裁判所・部 大阪高等裁判所・第四刑事部(A係)
事件番号 平成20年(う)209号
事件名 殺人
被告名
担当判事 古川博(裁判長)植野聡(右陪席)今泉裕登(左陪席)
その他 書記官:山下智子
日付 2008.8.26 内容 判決

 被告人に対する殺人被告事件について、大阪地方裁判所(刑事9部、旧合議係:笹野、島本吉規、野村昌也裁判官)が平成19年12月26日に言い渡した判決に対して、被告人から控訴の申し立てが有ったから、当裁判所は審理を遂げ、次の通り判決する。

−主文−
 原判決を破棄する。被告人を懲役3年以上5年以下に処する。原審での未決勾留日数中、90日を本刑に算入する。

−理由の要旨−
○第1:控訴趣意の要旨
(1)事実誤認の主張
 被告人自身は、A少年らとは共謀していないし、殺人の実行行為もしておらず無罪なのだから、被告人を共同正犯と認定した一審判決には、事実誤認(刑事訴訟法382条違反)が有る。
(2)法令適用の誤りの主張
 仮に被告人が有罪だとしても、共同正犯ではなく、せいぜいほう助犯に過ぎない。
(3)量刑不当の主張
 仮に被告人が有罪で、法令適用が適切だったとしても、懲役5年以上7年6ヶ月以下に処した一審判決は重すぎる。

○第2:控訴理由に対する判断
(1)基本的な事実認定
 当裁判所は記録を調査し、事実調べを重ねた結果、A少年の一審での証人尋問結果については、そのほとんどが信用できないという結論に達した。従って、一審判決とは判断の基礎となる事実関係が異なってくる。
(一審判決は、A証言を「基本的には」信用性が高いとし、被告人の法廷発言を、ことごとく信用性が低いと評価している。
(2)A証言についての検討概要
 A供述については、(1)客観的証拠との矛盾(特に法医学的所見)、(2)供述の中核部分について、自己の責任回避の姿勢が顕著である。従って、A供述と対立する本件被告人の法廷発言を、一律に「信用性が低い」と決めつけてはならない、と当裁判所は判断する(この点、原判決とは違った立場になる)
(3)被告人の法廷発言の信用性が高いと思われる部分
 関西医科大学の法医学者、X1医師(注:同医師は、雪印食中毒事件でも、司法解剖を担当)は、原審法廷において「被害者が、A少年による木刀での攻撃を受けた結果、受傷直後には、脳挫瘍で動きが鈍い状態だった」旨を述べている。A供述では、被害者は1回目の暴行の時点では、誰の目からみても生存しているとわかった旨を述べているが、血液の付着についての写真(実況見分調書に添付)とA供述は矛盾しており、1回目の暴行(A少年による致命傷が与えられた時点)についての被告人の法廷発言の信用性は、一概には否定できない。
 むしろA少年は、被害者が元気だったことを暗示し、殺意を否定すべく「被害者が川の中で手足をバタつかせていた」と、ウソの話をしている可能性が有り、原判決の説示(A少年の供述の信用性を認める立場)は、首肯しがたい。
(4)被告人の法廷発言が虚偽であると断定できる箇所
 なお、被告人は高等裁判所の法廷でも、
1)「立岩さんが、被害者のaさんを見て『死んでるな』と発言をしたのは、自分も聞いてましたが、立岩さんは普段から霊感が強いとので、そういう類の話だろうと認識していた」旨と、
2)「バイクにaさんの身体をくくりつけた時点(第2暴行)では、自分としては、aさんが死亡していると認識していた」旨を供述している。
 しかしながら、1)は、あまりにも荒唐無稽であり、関係者の参考人調書・法廷証言と矛盾しており、2)についても、少女は、原審段階で、被告人と矛盾する法廷証言をしており、これら1)2)の法廷発言は、信用できない。
(5)共謀の時期は原判決の認定とズレてくること
 以上の事実関係を踏まえて検討すると、共謀の時期が、原判決の認定した時期(淀川河川敷に向かう車内でのAの発言時点)よりも遅れ、第2のリンチの直前と解するのが相当である。
(6)刑法解釈上、共同正犯の成立は当然であること
 Aが致命傷を与えた後から、本件の共謀が成立しているわけであるけれど、現行刑法(明治40年制定)199条「殺人罪」の解釈に照らし、被告人は一審判決が認定する罪名に問われるのは当然ということになる。(本件では「実行共同正犯」という形態になる)

○第3:破棄自判
 そうすると、被告人は結局、殺人罪の共同正犯であること自体は間違いないが、実質的な関与内容については、一審認定よりも軽くなるわけであり、これは、刑事量刑上は斟酌されざるを得ない。よって、この事実誤認が判決に影響することは間違いなく、刑事訴訟法397条1項、382条、400条但し書きにより、当裁判所においてさらに判決する。

○犯罪事実
 これ自体は、一審通り

○証拠の標目
 一審と同じ

○法令適用
 訴訟費用文言以外は、一審と同じ

○量刑の理由概要
 本件各犯行の罪質、結果、態様、動機に照らせば、悪質な事案であり、被告人は、事実を否認し、不合理な無罪主張をしていて、刑事責任は重大である。
 しかしながら、上記で説示したような事実誤認の存在や、A少年に巻き込まれて事件に関与した側面が強く、被告人も、本件に関与したこと自体は、捜査段階から一貫して道徳的に反省・後悔していること、事件当時16歳という年齢、不遇な家族関係、そして何より、共犯者同士の量刑バランスなどを総合考慮して、主文の刑を導いたものである。

事件概要  被告は主犯の少年と共に、2007年2月23日、大阪府大阪市において鳶職の少年を木刀で殴った上、ミニバイクにくくりつけた上で淀川に沈め、殺害したとされる。
報告者 AFUSAKAさん


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