裁判所・部 千葉地方裁判所・刑事第一部
事件番号 平成17年(あ)第1644号等
事件名 清水:傷害致死、殺人、死体遺棄、逮捕監禁致傷、逮捕監禁、監禁、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反
渡辺:傷害致死、殺人、死体遺棄、逮捕監禁致傷、逮捕監禁、監禁、傷害
被告名 清水大志、渡辺純一
担当判事 彦坂孝孔(裁判長)
日付 2007.4.27 内容 最終弁論

 9:57 両被告人入廷
 清水は濃いグレーのスーツ、渡辺純一はベージュ色の四つボタンカーディガンに黒スラックス。
 検察官一名、弁護人五名、刑務官三名が在廷。 
 10:00 裁判長入廷 
 10:01 被告人清水大志弁護側最終弁論 開始

 −以下弁論内容要旨−
 ●cさんに対する殺人罪について
 殺人については、cさん、dさん、aさんへの実行行為に関わっておらず、C等他の共犯者とも共謀していない。
 cさんへの殺害行為は無く殺人罪適用は成立しない。
 bさんの死因についてX1鑑定医も「死因不明」としている。
 裁判所には慎重に判断していただきたい。

 ●詐欺グループ内の人間関係について
 検察側はグループ内の人間関係を誤って認識している。
 清水を頂点と位置付けているが明確な上下関係は存在しない。
 清水はZ2中学校でサッカー部に在籍し、同じ学校にD、Gもおり、同じくサッカー部に在籍していた。
 E明行、Hは他校サッカー部に在籍しており、サッカーを通じて知り合った。
 平成10年、怪我の為に、サッカー選手になる道を断念。
 (詳細時期は不明であるが)伊藤は埼玉県富士見市で「ピーチマージャンレオ」を経営し、また闇金融も経営しており月に1000万円の利益があった。
 清水は伊藤が経営するマージャン店で働くようになり、また伊藤は闇金融経営のマネージャーを清水に任せた。
 清水は生活と仕事の面で伊藤に面倒を見てもらっていた。
 伊藤が経営する闇金融は「ヤクザにバレるかも」という理由で自主閉店している。
 平成15年3月、清水は「PRC」を設立。Dを飲食部長、Cを音楽部長に充てた。
 平成15年10月、清水は融資保証金詐欺グループを立ち上げ、順次構成員を増やしていった。
 平成16年3月、融資保証金詐欺の拠点「シンセングミ」を設立し、構成員はF、P、渡辺純一等が在籍した。
 清水は伊藤グループを統括していないし関与もしていない。
 詐欺グループの共同出資者でもない。
 清水の周辺には大きく分けて「伊藤グループ」「清水グループ」「Y8グループ」の3つの詐欺グループが存在した。
 伊藤は「ラミー」「ラベリ」という詐欺拠点を独自で経営しており各方面からメンバーを引き入れていた。
 殺害実行犯との関係は
 伊藤・・・清水の上司にあたる
 C・・・ビジネスパートナーであり、事件当時は詐欺から離れている
 D・・・同級生で親しい仲
 であり、清水が殺害を指示するわけが無い。

