裁判所・部 大阪高等裁判所・第一刑事部
事件番号 平成19年(う)第1110号
事件名 傷害、暴力行為処罰法に関する法律違反、監禁(変更後の訴因、傷害、暴力行為処罰等に関する法律違反、監禁、強盗)、殺人
被告名 小林竜司
担当判事 若原正樹(裁判長)遠藤和正(右陪席)杉田友宏(左陪席)
日付 2008.1.22 内容 初公判

 77枚の傍聴券に対し、10時15分の締め切りまでに来たのは15人ほどだった。
 記者席は、11席指定され、8名が座る。
 検察官は、眼鏡をかけた白髪交じりで丸顔の中年男性。
 弁護人は、眼鏡をかけた白髪交じりの初老の男性と、髪が長めの中年女性。開廷前、初老の弁護人は、検察官と何か話し合っていた。検察官に求められ、書類を見せる。
 裁判長は、白髪の老人。裁判官は、眼鏡をかけた中年男性と、白髪交じりの初老の男性。
 被告人は、「失礼します!」とはっきりした声で挨拶し、被告人用出入口のところで深々と礼をし、入廷した。一般に流布している写真では、固太りのヤンキーじみた姿だった。しかし、法廷に姿を見せた被告人は、それとは全く異なっていた。痩せており、体格も細くなっている。髪を丸坊主にしており、黒縁眼鏡をかけていた。上を向いた鼻を含め顔立ちは写真どおりであり、頬に少しにきびがある。しかし、全体的に生真面目な印象を受けた。黒い長袖のセーター、白いワイシャツ、黒い長ズボンを着ていた。人定質問にはそれなりにはっきりした声で答えたが、被告人質問には、やや小声で答えた。涙声になっている事も多かった。
 小林竜司被告の控訴審初公判は、大法廷である201号法廷で、10時30分より開廷した。

裁判長「それでは開廷します。まずは立ってください」
被告人「はい」
 被告人は、証言台の前に立つ。
裁判長「控訴審の審理を始めますが、名前は何と言いますか?」
被告人「小林竜司と申します!」
裁判長「生年月日は?」
被告人「昭和59年12月22日生まれです」
裁判長「本籍地はどこですか」
被告人「岡山県玉野市」
裁判長「住所は決まっていなかったですか」
被告人「はい」
裁判長「仕事もしていないのですか」
被告人「はい」
裁判長「じゃ、座ってください」
被告人「はい」
 被告人は、被告席に戻る。

裁判長「えーと、弁護人の控訴趣意ですが、趣意書記載してあるとおりの量刑不当の主張をしたいという事でよろしいですか?」
弁護人「はい」
裁判長「特に強調しておきたい所とかありますか」
弁護人「いいえ」
裁判長「今のままでよろしいですか」
弁護人「はい」
裁判長「検察官は」
検察官「弁護人の控訴主意には理由が無い」
裁判長「えー、取調べを求める証拠は何かありますか」
弁護人「証人二名」
裁判長「はい。取調べ請求書記載の通りでございますね」
弁護人「はい」
裁判長「えーと、全体を説明していただくと、証人二名と」
弁護人「えー、それと、被告人質問」
裁判長「被告人質問」
弁護人「はい」
裁判長「えー、証人二名は、情状関係ですね」
弁護人「はい」
裁判長「被告人との関係を簡単に言えますか?」
弁護人「えーと、現在の友人といいますか、幼馴染です」
裁判長「はい」
弁護人「それと、被告人質問」
裁判長「被告人質問は、これは、原判決後の心境を中心に、犯行状況などを聞きたいというわけですか?」
弁護人「はい」
裁判長「えー、それと、検察官からも証拠があるんですか?」
検察官「はい。えー、まずあの、被害者aさんのご遺族にあたります、あの、両親さんなんですけれども」
裁判長「はい」
検察官「あのー、お父さんの方の証人尋問請求と、お母さんの意見陳述を考えて、請求いたしていた所ですが」
裁判長「ええ」
検察官「本日、あのー、ま、雪による影響で、交通等の影響で、本日実行できませんでしたので」
裁判長「うん」
検察官「次回続行していただきたいと思います」
裁判長「うん。請求は維持するという事でよろしいですね」
検察官「はい」
裁判長「それじゃあ、今、弁護人から先に請求のあった、証人二人と被告人質問、これについてのご意見を伺いたいと思います」
検察官「証人なんですが」
裁判長「うん」
検察官「ま、何れも、小中学校時代の、まあ、いわゆる幼馴染という風に理解しますけれども」
裁判長「うん」
検察官「立証趣旨も全く同じですし、ま、1名で足りるのではないかと思います。それから被告人質問については、証人尋問等請求書によれば、あの、立証趣旨は本件犯行状況等になっておりまして、本件犯行状況については、原審のほうで、もう詳細な被告人質問と証人が取り調べられていますので、犯行状況について尋ねる事は重複になるかと思いますので、原判決後の情状に限定していただければと思います」
裁判長「証人2名は重複ではないかと」
弁護人「それについては、まあそれぞれ付き合い方が違うので」
裁判長「同じ時代だけども、それぞれ内容は異なる、そういう趣旨ですか」
弁護人「ええ。被告人質問は、犯行状況についてどうも納得できない部分が私自身はありまして、それについて被告人に聞いたんですけども、あまり良く覚えていないという事で、その辺はやむを得ない部分があるかな、と思います。犯行状況は、被告人がどのような行動をしたか、ということも立証したいので」
裁判長「では、ちょっとお待ちください」
 裁判長達は、38分に退廷する。記者は2名退廷した。39分に、裁判長らは再入廷した。
裁判長「じゃあ、弁護人請求の証拠である、証人二名と被告人質問を本日採用いたします。被告人質問は、検察官の言うとおり、重複しないようにしてください。証人尋問、順番はどうしますか?」
弁護人「X2さんのほうを先にお願いします」
裁判長「はい」
 髪の短いスーツ姿の青年、証言台の前に立つ。
裁判長「来ていただいたのはX2さんでいいですね?」
証人「はい」
裁判長「59年うまれの23歳ですね。現在大学院生でよろしいですか」
証人「はい」
裁判長「お住まいの方は高知県」
証人「はい」
裁判長「じゃ、宣誓してください」
証人「宣誓します。良心に従って、知っている事を隠さず、正直に述べることを誓います。証人X2」
裁判長「はい、では、宣誓しましたから、それにしたがって正直に述べてください」
証人「はい」
裁判長「では、弁護人、どうぞ」

