裁判所・部 大阪高等裁判所・第五刑事部A係
事件番号 平成18年(う)第1618号
事件名 業務上過失致死
被告名 A、B、C、D
担当判事 片岡博(裁判長)芦高源(右陪席)飯畑正一郎(左陪席)
日付 2008.3.18 内容 初公判

 当日は、悪天候ではなく、大阪裁判所合同庁舎の傍聴券交付所には、定員以上の人が詰め掛けることは無く、予定時刻になると抽選なしで傍聴券が配布された。
 刑事特別法廷では、開始時刻の約10分前から傍聴者の入場が許可された。
 開廷が近づくと、裁判所の事務職員が声を張り上げた。

事務職員「裁判所から傍聴の皆様にお知らせを申し上げます。この事件は裁判所の許可により、開廷直前2分間のカメラ撮影が予定されております。もし撮影されたくない、という方がおられましたら、今のうちにお申し出下さい。なお、カメラ撮影中は法廷への出入りは禁止されます」
 時間になると、観音開きのドアから3名の高裁判事が入廷し、カメラ撮影が開始された。
撮影スタッフ「撮影を終了します」
 ここで裁判長が開廷を宣言した。

裁判長「宜しいでしょうか。では、被告人A、B、C、Dに対する、各業務上過失致死被告事件についての控訴審の審理を開始しますが、被告人らは、いずれも不出頭ということであります(注:刑事訴訟法388条、参照)。それでは、手続きを始めます。検察官から、平成19年5月10日付の控訴趣意書が提出されていますが、この通り検察官は陳述される、ということでしょうか?」
検察官「控訴趣意書通りに陳述を致します」
裁判長「これによりますと、事実誤認(注:刑事訴訟法382条参照)ということですね?」
検察官「はい、左様であります」
裁判長「そして、各弁護人からは控訴答弁書が出されておりますが、この通り答弁されますか?」
各弁護人「はい」
裁判長「では、次に証拠請求の関係に入ってゆきます。検察官から、本年3月14日付の事実取り調べ請求書が出されておりますが、本日はこの通りに請求をされますか?」
(ここで左陪席裁判官が裁判長に囁いた)
裁判長「ああ、そうですね。カードだけ出ているのがありますけど、検察官?」
検察官「証拠等関係カード記載の通り請求いたしております」
裁判長「なるほど、これが1から10までと……」
検察官「11号証までになります」
裁判長「では、順次、弁護人のご意見を伺うことにしますが、まずはA・Bの関係からであります。如何でしょうか」
弁護人「いずれも不同意です」
(その他の弁護人も同様に不同意の意見を述べた)
裁判長「いずれも弁護人からは、書証としては不同意であると意見が述べられました。これについては検察官、いかがされますか?」
検察官「三月八日付け請求書の通り、各供述人の供述経過を立証すべく、非供述証拠として1から10を再請求し、11自体は撤回しますが、代替立証として大坪氏を証人申請させていただきます」
裁判長「では、この1から10号証についての「非供述証拠」としての証拠請求について、弁護人に、各自、ご意見を伺うことに致します。A・Bの関係から……」
弁護人「いずれも不同意です」
裁判長「と、いうか、取調べに異議が有る、という証拠意見ですね?
弁護人「はい、左様です」
裁判長「では、C・Dの関係は如何でしょうか?
弁護人「いずれも、取調べには異議がございます」
裁判長「そして、11号に替えて証人を請求するという件については、ご意見はいかがでしょうか?A・Bの関係から……」
弁護人「いずれも、必要性なし、と考えます」
裁判長「では、C・Dの関係は如何でしょうか?」
弁護人「刑事訴訟法382条の2にいうところの『止むを得ない事由』に当てはまらないと考えます。従って、取調べには異議が有ります。いずれも却下されるべき、という意見です」
裁判長「では、証拠意見を弁護人からお伺いしましたので、これから高等裁判所の判断を行いますが、ちょっと席をはずして検討しますので、今から数分程度、このままお待ちください」
(14時7分から14時10分まで休廷)
裁判長「それでは、高等裁判所の判断を申し上げますが、1号から10号までは「却下」し、証人請求がございますが、これについても「却下」することに致します。証拠の請求に対する裁判所の判断は以上です」
(検察官は刑事訴訟法上の異議申し立てはしなかった)
裁判長「そして被害者の方から、意見陳述の申し出が有りましたので、当裁判所はこれを許可するということに致します。被害者の方のお名前は、どなたでしたかね?」
検察官「亡くなったaちゃんのお父さん、X1さんになります」
裁判長「それじゃ、前に出てきて下さい」
(被害者遺族の男性が陳述台に進み出た)
裁判長「それでは、お名前だけ言って頂きましょうね」
遺族男性「X1です」
裁判長「被害者のお父様ですね?」
遺族男性「そうです」
裁判長「では、意見陳述は立ったままで宜しいですか? それとも座った方が宜しいですか?どちらでも構わないのですが」
遺族男性「このままで結構です」
裁判長「ではどうぞ」

