裁判所・部 最高裁判所・第一小法廷
事件番号 平成15年(行ヒ)第108号
事件名 原子炉設置許可処分無効確認等
上告人 経済産業大臣
被上告人 磯邊甚三、外31名
担当判事 泉徳治(裁判長)横尾和子、甲斐中辰夫、島田仁郎、才口千晴
その他 立会書記官:松戸敏男、高橋多美男
日付 2005.3.17 内容 口頭弁論

 この日は雨が降りましたが、傍聴希望者は198人にも集まり、それに対して傍聴席は26席だったため傍聴は無理かと思われましたが、私は奇跡的に当選し傍聴することができました。抽選のために並んでいると、すぐとなりでニュースの撮影が始まったこと、開廷まえに2分間の撮影が許可されましたが、6台のテレビカメラが撮影をしたこと、また、社民党の福島代表が傍聴に来ていたのも印象的でした。

 口頭弁論では、まず泉裁判長が上告人に主張は上告趣意書、上告受理申立書のとおりかと確認し、被上告人に主張は答弁書のとおりかと確認し、いずれも「そのとおりです」と答た。次にそれぞれがその主張の要旨を陳述した。

 まず上告人の経済産業大臣の代理人の弁護士は、もんじゅの設置許可を無効とした原判決を、法令違反や判例違反があるとして是認できないと述べた。
 伊方発電所原子炉設置許可処分取消訴訟についての最高裁判所平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174ページ(以下「伊方判決」という)の判示によれば、原子炉設置許可処分が違法と評価されるのは、現在の科学技術水準に照らし、
@原子力安全委員会又は原子炉安全専門審査会の調査審議で用いられた具体的審査基準に不合理な点がある場合、あるいは、
A当該原子炉施設が具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会又は安全審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落がある場合である。
 行政処分の違法事由と無効事由との関係については、判例を含めて、一般には、裁判所が行政処分を無効と宣言できるのは、当該行政処分に重大かつ明白な違法事由(瑕疵)がある場合に限られると解されてきた。しかし、行政処分の種類、性質、内容は、複雑で多種多様なものがあり、それに応じて、違法な処分によって国民が受ける不利益の程度も、必ずしも一様でない。そのため、事案によっては、無効要件として重大かつ明白な瑕疵の存在を不可欠とすることが適当でない場合がある。したがって、違法な行政処分を無効とするには、原則としてその違法が重大かつ明白なことを要するが、特段の事情のあるときは、必ずしも違法の明白性の要件は必要としないとしているものと解される。原子炉設置許可処分については、原子炉の潜在的危険性の重大さのゆえに特段の事情があるものとして、その無効要件は、違法(瑕疵)の重大性をもって足り、明白性の要件は不要と解すべきである。そして、原子炉格納容器内に閉じ込められている放射性物質が周辺の環境に放出される事態の発生の防止、抑制、安全保護対策に関する事項の安全審査(安全確認)に瑕疵(不備、誤認)があり、その結果として、放射性物質の環境への放散の事態発生の具体的危険性が否定できないときは、安全審査の根幹を揺るがすものとして、原子炉設置許可処分を無効ならしめる重大な違法(瑕疵)があるというべきである。
 原判決は、以下に述べるとおり、最高裁判所の判例に相反する判断があるほか、法令の解釈に関する重要な事項について誤った判断があり、これらが判決に影響を及ぼすことが明らかである。

