裁判所・部 大阪高等裁判所・第五刑事部C係
事件番号 平成19年(う)第954号
事件名 監禁、殺人
被告名
担当判事 片岡博(裁判長)飯畑正一郎(右陪席)中田幹人(左陪席)
その他 弁護人:森下弘、間光洋
日付 2008.2.19 内容 初公判

 当日は、少し、寒さも緩んでいたが、きんき地方では、薄くもりの状態が午後になっても続いていた。
 大阪.裁判所合同庁舎10階の高裁3号法廷には、(1)大阪司法記者クラブ加入の記者、(2)事件関係者の人たち、(3)一般傍聴者など、計30名あまりの大勢の人たちが在廷していた。その中を、静かに、被告人が、大阪拘置所の刑務官に護送されて入廷してきた。そのまま、傍聴席に背を向けた場所に、勾留中の被告人は着席した。
 書記官は、若手の、頭髪を「七三分け」にした人物だった。
 午後2時になると、片岡、飯畑、中田の3判事が入廷し、キチンと御辞儀をして、着席した。

裁判長「では、時間が参りましたので開廷することにします。被告人、前に立って下さい」
 すでに手錠・腰縄を外されたE被告人が、陳述台(証言席)の前に立った。
裁判長「では、まず、人定質問から実施することにしますが、被告人、名前を言って下さい」
被告人「Eです」
裁判長「生年月日を言って貰えますか」
被告人「昭和四八年六月二四日生まれです」
裁判長「本籍地は、どちらになりますか?」
被告人「岡山県美作市( 略 )です」
裁判長「住所は、どちらですか?」
被告人「不定ということに、なってます」
裁判長「決まった住所は無かった、ということですね?」
被告人「そうです」
裁判長「職業は、無職で宜しかったですか?」
被告人「はい、そうです」