(なお以下は事案の性質に鑑み、その要点を掲示する)

−遺族男性の意見陳述要旨−
 まずもって、このような意見陳述の場を設けて下さった裁判所に感謝を申し上げます。
 私たち夫妻が国、明石市、被告人へ思っていることは、すでに1審の神戸地方裁判所で述べていますので、ここでは繰り返しは避け、本日は第一審の神戸地方裁判所の判決文(注:法律専門雑誌『判例タイムズ』2008年1月15日号に、全文掲載)に対しての私たち夫妻の思いを申し上げることにします。
 平成18年7月、神戸地裁での全員無罪判決には、私も妻も、思わず血の気が引いてしまいました。刑事裁判というものは、正義を実現する場ではないのか、何の落ち度もない幼い子どもが命を失った事件は、決して「自然災害」では無い筈だ……この1年9ヶ月、特に私はそのような思いにとらわれ続けて来ました。
 本日、今日からは検察に控訴いただいたこの事件は、高等裁判所での御判断を求める段階に入りました。
 わたしはこれまで、明石市や国と幾度となく話し合いをしてきましたから、その経験を踏まえれば、一審判決には納得がいかないのです。そもそも、大蔵海岸という構造物は人工海岸なのでして、『自然の』海岸では無いわけです。しかしながら、今回の一審判決の「予見可能性」判断は、私にはまったく、理解できません。今回の一審判決が基準になれば、世の中は大変危険なものになると思います。
 一審の証拠調べでも明らかになりましたが、そもそもケーソン陥没を管理者は知っていたわけです。にもかかわらず明石市では、大蔵海岸の東側突堤では、本件が発生するまでは一切「立ち入り禁止」の措置を講じてはいなかったわけです。
 この他、一審の証拠調べで明らかになっている事実として、明石市の公園管理協会関係者が「大蔵海岸は、まるでアリ地獄だ」と認識していたにもかかわらず、杜撰な管理が繰り返され、国も大蔵海岸の管理に関与していながら漫然とこれを放置していたワケです。どうぞ控訴審では、管理者の話を鵜呑みにすることなく、社会の常識に従って判断をして欲しいのです。
 そして、一審判決のいう「地盤調査のメカニズム」という説明も、私には納得ができません。土木工学の専門家でも陥没を予想しえなかった、と一審判決は言いますが、そもそもそのような調査は「地質学」こそが専門なのではないでしょうか?
 以上のように、一審判決のいう「無罪の根拠」は、私には納得ができないのです。
 以下、妻の書面を私が代読します。

(以下は、その「骨子」を、紹介することにする)

−被害者の母親の意見陳述書面の骨子−
1)今回の裁判を通じて、明石市の責任感の欠如にはビックリしてしまいました。
2)「有能な人」が沢山いたのに、どうして事件を防げなかったのでしょうか?
3)被告人四名は単に「無罪だ。無罪だ」というだけではなく、危機管理の無さを認めて反省して欲しいです。
(ここで、午後2時半になり、裁判長が再び、訴訟指揮に移った)

裁判長「では、以上で高等裁判所としての審理を終了しますので、次回は判決となりますが、予定としては、七月一五日の午後弐時は如何でしょうか?」
各弁護人「差し支えます」
裁判長「では、7月10日は、宜しうございますか?」
弁護人の一人「いつの時間でも結構です」
裁判長「では、午後2時からとさせて頂きましょうか」
 ここで裁判長は、一呼吸を置いて、発言をした。
裁判長「では、高等裁判所の判決は、少し先の季節になりますが、7月10日、木曜日の午後2時から、この法廷で行うことに致します。本日は、これで閉廷します」

 裁判所事務職員が「傍聴券を回収します」と法廷入り口で、退席をする人々に告げる一方で、司法記者の人たちは、一斉に裁判所「第2別館」の記者会見場へと移動していった。

事件概要  被告人達が、陥没が継続的に起きていた兵庫県明石市の人工砂浜に対して適切な処置を行わなかった結果、2001年12月30日に人工砂浜が陥没し4歳の子供が生き埋めになったとされる。
報告者 AFUSAKAさん


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