−初老の弁護人によるX2証人への証人尋問−
弁護人「えーっと、貴方は現在、エー、大学院生ということですけども、あのー、それは高知の」
証人「はい」
弁護人「えー、それで、小林君の今回のね、件について、どう考えた?」
証人「ま、はじめ、その、この事件の話を聞いた時は、(聞き取れず)いっぱいでした。話が進んでいくうちに、本当にこういう事件が起きてしまったと意識しました」
弁護人「えっとね、彼とは、小中学校が一緒なんですか」
証人「はい」
弁護人「高校から別れた」
証人「はい」
弁護人「小中学校の頃のね、彼は、どういう性格なのかな?」
証人「リーダーシップというか、そういう、前に立っていくタイプではなかったですけど、友達からの信頼厚い」
弁護人「人に危害を加える事は、そういうような事は、彼はあるんですか?」
証人「自分の知っている限りではないです」
弁護人「小中学校の時、喧嘩は?」
証人「自分と喧嘩したとき、自分が泣かせてしまった。口論になって、泣いたので、自分が謝った」
弁護人「本件は凶暴ですが」
証人「はい」
弁護人「彼にそういう面はあった?」
証人「彼にそういう面があるなら、自分は友人関係を絶っていたと思います」
弁護人「貴方に対しては別だったかも知れない。学校に対しては」
証人「ないです」
弁護人「非行はありましたか?」
証人「自分の知っている限りでは無かったです」
弁護人「覚せい剤をやっていた?」
証人「自分の知っている限りではないです」
弁護人「学校でも、普通に過ごしていたと。目立つ事はありましたか?」
証人「なかったです」
弁護人「彼が、こういう犯罪を犯した事を、如何感じた?」
証人「この事件に関して、大まかな事しか知りませんが、彼はそんなことをする人ではないと思っていたので(聞き取れず)」
弁護人「被告人の場合、気のくわない事あったら暴力振るう?」
証人「自分はそういう認識は無かったです」
弁護人「高校から、多少疎遠になったんですか?」
証人「なかったです。引っ越した後も遊んでいた友人なので」
弁護人「家も近所だった」
証人「はい」弁護人「ずっと付き合っていた。本人は断ってくれといっていますが、差し入れをしているね」
証人「はい」
弁護人「文通も」
証人「してます」
弁護人「今回ね、色んな事言われているけど、あなた自身は、そういう事を聞いたことある?殺人鬼みたいな」
証人「そのー、世間に流れている話だけ聞けば、残酷な事をしていて、殺人鬼と言われても仕方ないと思いますけども、自分としてはそうは思えない部分があります」
弁護人「あなたとしては、被告人は人に暴力を加えるような所はない」
証人「はい」
弁護人「終わります」
裁判長「検察官、どうぞ」

−検察官によるX2証人への証人尋問−
検察官「貴方はどこの高校に行かれたんですか?」
 証人は答えたが、聞き取れなかった。
検察官「被告人は、Z1高校で、同じ玉野市内だったいう事ですよね?」
証人「はい」
検察官「被告人が暴力団関係者と付き合いがあったというのは貴方は知っていましたか?」
証人「知りませんでした」
検察官「被告人が、露天商、テキヤの売り子で働いている事は」
証人「知っていました」
検察官「暴力団と関係があるんじゃないかって事は一切知らなかった」
証人「知りませんでした」
検察官「それから、少年時代の被告人が、あの、交通事故でおばあさんを死なせた事があったと知っていましたか?それは聞いて無かったですか?」
証人「事故を起こしたのは聞いたことあります」
検察官「家庭裁判所で保護観察処分を受けたということは聞いていましたか?」
証人「・・・・知っています」
検察官「でー、そのことについては如何いう風に話していたんですか?」
証人「保護観察を受けたと」
検察官「死亡させたという事は」
証人「聞いていないです」
検察官「それから、今回、被告人を含めて、ま、被告人と被告人の仲間が起こした事件は、どういう事件を起こしたと貴方は理解していますか?」
証人「二人の人を生き埋めにした」
検察官「どうやって生き埋めにしたと」
証人「(聞き取れず)そういうものを使って生き埋めにした」
検察官「他にも死にはしなかったけど、被害者はいますが」
証人「・・・・」
検察官「終わります」

−裁判長によるX2証人への証人尋問−
裁判長「被告人が小学生の頃にいじめを受けてたとかいう事は聞いていますか?」
証人「自分の知ってる限りではないと思います」
裁判長「そういう事、見たことも聞いたことも無いし」
証人「自分の知っている限りではないと思います」
裁判長「付き合ってきた過程で被告人が二重人格だと思ったことは?」
証人「ありません」
裁判長「そういう面は無かった。切れやすいという事を思ったことも無いですか」
証人「きれやすいと思ったことは無いです。ただ、怒ったら怖かったというのは確かにあります。自分を制御できていないだろうという部分はあると思います」
裁判長「具体的に想定して話していますね?」
証人「想定というか、大体というか、そういう印象あったなって」
裁判長「何時ですか?」
証人「中学の頃です」
裁判長「何をしたとかありますか?」
証人「もう、すごい、口で、あの、色々グアーッて言うっていうか・・・・、少しは制御あると思いますが、そういった事ができていなかったと思う」
裁判長「そのときは口だけですか」
証人「自分の中では」
裁判長「普通はそこまで言わないだろう、という事ですか」
証人「そう・・・ですね、はい」
裁判長「癖とは思いませんでしたか?」
証人「そういうことはないです」
裁判長「そういう事はない。はい、それでは終わりました」
 証人は、傍聴席に戻る。
 次は、X3証人が入廷する。薄茶色に染めた髪を無造作ヘアにした、スーツ姿の青年だった。わりとはっきりした声で受け応えをした。
裁判長「X3さんですか?」
証人「はい!」
裁判長「1985年生まれ、同じ23歳。今は・・・・美容師をしている」
証人「美容師です!」
裁判長「美容師をしている。自分でやっているわけではない」
証人「やっているわけではないです。美容業です」
裁判長「じゃ、宣誓をしてください」
証人「宣誓書!良心にしたがって、知っている事を隠さず、正直に述べることを誓います!証人X3!」
裁判長「はい、じゃ、宣誓をした上で、証言してもらいますが、正しい話を聞かせてください」
証人「失礼します!」

