのでやってみないかと言われました」
弁護人「調書に出てくる知人と同じ方ですか」
被告人「はい」
弁護人「平成16年3月のときはどうしたのですか」
被告人「断りました」
弁護人「なぜ断ったのですか」
被告人「インセンスの事業が忙しかったことと問題を抱えたくなかったからです」
弁護人「今のお答えだとサイト運営が法律的に問題だという認識だったのですか」
被告人「最初見たときはこれで大丈夫なのかと思いました」
弁護人「だけどその2年後にはBたちをその同じ知人のところに研修に行かせていますね。やろうと思ったのはなぜですか」
被告人「2年の間、その知人とはよく会う仲で、Y1さんを紹介してくれて、Y1さんの口からも「全然大丈夫だよ」と言われました」
弁護人「その知人の方が2年の間にあなたとY1さんを引き合わせたのですか」
被告人「はい」
弁護人「Y1さんとはどういう話をしたのですか」
被告人「18歳認証や企画の話など自分が見ている会社でもこうやっているから問題ないと言われました」
弁護人「法律的な問題から平成16年3月には一度断っている。そして確認した答えがそういうものだったということですか」
被告人「はい」
弁護人「そのことを警察の方には話したのですか」
被告人「知人の会社は警視庁に何度も確認を取っていて、僕も確認を取ったことを話しました」
弁護人「Y1さんと話すようになったのはいつ頃からですか」
被告人「平成18年3月の半年ぐらい前です」
弁護人「警察の方は何と言っていたのですか」
被告人「知人に聞いてくれと捜査官に言ったら、僕らに対して警視庁のY1さんが許可するわけがないみたいなことを言われました」
弁護人「2年経ってKサイトの運営をするので、Gさんに責任者の紹介を求めたわけですね」
被告人「はい」
弁護人「Y1さんや顧問の先生の話を聞きながらやっていたのは間違いないですね」
被告人「はい」
弁護人「請求権があるかとか違法でないかとの書き込みがされたときはどのように考えていたのですか」
被告人「当時はその形は違法ではないと信じ込んでいました」
弁護人「Bの調書では、プラスワン、モバイルチャージの会議議事録で社長がDにKサイトを新しく企画して合法で進化させていくことという指示があったとありますが、どういう意味ですか」
被告人「合法なままで進化させるということですね」
弁護人「画像サイトのポップアップを外すかどうかの11月16日の会議の議事録(甲23号証のGの調書)では『警察事はまずい。ほぼシロの線でいく』『アクセス数を倍にするためあらゆる努力をする』という指示があったとありますが」
被告人「当時Y1さんの指導でポップアップを必ずつけなさいと言われ、業界の人がポップアップを外すかどうかで揺らいでいましたが、アクセス数を伸ばせば売り上げは保てるからです」
弁護人「ポップアップをつけるかつけないかいろいろ議論はしたけど、結論は出なかった?」
被告人「はい」
弁護人「ポップアップをつけてアクセス数の様子を見ようといわば現場任せにしてしまった?」
被告人「はっきりポップアップを絶対つけることとは言わなかった」
弁護人「現場任せにしてしまったのは、上に立つ者としてまずいんじゃないですか」
被告人「はい」
弁護人「ポップアップをつけたり外したりしていると現場はそうせざるを得ないですね。ポップアップをつけろという指示をしてアクセス数が伸びなかったら、別の方法で頑張れという指示を出すべきだった。それは分かっていますね」
被告人「はい」
弁護人「Y1さんやY2先生がやめたほうがいいと言われたらどうしていましたか」
被告人「絶対やめていました。Y1先生やY2先生の言葉がないと法に触れるのではないかと思い、やめろと言われたらやめていました」
弁護人「平成16年3月に話が来たときもやってないね」
被告人「常識的にやらないです」
弁護人「半年ぐらい前のY1さんとの会話でやめろと言われたらやめていたと」
被告人「はい」
弁護人「始めるようになったのはY1さんと接触したのが大きかった?」
被告人「はい」
弁護人「当時インセンスやあなたはお金に困っていたのですか」
被告人「いいえ」
弁護人「借金はしていましたか」
被告人「いいえ」
弁護人「税金の滞納はありましたか」
被告人「いいえ」
弁護人「詐欺や恐喝をするほどの経済状況だったのですか」
被告人「いいえ」
弁護人「Y1さんにやめろと言われてやめたのは何がありますか」
被告人「Kサイトのアフィリシエイトのモバイル版(J−モバイル)。スタートしてすぐ口座が凍結になったので」
弁護人「携帯バージョンはY1さんはすぐやめろと、その理由は何ですか」
被告人「はっきりとは聞かなかったのですが、クレームが多いということです」
弁護人「口座が凍結されてクレームが入っているときに、Y1さんに改善案を持っていきましたか」
被告人「はい」
弁護人「だけどやめろと言われた」
被告人「はい」
弁護人「すぐにやめました?」
被告人「すぐやめました」
弁護人「Y1さんや顧問の先生に言われたらすぐやめたと、今言った理由から」
被告人「はい」
