裁判所・部 前橋地方裁判所高崎支部・刑事部
事件番号
事件名 強姦致死、殺人
被告名
担当判事 大島哲雄(裁判長)
日付 2005.7.15 内容 被告人質問

 傍聴券が配られた。席が足らないことはなかったが、かなりの人数が傍聴に来ていた。
 被告は、髪を短く刈っていて、上半身は黒い長袖のシャツ、下半身はグレーのズボンといういでたちだった。やや声が小さい。
 本日は被告人質問が行われ、まずは弁護人の被告人質問から始まった。

−弁護人の被告人質問−
弁護人「貴方、被害者のAさんのご両親に事件当時会ったことは?」
被告「はっきりとは覚えていない」
弁護人「Aさんが貴方の部屋の近くに住んでいると知っていましたか?」
被告「エレベーターの向こうの方だとは知っていました」
弁護人「平成十六年、一月か二月、被害者のご両親ら四人がエレベーターにいた時に、貴方と一緒になったと言っていますが」
被告「はっきりとは覚えていないんですが」
弁護人「見たのか見なかったのか」
被告「なんとなくいたような感じです」
弁護人「三月ごろ、エレベーターに家族がいた時に、Aさんの方を見ていた?」
被告「それもはっきりとは」
弁護人「覚えていない?」
被告「はい。気にしないですから」
弁護人「心理鑑定には正直に?」
被告「はい。答えました」
弁護人「貴方は成人女性に対して関心は?」
被告「あります」
被告「(写真やビデオテープについて)AVは持っていませんが、写真集は」
被告「(成人女性を)汚したくないような、そんなことをしたら相手が傷つくのでは。自分の好きな成人女性に失礼だと思った」
被告「自分は、そういう性的な部分に欲求をぶつけたり、物に当たったりして、ストレス解消していました」
被告「(性の事柄)一方では望んでいるんですが、一方ではそれが醜いという思いが」
被告「(ストレス)中にはそういう部分があったことも」
被告「無性に暴れたくなったり、悪いことをしてみたくなったり」
被告「部屋のものを壊したり、人のものを盗んだり」
 スクール水着を盗んだ。
被告「ストレスからの逃避みたいな感じで」
被告「(窃盗について)どちらかといえば、行動を起こすことを目的にしている」
弁護人「感情をコントロールしたり性教育を受けたりすればまともになれると思うか」
被告「はい、思います。自分の精神がまだ未熟な部分があります。それを直したい」
弁護人「反省文を三通ほど書きましたね。それは何かを参考に?」
被告「少し自分の気持ちというものが、あの、心のケアみたいな本を読んで自己洞察して、少しは参考にしているのですが、自分で考えて書きました」
弁護人「貴方が事件を起こして拘置所にいる間に起こった少女が被害者になった事件について」
被告「ラジオで流れています」
弁護人「奈良の事件については」
被告「自分と同じ人がいるな、と。亡くなった人や家族はどんなに悲しんでいるか。複雑な気持ちで。自分も同じことをした。すごくつらかったです」
被告は、涙声になる。
被告「自分勝手で、ひどい事をしてしまった。本当に申し訳ないです」
 被告は泣き出した。

