裁判所・部 千葉地方裁判所・刑事第一部
事件番号 平成17年(わ)第2099号等 (公判前整理手続適用事件)
事件名 住居侵入、強盗殺人、現住建造物等放火、電磁的公正証書原本不実記載・同供用、有印私文書偽造・同行使、旅券法違反
被告名 小田島鐵男
担当判事 根本渉(裁判長)
日付 2006.11.2 内容 証拠調べ

 12時45分の傍聴券の締め切りまでに集まった人数は、10名だった。因みに、今回の傍聴券の枚数は24枚である。
 前回に続き今回も、弁護人は時間通りに訪れた。
 特別傍聴人の5人の老人が、先に入廷を許される。遺族席は、12席用意されていた。
 記者席は、9席指定されており、殆ど埋まっている。
 検察官は、髪を真ん中で分けた青年。
 弁護人は、ぼさぼさの髪の、痩せた、浅黒く眉の濃い、皺の妙に目立つ老人だった。甲高い、か細い声で、妙なアクセントで、妙な位置で言葉を区切って喋る。
 裁判長は、髪を真ん中で分けた、紳士的な印象の風貌の、痩せた初老の男性。
 被告人は、痩せた初老の男。前頭部から頭頂部にかけて禿げ上がっており、残った髪は地肌が見える程度の丸坊主である。眼鏡をかけていて、鼻は高く尖っている。つまりは、写真の通りの風貌だった。肌は、肌色。上下とも長袖の囚人服を着ている。一般傍聴人が入廷が許されたときには、既に傍聴席に背を向ける形で被告席に座っており、開廷前は、やや俯いていた。
 小田島鐵男被告の第5回公判は、1時15分から、301号法廷で開始された。

