裁判所・部 大阪高等裁判所・第五刑事部(C係)
事件番号 平成20年(う)780号
事件名 殺人
被告名
担当判事 片岡博(裁判長)飯畑正一郎(右陪席)中田幹人(左陪席)
その他 検察官:河合文江
日付 2008.9.9 内容 初公判

 この日は十数年ぶりの冷夏の影響か、風が少し涼しく感じられたが、午後1時55分頃から、傍聴券交付会場には、先着順に、4〜5名程度の傍聴希望者が「やはり、暑いな」と言いながら集まっていた。
 午後2時頃になると、事務職員の人たちが来て、傍聴券交付会場の設営などを開始した。
 この日は、弁護士事務所女性事務員強盗殺人事件(地裁刑事3部)や「沖縄ノート:民事裁判」などで大勢の人が大阪の裁判所庁舎に来ている関係で、列に並んでいる人の一部からは、希望者全員に傍聴券が配布可能なのかを心配する声も上がっていたようだった。
 午後2時15分の抽選完了時刻になると、集まってきた人は、報道関係者も含めて20数名程度だったので、傍聴希望者全員に、すんなりと傍聴券が配布された。
 そして高裁3号法廷前では、事務職員の人たちが、慌だしく、(1)簡易式の法廷警備と、(2)事件関係者・少年被告人の入廷の準備を進めていた。
 一般傍聴者・司法記者の人たちが法廷に入廷したのは、予定よりも少し遅れて、午後2時35分頃であったが、その時点では、すでに片岡、飯畑、中田の高裁3判事と、少年被告人は着席していた。
 少年被告人は、3名の大阪拘置所の看守に挟まれ、手錠・腰縄は外された状態で、静かに着席していた。

裁判長「はい、それでは、傍聴人の入廷が完了したようですから、始めることに致します。はじめに、まず被告人の氏名などを確かめることにします。被告人、立って、前に出てください」

 少年は、自分のフルネーム、住所・本籍地が大阪府大阪市内某所であること、平成2年秋に出生したことなどを答えた。

裁判長「それでは、被告人に対する殺人被告事件について、今から、控訴審の審理を開始します。後ろの長椅子に掛けて聞いていてください」
 少年が、傍聴席に背を向けた状態で長椅子に着席し、裁判長は訴訟指揮を続けた。
裁判長「それで、弁護人両名から、7月18日付で、控訴趣意書{刑事訴訟法376条参照}が提出されておりますが、この通り、陳述されますか?」
主任弁護人「はい、致します」
裁判長「これによりますと、(1)事実誤認、(2)法令適用の誤り{刑事訴訟法380条参照}、(3)量刑不当、(4)審理不充分、ということですが、若干、控訴裁判所から、釈明をさせていただきたいんですがね」
主任弁護人「はい」
裁判長「まず、法令適用の誤りをいう部分、これは控訴趣意書の19頁、第3項ですが、少年法55条について論じておられるんですが、これは、実質、量刑不当を主張する趣旨、という理解で宜しいのでしょうか?」
 ここで若手の女性弁護人が答弁をした。
女性弁護人「私共としては、やはり控訴趣意書に記載したような法令適用の誤りがある、とは考えていますが、控訴裁判所がそう仰るのでしたら……」
裁判長「量刑不当、ということで宜しいわけですか?その箇所については」
女性弁護人「はい、結構です」
裁判長「それから、21ページ目の審理不尽、審理不充分という箇所なんですが、これは結局、『ココに記載しているような証拠を調べなかった、一審裁判所の判断が不服だ』というご趣旨ですか?」
主任弁護人「はい、そうです」
裁判長「それでしたら、『原裁判所の証拠決定には、訴訟手続きの法令違反{刑事訴訟法379条参照}があるんだ』と言えるんじゃないでしょうか?と、申しますのも、通常は審理不充分という控訴理由は、考えないわけですからね」
女性弁護人「はい、結構です」
裁判長「では、そういう次第ですが、検察官は、これに対する答弁は、如何でしょうか?」
高検検事「控訴の趣意には、理由がありません」
裁判長「続いては、当審で調べて欲しいという証拠請求でして、八月二十九日付けで事実調べ請求書が出されております。(1)証人、(2)本人、(3)書証、ココに書かれている通りに請求されますか?」
主任弁護人「はい、そうです」
裁判長「それでは、検察官に、これらの請求に対する意見を、書証から順番に、承ることに致します」
高検検事「弁1号証の手紙は不同意です。弁2、3、4の書証は、同意します」
裁判長「わかりました。では、人証のうち、証人3名については如何でしょうか?」
高検検事「証人3名は、いずれも不必要でございます」
裁判長「あと、人証の一種ですが、被告人質問の請求については如何でしょう?」
高検検事「基本的には不必要ですが、原判決後の事情に限定すれば、然るべく、です」
裁判長「はい、そういう次第ですから、弁護人、書証の1番は撤回でいいですね?」
女性弁護人「はい、結構です」
裁判長「では、書証の2、3、4につきましては、同意書面として、採用して調べることに致しますので、これらを提出してください」
 弁護人から、これら書面が提出され、3裁判官に回覧され、これら書証が、訴訟記録に綴じ込まれた。
裁判長「そして、証人3名ですが、これらはいずれも、当審では、取り調べは実施しない(却下決定)ことに致します。それから、被告人質問なんですが、これは、原審後の事情に限って取り調べるということに致しまして、後の立証趣旨については採用しない(却下決定)ことに致します。従いまして、ココには、主質問を40分間として請求してますが、20分間程度に限定していただきます」
 この証拠決定について、弁護人からは、刑事訴訟法上の異議は出されなかった。
裁判長「では、今から20分という限度で、被告人質問を実施することに致します。被告人、前に出て、そこの椅子に腰掛けて下さい。それでは、どうぞ」
(なお、少年事件で、基本的な事実関係は被告人も認めている案件ゆえに、以下は、供述の要点を掲示する)