−弁護人によるX3証人への証人尋問−
弁護人「えーっと、貴方はね、小林君の、ま、家が近かった」
証人「はい」
弁護人「小中学校は一緒」
証人「ずっと一緒です」
弁護人「あ、そう」
証人「はい」
弁護人「貴方、近所に住んでいて、被告人と付き合いあった」
証人「そうですね、はい。小学校の頃なんかは、あの、登下校は何時も一緒でした」
弁護人「ああそ、それでね、あの、現在は仕事は美容師をしている」
証人「はい」
弁護人「ということだけれども、そうすると、彼は、ま、親密な付き合いは、そういうのは、多少薄くなったのかな?」
証人「東京に僕が行ってからですか」
弁護人「はい」
証人「自分、東京に出てきたのが21なので、ホントに行くまでは、仲は、それまでは、何時も遊んでいました。疎遠にはなっていない」
弁護人「じゃ、22ぐらいまでは、あの付き合いあった」
証人「そういうことですか、はい」
弁護人「それで、彼はね、あの、今回、大変な事をしたわけですが、彼に凶暴性は感じた?」
証人「全く無いです」
弁護人「貴方達の付き合いは親密」
証人「はい」
弁護人「被告人が気に食わないと暴力を振るうことは」
証人「僕の知る限りでは感じたことはないです」
弁護人「貴方達は仲良い」
証人「はい」
弁護人「被告人が怒ってる場面見たことは」
証人「同級生同士の喧嘩なら見た事あります」
弁護人「人を殺めたり、怪我させたりは」
証人「そういうことは全くなかったと思います」
弁護人「今回、人を二人死なせてる」
証人「はい」
弁護人「こういうことをすると、考えた?」
証人「全く無いですね」
弁護人「今回の事、知っているね」
証人「多分」
弁護人「考えた事は」
証人「やっぱり、起きてしまった事件は、TV等で見て、残酷で許されないと思うんですけど、やっぱり最初に聞いたときは信じられなかった。すごいショックだったんですけど、僕も、怒ることは、それに対して、誰でも、怒ってしまうと、理性を失う。傷つけそうになったとき、とめる人居なくて、こうなったのかなって、思いました」
弁護人「揉め事、暴力で解決する事は」
証人「今までなかったですね」
弁護人「経験ない」
証人「はい」
弁護人「暴力を振るう事は」
証人「基本的に無かったです」
弁護人「喧嘩して、口論する」
証人「口論あっても、手は上げなかったです」
弁護人「暴力振るったりするとか、聞いたりは?」
証人「あったら聞くし、喋ってくれると思います。聞いたことないです」
弁護人「キレやすい事は」
証人「無いと思いますけど」
弁護人「キレて、攻撃する事は」
証人「ない」
弁護人「元々暴力振るう男でない」
証人「はい」
弁護人「今回の件、やった事はやった事だけど、彼に凶暴性はありましたか?」
証人「僕の知る限りでは絶対なかったと思います」
弁護人「わけもわからず暴力振るう事は」
証人「絶対にないですね」
弁護人「暴力振るったとしても、大した事は無い」
証人「ないです」
弁護人「多少殴ったりは」
証人「口論激化して、多少殴りあいになったりはあったけど、怪我はないです」
弁護人「元々粗暴ではない」
証人「はい」
弁護人「本件との差異は如何思う?」
証人「信じられない。付き合ってきて、彼の良いとこ悪いとこ、理解しているつもりなので、信じられない」
弁護人「何が原因と思いますか?」
証人「如何考えても、こんな事できる奴じゃ絶対なかったです」

−検察官によるX3証人への証人尋問−
検察官「高校は」
証人「Z2高校です」
検察官「専門学校は」
証人「香川にあります」
検察官「被告人がヤクザと付き合いあることは知っていましたか」
証人「知りません」
検察官「露天で働いている事は」
証人「知っています」
検察官「被告人と暴力団との関係、知らない」
証人「はい」
検察官「被告人、友人は」
証人「多いほうと思います」
検察官「被告人は少ないといっていますが」
証人「そうですか。玉野市内で言えば、多少多かったと思います」
検察官「被告人は小中学校通して孤独ではなかったですか?」
証人「どこまで友達というか解りませんが、知り合いは多いです」
質問が終わり、証人は、退廷する。
裁判長「被告人、真ん中に座ってください」
 被告人は、証言台の椅子に座る。

