裁判所・部 最高裁判所・第三小法廷
事件番号 平成16年(あ)第727号
事件名 強盗殺人、同未遂、現住建造物等放火
被告名 小林光弘
担当判事 上田豊三(裁判長)
その他 書記官:杉浦幸太郎、吉川哲明
弁護人:小川原優之、北村晋治
立会検察官:水野美鈴
日付 2007.1.23 内容 口頭弁論

 遺族らしき人々12名は、先に傍聴券を貰い、最高裁の建物の中に入っていった。遺族らしき女性1名は、一般傍聴券を貰っていた。
 12時55分の締め切り時間までに来たのは、36枚の傍聴券に対し、遺族らしき女性も含め、10名だった。券はピンク色の厚紙で作られていた。
 建物の中に入る際、荷物をロッカーに預けさせられ、金属探知機のゲートを潜らされた。そして、職員の案内に従って、第三小法廷まで移動した。傍聴券に書いてある番号の席に座らされた。
 法廷内では、最前列の席に、遺族らしき人々が座っていた。マスコミ関係者も、一般傍聴人として入っているらしかった。一般傍聴席には、最終的に13人が座った。
 書記官は、眼鏡の中年男性と、痩せた初老の男性。
 検察官の助手らしき若い男性が、遺族の方に一礼して入廷し、机の上に六法全書と書類を置き、退廷する。13時15分ぐらいに、検察官は、遺族の方に一礼し、入廷する。髪を後ろで纏めた中年女性だった。開廷前、書類に目を通していた。
 弁護人は、白髪交じりの髪をオールバックにした初老の男性と、中年男性。初老の男性が小川原弁護人であり、中年男性が北村弁護人である。13時18分ぐらいに入廷する。開廷前、書記官は談笑しながら弁護人に書類にサインをしてもらっていた。弁護人は、書類を見ながら二人で話していた。
 開廷前、報道人により、6台のTVカメラが廷内に入れられる。13時20分ぐらいに、初老の男性職員から、以下のような注意が言い渡された。
初老の男性職員「裁判所から傍聴される方にご連絡いたします。開廷前に、約2分間の撮影が行なわれます。裁判官の入退廷時には起立するようお願いします。静粛にし、審理、裁判を妨げないでください。入退廷時以外には席を離れないようにお願いします。以上の注意事項に反すれば、退廷させられる可能性があります。撮影される方へ。扉が開いたら撮影を始めてください。撮影後は速やかに退廷してください。以上で連絡を終わります」
 13時26分頃、眼鏡の若い男性職員が「まもなく開廷します!」と伝える。
 13時27分頃、扉がゆっくりと開き、裁判官らが入廷する。法廷の全員は、起立し、裁判官に礼をする。
 裁判長は老人。裁判官は、髪を七三わけにした中年男性、白髪の老人、白髪で眼鏡をかけた老人、初老の男性の4名。
 シャッターを切る音が響き、報道陣による撮影が行なわれる。職員の男性の「撮影を終了してください」という声と共に、ビデオカメラがしまわれ、撮影を行なっていた者たちは退廷する。
 13時30分、小林光弘最高裁弁論は開始された。

裁判長「開廷します」
 裁判長は、眼鏡をかける。
職員「小林光弘に対する強盗殺人等被告事件。弁護人は出頭しています」
裁判長「上告趣意書を陳述しますか?」
弁護人「はい」
裁判長「上告趣意書に加えて言うことがあればどうぞ」

