裁判所・部 | 大阪高等裁判所・第一刑事部 | ||
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事件番号 | 平成17年(う)第1598号 | ||
事件名 | 強盗殺人、死体遺棄 | ||
被告名 | A | ||
担当判事 | 若原正樹(裁判長)、杉田友宏(右陪席)、柴山智(左陪席) | ||
日付 | 2006.3.9 | 内容 | 初公判 |
被告人は丸坊主で目がつり上がって頬のこけた、がっちりとした痩躯の男性だった。人定質問で金沢被告は昭和42年5月30日生まれ、大韓民国国籍と答えた。 裁判長「それでは控訴審の審理を始めますから、後ろに下がってください。弁護人の控訴の趣意は要するに量刑不当と事実誤認ということでいいですか」 弁護人「はい」 裁判長「検察官、ご意見は」 弁護人「控訴趣意には理由がありません」 弁護人が申請していた書証3通とX1証人の証人尋問、被告人質問は全て採用された。 書証3通とは以下の3つ。 1.被告人の反省状況 2.被害者との関係について記載(被告人はいかなる事情があっても殺害は許されることではないと理解している) 3.被告人の内妻の妻として口惜しいということがそれぞれ記載されている。 −弁護人による証人尋問− 弁護人「証人のお名前は」 証人「X1です。昭和40年10月生まれ、自営の建築業をしています」 弁護人「ここにいる金をご存知ですか」 証人「はい」 弁護人「証人とはどういう関係ですか」 証人「大学時代の近畿大学レスリング部の後輩です。新入生として入ってきた」 弁護人「2年遅れてレスリング部に入ってきたということですか」 証人「はい」 弁護人「レスリング部の先輩後輩として、どう被告人を評価していましたか」 証人「私生活は真面目でした」 弁護人「レスリングは強かったのですか」 証人「普通ぐらいです」 弁護人「7年ほど大学にいたものの卒業できなったのですが、レスリング部にはOBという形になったのですか」 証人「はい」 弁護人「何年くらいのお付き合いになるのですか」 証人「20年くらいの付き合いになります」 弁護人「どのくらいの頻度で会っていましたか」 証人「日常的に、週に2,3回というのもあれば、月に1回というのもある」 弁護人「逮捕される前日にも、あなたに勤め先のことで相談しに行っていますね」 証人「はい。金銭的に借金を背負わされた、どうしようもなく飯が食うていけないと」 弁護人「内縁の奥さんも知っていたのですか」 証人「はい」 弁護人「つまり奥さんの収入で食っていたということですか」 証人「はい」 弁護人「被告人は金融屋さんで従業員だったのですが、収入がなかったのですか」 証人「はい。お金が回収できんかったらできんかった分を背負わされたとか、私用で呼び出されたとか聞いています」 弁護人「あなたのアドバイスを求めたのですか」 証人「自分としても切羽詰っているとは思わなかった」 弁護人「逃げ出したらいいのではないかと言いましたか」 証人「逃げたらどうなるかと脅されていました」 弁護人「今回の事件で逮捕されて拘禁されることになるのですが、拘置所には何度面会に行きましたか」 証人「10回以上行っています」 弁護人「一審の公判も傍聴していましたか」 証人「求刑のときとか判決のときとか時間があったら行っていました」 弁護人「それはどうしてですか」 証人「20年来の付き合いですし、自分が困っているとき助けてもらったからです。先輩後輩の関係というより親友のような感じです」 弁護人「被告人は無期懲役になって社会に戻るのは随分先のことになるけど、あなたのほうで社会に復帰したらということですでにご準備されていることがあるのですか」 証人「出てきたら自分が自営をしているので、そこで働き口を提供したい。自分も助かるし、出てきて年もいっているから、普通の会社には勤められないだろう。2人で力を合わせたい」 弁護人「協力してあげたいということですか」 証人「はい」 弁護人「引き続き更生をさせていくということですか」 証人「はい」 弁護人「終わります」 裁判長「検察官は何かありますか」 検察官「ありません」 裁判長「それでは証人の方はお疲れ様でした。傍聴席にお戻りください。被告人質問を行いますから、被告人は前へ」 −弁護人による被告人質問− 弁護人「今日は打ち合わせが十分じゃなかったけど、法廷には両親もお見えになっているのですか」 被告人「はい」 弁護人「一審では情状証人として出廷してくれましたね」 被告人「はい」 弁護人「事件のことについて聞いていくけど、平成16年1月10日午前10時30分ごろ犯行に及んで、ポーチにあった財布を抜いたのは間違いないのですか」 被告人「はい」 弁護人「財布からお金を抜いたのは、犯行後どのくらい経ってからですか」 被告人「1時間半ぐらいあとです」 弁護人「財布のなかに11万円くらい入っていたというのが、原審の認定ですがそうですか」 被告人「はい」 弁護人「亡くなった被害者の生活パターンを知ってるということなんだけど、お金を持ち歩く方だったのですか」 被告人「必要なもの以外は持ち歩かない人でした」 弁護人「あなたにとってはどう考えていましたか」 被告人「3万円以上持ち歩くことはなかった」 弁護人「その根拠はありますか」 被告人「一応貸出金が3万2000円までと決まっていることとか、広告とか出すのが3万円くらいなるとか。