 ●伊藤の取調べ・公判での供述の信用性について
 cさん、aさん、dさん殺害についての争点は共謀の存否である。
 (山中事件・八海事件を引き合いに出し)共犯者の供述のみが証言となっている時は、慎重に判断されるべきである。
 また共犯者は自己の刑事責任を軽減する為の証言をする可能性が高い。
 特に伊藤玲雄は共謀の責任を清水、渡辺純一に押し付ける証言をする可能性が高い。
 伊藤は詐欺グループ組織内の人間関係・上下関係について嘘をついている。
 伊藤は人使いが荒く、自分勝手な面があり、それが原因で渡辺純一は詐欺拠点「オレンジ(伊藤グループ)」を辞めている。
 渡辺純一がオレンジ在席時に伊藤から「給料下げるよ」と言われた事があり、伊藤が渡辺純一より立場が上であるのは明らかである。
 伊藤は取り調べ・公判証言において虚偽供述をし、自己保身に終始している。
 Cは「(公判で伊藤が清水を『社長』と呼ぶ事について)社長と呼ぶのは自分を低く見せる為だと思う。
 『社長』と呼ぶなんて全く無かった」と証言している。
 Gも普段は清水の事を「大志」と呼ぶのに公判では「清水社長」と呼んでいる。
 Gは未決の身であり、自己保身の可能性が高い。
 伊藤は闇金融経営時は「Z3」という山口組系組織に所属していて、組織内闇金融店長を束ねる立場にあった。
 伊藤はヤクザになるのが嫌で「Z3」に何千万円という罰金を払い、組織を脱退している。
 伊藤に本事件を真相究明する意志があれば虚偽供述をする必要は無かったのである。
 伊藤の供述は全面的に信用出来ないものである。
 船橋でのaさん拉致について伊藤は積極的に関与している。
 G・Hは「伊藤に呼ばれて船橋に行った」と証言している。
 伊藤は「(G・Hは)清水が連れて行けと言った」と虚偽供述をしている。
 伊藤は虚言癖とも取れる発言に終始している。
 ショーパブJのやり取りについて
 店内は非常にうるさかったが、伊藤がY1との交渉内容をよく覚えているのは隣の席に居たからである。
 Y1は伊藤に名刺を渡し、伊藤と交渉をしていた。
 伊藤は「清水の付き添いで行った」と供述しているが疑わしい。
 Cは公判で、「伊藤とDは拘置所内で配膳係を通じて不正に連絡を取り合っていた。配膳係りはハト行為(不正連絡)がばれて懲罰を喰らった」と証言している。
 伊藤とDの公判供述が一致するのは、不正連絡で口裏合わせしていたからである。
 C、Dの証言についても嘘や疑わしい内容がある。
 C、Dにも虚偽供述をする動機が多数ある。

 ●京王プラザホテル協議時の殺人共謀不存在について
 京王プラザホテル協議では、処置対象者について方向性が決定しないまま終了している。  
 G、Eは「何の為に京王プラザホテルに行ったのかよく分からないままだった」と証言しており、清水には殺人共謀の意志は無かった。
 協議の中で話しが出た「処置対象者をシャブ漬けにして街に放り出す計画」については「警察はシャブ中の話は信用しない。
 (処置対象者が)暴行を受けたと訴えても警察はまともに取り合わない」として、この時点では頓挫しておらず、殺害以外の案も残された状態で協議は終了している。
 清水は「シャブ中にして記憶を消した事がd組で昔あったらしいよ」と協議出席者に告げている。
 伊藤は、「マグロ漁船の乗せる」「タコ部屋に入れる」という案について批判的意見を述べていた。
 協議の中でCが「殺した方がいいんじゃないですか?」と突拍子に言い出した。
 平成17年6月28日、伊藤は千葉県船橋警察署にて京王プラザホテル協議についての上申書を作成し「殺す事になったとしても致し方ないと思った。Y3(暴力団関係者)という人は何もせず、結局私達が死なせてしまった。」と供述している。

 ●京王プラザホテル協議での挙手採決について
 伊藤は清水が主導し挙手採決を行ったと供述しているが、伊藤が虚偽供述したものであり、拘置所内で配膳係を通じて口裏合わせをしたDもこの虚偽供述に迎合している。
 Gは「手を挙げるという事は記憶していない」、Eも「取調べ時に何度も挙手について聞かれたが『無い』と返した」と証言している。
 またbさんが死亡した後、清水は監禁状態にある三名に対して「罪を被れるか?」と質問している。
 この件は、D・E・H・Gがそばにいて聞いている。

 ●ヒルトンホテルでのやり取りについて
 H16年10月16日未明、伊藤から「現在ヒルトンホテル(部屋No,2101)に居る」と清水に連絡があった。
 伊藤達はタイチキンカレー・スモークサーモン・カツ丼・ミルクシェーク・ジンジャエール等、合計20,370円のルームサービスを取っていた。
 ヒルトンホテルに到着したEは伊藤・Cがバスローブを着ているのを見て「こんな時になんでくつろいでいるんだろう」と思った。
 ヒルトンホテルに到着した渡辺純一は、部屋の様子(ルームサービスを取っていた事)や伊藤等の格好を見て、全く責任を感じていない伊藤とくつろいでいるCに怒りを感じ叱責した。
 Eが取調べ時に供述したヒルトンホテルでの清水・渡辺純一・伊藤のやり取り
 渡辺純一が伊藤に対して「あの四人を始末してこい。何とかしてこい」と言っていた。
 清水は「それはちょっと言い過ぎだから。
 メンバー全員の問題だから」と止めていた。
 Eは上記やり取りについて「取調べではっきり供述したが調書にしてくれなかった」と供述している。
 この時、既に死亡しているbさんの携帯から伊藤の携帯に着信があり、皆が動揺した。
 (実際はカラオケボックスの店員がbさんの忘れ物である携帯電話の着信履歴から伊藤に電話したものである)
 渡辺純一がホテルの部屋を出て行った後、伊藤は清水に「凄かったね」と溜息をついた。
 12:10 中断

