裁判所・部 さいたま地方裁判所・刑事第一部
事件番号 平成17年(わ)第231号等
事件名 現住建造物等放火、同未遂、窃盗、建造物損壊、建造物侵入
被告名
担当判事 飯田喜信(裁判長)今岡健(右陪席)山田礼子(左陪席)
その他 書記官:遠藤徹
日付 2006.5.24 内容 証拠調べ

 記者席は16席用意されていたが、3人しか座らなかった。
 遺族席は11席用意されていた。4人が座り、その内の二人の女性が、大きな遺影を一つずつ持ち込む。また、中年女性が、中ぐらいの遺影を胸のところに掲げていた。
 弁護人は、眼鏡をかけ杖を突いた足の悪い初老の男性と、眼鏡をかけた青年、眼鏡をかけた初老の男性の三名。
 検察官は、眼鏡をかけた青年1名であり、開廷前、書類に何か書き込んでいた。
 裁判長は、眼鏡をかけた白髪の老人。裁判官は、若い女性と、眼鏡をかけた中年男性。 裁判長は、穏やかな口ぶりで話した。
 被告人は、小柄で浅黒いずんぐりとした中年女性。白髪をおかっぱにしているが、毛先は茶色だった。紺色のベスト、半袖半ズボンを着ている。服の色は、白を基調としており、英語のロゴが入っている。被告人は、何時ものように、ヨチヨチとした、ゆっくりとした足取りで入廷した。
 こうして、A被告の公判は、301号法廷で、13時10分から開始された。