事件の前の日に『俺(お金を)持ってないやないか!』と怒鳴られた」 弁護人「11万というお金は予期していましたか」 被告人「していません」 弁護人「11万というお金が入っていたのは警察に聞いていると思うんだけど、それは前日あなたと小野が集金した分なんだよね。すると集金分以外にも5万円が入っていたということになるのですか」 被告人「はい」 弁護人「集金して、あなたが渡したお金を被害者はどうしていたのですか」 被告人「いつも自宅とかに持って帰っていた。渡したらそれで終わりなんでよく分からない」 弁護人「なぜ前日渡した6万円が入っていたのか分からないということですか」 被告人「はい」 弁護人「6万円を渡したのは、前日の何時ごろから覚えていますか」 被告人「11時ごろです」 弁護人「あなたのなかに集金した6万円のうち、一部を残しておくという考えはなかったのですか」 被告人「1000円でも多く封筒に入れて渡さないと、そのまま無事に帰れるか心配でした」 弁護人「当日レンタカーを頼むことに関してですが、あらかじめお金を用意していたのですか」 被告人「最初は9日に実行する予定でしたができず、明日もできるか半信半疑なところがありました。あまり先のことは考えなかった」 弁護人「集金について、あなたの分いくらとか小野さんの分いくらとか分かったのですか」 被告人「封筒の表面に明細を書いていた」 弁護人「集金の一部をポケットに入れるというのは、この雇い主では無理だったのですか」 被告人「集金が多ければ可能だが、それは無理でした」 弁護人「1円でも渡さないと不都合が生じるというわけですか」 被告人「はい」 弁護人「あまり考えなかったのですか」 被告人「しかし被害者の財布が空っぽであるということは考えませんでした」 弁護人「11万入っていると分かったのは、財布を見てからですか」 被告人「はい」 弁護人「被害者とあなたの関係について、具体的なエピソードを手紙でも書いているけど、手紙で十分伝え切れていない部分もあるのですか」 被告人「伝え切れていない部分が多分にある。今言えと言われても・・・。小さいことの積み重ねがありますね」 弁護人「いかなる理由があったとしても、人を殺すことは許されないと分かっていますか」 被告人「はい」 弁護人「被害者の冥福を祈っているんですよね」 被告人「はい」 弁護人「具体的にしていることはありますか」 被告人「朝と晩に手を合わせています」 弁護人「被害者の奥さんの、あなたへの気持ちについては聞いていますね」 被告人「はい。どんな償いをしても許されることではありません。どう償っていけるか毎日考えています」 被告人はいつの間にか涙声になっていた。 弁護人「会社をやめるとか、なぜ逃げなかったのですか」 被告人「今思えば自分の一番責めたいところです。恐怖心でいっぱいでした。逃げることも叶わなかった。身内とかにどんな迷惑がかかるかと思った」 弁護人「警察に相談することは考えなかったのですか」 被告人「警察が一番危険なところと当時は思っていました。逃げるよりひどい目に遭うのではないかと」 弁護人「闇金をやっていて、出資法違反などの刑事手続きを考えると、現実的な選択肢ではなかったのですか」 被告人「はい」 弁護人「今どう考えていますか」 被告人「今思えば自首するべきだった」 弁護人「一審は本件は周到に計画された犯行と言いましたが、本当なのですか」 被告人「はい」 弁護人「この事件は分からないまま済むと思っていた?」 被告人「はい。日にちが経つに連れて、不安な気持ちになりました」 弁護人「被害者の持ち物を、どういう気持ちで質屋に持っていて換金したのですか」 被告人「発覚することはないと完全に思い込みました」 弁護人「一番不服なのは量刑が厳し過ぎるということですか。それが一番言いたいことですか」 被告人「・・・」 弁護人「お金を取るというのはウエイト的にはどのくらいでしたか」 被告人「僕のなかでは1か2です」 弁護人「典型的な強盗殺人とは違うんだと言いたいのですか」 被告人「はい。新聞でよく見る、顔を見られたから殺すといった強盗殺人と一括りにされている。それが自分としては残念です」 弁護人「元奥さんも大変辛い状況にありますね」 被告人「はい」 弁護人「無期懲役ということで、社会的には予想がつかない状況ですか」 被告人「はい」 弁護人「こんな犯行に奔らずとも何か相談するということはできなかったのですか」 被告人「残念に思います」 弁護人「元奥さんにも取り返しのつかないことだね」 被告人「はい」 弁護人「ご両親も今日あなたのために駆けつけてくれましたね」 被告人「はい」 弁護人「あなたの社会復帰は予測がつかない状況ですが、残った人生をどういう具合に過ごしたいですか」 被告人「年齢的なことを考えて、具体的にこうするというのは描けないです。