裁判長「宜しいですか、それでは開廷いたします。被告人は前に出てください」
 被告人は、被告席から立ち、証言台の前に立つ。
裁判長「えー、小田島鐵男ですね」
被告人「そうです」
裁判長「じゃあ、被告人質問を行ないますから、其処の椅子に座ってください」
 被告人は、証言台の椅子に座る。
裁判長「はい、それでは検察官請求の乙号証拠の取調べを行いますので、ま、被告人はその場で聞いていてください」
検察官「えー、乙号証については、1号証は、被告人の身上経歴に関する供述調書となっております。えー、主な、えー、身上経歴に関しましては冒頭陳述で述べたましたとおりでありまして、被告人が過去約20回の前科前歴を重ねてきたこと等について、その犯罪状況等について、被告人が詳細に供述しています。そして、乙2号証から6号証までは、被告人の旅券法違反等の罪についての検察官調書として、検察官調書になります。この中で、被告人は、Y1名義の住民登録を勝手に移動させたり、Y1名義で勝手にパスポートを使ったと認めております。そのY1の名前について、また、住民登録などについては、本件共犯者守田から教えてもらった等と供述しています。ただ、Y1名義、またはパスポートが欲しいと思った理由については、『保護会に入社して一ヶ月以内にきちんとした身元引受人があれば保護会を退社できますが、身元引受人であるY2さんの家をかってに出れば仮出獄が取り消されるので他人の名前が欲しいと思いました』等と供述しておりまして、強盗殺人との関係については否認をしております。そして、7号証は、所謂マブチモーターの事件に関しましての調書となっています。これにつきましては、その後の所謂大島コインの事件、そして、目黒の歯科医師の事件におきまして、本人が手記として述べました週刊誌の記事を見ながら、それについて一部、マブチモーターの事件をやった部分ついては、『マブチモーターの事件についてもやっている、自分と守田でやったことで間違いない』と供述しています。ただ、『具体的な詳しいことに関しては供述調書で話すつもりは無い』等と供述しております。8号証から13号証は、被告人の前科前歴関係、身上経歴に関する書証となっております。乙14号証から17号証は、所謂、目黒の歯科医師に対する、cさんに対する強盗殺人事件の供述調書となります。そのうち、弁解録取書によりますと、『只今読んでもらった目黒区の歯科医師に対する強盗殺人事件については私にも理解できましたが、確かにその点は私どものやったことに間違いない事です』と供述している一方で、『その他については黙秘します』という弁解録取になっています。乙14号証になりますが、自分の書いた告白書で、『自分と守田のやったことに間違いない』という事を、告白書の形で警察に提出しております。乙18号証から21号証は、所謂大島事件についての事件に関する被告人の供述調書及び告白書でありまして、それについては、『やったことは間違いないがそれ以上は話すつもりは無い、供述調書にとるつもりは無い』等と供述しています。そして、自らの手書きになる告白書では、『大島コインの事件も自分と守田のやったことで間違いない』といった内容の告白書が警察に提出されています。乙号証以上です」
裁判長「それでは被告人質問を行ないますから、弁護人からどうぞ」
弁護人「それにつきましては、えー、被告人及び弁護人たる私は、捜査段階から、法廷!においては!全てのことを、真実、にのっとって、真実だけを全部話す、こういう風な、共通した、あー、合意と言いましょうか、こうふうな、あー、ことで、やってまいりました。ところが、先週に、なって、なんですが、被告人の方から、私あてに手紙がございまして、ここで、何もかも、たとえ真実の事であったとしても、述べると、いうふうなことで、あったとした場合、それは、所詮、言い訳にしか、受け取ってもらえないんじゃないかと、弁解と、弁解としか受け取ってもらえないんじゃないかと、いうことを、被告人は述べた。私は、自分の陳述を差し控えたいと、こういうふうな、あー、内容の手紙が、実は参ったんです。そして、私としては、急な話でしたので、さっそく面会をいたしまして、じっくり!えー、あのー、看守さんの、えー、何というんですか、出てってください、というのをー、なるべく遅くまでして頂いて、じっくり話し合いました。そうした場合、確かに被告人の言ってることは、私は一理あると思います。被告人の特段な事情による、被告人を死刑にしてはならない事情、というふうな事を述べていますが、特段な事情、被告人の不幸な境遇等と、それと一部!被告人の方から真実の話、確かに、それを言っちゃうと、弁解になっちゃうんじゃないか、という事を、別な事実で伺いました。本件の罪体に関する事実もあります。それとあと、被告人が、違った人生を歩めたらな、といった、真実味(強調していた)!!私には真実と思います!と言った事実も御座いまして。でも、そういう風な事実を言ったとしても、弁解、そして、弁解をする事は、ここで、被害者ご本人の方、及び!御遺族の方に、誠にかえって相済まないことである!こう申しておったんです。私としては、やっぱり、真実だったら何だろうが、被告人のご遺族のためにできる事、という風なことで説得を試みてまいりました。昨日の時点では、意見の一致が見られない、という、状況です!私としましては、本件につきましての被告人質問、確か3回の期日を予定していただいておったと思いますが、これだけの間に!何とか説得いたしたいと!思っております。そういうわけで、今日の、時点では、被告人からの被告人質問の了解を得られていないので、質問ができないという状態です。誠にあの、裁判所としても、御遺族の方としても、誠に、(聞き取れず)、遺族に対し、責任があるような気がいたします!その点、私としては、何とか、考え直し!真実を話すのが(聞き取れず)じゃないかと、再度、説得をいたしたいと思います!本日の、時点では、この通りでございますので、被告人質問は事実上、実施出来ないと思いますので、機会を、次回期日!に、いたしたいと思います。弁護人として、被害者の方々に対して、ご遺族の方に対し、切にお願い申し上げます」
裁判長「・・・・ま、本日は、被告人質問が出来ないと、結論としてはそういうことになるわけですか?」
弁護人「はい」
裁判長「・・・・えー、今、弁護人から説明がありましたけれども、被告人の意向としては、そういうことになるわけですか」
被告人「はい」
裁判長「まあ、貴方にも黙秘権がある、という事は、最初に説明しましたけどね」
被告人「はい」
裁判長「その上で、あえて聞きますけれども、貴方が一体何をやってきたのか、或いは、今までどういう事を考え、どういう事でこういう事件になったのか、という事を、まあ、特に、後ろにおられる遺族の方々なんかは非常に知りたいと思っているでしょうし、法廷の場でそれを明らかにする、というのも、貴方の、言ってみれば責任じゃないかというふうに思えますけどね、それでも、あの、弁解になるということで話せ無いと言う事になるのですかな」
被告人「何も話す事はありません」
裁判長「うん(長い沈黙)、あの、これは、まあ、一審の裁判の場で、貴方がここで話さないとなってしまうと、結局、貴方が話す機会というのはね、少なくともここでは失われてしまうことになるんですけどもね、それでも、やむをえない、という事なんでしょうか?」
被告人「起訴状の事実を、認めますので、後はもう何を言っても同じ事ですから、無駄な事は何も言いたくないです」
裁判長「うん、・・・・はい、じゃあ、一旦、後ろの席に戻ってください」
 被告人は、証言台から立ち上がり、裁判長に深々と頭を下げた。そして、被告席に戻る。
裁判長「えー、この進行について協議をしたいと思いますので、ここで一旦休廷いたしまして、えー、検察官弁護人は、えー、別室でお集まりいただきたいと思いますが」
弁護人「裁判長、被告人と私の間、でございますが、お互い、に、信頼しあっていると思います。先ほど、裁判長のお考え、を、私・・・・理解しました。被告人としての考えに対する、裁判長、または、裁判所のお考えとしての望ましさ!を私としては理解いたしました。その上で!被告人ともう一度、私は、お話させていただきたい」
裁判長「あ、あの、これからという事ですか?」
弁護人「あ、ですから、あ!左様で御座います」
裁判長「えっと、それは結構ですけども、その時間としてはどれくらい見ておけばよろしいですか?」
弁護人「その時間、あ、今日はその事で、あの、尋問の予定を私していませんので、次回以降という事になる。実際、もし、あの」
裁判長「え、いえ、あの」
弁護人「被告人が心を開いた、あ!そりゃもちろん、打ち合わせはもしかすると、私の思うとおりにいかないかもしれない」
裁判長「あ、あ、あの、要は、これから被告人と話をしてその上で打ち合わせに望みたい、というご趣旨ではないのですかね?あのー、今後の進行について、打ち合わせをこれからしたいと思います」
弁護人「はい、解りました」
裁判長「これは、検察官、弁護人と、法廷外で打ち合わせをする、という事です」
弁護人「ですから(遮るように)そういう点でご斟酌いただきたいのは、私と被告人の間は、私としては、非常に信頼関係があると思っています」
裁判長「ええ、ええ、あの」
弁護人「そして、裁判長のお望みになっている筈のご趣旨、も、只今お伺いしました。その裁判長のご趣旨を、元に、被告人に再度私は、お話してみたいと思います。そういうご趣旨です」
裁判長「はい、ええ、ええ、それはそれで結構なんですけども、その話をするのにですね、この裁判所の部屋を使って、あの、接見することも可能ですので、その上で打ち合わせに望まれるというご趣旨かと思ったんですが、そういう趣旨ではないんでしょうか?」
弁護人「そうではなくって、それは、あの・・・・やっぱり、接見室でじっくり話さないと」
裁判長「はい、はい、結構ですよ。では、一旦休廷いたします。被告人は、一旦下げてください」
 被告人は、縄と手錠をかけられ、傍聴席の方を見ず、退廷する。
 書記官は、何処かに電話を入れ、何か話をしている。弁護人は、書類に何かを書き込んでいる。
書記官「あー、はい、じゃあ(聞き取れず)」
 書記官は、後ろを向いて、裁判長と話し出す。
裁判長「(書記官に)どのくらいと言ってもな・・・・あの・・・・・、ちょっとこの協議がどうなるかわかりませんので、開廷が何時になるかはっきりと申し上げることは出来ませんが、まあ、一応二時ぐらいを目処にしたいと思います。では、面接室の方に向かってもらえますか?」