弁護人「あなたの調書でちょっと確認したいことがあるのですが、平成18年の春に知事のアダルトビデオのサイトを真似て、Dにアダルトサイトを立ち上げさせたとありますが、これはDさんに対してですか」
被告人「それはBに対してですね」
弁護人「なぜDの名前が出てくるのですか」
被告人「運営はDに任せていて、実際の指示はBに出しました」
弁護人「甲16号証のポップアップの話ですが、利用規約のポップアップを外していたことがあったのは間違いないのですか」
被告人「はい、間違いないです。そのほうが登録料金を払う人が増えるからです」
弁護人「ポップアップを外せという明確な指示はなかったのですね」
被告人「はい」
弁護人「Dのほうから何度かやりとりをしたことは覚えていますか」
被告人「パソコン画面のこの形で大丈夫なのかという確認をしました」
 裁判官は「この形」を具体的に言ってくれないかと言った。
弁護人「検察官の調書でも出てくるけど、会議で登録画面の色違いの件で意見を言ったのは間違いないのですね」
被告人「はい」
弁護人「あなたは逮捕されていろんな調べを受けましたね」
被告人「はい」
弁護人「Y1さんやY2先生のことといい、逮捕後の取調べに嘘はついていませんね」
被告人「ついていません」
弁護人「なぜ調書がこんなに少ないのですか」
被告人「サイトのほうの説明はY1さんのほうから流れを説明して、朝から晩まで刑事から『お金もらってるんだろ』と延々と言われました」
裁判官「調書が少ないと言いますけど、裁判に全て出てくるわけではないんで(苦笑)」
弁護人「なぜあなたに対して「お金もらってるんだろ」という話が出てくるんですか。刑事さんとしては組織犯罪処罰法も頭に置いていたんじゃないですか」
裁判官「いくつキックバックが入っているのか相手に抽象的に聞かれたのですか」
被告人「はい」
弁護人「プラスワンの売り上げがあなたに入っているんだろうと聞かれたのですか」
被告人「はい」
弁護人「それで単純詐欺で訴追されたわけですね。被害金は3億7000万円と言われているけど、インセンスに流れたのはありますか」
被告人「ありません」
 この犯罪被害金はAと経営企画室の計4人は手をつけていないが、EとDには給料として使ったと述べた。
弁護人「あなたと3名は犯罪被害金は使っていないと」
被告人「はい」
弁護人「竹内検事に言われたことは何ですか」
被告人「このことは犯罪だと、全額返金の話をしました。とにかく日本一の被害弁済をやってみろと、自分も出来る限り協力するからと言われました。広告代理店を通じて『返金作業をします』と出しました」
弁護人「竹内検事は広告代理店の人に話しをしてほしいという申し出を拒否したのですか」
被告人「いいえ」
弁護人「返金の広告を出すことに竹内検事も協力したと」
被告人「はい」
弁護人「あなたは保釈されて船橋警察署で書類を作ったのですか」
被告人「お金を返すのか?と聞かれて、返しますと言いました。また今後インターネットに携わる仕事をしていくのかと言われて、全額返金を必ずします、今後インターネットの仕事はしないと答えました」
弁護人「出会い系サイトとかコミュニティサイトもやめるということですか」
被告人「はい」
弁護人「船橋警察署長と約束したのですか」
被告人「はい」
弁護人「起訴は画像サイトの話だけなんだけど、なぜそこまでのことをするのですか」
被告人「今回経営陣がほぼ捕まり、広告代理店のほうは取引先がどんどん減り、コミュニティサイトはお客さんからのクレームが出て、決済会社から決済が受けられなくなりました」
弁護人「全てをやめることをどう考えますか」
被告人「警察の人にはすぐインターネットの仕事をするだろうと思われていましたが、僕は絶対やらないと勾留中思っていました」
弁護人「インセンスグループは全て解散したのですか」
被告人「解散しました」
弁護人「インセンスも解散したのですか」
被告人「はい」
弁護人「広告代理店のレバレンスはどうですか」
被告人「解散しました」
弁護人「求人会社のマイワークはどうですか」
被告人「解散しました」
弁護人「経理会社のプラクティスはどうですか」
被告人「解散しました」
弁護人「コミュニティサイトの委託会社イーウェッジはどうですか」
被告人「全て解散しました」
弁護人「今清算業務を行っている最中だと」
被告人「はい」

 ここで5時になったので裁判官が審理を打ち切って、被告人質問の続行と証人尋問を次回行うことに決めた。
 EとDは雇用先の監督主が出廷する予定であるが、弁護人は人選が必ずしも絞りきれていないと述べていた。

※2008.9.9、A被告は懲役3年(執行猶予5年)、他の被告も執行猶予付き判決を受けた。
事件概要  被告人達は、2006年9月−07年3月にかけ、出会い系サイト運営会社インセンスの関連会社が運営する、アダルトサイトの画面を複数回クリックした利用者らに対し、入会手続きをしたかのように思い込ませ、「利用料金を支払わないと、わいせつな料金請求葉書を送る」などと恐喝。計34人から388万円をだまし取ったとされる。
報告者 insectさん


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