裁判所・部 前橋地方裁判所高崎支部・刑事部
事件番号
事件名 強姦致死、殺人
被告名
担当判事 大島哲雄(裁判長)福士利博(右陪席)東千香子(左陪席)
日付 2005.10.14 内容 論告

 この日は、十四枚の傍聴券を求めて、三十一人が並んだ。確か九時半に抽選が締め切られた。
 開廷前に写真撮影が行われた。
 遺族のためと思われる特別傍聴席が用意され、報道人の席が多く用意されていた。それにも拘らず、マスコミ関係者らしき人が一般抽選にもかなり並んでいたのだが。

 弁護人は、眼鏡をかけた、髪がやや後退した五、六十代ぐらいの男性。
 検察官は、小太りで黒縁眼鏡をかけた三十代ぐらいの男性(前回の公判で、被告人質問を熱心に行っていた)と、白髪交じりの髪をオールバックにした眼鏡をかけた細身の五十代ぐらいの男性。
 検察官も弁護人もスーツ姿だった。
 裁判長は、細身の髪を七三分けにした五十代ぐらいの男性。
 陪席裁判官は、三十代ぐらいの女性と、小太りの、眼鏡をかけた四、五十代の男性。
 被告は、礼をして入廷。髪を短く刈っており、黒いシャツに青いズボンといういでたち。やや垂れ目の大人しそうな顔立ち。

 弁護人は、証拠調べを請求した。これは、被告の書いたもので、内容は、自分の性格に対する母親の影響。母の、理想を求める性格が影響を与え、自己主張が捩れて性欲が歪んだ、という内容。
 検察官は、同意した。