現段階では贖罪の気持ちでいっぱいです」 弁護人「X1さんが自営に切り替えて、あなたの働ける場所を作っているということはどう思いますか」 被告人「ありがたく思います」 弁護人「そういう気持ちで一日一日を大事にしていくということですか」 被告人「はい」 −検察官による被告人質問− 検察官「先ほど警察に相談することはできなかったと言っていましたが、その自首するというのは闇金の自首という意味ですか」 被告人「はい」 検察官「それができなかったのはなぜですか」 被告人「自首すれば社長は逮捕されるが、社長の刑期が終わってその後のことを心配しました」 検察官「被害者が社会復帰したあと、あなた方に危害を加えるというのですか」 被告人「はい」 検察官「そういう危険よりも殺してしまったほうがいいと?」 被告人「はい」 検察官「社会復帰のことを話していましたが、被害者は殺されたから、社会復帰はあり得ないわけだよね。あなた方の手によって一度しかない人生を終えた。殺した犯人が社会復帰できると思いたいのですか」 被告人「思いたくないです」 検察官「あなた方は穴を埋めて、遺体を入れて分からなくしようという計画を立ててましたね」 被告人「はい」 検察官「被害者の所持品も一緒に埋めてしまおうと」 被告人「はい」 検察官「お金はもろとこという気持ちがあったのですか」 被告人「はい」 検察官「事前にこのことを共犯者と話し合ったのですか」 被告人「話し合ったことは覚えていないが、争うつもりはない」 検察官「ただ所持金は自然に自分たちのものになると思ったのではないですか」 被告人「埋めるときにお金も一緒に取るということです」 検察官「X1さんに相談したとき、深刻なあなたの気持ちを説明したのですか」 被告人「切羽詰った状況であるという説明はしていない」 検察官「なぜ説明できなかったのですか」 被告人「自分で解決しないかんという気持ちでした」 −弁護人による再度の被告人質問− 弁護人「共犯の小野と接見禁止が取れたあと、手紙のやりとりをしたのですか」 被告人「証拠にはなりませんでしたが、はい」 弁護人「どんなことを書いたか覚えていますか」 被告人「覚えています」 弁護人「無期懲役の求刑や判決に不満だったのですか」 被告人「はい」 弁護人「でもお金を一緒に埋めるつもりがなかったのは事実ですか」 被告人「はい」 弁護人「強盗という法律の判断は別にしても、(遺体に)お金を入れるつもりはなかったのですか」 被告人「はい」 −裁判官による被告人質問− 右陪席「一番最初に犯行を認めてしまった時のことを具体的に言ってくれませんか」 被告人「逮捕されたその時にそのことをいきなり聞かれて、僕も気が動転して何でもハイハイと言っていた」 右陪席「今回の証拠調べで記憶がないのに何でもハイハイと答えたと言っていましたが、他の点もそうですか」 被告人「他の点に関しては間違いない事実です」 裁判長「あなた自身お金を取る気持ちは100のうち1か2かもしれないけど、念頭にあった。ところが小野はそれを否定している。小野のことを考えて微かな記憶を消そうとしていることはありませんか」 被告人「それは絶対ないです」 裁判長「ところで最初にお金に対する行動を起こしたのはいつですか」 被告人「事務所から出て行くときです」 裁判長「それは1時間半経っているでしょう。その前にしていませんか」 被告人「いいえ」 裁判長「現実には手に入らなかったんだけど、お金を探す動作はしていませんか」 被告人「はい」 裁判長「原審ではお金を探る動作をしているって書いてあって、本人の服を探しませんでしたか」 被告人「それはポーチからお金を取ったあとです」 裁判長「被害者の体とかポケットを触ったのは何のためですか」 被告人「お金のためでなく、被害者の身分を表すものは何か入っていないかと思った。もともとポケットとかにお金を入れておくような人じゃないんで」 裁判長「なぜ身分証明書を探し出したのですか」 被告人「あれはポケットから出さないとまずいと思った」 裁判長「誰の死体か分かってしまうからですか」 被告人「はい」 ここで被告人質問が終わり、被告人は証言台から後ろの席に戻る。 裁判官の合議の結果、弁護人が求めていた小野の証人尋問は却下された。 次回の期日を4月27日の午後3時半からに指定して閉廷した。 退廷間際、証人のX1さんと他1名の知人が被告人に「頑張れよ」と声をかけていた。 被告人の年老いた両親は法廷の外で弁護人と打ち合わせをしていた。 | |||
事件概要 | A被告は同僚である共犯と共に2004年1月、大阪府堺市で勤め先の社長を殺害し、遺体を柏原市に埋めたとされる。 | ||
報告者 | insectさん |