−弁護人による被告人質問−
弁護人「ええっと、まあ、改めて聞きますけどね、貴方はね、昨日、拘置所でね、改めて」
被告人「はい」
弁護人「今回の原因を含めてね」
被告人「はい」
弁護人「そういうことについて、貴方はよく覚えていないと話したことがありますけどね」
被告人「はい」
弁護人「どうしてですか。まずね」
被告人「はい」
弁護人「本件について、あのー、何でこうなったのかっていうこと、それがもう一つ理解できないんだけど、どうしてこういう事になったのか、なってしまったのか、もうちょっと言えばね」
被告人「はい」
弁護人「あのー、ま、それ自体いいこととは言えないけど、ま、被害者の方に焼きを入れるっていうのかな、今後、もうこんな事をしないようにする、こういうことをね、あのー、ま、あの、やめさせるっていうか、そういう事でもともとはじめたもんですよね?」
被告人「別に、被害者の方を、殺すつもりで、そういう事をしたわけではないですけど」
弁護人「それは勿論解るんだけどね」
被告人「はい」
弁護人「そうじゃなくて」
被告人「はい」
弁護人「被害者の方にね、あなたの友人が、脅されて、それをやめさせるっていうのかな、そこに元々主眼があったんだよね」
被告人「そうです」
弁護人「うん」
被告人「佐藤君に助けを求められたんで」
弁護人「うん」
被告人「ま、何とか助けてあげたかったという気持ちから、こんな大惨事になってしまいました」
弁護人「えー、助けてやるという事ですね。」
被告人「はい」
弁護人「うん、それでね、まあ色々あるんだけど、突然まあ、殺害行為になった、その飛躍が理解できない。その辺は何でそうなったのか」
被告人「やはり、僕もずっと、事件の事を振り返ったりするんですけれども、僕自身がこんな事いうのもおかしいですけど、自分自身なんでこんな事になったのか、良く解っていません」
弁護人「うん、そうすると、あなた自身の、ま、やっぱり、えー、こいつら殺さなあかん、というような動機は元々何もなかったんですね」
被告人「被害者の方が、殺される理由は、全くないと思います」
弁護人「うん。ま、そもそも最初はね、あなた自身、殺すつもりは全然ないわけね」
被告人「はい」
弁護人「んー、だけど殺しちゃった」
被告人「はい」
弁護人「それがね、一気にまあ何か、殺害している。それがもう一つ理解しがたいんだけどもね。どこがどうなってこういう事になったの?」
被告人「(聞き取れず)本当に、自分自身でも良く解っていないので、どう答えたら良いか解りません」
弁護人「うーん、でもまあそういう風になってしまったんだけれど、わかんない?」
被告人「全く解っていません」
弁護人「うん」
被告人「何でこんな事をしたのか、全く解っていません」
弁護人「これは結局、あなた自身がね、元々は殺害って事を考えてたの?」
被告人「それは考えてないです」
弁護人「ううん、で、突然、もう、殺してしまおうという事になるんだけれども、それが、どうして殺そうとなるのか解らないんだけど」
被告人「はい」
弁護人「本当に、元々ね、あの、はじめから二人とも殺そうと思っていたなら解るけどね、最初はそもそも、殺してしまおうっていうの、別になかったわけだね」
被告人「はい」
弁護人「二人を拉致っていうか、そういうのはあったけど。どっから、こう、殺してしまおうと思ったの?」
被告人「どっからって言われても、逆に振り返ってみても、よく解らないんですけど、言い訳になりませんけど、みんなが居た事とか、その場の空気というか、狂気というか、そういうものかなあと、思いますけど、自分でも良く、解っていません」
弁護人「あのー、ま、皆がいた事とか、これは別にあの、構わないんだけども、貴方が殺してしまう、相手が仕返しするのをやめさせようとかな、そういう気持ちが主眼だったと思うんだけど、そういう事ではないのかな?」
被告人「その、仕返しをやめさせるために殺そうとか、そういう手段は、考えた事はなかったです」
弁護人「そうすると、えーと、かなりの人数で、まあ、現場に行ってますよね」
被告人「はい」
弁護人「その時点で、貴方自信、えー、まあ、殺害しようというのかな、そういう意思はあったの?」
被告人「そういう、殺したり、そういう気持ちは、全く、本当にないんですけど」
弁護人「ないのね」
被告人「はい」
弁護人「じゃ、突然ね、一気に殺害ってるけど、要するに、本人を色々見て、殺してしまおう、ということかな?」
被告人「元々、僕自身、調子に乗ってしまうタイプなので、今思えばですけど、みんなが居たという事で、調子に乗って、いくとこまで行ってしまったのかなあという風に、思っています」
弁護人「現時点ではそうではなかろうかという事なんですね?」