ア 原判決は、行政処分の無効原因は、違法及びその重大性のみで足り、その明白性を必要としないとして、最高裁判所の判例に反する見解を採り、そのため、原審の確定した事実関係を前提としても、何ら明白な違法事由が認められる余地はないのに、本件許可処分が無効であるとの誤った判断をした。
イ 原判決は、原子炉設置許可処分の要件の一つである原子炉等規制法24条1項4号の「原子炉施設の位置、構造及び設備が(中略)災害の防止上支障がないものであること」の解釈適用において、当該原子炉施設に係る事故防止対策では重大な事故の防止を図ることができないと認定判断される場合に限り、この要件を充足しないこととなるとするのが、原子炉等規制法の正しい解釈であり、判例理論であると解されるところ、同規定の解釈を誤り、放射性物質が周辺の環境に放散される事態の発生の抑止等に関する事項の安全審査の過程の一部に瑕疵があり、その結果として、上記事態の発生の「具体的危険性を否定できない」という判断のみによって原子炉設置許可処分は常に違法となる(さらに、違法の重大性も肯定されるともいう)との見解を採ったため、原審の確定した事実関係を前提としても、原判決のいう違法事由のいずれについても同規定の要件の不充足の違法は認められないにもかかわらず、単なる可能性ないし危惧の念から「具体的危険性」を否定できないとして、独自の解釈に依拠して本件許可処分が無効であると判断した。
ウ また、上記要件の審査(安全審査)については、主務大臣及び原子力安全委員会の専門技術的知見に基づいた判断が尊重されるべきであり、安全審査を違法というためには、その尊重の要請を覆してもなお専門技術的判断が不合理であることが具体的根拠をもって認定判断されなければならないとするのが、原子炉等規制法の正しい解釈であり、判例理論であると解されるところ、原審の確定した事実関係を前提としても、そのような具体的根拠は認められないにもかかわらず、原判決は、専門技術的判断の尊重の観点を欠いたため、本件許可処分が無効であると判断した。

 以上のとおり、原判決には、最高裁判所の判例と相反する判断があるとともに、法令の解釈に関する重要な事項が含まれる。そして、上記の判断は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反であり、結局、原判決は、確定した事実について法令の適用を誤ったものであるから、原判決を破棄し、控訴を棄却すべきである、と主張した。

 被上告人の答弁は、出廷した原告団の小木曽美和子事務局長をはじめ、代理人の弁護士など、計7人がそれぞれ全員陳述をするという形で行われた。まず小木曽事務局長は、地元住民はもんじゅの設置許可が無効となることを切に願っていると述べた。
 原告らは、もんじゅから半径10km〜50kmに住んでおり、万が一事故が起こったら、受ける被害は言葉につくすことはできないものである。また、1992年9月22日、最高裁第三小法廷は、本件につき原告全員に原告適格を認め、福井地方裁判所に差し戻した判決の中で、プルトニウムが猛毒であること、研究開発段階にある原型炉である高速増殖炉であり、炉心内において毒性の強いフルトニウムの増殖が行われ」、原告らは全員「審査に過誤、欠落が在る場合に起こりうる事故等による災害に因り直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域内に居住するもの」と認定した。そして、本件もんじゅには、
@1グラムで10万人を肺がんで死に至らしめる、
A冷却に使う金属ナトリウムは、水に触れると爆発する上、水と熱交換をする為に一緒に使っている、
B軽水炉よりも先に研究が始まったにもかかわらず、未だにどの国でも実用化さていない、
という瑕疵がある。
 一審において、現在93歳の原告団長の磯邊さんは、「国は巨大科学技術の安全神話にとりつかれている」と述べたが、この翌年にチェルノブイリの原発事故が起こった。多数の死者が出て、そして被爆者は白血病におかされ、日本の本州の64パーセントにあたる面積が汚染された。そして、もんじゅでもナトリウムの火災事故が起こった。これによって、周辺住民が受けた衝撃は言葉につくせないものである。また、この事故でそれまでの国の想定はことごとく覆され、事故の対策にとられたものも全く機能しなかった。この事故が乾燥していない春などに起こった場合、さらに大きな事故となった可能性もあるという。しかし、この事故の以前にすでに燃焼実験が行われていた。ナトリウムは880度にもなり火災を起こすことがわかっていたにもかかわらず、この結果は説明を怠り、科学技術庁と原子力安全委員会にも隠したのである。また国の安全審査基準も、マグニチュード6.5以上の地震は起こらないなどの前提で、ナトリウムの火災事故からも手抜き審査というほか無く、国民や福井県民を失望させた。住民はもんじゅを二度と動かさないで欲しいと署名活動をした。