 論告が始まる。先ずは、三十代の検事が論告を行った。

−論告求刑−
 本件控訴事実については、証明は十分。
 (この犯行は)被告が、スクール水着を盗み、性欲を募らせ、女児に狙いを定め、女児を弄び獣欲を満たした挙句、口封じの為に殺害したおぞましい犯行。
 動機に情状酌量の余地は無い。
 被告は女性との性交が無く、自慰で満足していた。
 母が男と交際していることで、女性に対し不信を覚える。
 女児は清浄だと考えた。
 被告は、満足を得るため、人形を作成し、少女の写真集を購入したりスクール水着を盗むなどしていたが、欲望を募らせ、少女を口説いても上手くいかず、女児を襲った。
 被告は少女との性交を描いた写真やパソコンを多数購入。
 人形に小学生の帽子をかぶせるなどして、それと性交していた。出費は五十万に及んでおり、女児に対する欲望を満たすために犯行に及んだのは明らか。
 被告は、「被害者は私の近くに住む女児であり、ばれる可能性は少ない。解放すれば発覚すると思い殺した」と明言している。被告は(犯行後も)安穏と生活しようとしたものである。
 犯行は、口にするだけでも吐き気を催すもの。また、会社の人間に自分を恐ろしい人間と気付かせたかったというのも動機の一部である、と述べている。しかし、性欲を満たすために犯行を行ったのは明らかである。
 被告は、この期に及んでまだ体面を取り繕おうとしている。
 心理鑑定では、被告は、会社の人間に不満を抱いていた。犯行には性欲は無く、会社の人間に自分は恐ろしい人間であると解らせることができると考えていた、と述べている。しかし、性犯罪者は、一般的に異常性を過小評価しようとするものであり、疑問を覚える、とOは述べている。鑑定書の結論は、そのときの供述に引きずられ、信用性の高い捜査時の供述を軽視している。
 被告は、被害者を連れ込めるよう、ドアを大きく開き、油断させるために自転車の修理を装っている。
 被告は、女の子は力が無いし、首を絞めれば殺せる、と供述している。そして、息があると解るや、上半身を裸にし、陰茎を勃起させ、挿入しようとしている。挿入するには至らなかったが、身は汚された。姦淫することが困難と解っても、被害者を汚している。
 被告は、女の子を襲ってセックスをして殺そうと思っていた、もう用済みなので殺した、と述べている。人間性は感じられない。
 殺害方法は残忍かつ凄惨。途中で手を離せば被害者は助かるのに、あえて絶命に至るまで首を絞めて殺している。被告は、殺害に何らためらいを感じていない。
 事件後、何気ない顔で出社し、母に死体が見つからないように、ビニール袋に入れて女児の死体を押入れに入れた。事件後には、捜索のチラシを家に持ち込むなどして、母の疑いを逃れ、警察には虚言を弄している。
 女児の事を心配する女児の家族のことを考えていない。
 被告の態度に反省悔悟は認められない。残虐、醜悪であり、鬼畜の所業である。
 女児は、両親の長女として生まれた。
 童話が好きで、自分の意思をしっかり持っており、優しい子だった。
 生活、生命の一切を(ここで語気を強めた)被告に奪われたもので、無念は察するに余りある。
 安全であるべき自宅近辺で襲われており、恐怖は察するに余りある。おぞましい性欲の犠牲になったもので、その不快感は察するに余りある。
 被害者の死体は、髪はぼさぼさ、顔は赤く腫れており、瞳を閉じることも出来なかった。被告は、これを、手紙の中で、眠るように死んでいった、と書いており、これを被害者の遺族に読ませたいと言っており、余りにも無神経である。
 両親は懸命に被害者を育てており、無念は察するに余りある。
 母は、Aを抱きしめると人への恨みを忘れられた、等と述べている。
 兄は、未だに妹の死を信じることが出来ず、Aは帰ってくる、と言っている。それを実現させることが出来ないのは、余りにも哀れである。
 母は、Aを何故助けることが出来なかったのか、Aを助けられなかったのが情けなく恥ずかしい、等と述べており、傷は深い。眠ることが出来ず、精神科医に頼る状態である。
 父は、自分も睡眠障害に悩まされながら、勤務時間を削って家族を支えている。
 被告は公判廷で無神経な言動で被害者を苦しめている。
 母は「被告を同じ目にあわせてほしい。犯人の一番大切なものを奪ってやりたい」と述べている。
 父は「被告を一生外に出さないで欲しい。被告がこの世に出てくるのならば、この手で殺したい」と述べている。
 司法は、この要求に法の許す限り答えるのが責務である。
 犯行の影響は大きい。被害者の小学校にカウンセラーを送るなどの措置が採られている。
 被告人は、成人女性に不浄感を抱いており、成人女性と関係を結ぶのは困難であり、Oもそれを認めている。被告は、未成熟な少女を(空想の中で)日常的に性欲のはけ口としていたことは明白である。
 被告の犯罪性向は深化している。
 被告は妄想に飽き足らず、擬似性交に始まり、最後には少女に襲い掛かっている。
 被告は小児性愛嗜好を示しながら、それを否認している。Oは、性犯罪者は現実認知が歪んでいる、問題をどの程度認識しているのか疑問である、等と述べている。
 母は、同居しながら、その異常性欲を諌めていない。法廷でも被告の犯行を諌めていない。監督は期待できない。
 鑑定の根拠は、被告の供述に基づいており、薄弱である。
 再犯の可能性については、被告は小児性愛を認めておらず、欲望を合法的に満たす方法は無く、監督も期待できず、再犯の可能性は強い。