−男性弁護人による被告人質問の要旨−
(一)この事件の一審判決当日、ご遺族の方による、自分への暴行事件がありました。蹴られた瞬間は、何のことか、自分自身ではよくわかりませんでしたが、後ろを振り返った時、検事さんに教えてもらいました。
(二)被害届けを自分自身は出す気がなかったので、その男性の方への捜査は、大阪地方裁判所からの刑事告発{刑事訴訟法239条参照}により開始されたようです。
(三)ただ、自分自身としては、ご遺族の方が自分を蹴るのは、ある意味では仕方ないな、と思いました。やはり、自分の血縁の人が、自分たちの勝手な行動によって殺されたのですから、お怒りは当然だと思います。
(四)自分自身、喧嘩が当たり前の環境にいたので、「法廷内暴行事件」の時点では、「たいしたことが無いのに、なぜ、周りの人はこんなに騒ぐんだろう」と感じていたんですが、今は弁護士の先生の説明も受け、自分自身でも考えて、その考えは間違っていたと分かりました。今では、こういう事件は、社会に悪い影響を与えるんだ、と理解しています。
(五)自分自身の体調は、今とても悪いです。今現在でも、38度4分の熱があります。特に、先週の木曜日あたりから、ご飯がまともには食べられない状態で、拘置所の医者の人によると、「ご飯が食べられないので、胃炎を起こしているんじゃないか」と診察されました。
(六)拘置所の医師の人によると、ご飯が食べられない原因は「摂食障害やな」と診察されました。

 確かに、体調が悪いというだけあって、少年被告人の声は大きくは無かった。
 ここで質問者が女性弁護人に交代した。

−女性弁護人による、被告人質問の要領−
(1)一審判決の後、父と母が被害弁償をしたということを、先生から聞きました。
(2)金額が250万円だということも知っています。
問「あなたが関わったこの事件で、250万円で責任が取れると、被告人自身は理解しているのかどうか」
答「思ってはいません」
(3)自分自身が遺族の方へ出来ることと言えば、刑務所を出てから後、自分自身が一生懸命に働いて、少しづつ、自分自身で被害弁償をしていくことだと思っています。
(4)勿論、裁判では、すべてを正直に話をして、自分自身のやったことについても理解していこう、という気持ちです。
問「それは、被告人が、一審法廷で述べたことが真実なんだ、という趣旨なのか?」
答「はい、そうです」
問「事件について今、思っていることは何かあるのか」
答「人が一人、亡くなる事件を起こして、そのことがとても重大で申し訳ないことをしたと反省しています。あと、木刀で少年たちが人を殴ったということが報道されて、社会へも悪影響を与えたということを、今は理解しています」
問「いずれにせよ、被告人としては一生かけて、被害弁償などで罪を償ってゆくという気持ちか?」
答「はい、そうです」
裁判長「では、検察官は、ございますか?」
高検検事「ありません」
飯畑裁判官「ありません」
中田裁判官「ありません」
裁判長「では終わりましたので、元の席へ掛けてください」
 ここで裁判長は一息おいて、発言をした。
裁判長「では、これで控訴審の証拠調べは、すべて終了しまして、次回は控訴審の判決を言い渡すことに致します」

 こうして、10月16日の午後2時から、高裁3号法廷で、傍聴券交付の上で二審の判決ということが決まった。

裁判長「では、本日の審理はこれで終わりましたので、傍聴席の方、どうぞ静かに退出を願います」

 裁判所事務職員の人たちは出入り口のところで、「傍聴券を回収します」と声を掛けるなどしていた。
 傍聴人が退廷して、法廷のドアが施錠された後、被告人が手錠・腰縄を施されて退廷したようだった。

事件概要  被告は共犯の少年と共に、2007年2月23日、大阪府大阪市において鳶職の少年を木刀で殴った上、ミニバイクにくくりつけた上で淀川に沈め、殺害したとされる。
報告者 AFUSAKAさん


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