 次に2人目の弁護人の陳述では、国は本件の訴訟が係争中にもかかわらず、もんじゅの改造工事を進めようとしていると指摘し、これを民意に反する傲慢なものとして、本件の原子炉認可の重大な温床であるとした。このようなずさんな安全審査基準で原子炉が設置されれば、どのような地獄図がえがかれるか想像できない。また、JCOの臨界事故や美浜原発の事故を挙げて、これらの事故で国はいずれも事業者責任として自らの責任は不問とし、小手先の改造だけで誤った審査基準を見直すことは無かった。今日で本件は提訴から20年がたち、原告のうち6人はすでに故人となり、他の原告も高齢化している。貴裁判所には、司法の明確な判断を示されたい、と求めた。

 3人目の弁護人は、もんじゅは原子炉等規制法(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)24条1項4号の基準(原子炉による災害の防止上支障がないものであること)が満たされていないとした。ナトリウムの火災事故からも事故対策は不十分であり、この法令の趣旨と照らしあわせば重大な事故が起こる可能性がある、もんじゅの設置許可は無効である。また、上告人の上告理由は、独自の見解であって、理由がないのは明らかである。そもそも本法は、原子力が莫大なエネルギーをもっていることに鑑み、他の事業法とは異なり、万が一事故が起こったら、従業員や周辺住民に深刻な被害を及ぼす可能性があることから、特別に厳格な審査基準を設けるというのがその趣旨である。そして、原子炉の設置許可が最初にして最も重大な処分で、周辺住民のかげない生命身体を守るものである。これは原子力安全委員会が、科学技術庁が行った原子炉設置(変更)許可申請に対する安全審査の結果について最新の科学技術的知見に基づき客観的な観点からダブルチェックを行うことからもうかがえる。
 また具体的安全審査基準について、本件安全審査の中心的な具体的審査基準である「高速増殖炉の安全性の評価の考え方」は、高速増殖炉が、研究開発の段階にあり、安全性評価の実績も少ないため、独自の審査基準を策定することが未だ技術的に不可能であることから、軽水炉原子力発電所に適用されている基準、すなわち、「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」、および「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」を、また、耐震設計の審査基準としては、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を、それぞれ高速増殖炉の特徴を考慮した上で適用するよう指示している。このうち、「軽水炉安全設計審査指針」は、設計の基本方針を概括的、定性的に指示するだけの内容であり、「基本設計の安全性」の当否の判断は専門家とされる審査委員に委ねられていたが、かかる判断方法に対しては、原発先進国アメリカでは、安全性の評価のために、「設計基準事象」を想定し、その安全解析方法も法律化されていることと比べても判断方式が極めて恣意的であるとの批判がなされていた。そうした状況を受けて、昭和53年9月29日、「基本設計の安全性」の当否を定量的に判断するための基準として、「軽水炉安全評価指針」が制定された。 そして、「もんじゅ」の安全審査の開始直前である昭和55年11月6日、その指針に準拠して、「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」が策定された。
 次に、4号要件の審査における単一故障指針に基づく安全評価の方法 について、24条1項4号の要件、すなわち、原子炉施設の位置、構造及び設備が、「原子炉等による災害が万が一にも起こらない」ものであることを確認するための重要な約束事のひとつが、いわゆる「単一故障指針」である。「単一故障指針」は、「原子炉施設のPS系統(異常発生防止系)に故障や誤動作などの不具合なところをひとつ」想定し、「注目しているMS系統(異常影響緩和系)の中に、任意にひとつの故障(単一故障)を仮定しても、所要の機能を果たすことができるかどうかをみるという」審査における約束事であり、これにより、「極めて簡明に」、原子炉施設の「多重性あるいは多様性を確認することができる」審査方法であって、その系統別適用が安全設計指針であり、機能別適用が安全評価指針である。ただし、「単一故障指針はもともとの系統・機器の信頼性が十分であることを前提として、その上で設計上最悪の故障をひとつ考えて、これに対処できるだけの多重性、多様性を確保しようとする考え方」であって、「単一故障指針を適用して作った系統だから、故障はひとつまではあってもよいなどというのは、明らかに誤った考えである」。高橋滋「先端技術の行政法理」は、基本設計と、基本設計の想定を超える「苛酷事故」との関係について、「これらの事象(苛酷事故)については基本設計等を通じ合理的安全対策がとられることを前提としてはじめて発生確率が当該事象を無視し得る程低くなることが承認されるのであって、合理的安全対策の存在という大前提を抜きにして当該事象を無視しうることが承認されている訳ではない。安全対策に根本的欠陥があれば、『苛酷事故』は現実のものとなる。」と述べるが、これも、単一故障指針に基づく基本設計の安全性の確認が重要であることを、「苛酷事故」との関係で指摘した。
 もんじゅには、具体的基準に照らしあわせば、看過しがたい重大な欠落があり、4号基準も満たさない。また、本件上告理由の実体は国側の利益救済説の立場そのものに外ならず、法的利益救済説とは異質のものであり、明らかに理由がない。
 貴裁判所には、安全審査基準について、司法の明確な判断を強く求める。

