裁判所・部 大阪高等裁判所・第五刑事部C係
事件番号 平成18年(う)第1821号
事件名 浄水毒物混入、傷害
被告名
担当判事 片岡博(裁判長)飯畑正一郎(右陪席)中田幹人(左陪席)
その他 弁護人:村井豊明、他
検察官:白髯ヒロフミ、河合文江
日付 2008.5.15 内容 判決

 被告人に対する、浄水毒物混入・傷害被告事件について、差し戻し後の京都地方裁判所が、平成18年9月に言い渡した判決につき、被告人から適法な控訴があったから、当裁判所は検察官白髯ヒロフミ、河合文江、主任弁護人村井豊明らの出席の下、次のとおり判決する。

−主文−
 本件控訴を棄却する。

−理由の要旨−
第1:控訴趣意
 被告人は冤罪だから、有罪・実刑1年4ヶ月とした差戻し1審判決には、事実誤認が有る。
第2:控訴理由についての判断
(0)本件審理の経過
 本件は平成10年秋、京都市の国立医療施設で発生し、7名がアジ化ナトリウム中毒で「軽症」となった。
 翌年になり、被告人が逮捕され、勾留中に自白調書が多数作成され、公判請求された。
しかし第一審(古川博、楡井英夫、杉本正則裁判官)は、平成15年2月に無罪判決を言い渡した。参照
 検察官控訴を受けて、平成16年8月、大阪高等裁判所第四刑事部(白井万久、的場純男、、畑山靖)では、「原判決を破棄する。本件を京都地方裁判所に差し戻す」旨の判決を宣告し、最高裁判所は平成17年1月、被告人からの上告を棄却した。
 差戻し一審は、平成18年9月、被告人を有罪と認定し、1年4ヶ月の実刑を宣告した。
 この判決に控訴が申し立てられ、原裁判所は再保釈を許可した。
(1)状況証拠による判断
<1>基軸となる、間接証拠
・本件犯行当時、現場の事務室に被告人が在室していたこと
・被告人が事件後に提出した尿から、アジ化ナトリウムが検出されたこと
・被告人には動機が存在したこと
・犯行前後の不審言動
・被告人が法廷でウソをついていると思われること

<2>基本的な間接証拠「評価」
 当裁判所は、基本的にはこれらの間接証拠を次の通り評価する。
(1)病院関係者の法廷証言、および「参考人調書」には特に不自然な点は見当たらない→それを踏まえると「犯行のチャンス」は、被告人にしか無かった。
(2)被告人の尿から、217ppmという、高濃度のアジ化ナトリウムが検出されたこと→通常の「摂取」では説明ができない量であり、被告人が意図的に尿に「細工」をしたとしか考えられないこと。(病院関係者が、意図的に被告人の尿に、このような「不正混入」をしたとは、関係証拠上は認められない)
 被告人は病院長から嫌われており、和歌山県立医大へ「人事異動」となることが内定しており、強固な動機が存在していること。
 実況見分調書によれば、犯行当日、被告人は臨場した警察官に「ひょっとしたら自分の指紋がアジ化ナトリウムから検出されるかもしれない」と述べていること→犯人だからこそ、このような説明をした可能性が高い。

(2)原判決批判
 原判決は「自白調書は信用できないが、状況証拠を総合すれば被告人が犯人だ」という。しかし、当裁判所は以下の理由により、自白調書の信用性は高いと確信した。
一、自白の「任意性」が充分であること。
二、電気ポットに、アジ化ナトリウムを投入する作業自体は、1分以内で可能であること
三、病院関係者の法廷証言、参考人調書と、本件自白調書は、内容が共通しており「相互補強関係」に立つこと
四、犯行の核心部分については、自白調書は一貫していること。

(3)所論批判
 所論は「本件は病院長が被告人を追放するための組織的犯行である」などというが、そのような主張は具体的な根拠に欠けていて自然的関連性に乏しく採用の限りではない。

(4)結論
 よって、差戻し第一審判決には、事実誤認はない。論旨は、理由が無い。

報告者 AFUSAKAさん


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