裁判所・部 大阪高等裁判所・第五刑事部
事件番号 平成18年(う)第1770号
事件名 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反
被告名
担当判事 片岡博(裁判長)芦高源(右陪席)中田幹人(左陪席)
その他 弁護人:伊藤芳朗
日付 2007.4.3 内容 判決

 4月3日火曜日の近畿地方はうす曇り気味で、気温も平年並みであったが、小中高や大学の春休みと重なっていたせいか、大阪の裁判所庁舎10階の高裁3号法廷には、一般傍聴者が、若い人を中心に、20名あまり在廷していた。
 この日、弁護人席には、伊藤芳朗弁護士だけが着席していた。
 開廷時刻が近づくと、刑務官3名に護送されて、専用ドアから、A被告が入廷した。
 定刻になると、裁判長ら3名の高裁判事が入廷した。

裁判長「はい、それでは時間が参りましたので、これから判決を言い渡すことにしますが、その前に氏名などを確認しておきたいと思います。名前は、Aで宜しかったですね?」
被告人「はい」
裁判長「それでは、被告人に対する、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反事件の、控訴審の判決を言い渡します」

−主文−
 本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中、120日を、原審の懲役刑に算入する。

−理由−
 本件控訴の趣意は、弁護人連名作成の控訴趣意書記載の通りであるから、これを引用する。
 論旨は要するに、被告人を懲役7年および罰金250万円に処した原判決の量刑は、これが、重すぎて不当である、というのである。
 そこで、記録を調査し、当審における事実調べの結果をも併せて検討するに、原判決が、その「量刑の理由」の項で述べるところは、いずれも正当なものであると認められる。
 即ち、本件は、いわゆる振り込め詐欺グループのリーダーだった本件被告人が、共犯者二十数名と共に、その指揮命令系統に基づいて、携帯電話を偽名契約して、電話会社から詐取する者や、架空名義での金融口座を開設する者などの相互の役割分担を決めた上で、不特定多数の者を欺網して、金員を詐取するという共同目的の団体を形成していたところ、その団体の活動の一環として、
(1)いわゆるアダルトサイトの利用代金名目に、架空請求を反復継続して、不特定多数の被害者らから金員を詐取した上に(これが、原判示第一ないし第一六、および一八)
(2)次第に第1の犯行が困難になってくるや、架空の交通事故を装い、示談金や治療費、慰謝料名目に、不特定多数の者から、電話を掛けることによって、相手を誤信させ、
これらの被害者から総額1200万あまりの金員を詐取した(これが原判示17、および19乃至22)ことにより、これら犯行により、団体の活動として詐欺を実行した22件の事案
さらに、
(3)これら犯罪により集めた3億1千万あまりの不法収益を、その事情を秘したまま口座移転し、犯罪収益を仮装した
という事案である。
 もともと、被告人は、東京でヤミ金融の番頭をしていたが、独立して手っ取り早く金員を得たいとの考えから、出身地の神戸でビル内に事務所を設置し、組織的詐欺を反復継続していたのであって、その利欲的な動機には、なんや酌量の余地はない。
 被告人は、多数の知人を、本件犯罪組織に誘い込み、インターネット利用者に電子メールなどを送信する為の人員確保のため、事情を知らない女性アルバイトを動員するなどまでしていた上、正社員に対しては、いわゆる「出し子」役や、トバシの携帯電話の確保、架空口座開設役まで、詳細な準備計画を立てた上で本件を実行しており、これらは組織的、常習的、計画的であり、きわめて悪質な犯行態様というほかない。
 当初は、弁護士を装うなどしてアダルトサイトの架空請求をしていたものの、その継続が困難と判断するや、架空交通事故を利用した詐欺へと移行したのであり、被害者の受けた金銭的負担、および精神的苦痛は甚大なものがあった上、犯罪収益仮装の金額も莫大であり、結果の重大性も見逃せないところである。
 さらに、この種事案は、模倣性が強く、社会的な影響が大きいことも見逃せない点であり、この点からも、この種事案には厳正に対処する必要がある、というべきである。とりわけ被告人は、オーナーとして、本件犯行グループの頂点に位置しており、各店長から、日々、詐取金額を報告させた上、自らも高額の不法収益を手にしていたのであって、犯情は悪質であり、きわめて重大な刑事責任がある、と言わなくてはならない。
 そうすると、
(1)訴因に係る被害弁済は、すでに終了していること
(2)いわゆる余罪分の被害についても、当審に至って、100万円を弁済したこと
(3)被告人には、詐欺等で懲役2年6月・4年間の執行猶予に処せられた確定判決があり、本件は、この余罪となること
_等、被告人の為に酌むべき事情を最大限に斟酌しても、被告人を上記刑に処した原判決の量刑は、その刑期、罰金額のいずれにおいても相当というほかなく、これが重すぎて不当である、等とは到底、いえない。(なお、所論は、共犯者との刑のバランスを欠く、などと主張するが、被告人の果たした役割の重大性に照らし、刑の均衡を欠いたものとは考えられない)
 結局、論旨は、理由がない。
 よって、刑事訴訟法396条により、本件控訴を棄却することとし、当審での未決の算入につき刑法21条を適用し、主文の通り判決する。

裁判長「被告人は、ちょっと、その場で立ってください。今、読みましたのが、控訴審の判決です。被告人の控訴は、理由がない、として棄却します。そして、控訴審での未決のうち120日は、すでに刑務所で服役したものとして扱うことにします。この判決に不服がある場合、14日以内に、最高裁判所に上告の申し立てをすることができます。それをしたいのであれば、最高裁判所宛ての上告申立書という書面を当裁判所に出してください。ただし、上告理由については制限が有りますから、弁護人と、よく相談をして下さい。では、これで言い渡しを終わります」

 弁護人は、オウム事件で一世を風靡した人ではあったが、司法記者は、このとき、誰一人として、在廷してはいなかった。被告人は、ごく僅かな関係者に見守られながら、静かに退廷した。

事件概要  A被告は、神戸市内のビルの一室で、いわゆる「振り込め詐欺」事件を反復継続した最高指揮者であるとして、逮捕・起訴された。
報告者 AFUSAKAさん


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