 1時39分に、一旦休廷となる。
 被告人は、裁判長の問いに、感情を露にしない、淡々とした声で答えていた。
 他の傍聴人の話では、開廷前に弁護人が、遺族の方に頭を下げていたらしい。今日の事があったからだろうか。また、休廷中、遺族が検察官に何かを質問し、検察官は、「今日はやらないと思いますよ」と答えていたらしい。
 2時45分に、検察官、弁護人、書記官が入廷する。
 書記官は、「刑事一部のハマイですが、小田島さんの関係で再開しますので、お呼びいただけますか、お願いします」と、何処かに電話をかけていた。
 弁護人は、再開廷する前、書類に目を通していた。
 被告人は、被告人用出入り口のところで、傍聴席に深々と頭を下げ、下を向いて入廷する。被告席に座ってからは、やや俯いていた。
 被告人が入廷した後、多くの傍聴人、記者四名、遺族が入廷する。
 2時50分に、裁判長達が入廷する。法廷内の全員が立ち上がり、礼をする。公判は、再び開始される。

裁判長「えー、長らくお待たせいたしました。再開いたします。・・・・・えー、それでは、被告人質問については、本日は行なわないことにいたしまして、既に指定してある11月14日午後1時15分、この期日までに更に弁護人と話をして検討していただきます(弁護人は、頷く)。えー、弁護人の方からの被告人質問が無かった場合でも、検察官は、この日に被告人質問を行なう予定、という事で宜しいですね」
検察官「はい」
裁判長「さらに、これまで指定した期日に加えまして、新たに期日の指定をいたします。まず、12月21日午後1時30分から。論告求刑です。午後1時30分から2時30分まで指定しています。更に、2月22日13時30分から5時まで、これは、弁護人の弁論の予定をしています。本日はこれで終わります。次回、11月14日1時15分。被告人は出頭してください」

 5時まで予定されていたが、2時53分に、公判は終わった。
 私は見逃したが、閉廷後、被告人は、傍聴席の方に目をやらず、退廷したらしい。
 閉廷後、遺族の人々は、廊下を歩きながら、「意味が解らない」などと話をしていた。被告人の態度にどのような感想を抱いたかまでは解らなかった。

事件概要  小田島被告は守田克実被告と共に強盗目的で以下の犯罪を犯したとされる。
1:2002年8月5日、千葉県松戸市で会社社長宅に侵入し、社長の妻と娘を殺害して家に放火した。
2:2002年9月24日、東京都目黒区で歯科医師を殺害した。
3:2002年11月21日、千葉県我孫子市で金券ショップ社長の妻を殺害した。
 また、主な前科として1990年に社長一家7人を監禁し、現金3億円と貴金属を奪った事件がある。
報告者 相馬さん


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