裁判所・部 大阪高等裁判所・第一刑事部(B係)
事件番号
事件名 殺人、殺人未遂、現住建造物等放火、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反
被告名
担当判事 若原正樹(裁判長)遠藤和正(右陪席)冨田敦史(左陪席)
その他 弁護人:片見富士夫、戸谷茂樹、他1名
日付 2008.6.12 内容 初公判

 この日、近畿地方は概ね晴れ渡り、午後1時半ころ大阪裁判所合同庁舎10階の高裁1号法廷では、マスコミ警察関係者、事件関係者の人たち、一般傍聴者の計26名(察するに、平均年齢は40歳くらいだったろうか)が、事件の開廷を固唾を呑んで見守っていた。
 時間丁度になると、若原、遠藤、冨田の高裁3判事が入廷し、この日は一応、裁判長もお辞儀をして着席した。被告人は大阪拘置所の男性1名、女性1名の刑務官に伴われて、手錠を施され、腰縄を打たれて入廷した。

裁判長「ええと、Aさん?」
被告人「はい」
裁判長「A、何さんと言うの?」
被告人「A’です」
裁判長「生年月日は?」
被告人「昭和十五年一二月十八日です」
裁判長「本籍地は、どこですかね」
被告人「すいません、ちょっと聞こえないんですけど」
裁判長「そうですか。声は聞こえます?大丈夫ですか?」
主任弁護人「本人も補聴器を用意してますので、改めて、ちゃんと付けて貰いますから」
 補聴器を改めて、正しく装着した後、ふたたび人定質問が開始された。
裁判長「本籍地はどうですか?」
被告人「兵庫県神戸市兵庫区です」
裁判長「住所はどこになるんです?」
被告人「住所ですか?大阪拘置所です」
裁判長「それは、まア、そうなんですけれどね、元々住んでいたのはどこになるのか、という質問なんですけれど?」
被告人「神戸市中央区になります」
裁判長「それじゃ、後ろへ座っていてください」
裁判長「それで双方から控訴趣意書が出されていますけれど、まず弁護人の控訴趣意書、補充書は、それぞれ事実誤認の主張ということになるわけですね?」
主任弁護人「当法廷でも若干、意見を口頭で述べさせて頂きたいんですが、まず本件は第1審の無期懲役の判決に対して、検察官が死刑を求めて控訴しており、一方で被告人側は無罪を主張し「えん罪」も視野に入れた主張をするという、まさに重大事件であります。そして本件の伏線について幾つか述べておきたいのですが、最初の点として本件は平成12年3月2日に発生しまして、被告人が本件で逮捕されたのが平成18年2月、起訴されたのが3月になります。このように、本件の捜査自体が異例の展開となっているわけです。そして次の点としては、現在、被告人は殺人の罪にも問われているわけですが、実行犯2名は当初、火炎瓶の件と放火で起訴されながら、1審公判の途中で、訴因変更という手続き{刑事訴訟法312条参照}により、「殺人」という罪名が付け加えられているわけです。(参照)さらに、第三点として、(注「大審院と最高裁判例により事実上「創設」された)共謀共同正犯をめぐる問題がありまして、第1審判決では、被告人は実行犯と直接共謀したのではなく「実行犯に指示をした者」……本件では、B明浩ですが……と共謀を遂げたとされているのです。これは、法曹専門家からは「順次共謀」と呼ばれるパターンですが、この謀議が、白昼堂々、神戸市中心部のロイヤルホスト店で行われたというストーリーは、いかにも唐突な感を拭い去ることができません。さらに、その「謀議」の裏づけとなる直接的な証拠は、F一弘供述のみであります。F供述については、さすがに原判決でも、一部その信用性を否定せざるを得ない有様でした。私たちは、Fへの判決を下した合議体___これは、神戸地方裁判所・旧第4刑事部(岡田信、佐茂剛、姥迫浩司)ですが__この合議体の3名の裁判官が、本件被告人をも担当した、このこと自体が不当であると考えております。実は、わたくしはそのことを危惧していまして、原審の第1回の法廷でも、弁護側冒頭陳述{注「刑事訴訟法316条の30}において指摘をさせて頂いた程でした。ですから、私共からすれば、神戸地方裁判所・旧第4刑事部というのは、まさに結論を先取りして、本件公判に臨んだということになってしまうわけです。そういう意味で、本件控訴審では是非、慎重な審理を行って頂きたい。とりわけ、F供述の信用性につきましては、原審判決後に判明した新事情(注「刑事訴訟法383条など、参照)をFに直接、ぶつける必要性が高いと考えております」