被告人「はい」
弁護人「周りからあおられたりって事はないかな?例えば、殺せ殺せとか」
被告人「そういうのは無かったと記憶しています」
弁護人「何かのきっかけでね、突然こう、えー、殺害行為っていうのかな、へと飛躍しちゃうんだ。まああの、他人に罪を着せるわけじゃないけど、周りの人がそれをあおった事はなかったかな?」
被告人「それは無かったと記憶しています」
弁護人「うん、何かきっかけが無いとね、それで納得しえるような」
被告人「はい」
弁護人「理解できないんだけど」
被告人「はい」
弁護人「どうだったかを聞かしてくださいね」
被告人「まあ、きっかけっていうのは、被害者の方を痛めつけすぎた事によって、そういう方法を選んでしまったのかなという風に思います」
弁護人「まあ、そういうことも動機になってるかも知れなと。わかんない?」
被告人「今、色々考えていますけど、本当に、僕自身も何が理由で、何のために、誰のために、こんな事をしたのか、本当に解っていません」
弁護人「まあ話を聞くと、」
被告人「はい」
弁護人「何でこんな事をしたんだろうと、よくわかんなかったら、やっぱり、同じような事を」
被告人「何度も考えるんですけど、(聞き取れず)、上手く説明できません。何でこんな事をしたのか、良く解りません」
弁護人「殺すというのは重大なことだけどね」
被告人「はい」
弁護人「なかなか、理由ないと、私もわからない。どういうことなのかなと。私も、どうしてこんな事になったのか、読んでみて、よく解らない。どういうことなのかな、と」
被告人「はい」
弁護人「まあ、先ずそれをね、貴方も考えてみてください」
被告人「はい」
弁護人「それでね、貴方、これを終わって、いや、捕まってから、いろんな事してますよね。今写経なんかしてるの?」
被告人「はい」
弁護人「それはどういう」
被告人「やっぱり、許される事ではないですけど、被害者の、方々に、その、少しでも、慰霊というか、そういうつもりで、やっています」
弁護人「ああそう。それでね、私はね、もう少しね、写経する事も効果はあると思うんだけどね、あなた自身のやった事、それを十分反省しなければいけない」
被告人「そういうつもりで、大阪拘置所で、今、お世話になっていますけど、何一つ出来ていないので、その、罪滅ぼしっていうか、そんな、できることも少ないので、何か、やろうと思って、続けています」
弁護人「とりあえず、その、慰霊というか、そういうのをね、やるという、そういう事ですか」
被告人「そうですね」
弁護人「うん。自分自身をよく振り返っている」
被告人「そうですね、よく、拘置所に居れば、自分のことを考えたり、する時間は、あります」
弁護人「そういう事もあって、えー、現在は写経をしている」
被告人「はい」
弁護人「あなた自身ね、その・・・・、元々粗暴なんであればね、性格であればね、突然ね、殺害と。さっき痛めつけすぎたといっていたけど」
被告人「はい」
弁護人「ま、そういうこともありえるかも知れないけど、やっぱり、殺人っていうのは、大変な事だね」
被告人「はい」
弁護人「何となく」
被告人「はい」
弁護人「其の時の流れでそうなったっていうのが、もう一つ良く解らないんだけど」
被告人「そうですね」
弁護人「自分自身でも、もう一つ良く解らない」
被告人「やっぱり、公判の内容にも渡りますので、本当に自分の中の記憶が正しいのか、やっぱり、僕の主張と、その、共犯の方の主張が違いますし、だんだん、(聞き取れず)、本当に自分が正しいのか、という事もありますし、それを考えると、何がきっかけで、何が理由でこんな事になったのか、だんだん解らなくなってきます」
弁護人「今の思いというか、考えとしては、そういう事」
被告人「そうですね・・・・」
弁護人「其の時、どうして自分がこういう事件を起こしてしまったのか、十分納得できていない」
被告人「自分自身良く解らないんですけど、共犯の方が言うように、小林が勝手に暴れたとか、自分はそんな、そんなんじゃないと思うんですけど、もしかしたらそっちの方が本当は正しいのかも解りませんし、本当に自分自身でも解っていません」
弁護人「あの、共犯の方はね、それぞれね、自分はぜんぜん何もしてないと言ってる人もいますが、それは如何なんだろうかって思うんですけども」
被告人「やっぱり、小学校からやってきた、共犯というよりも友達なんで、普通、何ですか、自分の方に責任転嫁するような、そういう人たちではないので、だから、その友人たちが、口そろえて、小林がやったというなら、もしかしたらそっちの方が正しいのかも知れないと、そんな風に、今は思っています」
弁護人「そうですか。いったん終わります」