−弁護人の弁論−
 先ず、死刑の違憲性について。死刑が憲法違反というのは理由が無いと、検察官は言っています。しかし、死刑は、生命権を国が剥奪できるか、という問題であって、死刑廃止は世界の趨勢であり、凶悪犯罪は増加していないことを考えると、死刑は違憲です。
 死刑廃止国の数は、存置国を大きく上回っている。存置国が68カ国、廃止国が120カ国です。殺人の発生状況は、殺人に関しては増えていない。窃盗、強盗は増えていても、殺人が増えていないのは明らかです。しかし、死刑判決の数は異常に増えている。裁判所はご承知だと思います。この点、死刑を如何考えるか、裁判官の皆さんに考えていただきたい。
 大野裁判官は、死刑を求めている国内の声と、世界の趨勢の矛盾は好ましく無いと言っていました。それは、深刻さを深めています。アメリカでさえ死刑の言い渡し数は減っている。裁判所の皆さんが見識を示していただく時期に来ています。
 死刑に向かうものの権利保障は、私どもとしては最大限に言うしかない。手続きのあらゆる段階で、弁護士の補助を受ける。これは、死刑相当で無い事件の処置にプラスして言っているわけです。
 声紋鑑定もやったわけで、私の目から見れば、この事件は解明されていないところがある。東京理科大の教授に鑑定書を書いてもらったが、何故あんなに放火で大量の死者が出たか、解明できていないわけです。何故、生者と死者が別れたか。窓を開けた人が亡くなっている。何故そういうことがおきるのか。被告人は、入り口に向かっていて、逃げられた。奥にいた被害者の人は逃げられなかった。こういうトンネル現象を、被告人は把握できたのか。それを考慮せず、未必の故意だといって、死刑を言い渡された。まだ解明されていません。
 また、一審、二審とも、被告人は声紋鑑定を求めていた。でも、声紋鑑定は行われなかった。我々は被告人の声をテープで録音し、聞きました。それは、「おめだち」と言っているとされて、複数の人が居ることを認識していたとされたが、私には(被告人が)そう言っている様に聞こえなかった。
 審理が尽くされず死刑を言い渡されることは納得できない。審理を尽くせば、私は無期もありうると思う。それが出来るのは、裁判官の皆さんだけです。

 以上の追加意見を述べたのは、小川原弁護人だったと思われる。続いて、北村弁護人による弁論が行なわれる。

−北村弁護人の弁論−
 殺意について。火を放ったのは、殺意は無かった。脅しである。
 f支店長しかいない、他の人は脱出したと思っていた。f支店長以外の人が、刃物を手にしていない自分とは逆の方向に逃げたとは思わなかった。判決は、部屋の奥に留まっていたと認識していたと決め付けている。部屋に何時までも留まっている筈が無いと考えるのが普通である。認定はつじつまが合わない。予測を超えた結果に対し、被告人に全面的に責任を負わせるのは不当である。存在しない殺意を負わせるのは不当である。殺意が認定されるとしても、其処に何人いるか認識していたのかは、判決に重大な影響を与える。改めて認定していただきたい。
 被告人が複数の人を認識していたかは、テープでわかる。しかし、テープの解析は十分に行なわれていない。検察は、解析結果の提出を拒んでいる。複数の人間がいると考えていたのかf支店長だけだと思っていたのか。今一度、テープの言葉を先入観無く聞いて欲しい。被告人は、「おめーだち」「おめーら」とは言っていない。「おめー金だせ、早く金出せおめーだち」と言っている。検察官の言うようにはならない。検察官の主張は、明らかに複数の人に対する言葉遣いである。「金出す!おめーら早く!」と変わったのと合致する。被告人は、奥に人がいると認識していなかった。テープには、他の従業員、f支店長の声は入っていなかった。また、店員の声は、「開けない方がいいかな」となっている。部屋の奥で息を潜めていた。火をつけた悲鳴と比較すれば、その前の声は録音されないほど小さかった。被告人は、奥の人には気付いていなかった。また、支店長が「消防呼んで」と言ったというが、店員は消火器を出していない。一方的な言葉だった。被告人は奥に人がいると認識できなかった。
 混合油の燃焼について。火をつけた後どうなるか、一般的知識ではない。被告人は、火をつけた紙縒りを手に持っていた。知識があれば、そういうことをしない。紙縒りを落としているのに逃げていない。この程度の認識の被告人が、燃焼の度合いを知っていたと認定するには無理がある。混合油が燃焼してどうなるか知っていたら、走って逃げられると思うはずが無い。被告人は走って逃げている。被告人が逃げられたならば他の者も逃げられたと考えるのが当然である。f支店長は生き延び、被告人は無傷である。にもかかわらず、遠くにいた人は死亡している。
 被告人の必要としていた金額は数十万である。人の命をかける金額ではない。火を放ったのは、予想外の行動に動転したからである。
 量刑不当について。f支店長以外の死傷について、被告人に責任を負わせることは出来ないというが、他に責任転嫁をしているわけではない。行為に遡って認識の無いことまでに責任を負わせるのは不当である。過失致死以上の責任を負わせることは出来ない。
 通常の火災と異なる火災であれば従業員の器具操作の習熟は関係ない、としているが、被告人にとっても予想外の火災だった。
 原判決を破棄しなければ著しく正義に反することは明らかです。