裁判長「以上の弁護側の事実誤認の主張に対して、検察官のご答弁は如何です?」
高検検事「控訴には理由が無いと思料します」
裁判長「一方、検察側からの控訴趣意書では、量刑不当の主張がされていますけど、弁護人のご意見は如何ですか?」
主任弁護人「理由が無い、と考えます。そもそも被告人は無罪にされるべきだ、という立場になります」
裁判長「そこで証拠の関係ですが、まず弁護側からは第1点目として、公務所照会{注「刑事訴訟法279条参照}ということで、要は「共犯者側から資料を得たいんだけれども、検察官が開示を拒んでいるんだ」と。それで『何とか、この手続きで、中身を見たい』ということですね?」
主任弁護人「Fについては、実は捜査機関による詳しい、取調べ状況報告書が存在して、調書の内容と食い違う部分が存するようなんです。というのも、ご存知のように、Fは東京で強盗致傷事件を中国人と共謀して逮捕・起訴されるわけですが、その後、東京拘置所に兵庫県警の捜査員と神戸地検の検事が、捜査目的で度々足を運んでいるんです。一時は調書の作成に応じていたんですが、Fはある日を境に、ぱたりと調書作成には応じない、ということになり、それゆえ捜査機関ではFからの聴取内容を「取調べ報告書」にまとめて記録していたということのようです。実は、これは神戸地裁で審理中のB被告人の裁判で、B弁護団のご尽力により検察庁から証拠開示を受けて、Fへの証人尋問の際にもかなり利用された(注「刑事訴訟法328条など参照)ようなんですが、なぜか検察庁では、私共には開示をされないということです」
裁判長「弁護人の得た情報によれば、『調書の無い部分については、取調べ結果が記録されているヤツが有って、これを何とか弾劾証拠として利用したいんだ』ということですかね」
主任弁護人「その通りです」
裁判長「では、検察官は、証拠意見を言えますか?」
高検検事「(注「刑事訴訟法382条の2所定の)原審段階で証拠請求できなかったことについての『止むを得ない理由』が無い、と考えます」
主任弁護人「まあ、私共に一部、不手際が有ったのは事実ですが、B公判が開始されるまでは、この証拠の存在は知らなかったというのが現実ですので、『止むを得ない理由』は有る筈です」
裁判長「それで、証人と被告人質問が請求されてますが、検察官は、ご意見は如何ですか?」
高検検事「いずれも不必要と思料します」
裁判長「ふむ、検察官からも、量刑不当に関しての証拠請求が有りますけど、弁護人はご意見は如何ですか?」
主任弁護人「先ほどの答弁から明らかな通り、すべて、不同意です」
裁判長「そうなると、このままでは次回の進行の予定が立ちませんから、今日は法廷はこれくらいにして、別室で進行協議をやりましょう。そういうことで、本日この時点では、期日は『追って指定』ということにします」
 裁判長は、ここで被告人の方に声を掛けた。
裁判長「そういう次第で、今日の法廷はここまでにしますから」
被告人「あの、聞こえないんですけど」
 ここで主任弁護人が被告人のすぐ傍まで歩み寄り、(1)これから法曹3者で別室で進行協議をすること、(2)その協議が終了してから、被告人に次回期日とその予定を連絡すること、が告げられた。
裁判長「では、法廷はこれで終了にしましょう。別室へ来て下さい」

 被告人が退廷した後、弁護人は、被告人の親族らしき人たちとごくごく簡単な打ち合わせをしてから「事務室」の方へと向かった。

原審判決(産経MSNニュース版)

事件概要  A被告はテレホンクラブを経営していたが、兵庫県神戸市にある商売敵の店を使えなくするため、別の被告に放火を依頼した結果、2000年3月2日、実行犯が店を放火した結果、4名の客が焼死したとされる。
報告者 AFUSAKAさん


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