 13:14 被告人二人入廷、裁判長入廷 審理再開
 ●ヒルトンホテルでの殺人協議は成立しない事について
 伊藤はヒルトンホテルでの記憶について「いっぱいありまして全ての記憶が思い出せないです」と迫真性の無い供述をしている。
 渡辺純一が立場を利用して威圧した事や、清水が発言しなかった事を「殺害指示」と捉えた事は伊藤の主観に過ぎない。
 伊藤はヒルトンでの話しの流れについて「恐ろしい事になっていて止められない。
 とんでもない事になっている」と供述しているが、その一方でバスローブを着てルームサービスを注文しており到底理解不能である。
 ヒルトンホテルでのやり取りについてのD証言
 公判で、渡辺純一から「お前も全部一緒だぞ、わかってんのか、ガキ、この野郎」と言われたと供述しているが、公判において突然出てきた言葉であり、取調べ時には供述していなかった。
 上記供述について公判時に弁護士に質問された際、「家族を殺すと口止めされていたので」と返答しているが、Dが取り調べを受けている時点では、既に渡辺純一も逮捕されており、家族に危害を加えられる心配は無かったはずである。
 Dは自己保身の為に清水、渡辺純一に罪をなすりつけようとしている事が強く疑われる。
 Dは渡辺純一の「責任取れよ」という言葉をD自身の主観で勝手に解釈(責任をなすりつけられた)したものである。
 「渡辺純一の言いたい事は、清水の言いたい事だったと思う」というCの証言は、Cの主観のみで供述しているものであり、信用性が無い。
 ヒルトンでの伊藤、D、Cの供述はバラバラであり整合性が無い。