−検察官の被告人質問−
 被告は、小学校六年から十二年住み、三年間東京に行き、五年間また住んだ。被害者の存在は知らなかったと述べる。
検事「被害者の母は、エレベーターですれちがったと」
被告「そうかも知れません」
検事「お母さんによれば、貴方がAさんをじろじろ見ていたという事ですが」
被告「子供に興味を持っていたので、怪しまれないようにそうした行いを避けていました。ただ、無意識には見たかもしれません」
被告は、被害者を待ち伏せして襲った。
検事「貴方は、水、木にAさんの母が出迎えに来ないことを?」
被告「いいえ」
検事「部屋を確実に知っていて襲ったことは?」
被告「見当はつきますが」
被告「Aさんとは知りませんが、部屋の前をAさんが通ると」
被告「かなり大きな声で、悲鳴というか」
被告「割と響くんですが、聞こえるかどうか」
検事「貴方は、Aさんの着衣をどうしていた」
被告「袋に入れて、押入れの前に置いておきました」
検事「貴方は、被害者の服がほしくてやったのでは?」
被告「違います」
被告「(服を)また着せました」
被告「裸のままでは可哀想だったので」
被告「自分の考えです」
被告「母は、裸であることを知りませんでした」
被告「(服への関心について)それほどでもありません」
被告「水着、体操服には興味が」
検事「自分は恐ろしい人間だと会社の人間に知らせたい、と、医者に言っていますが」
被告「誤解を招いたようですが、顔では笑っているが、心の中では殴ってしまいたいと思っていることを知らせたいという、甘えというか」
被告「動機の中に含まれています」
被告「性的な事もあるんですが、それを満たしたいと思うのは、ストレスが原因です」
 検事、証拠を被告に示す。調書であり、乙二号証。
検事「この理由は正確か」
ここで、検事は証拠の朗読を間違えた。
検事「ここに書かれているのは、Aさんを殺した理由では?」
被告「はい。これも一部です」
検事「どちらが」
被告「決める事は自分でも難しいんですが、性的な欲求をかき立てるのがストレスですから」
被告「そういった行動はひどいことですから。それをやれてしまう人間だという思いが日頃からありました。私がこういったことができてしまう人間だと知られたら、見た目のようにニコニコしている人間ではなく、(聞き取れず)私は会社の人間にそれをすることなく、(聞き取れず)Aさんにぶつけてしまったんです」
 涙声になる。聞こえにくい。
被告「自分自身の言い訳かもしれないので、自分自身の頭ではそういうことを」
検事「スクール水着を盗んだことでも起訴されてますね」
被告「初めは、自慰行為の時に使うためにとっておきました」
検事「盗んだ瞬間はどんなつもりで」
被告「特に考えません」
検事「その後」
被告「寝る前に、やはり自慰行為に」
被告「(医者に)初めは、自慰行為のために、と話しました」
検事「実際に使った」
被告「一、二回ほど」
検事「盗む目的が達せられたことには?」
被告「なります」
検事「少女に対し、性的興奮を感じますか?」
被告「気持ちを休めれば感じると思いますが、どこかさめたような気持ちがあります」
検事「子供に対し興味が増したと言っていますが」
被告「抱きしめたいとか、そういうことを」
検事「それは、性的では」
被告「少し・・・その時の気分によって」
検事「ロリコン漫画などを持っていますが、少女に対し感じているのでは」
検事「さくらという人形にランドセルを背負わせて、黄色い帽子をかぶらせて自慰をしたことがあるが、何故か」
被告「欲望を抑えたいと思いました」
検事「少女に対し欲望を持っていたのでは?」
 被告は、小学生と性行為をするというゲームを持っていた。自慰をしたこともあった。
被告「画像だけだと、いまいち気持ちが。声やせりふで気持ちを高めていくというか。冷めた気持ちがありましたから」
 大人と性行をするというゲームも持っていたらしい。
検事「(被告の書いた手紙について)その手紙を遺族が読んだらどう考えると」
被告「破り捨てられるかも知れませんし・・・・(聞き取れず)私は、何か、こう、伝えたくて」
検事「かえって手紙が遺族を傷つけるとは?」
被告「そうも考えましたが、われ関せずでは余計ひどいのではないかと」
被告「出さないほうが傷つくのではないかと考えました」
検事「手紙の中で、貴方は、Aさんが亡くなる時のことを、まるで眠りにつくようでしたと書いていますね」
検察、証拠を示す。
被告「亡くなる瞬間ではなく、後のことです」
検事「瞬間と後で何か違うことが?」
被告「瞬間は横向きで、表情が見えませんでした」
 検事は、手紙を読ませて質問していた。
 続いて、人形の写真などの証拠を示す。
検事「今見てもらった物の内、貴方が自分で考案して作った人形がありますね」
被告「はい」
検事「遺族は、それを取り上げたいと言っています。どうしますか?」
被告は口篭った。
被告「できれば私の自分の手で、どのように人形が処分されたか解らない状況はつらいんですが、でも、私はAさんの命を奪ってしまって。解るんですが。相手から大切なものを奪ってしまって。(聞き取れず)できればそういうことはやめて、私に怒りをぶつけてほしい。私が悪いことをしたのですから。人形たちもそう見えてしまう。東京で一人でつらかったとき、自分の気持ちを支えてくれた(聞き取れず)自分のしたことで処分されてしまう。(聞き取れず)あまりにも・・・・・私にぶつけてほしいんです」
 被告は、声が上ずり、涙声になっていた。感情が高ぶっている。
検事「Aさんはもうご家族を支えることはできないんですよ」
検事「私も遺族も貴方に選択を迫ります。人形を放置しますか、しませんか」
被告「もしそれをしたら、(口篭る)お母さんの気持ちを考えれば」
 被告は、頭を抱えて泣き出す。
被告「それで気持ちが満足するんですか」
検事「すると思いますか」
 検事の声には怒気が篭っていた。
被告「消えていくのが無駄ではないのなら、少しでも気分が晴れるのなら」
検事「処分していいんですね」
検事「質問に答えてください」
被告「(口篭り)処分します。でも・・・・私にしてみれば私の子供を殺せといっているようなものです」
検事「貴方が言っているのは、人形とAさんが同じか、それ以下だと言っている様なものです。解りませんか」
被告「そうですけど・・・」
 細かくは覚えていないが、この辺りか、「私の子供を殺せといっているようなものです」という辺りで、遺族らしき人(後に被害者の母だと解る)が勢いよく立ち上がって、外に出て行った。
 視線がそちらに集まった。