 次の弁護人は蒸気発生器伝熱管破損事故について、本件原子炉施設における「蒸気発生器伝熱管破損事故」の解析においては、伝熱管の破損伝播の形態は、ウェステージ型破損が想定され、高温ラプチャ型破損(注6)を想定していなかったことが明らかであるから、科学技術庁も原子力安全委員会も、高温ラプチャによる破損伝播の可能性を審査していない。高温ラプチャの防止対策の観点から見た本件原子炉施設の設備には、高温ラプチャ防止の絶対的効果を期待することができないから、本件原子炉施設において、蒸気発生器伝熱管破損事故が生じれば、高温ラプチャ型破損の可能性を否定することはできない。そして、蒸気発生器伝熱管破損事故における破損伝播による2次漏えいを考える場合、その結果の重大性は、高温ラプチャ型破損のほうがウェステージ型破損よりもはるかに深刻である。そうすると「蒸気発生器伝熱、管破損事故」についての原子力安全委員会の本件安全審査の調査審議及び判断の過程には、看過し難い過誤、欠落があったというべきである。蒸気発生器伝熱管破損事故が発生し破損伝播が拡大すれば、ナトリウム−水反応による圧力上昇によって、水素ガス(気体)の混入した2次冷却材ナトリウムが中間熱交換器の伝熱管壁を破って1次主冷却系に流入して炉心に至る可能性があり、そうなれば、本件原子炉の炉心中心領域ではナトリウムボイド反応度が正であるから、出力の異常な上昇と制御不能を招き炉心崩壊を起こすおそれがあるまた中間熱交換器が破損した場合放射能によって汚染された1次冷却材ナトリウムが事故ループの2次冷却系に流入することも十分考えられる。以上のことからすると、本件安全審査の瑕疵によって、本件原子炉施設においては、原子炉格納容器内の放射性物質の外部環境への放出の具体的危険性を否定することができないというべきであり本件許可処分は無効である。
 最高裁は過去の判例で、課税処分に課税要件の根幹に関する内容上の過誤が存し、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしん酌してもなお、被課税者に同処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である。」と判示し、明白性の要件を問うことなく、課税処分を無効とした。 以上を概観すれば、最高裁の判例は、違法な行政処分を無効とするには、原則としてその違法が重大かつ明白なことを要するが、特段の事情のあるときは、必ずしも違法の明白性の要件は厳格のものではなく、本件でもこれは同様のことがいえる(上告人はこれついて、課税について争った判例であり、本件とは相容れない判例であると反論している)。また、周辺住民は何の落ち度もないにもかかわらず、危険にさらされることとなり、その不合理さは明らかである。上告人の上告理由は、24条1項4号の解釈を誤ったものであって、原判決を維持し、明白な判断を示すよう求める。