 ●G逮捕から殺害実行まで
 伊藤は、清水、渡辺純一が殺害指示をした後にNKビルを立ち去ったと供述しているが、殺害指示はしていない。
 渡辺純一はEから「Gが職務質問された」と携帯電話で聞かされたが、NKビルを立ち去りたいと考えていたので「Gが逮捕された」と皆に告げ、NKビルを出た。
 清水もついてきた。
 後から伊藤がバックを持って追いかけてきた。
 以下は当時のやり取り。
 渡辺純一「何?」
 伊藤「××さん(聞き取れず)の対応をしないと」
 渡辺純一「俺の事なめてんの?部長(C)とムラさん(D)がかわいそうだろ。お前は戻ってろ」
 渡辺純一と清水はタクシーに乗りロアパレス(清水、もしくは渡辺純一の当時の住居)に向かった。
 上記のやり取りから、清水と渡辺純一が意を通じて伊藤に殺害を指示したという証拠は何一つ無い。
 Gが逮捕されたと知り、清水は自分がGと交友関係がある事、前科がある事でいずれ自分も逮捕される事になるだろうと覚悟した。
 また自分が逮捕されるのはいいが他のメンバーが逮捕されるのは絶対に避けたいと考えていた。
 タクシーに乗り、渡辺純一が行き先をロアパレス(清水もしくは渡辺純一の当時の住居)と告げた。清水は意外に思った。
 この事によりNKビルを出て行く際の清水と渡辺純一の意志は全く違っていた事が分かる。
 検察は平成16年10月15日15:30頃、清水が伊藤に対して携帯電話で殺害指示を行ったとしているが、その様な事実は無い。
 当時の清水と伊藤の電話のやり取り
 伊藤「Gが捕まったとY1に言ったら、もう連絡してくんなと言われた」
 清水「もうケツ持てないっすよ」
 清水はこれ以上責任持てないという意味で伊藤と会話したものであり、殺害を指示したものではない。
 このやり取りについてHに「山本さん(伊藤の仮名)には参ったよ」と話している。
 伊藤はこの電話のやり取りで絶望的になったらしく、殺人実行時の状況について「覚えていない」「自分の事で精一杯だった」「時計を見ていない」「夢遊病みたいに呆然としていた」「理性が無かったように思う」と全て曖昧な証言に終始している。
殺害時の状況については曖昧にしか覚えていないのにも関わらず、清水との電話のやり取りについては詳細に覚えているのは不合理である。
 16日16:00頃、伊藤達三人が殺害行為を実行したと推測される。
 伊藤は、殺害後二時間程は誰にも殺害実行を報告していない。
 渡辺純一から伊藤に電話をした際に殺害実行を報告し、その後清水に電話で報告している。
 伊藤は殺害行為について「家族を守る為」と供述している。
 殺害行為を実行した場合、「家族を守った」という事に繋がり、すぐに清水に連絡するはずである。
 「家族を殺す」と渡辺純一に脅されている状況で、殺害実行後にすぐに清水に報告しなかったのは不合理である。
 清水はMに、元々bさん一体分のみの遺体処理しか依頼していない。
 一体分しか依頼していない事から、清水、渡辺純一は当時まだ生存していた3名の監禁者について殺害を考えていない事は明白である。
 またMが清水、渡辺純一に有利な証言をする必要も無く信頼出来る。
 H16年11月頃、清水はMより遺体処理について莫大な追加料金を要求されている。
 清水は元々一体分の処理料を払っていたが、結局四体分になった為である。
 事件後の清水とDの関係について
 H16年12月、DがK−1観戦したいと要望し、清水がチケットを用意して観戦している。
 他の詐欺グループメンバーも一緒だった。
 また(時期は聞き取れず)清水とDとDの妻は、3泊4日の北海道旅行をしている。   
 殺害を要求した側とされた側の関係であれば元の友人関係に戻れるはずが無く、伊藤の殺害指示を受けたとの供述は不合理である。
 平成17年6月17日に清水は逮捕された。
 取調警察官はY17。
 最初の取調べで「どういう罪になると思う?」と聞かれ、「無期くらいですかね」と答えると、「お前そんなに甘く考えてるのか」と言われた。
 平成17年7月8日のY18検事の取調べにおいて相当な揺さぶりを掛けられ「検事の取調べに逆らったらまずいな」と思い、この事が清水の考えの中で尾を引く事になった。
 平成17日9月2日に殺人で起訴されたが、共犯の死刑を回避するために、自己記憶に反する調書に署名した為である。
 警察・検察は脅迫と誘導・死刑をちらつかせて清水の取調べを行ったもので、調書には信用性が無い。
 Y17警察官は「お前が罪を被んないと玲雄が死刑になるぞ。
お前は道徳心を捨てたのか?玲雄は『怖いよ怖いよ』と言って泣いているぞ」と威圧的に迫る取調べにより、清水は伊藤が首を吊られているシーンが夢に出てきて眠れなくなった。
 またY17警察官に「弁護人を信用するな」と再三言われた。
「弁護人なんか金で動いてるだけだぞ。
 死刑になったらお前は捨てられるぞ」と迫られた。
 連日の取調べで平成17年8月11日以降は疲れがピークの状態であった。
 公判供述でのY17警察官とY18検事の証言は清水の証言と相反するものであり、信用性が無い。
 また共犯のIの調書が留保されたまま、清水の公判前整理手続きが行われた事は刑事訴訟法に違反している。

 ●cさんへの殺害行為、及び殺意が無かった事について
 伊藤達に殺人の故意は無かった。
 cさんにガムテープを巻いたのは、身動きを取れないように、また暴れたり騒いだりしないで生きたままY1に引き渡す事が目的である。
伊藤もDもcさんについて殺害の故意を持っていなかった。
 cさんの遺体を鑑定したX1医師も「(遺体の)写真を見る限り、ガムテープを巻いた強さは分からない」と証言している。
 cさんの顔にガムテープを巻いたときの様子について、伊藤は「息苦しそうな様子は無かった」、Cは「呼吸は確保されていたと思う」、Dは「呼吸はしっかり確保されていた」と証言している。 
 ガムテープを巻く際「鼻腔部を塞いで殺害する」という認識を持っていなかった。
 cさんの検視の際に確認された肋骨骨折は、遺体遺棄時にトラックから4〜5m下の穴に落とした時に生じた可能性があり、肋骨骨折が生前か死後に生じたものであるか、確認が取れていない。
 15:37休廷

