裁判所・部 最高裁判所・第二小法廷
事件番号 平成15年(あ)第600号
事件名 強盗傷人、監禁、強盗殺人、死体損壊、死体遺棄
被告名 川村幸也、野村哲也
担当判事 今井功(裁判長)
その他 書記官:櫻井敏夫、近藤重信
弁護人:三浦和人(川村)、森下範、大熊裕起(野村)
立会検察官:宮崎雄一
日付 2006.3.31 内容 口頭弁論

 9時55分から、先着順で48枚の傍聴券が交付された。しかし、時間までに来たのは、私を含めて3人だけだった。傍聴券は、濃緑色の厚紙に文字が書かれたものだった。
 入廷前には、荷物をロッカーに預けさせられ、金属探知機のゲートをくぐらされた。そして、職員の案内に従って、第二小法廷に移動した。傍聴券に記載されている番号の椅子に座らされる。
 検察官、弁護人が入廷する前に、眼鏡をかけた男性職員が、マイクのテストをしていた。太った、頭を丸坊主にした男性が、検察官の席に六法全書と薄い書類を運んでいたので一瞬検察官かと思ったが後に検察官が入廷したので、どうやらその男性は職員だったらしい。
 検察官は、白髪交じりの髪を短く刈った、眼鏡をかけた痩せた初老の男性だった。
 弁護人は、30ぐらいの中肉中背の男性、眼鏡をかけ、太った、髭をはやした大熊弁護人、癖のある髪の痩せた中年男性の三人であり、左からその順に椅子に座る。30ぐらいの弁護人は、書類を読んでいた。大熊弁護人と、癖のある髪の中年の弁護人は、何か話していた。
 締め切り時間より後に、4人の傍聴人が入廷する。マスコミ関係者らしき男性も、二名入廷していた。
 中年男性の職員から、裁判官達に礼をしろ、指示に従え、等と注意事項が伝えられる。

 10時30分から、弁論は開始された。
 裁判長達が入廷し、全員が起立し、礼をする。
裁判長「それでは開廷します」
職員「被告人、川村幸也(ユキナリと読む)、野村哲也両名の、強盗傷人、監禁、強盗殺人、死体損壊、死体遺棄事件について開廷いたします」
裁判長「まず、川村幸也の関係について。三浦弁護人は、上告趣意書の補足を陳述しますか?」
 中年の癖のある髪の弁護人「はい、陳述します」
裁判長「野村哲也の関係について、大熊弁護人は、上告趣意書の補足を陳述しますか?」
大熊弁護人「はい、陳述いたします」
裁判長「補足内容について陳述してください。まずは、川村幸也の関係から」

−三浦弁護人の、川村幸也に対する弁論−
 本件は、動機が十分に解明されないまま死刑となっています。
 死刑該当の犯罪は、多大な利益を求めて殺人を犯す、怒りを発散させるために殺人を犯す、等です。
 過去の死刑判決の例は、三人を殺害しているか、二人殺害の事例でも、場所や時間を異にしています。
 被害者を殺害する被告人の動機は無く、被害者に対する恨み、殺害による利益も無い。ドラム缶、チェーンソーを買ったため、手段の方が金がかかっています。被告人にとって、本件犯行は利益が無く、積極的に加担すべきものではありません。本件犯行に意味を見出すとすれば、債務者への取立てなどしか考えられません。
 前歴、生活歴からして、被告人は矯正不可能ではない。周囲に流されて犯行を行った。
 被告人は、16歳のとき以来、バイク事故で足を失っており、それを周囲に悟られないよう、虚勢を張って生きてきた。それが、本件犯行の動機である。殺害の話をしていたからといって、殺害を計画していたとは言えない。
 特異な殺害方法は、被告人の以前の生活歴からは無縁である。殺害方法は、どのようなものでも残虐であります。放火殺人はよくあるものであり、本件は、リンチを長時間にわたって加えたものではない。従前の殺人と比べて、残虐とは言えない。
 本件の殺害動機について。本件は、多人数による犯行であり、誰かが話せば発覚するものである。無計画であり、はっきりとした目的、計画性の無い犯行である。ロープも前日に用意している。共犯者の間に共通の目的は無い。
 被告人は、本件犯行以前に、生活歴に悪いものは無い。
 一罰百戒という一般予防の観点で言えば、本件は、準備の方がコストが高く、模倣犯は発生しない。一審判決は、残虐な刑罰を禁じる、という憲法36条、判例にも違反する。