−検察官による被告人質問−
検察官「aさんとbさんが殺される理由が無い、というのはまあ貴方の言うとおりだけどね」
被告人「はい」
検察官「貴方が二人を殺すつもりはなかったとか、殺す理由が今もよく解ら無いとかいうのは、おかしいんじゃないの?」
被告人「検事さんの仰るとおりです」
検察官「貴方が言ってる通りだとするとね、大した理由もなく二人を殺したと、そういう事になるけども、それは如何なんですか?」
被告人「やっぱり、理由はどうあれ、やっぱり、人が殺される理由にはならないので、申し訳ないと思ってます」
検察官「捜査段階とか一審の被告人質問ではね」
被告人「はい」
検察官「aさんを帰せば警察に通報されてしまうので殺そうと思った、bさんについては、岡田から埋めるしかないみたいに言われて、bさんを帰せば警察に通報されたり、あるいは、キョクシン会から仕返しがあったりするんじゃないかと思って殺したと、そういう風な言い方をしていたと思うんですけど。それで正しいんじゃないの?」
被告人「先ほども述べましたように、私の供述と、やっぱり、共犯の方の内容が違いますし、自分は、それが正しいと思ってるんですが、実際は違うんじゃないかなあと、最近思っていて、正直、自分でも良く解らないです。そういう風に思っています」
検察官「何が正しいと思ってるの?」
被告人「一審とか取調べ段階で述べてきた事とか、多少は異なっても大筋は、やっぱり、捜査段階で述べたとおりだと思いますので、(聞き取れず)、正直、何かだんだん、自分の供述に自信がなくなってくる・・・・」
検察官「それは、どの共犯者の事を言っているんですか?」
被告人「特定は出来ませんが、判決文とか読ませていただいて、後共犯者の、新聞報道とか、ラジオで流れるニュースだとか、そういうのを聞くと、やっぱり違う主張をしていますし、違う主張をしている人の方が多数いるので、僕も、やっぱり違うんじゃないかって思っています」
検察官「共犯者の調書とか、裁判での調書は見ているんですか」
被告人「いえ、あの、判決文は、あの、佐藤、佐藤君と徳満君と佐山君の判決文を除いては、それ以外は何も見ていません」
検察官「共犯者がね、自分の罪をなすりつけようとしているとか、そういう事は考えないんですか?」
被告人「あの、判決とか、佐藤君の読んだ時は、正直つらかったですけど、でも、一通り読みましたけど、小学校からやってきた友達ですし、そんな都合の良い事する奴じゃないと思ってますし、結局何が真実なのか、僕自身も良く解りません」
検察官「二人を殺したその場では、貴方はかなり冷静じゃなかったんですか」
被告人「今も記憶はしてますので、それは冷静だったのか、冷静かも解りませんし、何と言いますか、どういうように言って良いのか解りません」
検察官「やってる事はかなり冷静な判断の元にやってるように思うんだけどね」
被告人「そのように取られても仕方ないかもしれません」
検察官「cさんにaさんを殴らせたでしょ?」
被告人「酷い事をしてしまいました」
検察官「それから、cさんにaさんを穴に突き落とさせたでしょ?」
被告人「そのような事も、ありました」
検察官「それから、cさんにaさんに石を投げるように言ったでしょ」
被告人「はい」
検察官「で、貴方は、aさんに、最後にいいたい言葉を言えとか、そんな事も言っていますね」
被告人「そのように述べたと思います」
検察官「で、あなた自身も石を投げつけたでしょ。後、穴を掘らせて埋めさせてるわけでしょ」
被告人「そうです」
検察官「まるで、こう、嬲り殺すというか、処刑したみたいな感じがするんだけどね」
被告人「確かに、そのように、認定されるとしても、今でも仕方がない事だと思います」
検察官「それをよく覚えてないとかって今になって言えるのはね、無責任なような気がするんだけど」
被告人「それはおっしゃるとおりだと思います」
検察官「エー、遺族の人がね」
被告人「はい」
検察官「そういう殺され方をしたっていう風に聞いたらね、どういう思いになると思いますか?」
被告人「ご遺族の方々の、考えでは、それは、自分の家族が殺されたら、納得できませんし、今僕が述べてる事は、到底、納得できません。良く解らない等と述べていたら、許せる、どころか、僕の言う事じゃありませんけど、許す事はできないと思います」
検察官「ここで、あの、一審で、遺族の方の意見陳述されたのを聞いてたですかね?」
被告人「はい」
検察官「どう思いましたか?」
被告人「遺族の方々の気持ちっていうのを、深く考えて、大変な事をしてしまったって、本当に、ありがちな言葉でしか、述べれないですけど、申し訳ない気持ちでいっぱいです」
検察官「貴方は、一審の段階までは、ま、どんな判決であれ、あの、真摯に受け入れるという事を言ってましたわね?」
被告人「そのような、覚悟で、参りました」
検察官「今回控訴したのはなぜですか?」
被告人「控訴、理由は、・・・・最初は、あの、一審の弁護士さんに、するつもりは無いと述べてたんですけど、・・・・判決後に、色んな方から、お便りとか、受け取るようになって、まあ、そういう、言い訳になりますけど、そういう、色んな方の気持ちに沿って、控訴しました」
検察官「全く良くわからないんだけど、死刑になりたくないということかな?貴方のいってる事は」
被告人「こんな事件、起こした上で、当然の判決かもしれないですけど、やっぱり、僕自身今は、命乞いと言われても仕方ないですけど、一審で終わらせるような事件じゃないと思うんで、まあ、そんな気持ちです」
検察官「何で一審で終わらせるような事件じゃないの」
被告人「いや、一審で終わらせるっていうか、反省はするべきです。言い訳になりますけど、そんな風に思っています」
検察官「今聞くと、反省するために控訴したように思われるんですけど、それで良いですか?」
被告人「そういう事になると思いますけど」
検察官「えー、遺族も、控訴すれば遺族もどういう風に思うとか、そんなことは考えなかったですか?」
被告人「それはやっぱり、思いますけど、・・・・すみません、言葉になりません」
検察官「特に、あの、aさんのご遺族、ご両親も居るけど、貴方を含めた共犯者の裁判、控訴してますけど、今日は来られなかったですけども、裁判が長引くにつれ、ご遺族の負担というのは相当重くなりますけど、そういった所は考えが及びませんか?」
被告人「それはやっぱり考えてますけど、今、やっぱり世間でも、二人死ぬ、事件があって、ご遺族の、方々の、気持ちを、苦しまれてると思いますけど、・・・・ご遺族の方々の立場から考えれば、言い訳になるかもしれませんけど、どういう風に言ったら良いのか、わかりません」
検察官「それから、先ほど、写経する事が罪滅ぼしだと思うと、考えてる、みたいな事言ったけど」
被告人「はい」
検察官「何故写経が罪滅ぼしになるの?」
被告人「反省、とか、そんなの、当たり前の事なので、何をしようとも許される訳ではないですけど、今、やっぱり、大阪拘置所に居ても、何も、出来ないですので、せめて、何ていうんですか、被害者、亡くなられた方々に対して、何かしたいという気持ちで、(聞き取れず)前から、ま、自分勝手な事ですけど、検事さんのいうとおり、それが何になるんだって言われても、ま、確かに、何になるのかって、・・・・ちょっと上手く説明できません」
検察官「遺族の立場に立って考えてもらいたいんですけど」
被告人「はい」
検察官「先ほど弁護人の方から、貴方が作成したという事で、あの、aさんの遺族あてと、bさんの遺族宛に、それぞれ貴方が書いた写経を渡して欲しいと、手紙かな、これを見せられて、ご遺族に渡していただけないかと頼まれたんだけどね、ご遺族の方が、貴方の書いた、この写経とか手紙を受け取ってどう思うとかいうのを、考えないですかね?」
被告人「(聞き取れず)、受け取っていただけないと思いますし、気分を害されると思いますけど、やはり、何て言いますか、何かというか、その、・・・・気持ち、を、解っていただきたいと、ま、勝手な事なんですけど、ご遺族の気持ちを考えれば、何をしても許される訳はないですけど」
検察官「何の気持ちを解って、どういう気持ちを解ってもらいたいんですか?」
被告人「自分の気持ち・・・・、この事件に対しての事です」
検察官「それで、意味が解るか、写経の文言見て、この写経を渡すことで伝わるんですか?」
被告人「やっぱり、どんな事をしても、お許しはいただけないと思いますけど、自分の、勝手な気持ちとしては、亡くなられた方々の、その、ご霊前に、お供えしていただきたい、等と、書きながら思いました。浅ましくも、ずうずうしく考えました」
検察官「あの、殺した犯人の写経なんかね、仏壇に飾ろうという気持ちになると思いますか?」
被告人「それはやっぱり、思いません」
検察官「終わります」