裁判長「それでは開廷します。えー、A被告ですね」
被告人「はい」
裁判長「前回に引き続いて審理をします。本日の、えー、予定は、証拠の鑑定についてですけども、まず、乙号証について、前回、えー、弁護人から申請があった、被告人の捜査段階の調書ですけど、それについて、えー、弁護人の方から、えー、5月の、23日付けと、それから、えー、24日付け、で、えー、ま、前回、検察官の、あの、意見書に対する反論が出ていますが」
弁護人「はい」
裁判長「この通りでよろしいですか?」
弁護人「はい」
裁判長「それは、被告も大体解っていますか?」
弁護人「はい」
裁判長「えー、23日付の方が、えー、ま、全般的な、あー、再反論で、そして、24日付は、えー、供述書について、これは、二通、供述録取書になりまして、ご意見を書かれていますね」
弁護人「はい」
裁判長「そういう、調書ですね」
弁護人「そうです」
裁判長「えっと、検察側は、特に、弁護側の、その、再反論については、特に、さらに何か反論するとか、そういう事は、よろしいですね?」
検察官「基本的には再反論は考えておりません。ただし、本日いただきました乙56号証に対する反論は行ないたいと思います」
裁判長「はい」
検察官「乙56号証については、言いたい事があります。弁護人のご主張につきまして、要するに、えー、読み聞かせの手続きが無いから本件乙号証は、えー、証拠請求は却下されなければならない、と言いますが、供述録取書に書いてありますが、乙5号証におきまして、供述書が被告人の面前で作成され、かつ読み聞かせが成されて作成されている、と記載されています。そうした事をご検討の上、裁判所では、証拠の採否を決定していただきたいと思います」
裁判長「裁判所としては、あのー、本日、乙号証に対する採否の判断を示したいと、えー、申し上げましたけれども、えっと、あのー、弁護側のご意見もけっこう詳細なものですし、それから、もともと、えー、これについてはかなり、えー、重要な、えー、論点を含んだ、あのー、決定になると思いますので、えー、裁判所としては、えー、本日は、えー、判断を示さないので、えー、次回期日までに、えー、ま、遅くとも次回期日という事ですけれども、できれば次回期日までに、えー、決定を下して、えー、判断していきたいと思っております。ですから、ま、検察側は、本日に対するご意見は、えー、早めに出して頂いて、その論点を踏まえて結論を出したいと思います。ということで、今日は、乙号証拠についてはこれくらいで。それから、次が、えー、精神鑑定の関係ですけれども、えー、検察官の方から、5月の22日付で、えー、鑑定請求に対する意見書ということで、出ていますが、この通りという事ですね」
検察官「はい、そうですね」
裁判長「えっと、鑑定は不必要、まあ、棄却というご意見で、そういうご意見ですね」
検察官「ええ、そうですね」
裁判長「で、えー、弁護人は、これに対して、また反論なさいますか?」
弁護人「はい、あのー、一昨日頂いたのですが、かなり詳細な内容なので、弁護人としても、早めに整理して、出来るだけ早く書面で意見を改めて申し上げたいと思います」
裁判長「ああそうですか。では、あのー、これは、えー、本日、検察官から意見を頂いて、それから、次回期日までに弁護人からもご意見を頂いて、それで、次回に法廷で決めて、という段取りにしますので。そういう段取りで」
弁護人「はい」
裁判長「弁護人のご意見を早めに頂きたい。次に、それを前提として、裁判所の方で、簡易鑑定、それから意見書。甲633号と、これがEBですね。それから、634号。これは、IM鑑定ですね。これの関係の検察官からの請求がありますけれどもこれについては、弁護人のご意見はいかがですか?」
検察官「まず、633。これについてはこの立証趣旨のままでは不同意という意見を維持します。それから、634、これについては、意見を申し上げていなかったと思いますが、不同意という意見です。ただ、あのー、弁護人としても、えー、裁判所が精神鑑定の必要性をご判断いただける資料という形で使っていただける分には全く構わない、と思っておりますので、立証趣旨を変更する、或いは裁判所のご判断をいただける資料という形ならば構わないです」
裁判長「それは、意見書に関しても同じですね?」
弁護人「そうです」
裁判長「それから、えー、検察官の方は、逆に、弁五号証のFY鑑定、弁護人から請求があったものですが、これに関してはいかがですか?」
検察官「633,634に関して同意するのでしたら検察官としても同意します」
裁判長「裁判所としては、前にも申し上げましたけれども、本鑑定を、これを決める上での判断資料という観点から、今日同意を頂きたいと思っているのですが、これについてはいかがですか?」
検察官「弁護人が633,634に同意いただけるのでしたら、弁5号証についても、同意します」
裁判長「弁護人は、先ほど、本鑑定の資料という限度であれば構わないと言っていますが」
検察官「検察官としては、今日の時点では、立証趣旨を変える予定はありません」
裁判長「ちょっと合議しますから、そのまま待っていて下さい」
 裁判長達は、合議の為に、奥の部屋へと退廷する。13時18分ぐらいの事だった。
 合議の間、弁護人たちは、資料を読んでいた。被告人は、後ろに座る弁護人の方に少し顔を向ける事もあった。
 13時23分に合議が終了し、裁判長たちが入廷する。