 15:55審理再開

 ●組織犯罪収益法についての争点事項
 詐欺行為についてCとの共謀は存在していない。
 H16年8月に詐欺グループは解散している。
 Cが経営するプロダクション会社「バンディット」は好調に売り上げており、検察は「中断」と言っているが、C自身も「解散」と発言しており、中断は事実では無い。
 詐欺再開後についてのC、Y16、Y19の取調べにおける供述の信用性は低い。
 Cは徳島県警察においての取調べでは、他人に責任を押し付けようとしていて、供述は全般的に信用出来ない。
 またCは、Y16とY19の弁護人を手配しており、Cに有利な供述をさせようとさせている事が窺える。
 清水はCから詐欺行為で得た詐取金を受け取っていない。
 Y16は「Cが持った金をどこに持っていっているのか知らない」、Y19は「Cが金を誰かに渡しているのを見た事が無い」と証言している。
 Cと詐欺の共謀が無かった事の裏付けと、Cが詐欺を行う理由について
 ・Cは「PRC」のエンターテイメント事業部長として独自の行動をしており、金銭を必要としていた
 ・プロダクション会社「バンディット」設立やマンション購入で金銭を必要としていた
 ・「清水と距離を置きたかった」と公判にて供述している事
 Cは平成16年2月24日に4800万円でマンションを購入している。
 Cはマンション購入資金については「友人が金の都合を付けてくれた」として、詐欺で得た詐取金とは無関係であるとの説明に終始している。
 清水は詐欺グループメンバーに対して折を見て、詐欺行為から足を洗い正業に就くように勧めている。
 清水は本気を詐欺行為をやらない様にしたいと思っていた。
 清水の勧めでY16はキャバクラ経営、Y19はマージャン店員として働くようになり、以降は詐欺行為手を染めさせない様にしていた。
 また平成16年9月以降、清水が経営するうどん店「テネキュウ」の経営も順調であり、再びリスクの高い詐欺行為を再開するはずが無い。
 Dも事件後は詐欺行為を辞め、有限会社「マイピア」を立ち上げ、家庭教師派遣やデザイン業を正業としている。
 清水は詐欺グループメンバーと月に2〜3回程度、キャバクラ遊びを行い、キャバクラ代の他に交通費、弁当代も清水が負担していた。
 また詐欺グループ内でメンバーが騒ぎを起こしても追及する事はしなかった。
 グループのメンバーとは友人の様に接していて、検察が主張するような絶対的権力は持っていなかった。

 ●情状について
 ・検察は「詐欺グループにおける最高幹部」と主張するが事実に反する。
 ・伊藤は「清水に命令されて殺害を実行した」と供述しているが、その様な事実は無く、公判においても虚偽供述に終始している。
 ・詐欺グループ内での「社長」という呼び名についてCは「あだ名みたいなもの」と供述している。
 ・事件を通じて清水が全意志決定権を有していたという検察の主張は事実では無い。
 ・被害者が立案した拉致計画について正確な情報を聞き出す事が暴行の目的であり、報復の為に暴行したものでは無い。
 ・10月12日に清水はdさんから拉致計画の存在を知り「aさんが詳細を知っている」と聞き、拉致計画の真相を確かめようとした事が事件に繋がったものである。
 ・拉致計画の真相を聞き出した後は暴行していない。
 渡辺純一もEに対して「それ以上やったら遊びになるからやめとけ」と制止している。
 ・拉致計画を聞き出した後に、NKビル内で被害者4名に治療行為が行われている。
 ・詐欺グループはH16年8月に解散しており、事件当時(H16年10月)はグループのリーダーの地位に無かった。
 ・船橋駅前でのaさん拉致は計画的に実行したものでは無い。
 ・清水自身、詐欺行為を継続していきたいと考えていなかった。
 ・清水は「(被害者を)殺してしまった事は一生消えない事実。
 私としても出来る事をしていきたい」と日々写経を行っている。
 事件については自己の記憶ありのままを話し、被害者に哀悼の心情を抱いている。
 いまだ27歳の若者であり、清水の母・姉としても帰りを待ちたいと願っている。
 事件について清水の姉は「罪を認めている部分については許せない気分で一杯です」、清水の母は「親の監督不行き届きで申し訳ない」と述べている。
 清水は平成12年に詐欺行為で逮捕された際、母姉に更正を誓っている。
 現在も更正の可能性はあると考えられる。
 裁判所には適切な量刑判断を願います。

