裁判所・部 最高裁判所・第三小法廷
事件番号 平成14年(あ)第730号
事件名 殺人、強姦致死、窃盗
被告名 F.T
担当判事 濱田邦夫(裁判長)上田豊三、藤田宙靖、堀籠幸男(裁判官)
その他 調査官:前田
書記官:吉川哲明、河合仁
弁護人:安田好弘(主任)、足立修一
立会検察官:幕田英雄
日付 2006.3.14 内容 口頭弁論

 今まで傍聴した最高裁の公判のときよりも少し報道陣が多いような気がした。また、傍聴券の抽選も39枚の傍聴券に対し、61人が集まったので、やはり関心の高い事件であると実感した。
 法廷に入ると、一般傍聴人よりも前に、特別傍聴人として遺族の方々が傍聴席の最前列に座っていた。
 また、遺族のY1さんが殺害された母子の写真を掲げていた。
 私は遺族の方々の隣に座った(配布された傍聴券には席番号が書かれており、傍聴人はその席に座る。つまり、最高裁の傍聴では指定席制)。
 開廷予定は1時半だったが、2分間の撮影時間があるためか、それよりも数分早く裁判官が入廷した。そのため、撮影が終わり、カメラマンが全員退廷して、廷吏が「平成14年(あ)730号、F.T被告人に対する殺人、強姦致死、窃盗事件、開廷いたします」と宣言したときが、ちょうど13時30分だった。
 しかし、そのときになっても弁護人は出廷していなかった。

裁判長「本日は弁護人がいずれも不出廷のため裁判の進行ができません。そのため、本日の弁論は・・・」
幕田検察官「(挙手して)裁判長!裁判の進行に関して意見を」
裁判長「簡潔に、裁判の進行に関する限りでお願いします」
幕田検察官「本日この法廷には被害者の遺族7人が遠くから3年4ヵ月ぶりに裁判が進展するのを見届けるために傍聴席に座っています。弁護人が出廷しなかったことは明らかに訴訟遅延目的で、遺憾なことであると、遺族に代わって強く申し上げます。
 本件は平成14年3月に上告されて、10月30日に上告趣意書が弁護側に転送されてから本日まで3年4ヵ月あり、反論の機会は十分にありました。しかるに、昨年の12月6日に弁論の期日が本日に指定されて以後、上告審についての様々な報道予測がなされ、3月6日、旧弁護人が辞任し、被告人は旧弁護人の辞任を承認したうえで自ら2名の弁護人を選任しました。新弁護人は期日変更を申し立てたが、本件は昨年の12月6日に弁論期日が指定されたものであって、弁護人はそれを承知の上で弁護人に就任したものであるという理由で却下されたのにもかかわらず、弁護人は本日の弁論を欠席したものであります。これは審理を空転させ、判決を可及的に遅延させようとしているのが明白であり、報道予測(の通りになることを)恐れた被告人の意向に沿ったものです。
 以上のことから、弁護人の欠席は審理を可及的に遅らせるものであって、それは被告人の責めに帰すべきものであります。
 また、本件は必要的弁護事件でありますが、弁護人が正当な理由がなく欠席したものであって、憲法に定められた迅速な裁判と、国民の付託を受けた裁判所の威信を総合的に勘案した上で、刑事訴訟法282条、同286条を類推適用し、刑事訴訟法289条の例外が適用されるべきであります。従って、弁護人不在のまま、検察官の弁論のみを行い、結審するべきであると思料いたします」
裁判長「では、進行について合議をいたします」
 濱田裁判長がそう言うと、裁判官は退廷した。

 傍聴人たちは戸惑い、裁判官が起立して礼をしても「え?」という感じだった。
 職員から何の説明もなく、数分の間そのままの状態で待たされた後、職員が「間もなく、裁判官が入廷いたします」と知らせると、最初開廷したときと同じように裁判官が再入廷した。

裁判長「当裁判所としましては、本日は弁護人不在のまま弁論を行うことはせず、期日を延期することといたします。しかし、当裁判所の見解を述べさせていただきます。検察官の言うとおり、旧弁護人が3月7日に辞任し、新たに選任された弁護人によって期日変更が申し立てられました。しかし、本件は昨年の12月6日に弁論期日が指定されたものであって、弁護人はそれを承知の上で弁護人に就任したものである。また本件は検察官のみが上告している事件であり、すでに被告人側から詳細な反論書が当裁判所に提出されている。そのため、期日を変更するやむをえない理由にはなりえないとして、申し立ては3月8日に却下されました。したがって、弁護人として本日の弁論に欠席したことは何ら正当な理由に基づくものではなく、極めて遺憾なものと考えます。当裁判所の見解は以上です。次回期日は、4月18日火曜日の午後3時からとします。両弁護人には、次回期日に是非とも出廷するよう求めます」

 こうしてこの日の公判は閉廷した。一連のやり取りはちょうど15分だった。

 傍聴人からは不満が噴出し、退廷する前に「最高裁、何やってるんだ!」と大声で言う人もいた。また、外を出た後も、「何なんでしょうかね」などという人もいた。
 しかし、不満をぶちまける一般傍聴人とは違って、Y1氏ら遺族の方々は検察官に挨拶をしていた。

事件概要  F.T被告は1999年4月14日、山口県光市で暴行目的で会社員宅に上がり込み、主婦を絞殺し、泣き叫んだ長女も絞殺したとされる。
報告者 Doneさん


戻る
inserted by FC2 system