−裁判官の被告人質問−
裁判官「女の子に悪戯しようと決めたのは何時ですか?」
裁判官「二週間ぐらい前から」
被告「はい」
裁判官「貴方は今、身柄を拘束されている中で人形のことを考えたり」
被告「はい」
裁判官「貴方はこんなひどい事件を起こしておきながら、人形の事を考えていることが、貴方の更正に役立つと」
被告「自分の手で処分したいんです。(この後、自分の手で処分しなければ克服できない、等と理屈をこねた)自分の手で処分したいのです」
被告「処分しろといえば」
裁判官「こういう事件が起きたとき、何が良くなかったのか。人形に不満をぶつけたり、そういう事をすることが、大人にとってまずいとは思いませんか?」
裁判官「人形を自分で処分できなければ、それをずっと引きずっていくんですか」
裁判官「検察官の質問と同じかもしれませんが、自分のかけがえの無いものを奪われる気持ち。それは、Aちゃんのそれと人形と同じだと?」
被告「私がそうなったことがないですから」
裁判官「そうなったことが無ければわからないのか。(被告の)お母さんのことを考えれば解るのでは」
被告「命の大切さというか、それが(聞き取れず)」
裁判官「この事件は、相手から攻撃を受けて反撃するというものではないですね」
裁判官「(人の命は)もう返って来ないんです。解りますか」
被告「はい」
被告「Aさんのお母さんを大きく傷つけてしまったのではないかと思います」

−弁護人の被告人質問−
弁護人「事件の一週間前からというが、何をしようと?」
被告「体を触ったりとか、そういう」
弁護人「部屋に連れ込んで殺しましたが、それまで想定していましたか?」
被告「いいえ」

−検察官の被告人質問−
検事「先ほどの発言を聞いて、Aさんのお母さんは退廷されてしまいました。貴方も謝罪の手紙を書こうという気持ちがあるのですから、被害者の気持ちを考えているのでしょう?」
 この時の検察官の口調は、諭すようだった。
被告「はい」

 次回公判期日を指定し、閉廷した。次回は論告であり、十月十四日に行われるらしい。
 被告は冷血で無反省というよりも、幼く、視野が自分の世界に囚われており、他者の感情の洞察が苦手な人間、という印象だった。それなりに反省し、罪悪感も抱いてはいるのだろうが。
 裁判終了後、法廷の外の椅子に、途中で退廷した被害者の母親が腰掛けていたような記憶がある。

報告者 相馬さん


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