裁判長「野村哲也の関係について、陳述してください」

−大熊弁護人の、野村哲也に対する弁論−
 原審には、事実誤認があります。
 原判決は、一審同様、強盗傷人及び強盗殺人の成立、殺人の計画性を認定しています。しかし、被告人には強盗の犯意はありませんでした。また、襲撃を殺人未遂とは考えておらず、傷害の程度でのみ成立する。原審判決は、破棄しなければ正義に反する。
 被告人は、陳述書にある通りの主張をしています。即ち、被告人は、cさんに対する取立てを、Y1から頼まれている。
 Y1から、使い込みを疑われ、cさんに、それは事実ではないと証言してもらうため、連れて行こうとした。
 以前の、cさんに対する取立てのときの態度からして、一筋縄ではいかないと考えたため、拉致して灯台に連れて行こうとした。
 3月2日に、灯台に電話がかかってきた。それは、Y1からであり、「cからの取り立てどうなってるんや、馬鹿野郎」と言われた。
 被告人は、Y1は、被告人の父親の命令で動いていると考えていた。被告人は、父親からは、いきなり殴られる、ベランダから落とされかける、などの虐待を受けており、それがトラウマになり、父親に対して恐怖心を抱いていた。
 被告人は、川村に相談し、金を使い込んでいない事を証明するため、cさんを連れて行く事にした。
 ドラム缶は、cさんを脅すために購入した。
 被告人は、牧田らに対し、殺人の経験があると虚勢を張っていたため、牧田らは、被告人がcさんを殺害すると、勝手に思い込んでいた。
 池田さんに対して、拉致が困難になると思い、計画の中止を伝えていたが、被告の意思に反して犯行が起こってしまった。
 被告人は、女性を拉致して困り、Y1に電話した。Y1は「しゃーねーな、死人に口無しじゃ」と言った。
 被告人は、マジェスタまで一緒に来たため、とるつもりが無かったので驚いた。白沢に「何でマジェスタに乗ってるんだ」と聞くと、「(聞き取れず)が持って来いと言った」と言われた。マジェスタをとる、と被告人が言っていたためである。
 被告人は、女性の携帯電話に電源が入っていると場所が特定されると思い、女性達の持ち物を調べた。金品を物色していたわけではない。持ち物を調べている時、牧田が金を見つけ、被告人は川村と相談し、それを貰った。これは窃盗罪である。被告人には、300万円の預金があり、強盗の意思はなかった。この主張自体に不自然な所はありません。240万円の手形の不払いに絡んで人を殺す理由は無い。
 牧田らは、被告人の虚勢を信じ込み、虚勢を真に受けていた。
 Y1の「死人に口なしじゃ」という示唆があって、被告人は殺人を決意した。
 警察出頭前に、被告人は、Y1と会い、Y1から「警察の言うとおりにしておけば間違いない」と言われ、被告人はそれを信じた。また、Y1から、「俺のことは言うな。言えば社長(被告人の実父)が捕まる」とも言われている。そのために、被告人は事実を言わなかった。
 一審には著しい事実誤認があり、破棄しなければ正義に反する。
 また、死刑は、残虐な刑罰を禁じている憲法36条にも反する。
 死刑は残虐な刑罰である。死刑囚は、執行まで毎日脅え続ける。死刑が苦しめるのは死刑囚だけではなく、罪の無い死刑囚の家族をも苦しめる。被告人には、妻子、親が居て、それらの人も苦しめる事になる。死刑執行は、拘置所の職員にも苦痛を与える。また、死刑は、憲法13条、98条にも反している。
 また、本件における死刑の量刑については、最高裁の判例にも反している。
 (男性と女性の共犯事件における量刑の均衡に関する判例について言及する)
 牧田、佐藤は無期懲役であり、被告人と二人を分ける理由は無い。二人は、自発的に取り込み詐欺の集団に入っており、かけられていた生命保険も、せいぜい詐欺に専念させるためのもので、六人の上に、厳格な上下関係は無い。
 牧田は、積極的に犯行に関わっており、佐藤に至っては、何等躊躇する事無く犯行に関わっている。二人のうち一人をドラム缶に入れている。被告人と二人の刑を分ける理由は無い。
 殺害を決意したのは、Y1の示唆によるものであり、強盗の犯意は無かった。集団心理の作用も考慮すべきである。
 また、被告人は、自ら出頭しており、200万円を被害者側に支払い、被害所の冥福を祈っている。
 また、父親の虐待によるトラウマがあり、生育歴は不幸だったにもかかわらず、被告人に前科は無い。
 原判決は、著しく正義に反するものであり、絶対に破棄されるべきものである。

 次は、検察官の弁論が行われる予定だったが、川村被告の弁護人である三浦弁護人が、補足意見を述べた。

−三浦弁護人の補足意見−
 本件犯行に関わりのある金融業者は、山口組系列の近藤組のものである。川村は、それに従い、警察の調書が作られた疑いを持っている。
 動機について、いい加減な裁判がなされて死刑になるのは納得できない。

−宮崎検察官の弁論−
 弁護人の各上告趣意の内、憲法違反、判例違反の主張は、実際には量刑不当の主張である。
 本件は、野村、川村が、牧田らと共に、三名を角材で殴打して怪我を負わせ、cは逃げたが、被告人らはaらを拉致し、同女らをドラム缶に押し込んで焼き殺し、チェーンソーで遺体をバラバラにして遺棄した事案である。ドラム缶に被害者達を閉じ込め、開かないようにふたに角材をかけた後、悲鳴を上げる同女らを焼き殺した残虐な事案である。
 被告人二名は、cに返済を断られ、面子をつぶされたとして、犯行に及んだものである。b、aは、手形取立に全く無関係であり、被害者遺族の処罰感情は厳しい。
 被告人二名の刑事責任は、牧田ら四名とは格段の差がある。
 野村は、実父から、手形の取立てが進んでいないと言われ、犯行に及んだ。
 川村は、自分は元暴力団組員であり、出入りで足に怪我をして足が不自由だ、と言って、四名に対し、強さを誇示していた。役割は、野村に準じる。現場での言動は、野村と変わらず冷酷である。
 被告人らが反省している事を考慮しても、量刑不当の主張には理由が無く、上告は速やかに棄却されるべきである。

 これで、弁論は終了した。判決期日は追って指定される。
 終了時刻は、11時5分だった。

 裁判長らが退廷した後に、傍聴人は退廷が許可される。
 マスコミ関係者らしき人は、メモを取っていた男性二人以外にはおらず、開廷前の撮影も行われなかった。
 弁護人達は、それなりに熱心に弁論を行っていた。
 検察官は、淡々とした口調で弁論を読み上げた。

事件概要  両被告は共犯に指示し、2000年4月4日、愛知県名古屋市で約束手形の支払いに応じなかった喫茶店経営者から金品を奪って殺害しようとしたが、同人の拉致に失敗し、代わりに同人の妻とその妹を拉致し、同県瀬戸市の山林でドラム缶に入れて焼き殺したとされる。
報告者 相馬さん


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