裁判長「次、検察官、弁論を述べてください」

−検察官の弁論−
 要旨を提出しています。
 死刑の違憲性という主張は、判例に反し、理由は無い。弁護人の主張は実質的には量刑不当の主張であり、上告に理由は無く、棄却されるべきであるが、若干意見を述べさせていただく。
 事実誤認の主張について。殺意を認めたのは事実誤認というが
1・火をつけ、それが床を走るように奥の部屋に達することはありえない
2・f支店長に対する殺意以外を抱くことは無かった
と述べている。
 火が部屋の奥まで達することは無いというが、ガソリンは92%で、二分後に火をつけている。瞬く間に燃え広がったことは、容易にわかる。生き残ったgさんたちは、すぐに機関室に燃え広がり苦しくなった、と述べている。弁護人の主張に理由は無い。
 f支店長以外は避難したと思っていた、という主張は、公判供述が主たる根拠である。しかし、証拠は、悲鳴を聞くや、奥の金庫室に店員は退避して、被告人の視界からは消えたが、f支店長は110番し、奥の部屋に「消火器持ってきて、消防呼んで」と叫んでいる。被告人と奥の部屋の距離は5・6メートルである。(支店長は)店員に「窓開けて」等と述べてもいる。以上を考慮すれば、被告人は奥の部屋に人が居るという認識はあったといえる。それを考慮すれば、被告人は火をつけ自分だけで脱出しており、殺意は認められる。
 非常階段の有無について。非常口から逃げたと思った、と被告人は述べているが、答えに詰まり不自然なことを原審では述べている。責任逃れは明らかである。
 量刑不当の主張について。
1・殺意は無かった
2・反省している
3・店の不備も一因となっている
という事を考えれば、死刑は不当である、と弁護人は主張している。
 しかし、本件は、競輪で借金を重ねた被告人が、金目当てに押し入り、混合油をまいて火をつけて5名を殺害し、数人を負傷させた事案である。情状酌量の余地は皆無であり、遺族、生存被害者は、「自分の命で償ってもらいたい」「絶対死刑にして下さい」と述べており、それらを考えれば、極刑は当然である。
 未必の殺意は認められ、弁護人の主張に理由は無い。
 反省文を書いてはいるが、心底の悔悟は認めることは出来ない。また、自己の責任の軽減に汲々としている。責任の重さを真摯に受け止め、真摯に謝罪しているとは受け取れない。
 3点目。本件のような事案で、空気を滞留させた、用具の使用指導が徹底されていなかった、という主張である。本件は約4リットルのガソリンを燃焼させ、器具への延焼、ガスの発生という、通常の火災と違う火災である。本件の責任の一部は被害者にもあるという弁護人の主張は、責任転嫁以外の何者でもない。
 本件上告に理由は無く、上告は棄却されるべきである。

裁判長「双方、これ以上に主張されることはありませんね?判決期日は追って指定します。それでは閉廷します」

 14時5分に、公判は終わった。
 弁護人の弁論の途中から、遺族らしき人のすすり泣きの声が聞こえてきた。
 弁護人は、それなりに熱心に弁論を行なっていた。
 建物の外では、弁護人が、ビデオカメラやマイクを向けられ、マスコミの質問に答えていた。
「現在における死刑の現状、死刑の趨勢、そういったことを考慮すれば・・・・」
「死刑に直面している者は、そうでない者より保護を与えられるべき。死に至るプロセスが解明されていない。被告人が店内に複数の人がいたと認識していたか」
等と、私が聞いた限りでは、弁論と同じ内容の答えだった。

事件概要  小林被告は、2001年5月8日、青森県弘前市の消費者金融にて現金を要求し、断られた腹いせに店を放火し、5人を殺害し4人を負傷させたとされる。
 小林被告は02年3月4日に逮捕された。
報告者 相馬さん


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