−裁判官による被告人質問−
裁判官「私のほうから若干聞くけどね」
被告人「はい」
裁判官「貴方が、やった事とか言った事とかね、一部は、あなた自身が、記憶にないと、自信がないと話す所があるんだけども、それを、周りで見てた共犯者や被害者、そういう人たちは、貴方がこういう事をやってたとか、こういう事を言ってたとか、いうのがありますわね」
被告人「はい」
裁判官「で、貴方としては、記憶が無い部分について、そういう人たちが言ってるのであれば、それはそれで間違いないだろうと、そういう事でよろしいですか?」
被告人「そうですね、自分、記憶ないというのが、やっぱりまだありますけど、先ほどからも述べましたように、自分としては、やっぱり共犯というよりも友人なんで、責任転嫁とかそんな事をするような人たちじゃないので、良いかっこするわけじゃないですけど、やっぱり、友達、信じたいというか、そんな気持ちはあります」
裁判官「だけどね、aさんの財布をね」
被告人「はい」
裁判官「最終的に貴方、自分の手にしてたでしょ」
被告人「そうです」
裁判官「どうして自分の手の中にあったかまだ思い出せないんですか」
被告人「それは全く記憶にありません」
裁判官「でも、原審の判決でね」
被告人「はい」
裁判官「貴方がやったことが、強盗になるんだと書いてあったけれども」
被告人「はい」
裁判官「それはそれで納得できると、そういうことでよろしいですか?」
被告人「やっぱり、そういう風に認定されましたけど、その、・・・・そういう風に、小林が取ったって述べてる事実もありますし、僕自身やってないと言っても、その根拠になってる証拠もありますし、認定されても仕方ないと思っています」
裁判官「でも、あなた自身ね、あの、被害者らが、逃げれないようにね、携帯とか、お金の入った財布を」
被告人「はい」
裁判官「とってる。それが全くなかったわけではないだろうけども」
被告人「はい」
裁判官「あるいは、お金もあるのであれば、ついでにそれをとろうと思ってたと、そう言われれば、それはそれで仕方ないと思いますか?」
被告人「結果からたどれば、やっぱり、その、被害者の方々の証言も出てますし、・・・・それが罪になるというなら、仕方がないと思います」
裁判官「でも、そういう下心がなければね」
被告人「はい」
裁判官「その後にすぐさ、あのー、仲間にさ、お金配ったりとかしないでしょ?」
被告人「そういう、結果からたどれば、そういう気持ちがあったのではないかという風に、言われても仕方がないだろうと思います」
裁判官「それからね、えー、結果自体、やったこと、自体、すごく恐ろしい事だと思いますけど」
被告人「はい」
裁判官「そういう事から、思い出そうと思うんだけども、怖くて思い出そうという気持ちが沸かないとか、そういう事はあるんですか?」
被告人「自分のした事ですけど、やっぱり、考えたら、残酷な事してますし、僕自身、判決文とか、自分の一審の速記録とか、そういうのを読んだりしてますと、ちょっと・・・・」
 語尾は声が震えていた。
裁判官「思い出すこと自体怖いの?そういう事はあるの?」
被告人「そういうのもありますけど、なるべく、その、思い出して、証言したいっていう気持ちはありますので、上手く言えないですけど、一生懸命思い出そうとしてます」
裁判官「それからね、貴方がやっている事の、その時々の心境っていうのは、他の人には解んなくて、あなた自身にしかわからないことですね」
被告人「そうです」
裁判官「うん。だから、貴方の口から出ないと、その辺の事は理解できないね」
被告人「それはそうです」
裁判官「例えば、最終的に、殺害の場面で、愉快に思ったのか、つらい気持ちがあったのかとか、そういうことすらも言えなかったなら、貴方の事を如何理解したら良いんだろうね?」
被告人「仰るとおりです。結果的に、すごい、残酷な事件で、当然、悪く、言われるのは当然ですけど、その、殺人を楽しんだとか、そういう、そういう気持ちは持っていません」
裁判官「その時々の心境を、はっきりさせないと」
被告人「そうです」
裁判官「仮に、社会に戻った時にね、同じ事が起きるとは思わないの?」
被告人「こんな事件を起こして、また、同じ事をしようとは、思っていません」
裁判官「だって、貴方何故こうなったのか解らないでしょ?解らないでまた社会に出たら、また同じ事起こるかも知れないじゃないですか!」
被告人「そう言われたら、そういう風になってしまうかもしれないですけど・・・・」
裁判官「踏みとどまる所は何回もあったよね!」
被告人「はい」
裁判官「特に、二人目の時なんか、そこまでする必要があったのかと」
被告人「はい」
裁判官「ねえ、時間も場所も移動があって。何故そこで引き返せなかったのかと、そういう所も、自分でちゃんと見極めなきゃ。周りの人から見て、簡単にまた、人をあやめる事があるのではないかと思われるよ」
被告人「そうですね、本当に、きちんと、説明しなければ、そんな風に、捉えられてしまうかもしれません」
裁判官「だから、先ほどね、弁護士さんから良く考えておいてくれと言われた訳ですよね」
被告人「はい」
裁判官「それからね、貴方の家庭、生い立ち、これが、今回の事件に、何かの関係があるとは思いますか?」
 被告人は、問い返したらしいが、言葉は聞き取れなかった。
裁判官「例えばね、自分が酷い環境にあったから、人を脅してお金をとっても構わないとかね」
被告人「特に、生い立ちは、関係ないかと思います」
裁判官「えー、小中学校の時に、いじめか何か、具体的にあったんですか?」
被告人「低学年の頃ですけど、そういうのが一時期ありました」
裁判官「それは長く続いたって事ではないんですね?」
被告人「そうです」
裁判官「で、低学年の時にあったって時には、お父さんかお母さんに言った事はあるんですか?」
被告人「一回、学校の先生を通してから、そういう風に伝えた事はありますけど」
裁判官「で、その苛めは収まったって事で良いですか?」
被告人「暫くは続いてました」
裁判官「で、苛めに対して、あなた自身としては、つらかったのかな?」
被告人「苛められて」
裁判官「うん」
被告人「いい気持ちする人は居ないと思います。僕自身はつらかったです」
裁判官「でも、もう中学校に上がる頃には、そういうのは忘れる感じですか?」
被告人「やっぱり、ありましたけど」
裁判官「うん」
被告人「深くは、気にした事は無かったと思います」
裁判官「あなた自身としては、自分が苛められていたから他人を苛めて当然だという風に考えたのか、自分が苛められていたから他人を苛めないようにしよう、と考えたのか、どっちの考え方ですか?」
被告人「・・・・そうですね、どっちだか、解りません。そういう事深く考えた事はなかったです」
裁判官「うん、もともとの今回の事件、発端はね、キミの友達が、警察に被害届けだしたっていうのに、それを翻して、復讐しようとしたわけでしょ?」
被告人「はい」
裁判官「其の時に、何でそんなに簡単に、あの、広畑君の誘いに納得してしまったの?」
被告人「それ、は、やっぱり自分の気持ちの中で、良く解りません。ハンドル(?)とか、そういうのがあったかも知れないです」
裁判官「それから、a君が、ぐったりしてる時にね、周りで、死んだふりするなとか、いう発言があったっていうのは解りますか?」
被告人「はい」
裁判官「まあ、死んだふりというくらいだから、その、かなりぐったりしてる事は間違いないでしょ?」
被告人「そんな記憶が」
裁判官「うん」
被告人「そういう風に思います」
裁判官「其の時、何でこのままじゃ警察に捕まるから殺そうという気持ちになるんですか?」
被告人「その当時、自分、記憶が正しければ、その、汚い自分が、逃げる事、それしか考えてなかったのかなと思っています」
裁判官「あとね、警察に発覚してしまったあとに、自首しようという風にね、もともとの発端は、広畑君だと思うんだけどね?復讐の計画立てたのは、広畑君でしょ?」
被告人「そうです」
裁判官「だけど、貴方としては、広畑君を庇って、自分が主犯だという格好で出頭してきたんでしょ?」
被告人「はい」
裁判官「なぜ広畑君をそこまで庇おうとしたんですか?」
被告人「・・・・僕としては、広畑君のみを庇ったっていう、つもりは、なかったんですけど」
裁判官「だけど、一番、この事件に導いた、張本人は、あなたが言うところだと、広畑君でしょ?」
被告人「まあ、発端は確かに広畑君かもしれないですけど、その、犯行の内容とか、その、広畑君は、手を出してないですし、やっぱり、自分が積極的だったと思います」