 ここで、五十代の検事に代わった。以下は、準備書面に無い内容である、という事だった。

 これまでのこの法廷で事件を明らかにし、被告の責任を追及するために審理を重ねてきた。
 被告は未成熟だが、普通教育も受けており、情状酌量の余地は無い。鬼の犯行であり、被告を断罪するために審理を重ねてきた。
 一般予防という観点はあるが、それにどの程度効果があるのか、検事としても一人の人間としても考えてしまう。
(奈良の女児殺害事件にも言及していたような気がする)
 しかし、本件犯行について、被告は社会人として責任を取らねばならない。被告は法廷では従順で、あのような事をするようには見えない。しかし、被告は、女児を部屋に引きずり込み、絞め殺した。
 被告は二回感情を露にした。母と、人形の事である。落涙をしているが、何に落涙しているのか。被害者や遺族に対しては、評論家的な表現に終始している。
 被害者遺族は、人を恨んでも悪人になりたくない、娘が安らかに過ごせるためにも、被告を許したい、と思い、傍聴してきた。(ここでは、検事の予想を言っているのか遺族の心境を語っているのか判断が付かない言い方だった)しかし、被告は評論家的な表現に終始しており、そうした気持ちを被告は考えたことがあるのか。
 現代の裁判は報復権を取り上げた。これは人としてはやってはいけないことだが、遺族はその気持ちを如何すればいいのかと苦しんでいる。
 これまでるる述べた遺族の気持ちに如何に答えるか、というのが我々の責務である。

 小太りの三十代の検事に代わった。

 本件犯行は、極めて身勝手、卑劣かつ残忍であり、理不尽である。被告の罪責は極めて重大であり、被告の矯正は困難である。
 被告を無期懲役に処するのを相当とする。

−最終弁論−
 被告は、本件公訴事実を認めているので、事実関係について述べる。
 被告は、暴力行為を起こしたことは無いにも拘らず、本件のような犯行を行った。何故なのか考えた。
 事件前、同僚から嫌がらせを受けており、些細なことで腹を立て、熱があったことも影響を及ぼしているかもしれないと思うが、それが犯行に結びつくとは言えない。
 犯行にどれだけの計画性があったのか疑問である。
 被告の犯行は、対人関係のストレスにより、突発的に起こったものである、と鑑定書には書かれている。結論では、小児性愛は健固な物ではなく、また、解離性人格障害を有している。葛藤の処理を指導する専門的医療が望ましい、医療によって再犯の芽を摘むことも可能である、と書かれている。
 被告の手紙では、母は理想が高く、理想に反すると口喧しく言う、等と書かれており、それは心理鑑定に書かれているのと同じことである。
 被告に改悛の情はある。被告は法廷で毎回涙を流しており、後悔している。
 被告は、これまで社会に迷惑をかけたことは無い。
 育成歴で、父の離婚、母の強い愛が性格に影響を与えた。
 被告は、被害にあわない方法を述べている。

・一人で居ない。人の多い場所に居る。
・犯人は人格が未熟なのできちんと挨拶すれば、(犯人が怯むためか)被害を避けられる、等と述べている。

 大変厳しい求刑であるが、寛大な処分をお願いする。

 被告人は、前に出るよう促され、何か最後に延べることは無いか訊ねられる。

被告「本当に自分勝手なことを、多くの人に迷惑をかけて申し訳ない(聞き取れず)迷惑をかけました。前回の審理でも(聞き取れず)済まない気持ちで一杯です。私の(聞き取れず)本当に申し訳ありません(聞き取れず)会社の同僚から何と(聞き取れず)会社の上司から(聞き取れず)私を見守って、私を育ててくれた母や親族を裏切って(聞き取れず)謝って済む事では無いと思いますが、本当に、申し訳ありませんでした!どんなことでも(聞き取れず)一生懸命(聞き取れず)」

 これで審理は全て終了し、判決は十二月九日午前十時に指定され、閉廷した。
 被告は、論告、弁論を俯いたまま聞いていた。論告が進むに従い、深く俯いていった。鼻を啜り上げる事もあった。陳述は、涙声で聞き取りにくかった。傍聴席からは「聞こえない」等と呟きが漏れた。
 検察官は、平静を保っていたが、所々で語気が少し荒くなった。
 弁護人は、感情を表に出さずに弁論を行った。
 被告は、鼻を啜り上げながら、礼をして退廷した。

報告者 相馬さん


戻る
inserted by FC2 system