 16:42 
 −清水大志最終意見陳述−
 裁判長に証言台の前に立つように促され、
 「これで法廷での審理を全て終了します。 
 最後に何か言っておきたい事はありますか?」
 と言われ「はい」と答えた後、30秒程の長い沈黙の後に、ゆっくりとした口調で自身の考えを陳述した。
 「この度は被害者、ご遺族、全国の詐欺の被害者に深くお詫び申し上げます。
 敵と味方に皆がどんどん別れていって、伊藤とCとDと利害を反するという事になり、私としてはその形にとまどいを感じながらも、これが裁判なんだと、ここまでやってきました。
 被害者がいる、今なお苦しまれているご遺族の方がいる、その事実は変える事が出来ない重大な事です。
 これからどういう刑になるか分かりませんが、皆が被害者、ご遺族の為に、一生懸けて償いをしていく事を信じていますし、私も誓います」
 清水は裁判長に一礼して被告人席に戻った。
 陳述を終えて被告人席に着いた清水は視線を動かさず一点をずっと見つめていた。

 16:45
 −被告人渡辺純一最終意見陳述−
 渡辺は用意してきた書面を早口で読み上げた。
 「はじめに私の言い分を言います。
 仲がいいと思っていた人が着実に拉致計画を練っていた事にぞっとしました。
 その恐怖は言い難い事でした。
 中国人マフィアの件は凄い恐怖でした。
 事件中は何が何だか分からない状況でした。
 まずはどうなっているのか真相を知るしかありませんでした。
 拉致計画が本当であると知ったときは凄くショックでした。
 検察は詐欺グループの上下関係は清水がトップとしているが全く違います。
 検察の詐欺グループの振り分けはそもそもが間違っています。
 事実上は伊藤玲雄がトップと言えます。
 詐欺グループ内はとても複雑な人間関係でした。
 Eは清水と同級生ですが、清水を立てていました。
 組織に不満があるなら辞めればいいのにと思いました。
 拉致計画を立てたaは考える事が最悪だし気持ち悪い奴だと思いました。
 私は組織に不満があったので辞めました。
 ヒルトンで伊藤がバスローブを着て笑顔でいるのを見て馬鹿らしくなりました。
 Iについては余りにも使えない人間と思っていました。
 清水も『Iはダメな奴だけど昔からいるから』と言って庇っていました。
 検察は清水と私をコンビの様に扱うが全く違います。
 伊藤グループではbは伊藤のパシリ的存在でした。
 dはDの事を「ボス」と呼んでいました。
 今回の事件は伊藤グループの身内の骨肉の争いと思い、関わりを拒絶しました。
 そうするのが今でも当たり前だと思っています。
 伊藤が拉致計画で感じた恐怖は、他のメンバーよりも絶大な恐怖だったと思います。
 伊藤と(拉致計画した)4人とは家族ぐるみの付き合いだった為です。
 清水が上として見ていた伊藤が一番のトップだと思います。
 初めは関わっていてもこんなふざけた話に付き合わされるのは誰だって嫌な事だと思います。
 自分がターゲットにされているわけでも無く、遠ざかる様にするのは当然だと思います。
 私を主犯とするのは全くのでたらめです。
 私の取調べでの印象が悪かった事と、伊藤の話が出来上がっていた為、私の話が邪魔だったのだと思います。
 私が人命軽視であり反省もしていないというが、やってもいない殺人について反省しろと言われても仕方が無い事です。
 最後に自分の生き方についてですが詐欺の世界に身を投じ裁かれている自分がいる事については、深く反省しているところであります。
 以上です。

 渡辺純一は上記以外にも
 ・伊藤グループの給料配分
 ・D夫婦が詐欺グループ詐取金の取り分を不正に多くしていた事
 について言及した。

 17:14 裁判長が判決日時を指定して閉廷。

 清水は手錠を掛けられながら弁護士に向かって「有難う御座いました」と何度も頭を下げていた。
 また清水は知り合いと思われる傍聴男性に向けて笑顔を見せながら退廷していった。


事件概要  2被告は架空請求詐欺グループの仲間割れから、2004年10月14日、他の被告と共に対立するメンバーを拉致し、東京都新宿区内のビル事務所で1名を暴行の末死亡させ、3名を殺害したとされる。
報告者 S325さん


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