−裁判長による被告人質問−
裁判長「今日ね、弁護人から事件の事を聞かれたけど、わからないと答えた。それについて検察官から、無責任ではと言われたね」
被告人「はい」
裁判長「君の真意を確認したい」
被告人「はい」
裁判長「今日話をしているのは、事件の原因について、自分に責任があるんじゃなくて周りがけしかけたからやったんだと、こう言いたい訳ではないという事で良いですね?」
被告人「それは、けしてないです」
裁判長「そうなんじゃなくて、自分の事件の記憶は、今まで、一審で話したとおりの事件の経過だと思うけど、他の人たちが話した事で、それよりも自分が悪役になってるっていう事ですか?」
被告人「いえ、そういう、訳じゃないですけど、共犯の方が、殺害の共謀の事を、否認しているので、自分・・・・が、自分一人で判断して、もしかしたら本当に、その、みんなに共謀が無かったっていうのが正しかったら、そんな事を考えながら、ちょっと、良く解りませんと、そういう風に話しているんですけど」
裁判長「その点は、君の一審で話していた、みんなが殺せって言ったわけではないでしょ?」
被告人「はい」
裁判長「共犯の人たちは、昔からの友達で、そういうこと言うなら本当かなって思うこともあるって言ってるでしょ」
被告人「はい」
裁判長「だから、結局、今のように、共謀は無いとか、勝手にやった事だとか、そういう風に言われればそういう面もある筈、自分が供述している以上に、悪い方の可能性も、事件の真相としてはあるのかもしれないという意味で、解らないと言っているという意味で、良いですか」
被告人「そういう、気持ちもあります」
裁判長「今までの自分の話以下にしようというんじゃなくて、悪いところがあるっていう、一人でやった可能性もあるならそうかも知れないので、悪いことをやったならそれも認めなければいけないという事で、解らないと言っている?」
被告人「まあ、僕も、良く解らないと言ってますけど」
裁判長「うん」
被告人「まあ、変な話ですけど、自分自身も、真実とか、そういう事、知りたいですし」
裁判長「方向なんだけども、検察官の先ほどの質問の意図は、事件の責任をあいまいにして、自分の責任を軽くするんじゃないのかっていう事だけど」
被告人「自分は全くそんなつもりは・・・・」
裁判長「そういう風には、全体の話としては僕も取れなかったけど、自分の話を変えるっていう話ではなくて、自分はこういう記憶で話してるけど、だけど周りの人が自分がそれ以上に悪いと言うとしたら、それが本当かも知れないと、そういう意味で良いですね?」
被告人「はい」
裁判長「でも、その中でちょっと気になったのは、場の雰囲気に乗っかってというか、回りに誘われて、やったみたいな事もチラッと言っていたけど、これはどういう意味ですかね?」
被告人「(聞き取れず)自分で答えられる、か、解らないですけど」
裁判長「うん」
被告人「けっして、その、共犯に責任を擦り付けているつもりで述べたわけではないので」
裁判長「まあ例えば、そういう事を示唆する発言として、広畑の発言、岡田の発言に対して、ですよね、貴方は」
被告人「と言いますと?」
裁判長「岡田の発言あったでしょ?強盗のきっかけとか、場所を変えろっていう発言がきっかけになったとか。殺すしかないって言われたとか、それが一つの、そういう、周りの誘惑に乗ったっていう事を言っているという意味で良いですか?それ以上に周りの誰かが、おだてたとか、けしかけたとか、そういう事を言おうとしている訳じゃないですね?」
被告人「そういう、そういうのは、一切、ないです」
裁判長「だから、場の雰囲気っていうのは、すごく哲学的な、そういう人の中だとか、そういう事も含めていっている」
被告人「どういう風に申し上げて良いのか、解りませんけど・・・・」
裁判長「少なくとも、回りが言うから自分がその気になっちゃったとかそういう事を、今になって言っているわけではない?」
被告人「その場の雰囲気ですか?」
裁判長「うん」
被告人「自分が殺したのは人のせいだとか、そんな気は、一切ありません」
裁判長「だから、その場の雰囲気というのは、止めてくれる人がいなかった、とかっていう意味ですね?」
被告人「はい」
裁判長「終わります」
 裁判長の声が聞こえなかったのか、一度弁護人のほうを見てから、被告人は被告席に戻った。

裁判長「では次回は、2月26日1時30分からとなります。今日は終わります」
 12時2分に、公判は終わった。12時までの予定だった。

 若原裁判長は、声の小さい人々の中でも、抜きん出て聞き取りにくい小さな声で、穏やかな調子で質問を行っていた。今から考えれば、判決と態度には、あまりにも大きな落差があった。
 被告人は、証人尋問中は、暗い表情で俯いていた。傍聴席の方に目をやることなく、硬い表情で退廷した。
 閉廷後、証人となった二人は、関係者らしき人と、一階で少し話をしていた。

事件概要  被告人は、共犯者のトラブルから拉致してきた大学生のうち2名を2006年6月20日までに、岡山県岡山市の産業廃棄物集積場に生き埋めにしたとされる。
報告者 相馬さん


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