裁判長「えっと、ま、この、えー、鑑定については、本鑑定の、えー、採否という、まあ、次回、重要な論点の決定なので、そして、今の合議の結果では、その判断資料として、やはり、あの、簡易鑑定書、意見書というのは、裁判所としては見ておいたほうが良いと、そういうふうに考えています。という事で、弁護人の意見は、EBの意見書、これについて、えー、鑑定、本鑑定の採否の資料という限度では、えー、同意すると、そういう、あのー、事ですので、裁判所としては、ま、検察官としては立証趣旨の変更は出来ないというお考えでしょうけれども(笑)、少なくとも、本日としては裁判所としては、その限度で、えー、633と634を採用する事にいたします。で、検察官としては供述調書としての具体的な立証趣旨ではないので不満かもしれませんが、本鑑定の採否を決める上で採用したいと思いますので、裁判所としては、その趣旨で理解する事にします。えーっと、そうすると、逆に、IM鑑定についても、ま、こちらについては、意見書が出ていますから、あのー、そういう限度では、よろしいと理解してよろしいですか」
弁護人「はい」
裁判長「それは、その程度で採用するという事で良いですね」
弁護人「はい」
裁判長「じゃあ、それは、そういう限度で採用するという事で。本日はそういう事で、あのー、本鑑定の採否を決める上での、資料としての、そういう事で、あの、EB、それから、意見書、それから、弁護人請求の、えー、IM鑑定、これを全て、えー、採用いたします。で、検察官の手元にあるんですか?」
検察官「はい、えーっと、原本御座います」
裁判長「えーっと、大体今までのやり取りで内容は理解しているつもりなんですけれども、ただ、現実は、今日が採用ですので、まず、検察官の方で、簡単に、EBと、それから・・・・、まずEBの内容、要旨の告知をお願いします。633」
検察官「633号EBですが、大分に渡りますので、結論を申し上げます。えー、鑑定主文、えー、『本件犯行時、被告人には、是非善悪の弁別能力、弁識能力、これに従って行動する能力、制御能力に著しい減退は無かったと考えられる。精神医学的に、心神耗弱にも心神喪失にも該当しない』という事です」
裁判長「この場合の本件各犯行というのは、どの犯行に関してですか?」
検察官「えー、平成16年12月13日のドンキホーテ大宮大和田店等のものでございますが、えー、本件を通じて、本件一連の犯行という解釈です」
裁判長「そういう理解でよろしいですね?」
弁護人「えー、検察官がそういう理解されるのは」
裁判長「はい」
弁護人「ま、これはわかるんですが、あの、要旨の告知という意味では、そのー、EBというのは、不十分ですので、窃盗に関しての鑑定資料という風な立場ですので、今のような要旨の告知というであれば正確ではない」
裁判長「要するに、何何の事件について、という風にすればよろしいのですか?」
弁護人「はい。結論という事で構いませんが、もう一度検察官が裁判官の前で申し上げて」
裁判長「えーっと、それから、次がIM鑑定ですが、弁護人の方から」
弁護人「はい。手元に無いので」
検察官「お返しします」
 弁護人は、検察官に、鑑定書を返してもらう。
弁護人「えー、裁判所の精神医療を委託した医師、IM鑑定作成の簡易鑑定書です。鑑定主文、えー、まず、えー、まず、本件犯行当時における被疑者の診断及び、という事で。『本件犯行時、平成16年11月18日の建造物損壊について。本件犯行当時、被疑者は、適応障害、心因反応に罹患していた。被疑者は、犯行時、治療薬(向精神薬)を多量に服用していた事による急性薬物中毒を起こし、意識障害を生じていたと判断される。それに引き続いて、本件犯行当時における被疑者の判断能力、及び、行動能力、並びに、適応障害は、明らかな心理的ストレス因子に関連して生じる心因異常状態であり、通常、事理弁式能力や、それに従って行動する能力に障害を齎す事はない。しかし、被疑者は、その症状である不安や焦りから生じる衝動攻撃性を緩和する事を目的に治療薬を多用している。その結果、意識障害を呈するに至っており、被疑者はこの結果を予測していなかった。意識障害下では、被疑者の事理弁式能力はかなり低下し、心神耗弱状態だと考えざるを得ない。本件犯行時責任能力を問える状態ではなかったと考えられる』という事です」
裁判長「それで、続いて、この634号証は、これに対する意見書という事なんですね」
検察官「はい」
裁判長「それは、どういう事?」
検察官「先ず結論から申し上げますと、平成16年11月18日当時、被告人には、責任能力が問える状態だったと思料する。なぜならば、犯行当時、事理弁識能力、行動制御能力を支配する意識障害、幻覚妄想、気分障害等は、当時の資料から抽出されなかった。したがって、先ほど弁護人が要旨の告知をしたIM鑑定の鑑定趣旨の論拠は妥当ではない。以上です」
裁判長「意見書作成者は何方ですか?」
検察官「えー、意見書の作成者は、社会福祉法人Z1社会医療協会Z1念病院院長、S・T氏です」
裁判長「ま、えっと、本日は本鑑定の採否でしたので、今、三つの証拠を採用しましたので、それを踏まえて、あと、弁護人の意見に基いて、次回は、本鑑定の採否を決めたいと思います。えーっと、そうすると、(下を見て)本日は、予定していた、んー、手続きは以上という事になりますので、次回までに、ま、遅くとも次回までに本鑑定の採否の決定を決めたいと思います。次回期日は、6月7、前回指定しましたけれども、6月7日1時10分。また、この法廷に。それから、恐らく、終わった後に、いずれにしても、その後の進行について協議を行いたいと思います。では、えー、本日はこれで終わります」
 全員、立ち上がり、礼をする。13時32分に公判は終了した。

 被告人は、傍聴席を少し見て、弁護人と少し話しをした後、ゆっくりとした足取りで退廷した。
 弁護人は閉廷後、廊下で雑談をしていた。

事件概要  A被告は2004年12月13日、埼玉県さいたま市のドン・キホーテを放火し、同社社員とアルバイトら3名を焼死させたとされる。また同じ時期に同市内のスーパー等5件の放火未遂を行ったとされる。
報告者 相馬さん


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