 ここで裁判長は、審理の開始を宣言した。
裁判長「それでは、被告人に対する監禁、殺人被告事件の、控訴審の審理を始めます。弁護人から書面が多々出ていますけれども、先ずは、主張の書面であります。平成19年10月上旬の控訴趣意書、11月下旬の控訴趣意補充書が出されているわけですが、それぞれ、この通り陳述されますか?」
森下弁護人「はい、陳述いたします」
裁判長「これによりますと、@理由不備(注:刑事訴訟法378条四号規定の,控訴理由)、A理由齟齬(そご)、B審理不尽(注:刑事訴訟法379条所定の控訴理由)、C事実誤認(注:刑事訴訟法382条規定の控訴理由)ということで宜しうございますね?」
森下弁護人「はい、その通りです」
裁判長「続いて、検察官はご意見いかがでしょうか?」
検察官「控訴には、理由が無いと思料(しりょう)します」
裁判長「続いて、証拠請求に対する整理でありますが、当審において弁護人が請求されるのは、まずニンショウ、「人」の関係については、2月18日付の事実取り調べ請求書、2月8日付けの事実取り調べ請求書にそれぞれ記載された通り、八名の証人と被告人質問を請求されるわけですね?」
森下弁護人「基本的にはそうですが、2月14日付けの事実調べ請求書「三」の2頁のところで、三田村検察官とX1警察官、Fさんの3名を追加して請求致します」
裁判長「そうすると、尋問予定時間はいかがですか?」
森下弁護人「まず、本日付で表を控訴裁判所にお出ししましたけれども、別途請求している書証を検事さんが同意されないなら、刑事訴訟法328条による証拠請求となりますし、この「弾劾書面」に該当しないというならば、その分は証人請求をせざるを得ませんので、その場合には小林さんが3時間、Eさんが1時間、DさんとBさんは1時間づつ、三田村さんとX1さんは各90分づつになります」
裁判長「ところで、書面では2月10日付で訂正されたものが既に出されておりますね?」
森下弁護人「要するに、従前は趣意書引用のモノに限って請求していましたが、それでは前後関係がわからなくなるので、いわば出ベソの部分が拡張された、ということですね、この訂正書面の位置づけは」
裁判長「そのすると、結局は2月19日付の請求書における括弧2の通りになるというわけですか?」
森下弁護人「その通りです」
 ここで裁判長と中田判事が小声でその場で協議した。(なお飯畑判事は、この協議には加わらなかった)
裁判長「それで、2月14日付の請求書では、公務所照会(注:刑事訴訟法279条規定の措置)追加の請求も、されるわけですか?」
森下弁護人「はい、そうです」
裁判長「で、これで請求は以上で全てですね?」
森下弁護人「はい」
裁判長「では、検察官、お分かりになりますね?証拠意見をどうぞ」
検察官「証人、被告人質問は不必要、書証は全部不同意。公務所照会は必要性なし、以上であります」
裁判長「特に弁護人から、付け加えて述べておきたい意見などは、ございませんね?」
森下弁護人「いえ、若干、口頭で補足させていただきますと、今の検事さんのご意見では、書証はすべて不同意ということですから、先に触れたように328条書面として、小林さんの捜査調書、Eさんの捜査調書と請求しておきます」
裁判長「ちょっと今のは分かりにくいんですが、本日の申立書によれば、これらは、検察官が不同意にすれば全て328条請求するという趣旨ではないんですか?」
森下弁護人「いえ、4ページには328条の記載が漏れておりましたので、その分を今、口頭で補充した次第なんです」
裁判長「わかりました。では検察官は、328条書面への意見は、いかがでしょうか?」
検察官「いずれも、取調べの必要性なし、と考えます」
裁判長「ハイ、それでは、検察官のご意見を承りましたので、証拠決定を…」
 ここで森下弁護人が立ちあがり、意見を述べた。
森下弁護人「今、補充して、口頭で証拠調べの必要性についてですね…」
裁判長「しかし元々、書面で詳細に請求されていますので、私の手元にある、この書面と同じことを仰りたいのではないですか?」
森下弁護人「強く述べておきたい箇所がありまして」
裁判長「では、書面も出ておりますので、簡潔にお願いしますね」
森下弁護人「第1点目は、小林さんとEさんの供述変遷についてです。本弁護人が聞いたところでは、小林さんは1審で死刑判決が出ていて、控訴審の審理も大詰めを迎えているということですし、Eさんも2審判決が出たということで、控訴審でこの二人の証人調べをするのは、正にラストチャンスである、ということ。第2点目は、328条請求との絡みですが、これらの供述変遷は、被告人による謀議や、犯行当日の被告人による指示命令につき、著しい変遷をしています。ですから、これら328条書面を調べる必要性は高い、ということ。第三点目は、原審はDさんの証人調べはしておらず、Bさんは証言拒否をされたということですし、当部ではDさん・Bさんの控訴事件も係属しているということですから、この控訴記録を本法廷に取り寄せる(公務所照会)ことで、Dさん・Bさんの原審での被告人質問の結果を、本法廷でも明らかに出来る。以上であります」
裁判長「では、若干、合議します。3分ほどで戻ってきますから、被告人、そのままでいいですから、待っていてください」
 三裁判官は、3分後、再び、1003号法廷に現れた。
裁判長「それでは、裁判所の判断を示すことにします。ニンショウ請求として、証人、被告人の請求がございますが、これらは必要性なし、と認めて調べないことにします(却下決定)。328条書面についても、必要性なし、として調べない。公務所照会も、必要性なし、として取調べは実施しない。以上が、請求に対する判断であります」
森下弁護人「刑事訴訟法により、異議を申し述べます」
裁判長「異議ですか。どうぞ、簡潔におっしゃって下さいね」
森下弁護人「小林さん、Eさんの一審法廷証言と、この法廷で弾劾することは、本件では必要不可欠であり、これを実施しないのは、法令違反です。328条書面の件も、本件のような全面否認事件は、然り。とりわけ、他の証人申請を却下した点や、公務所照会を却下した点も、同様に、裁判所による証拠決定の裁量権を濫用したものであり、違法な証拠決定です」
検察官「異議には、理由はありません」
裁判長「では、異議については、理由なし、として棄却しておきます。そういう次第で、控訴審の審理は、以上でございます」
森下弁護人「忌避を申し立てます。(注:刑事訴訟法21条2項、参照)」
裁判長「何ですか?再度の異議ですか?」
森下弁護人「忌避(きひ)です。このような、証拠調べゼロ、というやり方は、正に、不公正な裁判所というべきですから、裁判官の交代が必要でして、もう1点注意すべきは、当部にはBさん、Dさんの事件も係属していますので、予断と偏見を持って、本件の審理・裁判が行われる危険性が、かなり具体的にあるんだ、ということです」
裁判長「では、忌避の判断について、ちょっと合議しますので、そのまま暫く、お待ちください」
 このとき、3名の裁判官は退廷したが、左陪席裁判官(本件の主任裁判官)の顔色は、少し青ざめているようにも見えた。
 裁判長が、忌避の関係で合議すると宣言したのは午後2時28分だったが、合議は5分では終わらず、その間にも、1-2名、一般傍聴者が廷内に入って来た。
 午後2時40分になり、ようやく3裁判官が入廷した。
裁判長「では、検察官の意見は如何ですか?」
検察官「理由なし、と思料します」
裁判長「忌避申し立てについては(注:申し立てが不適法であるとして)却下しておきます」
 ここで裁判長一呼吸置いて、発言した。
裁判長「これで控訴審の審理は終結しまして、次回に判決を言い渡すことにいたします。期日をお願いします」

 こうして次回期日が確保され、閉廷することになったが、裁判長は最後に、E被告人に呼びかけをした。
裁判長「そういうわけで、被告人もそのまま聞いて下さいね。次回は判決ですが、3月25日、火曜日の午後2時から、この法廷で言い渡しをします。本日は、これで終了と致します」

 廊下に出た一般傍聴者からは、「法廷での小合議の際、右陪席裁判官の意見を聞かなかったのは、ちょっと問題だ」「忌避の申し立てをする気持ちも、あながち、理解できなくはない」などの声も聞かれた。
 司法記者の人たちは、弁護人への「ブラ下がり」をする直前、手続きが複雑だったせいか、狐につままれた顔をしていた。

事件概要  被告人は、共犯者がトラブルから拉致してきた大学生の処置について相談されたところ、「生き埋めにすればいい」と述べた結果、共犯者は2006年6月20日、岡山県岡山市の産業廃棄物集積場で被害者1名を生き埋めにしたとされる。
報告者 AFUSAKAさん


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