 次の弁護人はナトリウムの漏洩事故について、この事故以来9年間運転が停止されていると指摘した上で、2次冷却の金属ナトリウムの火災が想定されていたかどうかが問題であるとした。想定では、配管内のナトリウムが床ライナーに落下しても、530度を越えることは無く、事故は収束するとされていた。しかし実際は床ライナーは損傷し、貫通した。さらに、水と爆発的に反応し、1400度を越え、計測不能の大惨事になった可能性もある。そもそも、上告人の代理人はこれらの化学反応の知識を有していない。よって、もんじゅの安全基準には、軽微なものではない看過しがたい重大な過誤があり、安全基準を見直すべきである。
 さらに、蒸気発生器伝熱管破損事故について、ナトリウムと水の熱交換をするが、これらが反応すると激しい爆発的反応を起こす。また、1987年イギリスの高速増殖炉PFRで、蒸気発生器で事故が起こった。細管の1本がギロチン破断し、わずか20秒間に40本の細管が次々と破断した。他にも70本が変形する大事故が起こった。ナトリウムと水の爆発的反応が起こったのだ。「もんじゅ」では最高4本破断が想定されているだけ(鼻で笑う)。事故想定が甘いことが分かった。しかも、これらの事実は国民に隠された。京大教授の小林氏の協力と、福島議員の開示請求で、地裁の結審の直前に開示されたが、私はそのときの驚きを今も忘れられません。国民に事実を隠して、設置許可を騙し取ったといっても過言ではありません(手振りを交えて)。冷厳な司法の権威をもって、係る設置許可を無効とするべきである。

 次の弁護人は、炉心崩壊事故について、決して空想の出来事としてではなく、現実に起こり得る事象としてその安全評価がなされなければならない。そして、その事象は重大な結果を招くのであるから、炉心崩壊の際に生じるエネル ギーの評価は特に重要である。原子力安全委員会は「1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」、における炉心損傷後の最大有効仕事量(機械的エネルギー)の上限値を約380MJとした申請者の解析を妥当と判断した。しかし、この判断は、同事象における起因過程での炉心損傷後の機械的エネルギーの上限値に関するものであり、遷移過程における再臨界発生の機械的エネルギーの評価をも併せて行った果に基づくものではない。要するに、遷移過程における再臨界の際の機械的エネルギーの評価はされていないのであり、この評価の欠落は、炉心崩壊事故という重大事故の評価に直接かかわるものであるから、看過し難いものというべきである。
 また、起因過程における即発臨界の際の機械的エネルギーを約380MJとする解析評価についての本件安全審査の判断も、申請者がした解析結果の中には380MJを超えるケースがあることを知らずにされたものである。したがって、原子力安全委員会の380MJを妥当とした上記判断は、原子炉等規制法が期待するような科学的、専門技術的見地からの慎重な調査審議を尽くしたものと認めるには、余りにも大きな疑問があるため、これを尊重するに足りる適正な判断と認めることはできない(これらの判断はコンピュータのシミュレーションによるもので、992MJという結果を原告側は示している)。この反応度抑制機能喪失事象は炉心崩壊事故に直接かかわる事象であり即発臨界に達した際に発生する機械的エネルギーの評価を誤れば、即発臨界によって原子炉容器及び原子炉格納容器が破損又は破壊され、原子炉容器内の放射性物質が外部環境に放散される具体的危険性を否定できないことは明らかである。したがって、炉心損傷後の最大有効仕事量(機械的エネルギーの上限値)に対する本件安全審査の瑕疵は、本件許可処分を無効ならしめるものである。
 また、この弁護士は陳述を終えるにあたり「ちなみに最後に陳述をする吉村悟弁護士は、『高速増殖炉など建設に反対する敦賀市民の会』代表委員の吉村清氏のご子息です。私は吉村弁護士と本日最高裁の口頭弁論で共できることを光栄に思っています」と述べて、陳述を締めくくった。

 最後に吉村悟弁護士は、今日最高裁で2度目の口頭弁論を迎え、提訴から20年、一審判決から13年、この長期裁判の被上告人の努力を無視するべきではないと述べた。本件の無効確認は、安全審査の全面的見直しであって、もんじゅの永久廃棄ではない、と意外な陳述をした。一審の証人尋問で、当時の原子力安全委員長は、可能な限り見直すと証言したが、それが可能だったにもかかわらず、今日まで見直されることは無かった。本件が係争中にもかかわらず、国は改造工事を進めようとしている。これに対し、司法は毅然とした対応をするべきだ。また、世界を見ても高速増殖炉は時代遅れであって、どの国でも実用化されていない。本件無効確認が認められ、もんじゅが廃棄されても国のエネルギー政策に影響を及ぼすことはない。貴裁判所はこのような世界的潮流、国民の期待を考慮して、明確な判断を示すことを求める、と述べた。

 これで口頭弁論は終結し、判決期日は追って指定するとして、閉廷した。

報告者 Doneさん


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