裁判所・部 大阪高等裁判所・第五刑事部
事件番号
事件名 住居侵入、強盗殺人、強盗強姦未遂、常習累犯窃盗
被告名
担当判事 片岡博(裁判長)石川恭司(右陪席)浅見健次郎(左陪席)
日付 2005.12.22 内容 初公判

 A被告は刑務官2名に連れられ、入廷。背が低く、甲高い無垢な声を発する。

裁判長「あなたのお名前は」
被告人「Aです」
裁判長「生年月日は」
被告人「昭和26年7月7日です」
裁判長「本籍地は」
被告人「大阪市生野区です」
裁判長「住居は」
被告人「不定です」
裁判長「職業は」
被告人「無職です」
裁判長「弁護人の控訴趣意書はまとめると量刑不当ということでいいですか」
弁護人「はい」
裁判長「検察官、ご意見は」
検察官「弁護人の控訴趣意は理由がないと思料します」
裁判長「弁護人の方としては何かご予定はありますか」
弁護人「被告人質問を5分程度行いたいです」
裁判長「検察官、ご意見は」
検察官「然るべく」
裁判長「それでは原審でも被告人にはいろいろ聞いているので、原審で聞いたのと重複しないように聞いてください」
弁護人「今日は大雪のため、あなたと話すことができませんでしたが、前打ち合わせいした通りということでいいですか」
被告人「はい」
弁護人「あなたは一審の裁判のときに上申書で『私が死刑になることで被害者が帰ってくるのだったら、それが一番いい償いだが、それはできない。被害者の両親の悲しみが晴れるのだったら、私が死刑になったらいい』と書いていて、死刑でも甘んじて受けるという。ところが一審では無期懲役の判決が出てしまった。そんなあなたが控訴した理由はどういうものですか」
被告人「一日でも早く、aさんに対して、自分の罪の償いをしていきたいです」
弁護人「そうすると無期懲役で一生刑務所にいるのではなくて、一日も早く出て、償いをしたいということですか」
被告人「はい」
弁護人「罪の償いということで、どういうことをやっていますか」
 被告人は答えるが、事前に打ち合わせした内容と違ったらしい。
弁護人「少し聞き方が悪かったようです。あなたは申し訳ないという気持ちを持っているということだけども、遺族に対してどういうことをやっていますか」
被告人「朝と夕方に・・・」
裁判長「質問の意味分かりますか?そんなに難しいことを聞いているわけじゃないから、答えてください」
弁護人「お経のこととかあるのではないですか」
被告人「朝と夕方の2回、般若心経を挙げて、朝と晩を過ごしております。今もやっています」
弁護人「毎日やっているんですね」
被告人「はい」
弁護人「あなたは拘置所で独居房にいるのですね。般若心経を読む他にしていることはありますか」
被告人「最近少し本を読むようになりました」
弁護人「どんな本を読んでいるのですか」
被告人「藤沢周平とか、人情味のある本が好きになりました」
弁護人「私もその作家の本は1,2冊しか読んだことないんだけれど(笑)、本を読むとか新しいことをやっていたら、報われると思ったのですか」
被告人「面白いです」
弁護人「あなたは54年生きてきて、いろいろ不遇なこともあったけど、そのなかで一番辛かったことは何ですか」
被告人「一番辛かったことは14歳のときに親父が死んだことです」
弁護人「辛かったのは、父親と別れなければならなかったということですか。他に辛かったことはありますか」
被告人「前刑の神戸(刑務所)を出るとき、いざ出所だという際に刑務官に呼ばれて『お前は仮釈放で出しても、絶対立ち直りできないんやから、仮釈放を取り消す』と言われたことです。今回こんなことをしてしまったことはありますけど、神戸で言われた言葉は辛かったです」
弁護人「立ち直れないと言われた、それが辛かった?」
被告人「はい」
弁護人「では生きてきたなかで一番嬉しかったことは何ですか」
被告人「沖縄で結婚したことです」
弁護人「所帯を持てたことが嬉しかった。他にありますか」
被告人「孤児院を訪ねたとき、みんなが『兄ちゃん、兄ちゃん』と言ってくれて、一日中遊び回った。そのときの思い出は頭に残っています」
弁護人「あなた自身が温もりを求めていたと?」
被告人「はい」
弁護人「あなたは自分の性格をどう見ていますか。気が小さいとか大胆とか色々あると思うんだけど」
被告人「考え深いと言うか、マイナス思考で、何事も悪いほうへ悪いほうへと考えてしまう」
弁護人「被害者の両親のような両親がいたら、自分も違っていたということも言っていましたね」
被告人「いつも法廷で後ろに座っていて、娘さんに対する話を聞いているときに、こんなご両親がいれば私も違った人生を送っていたかもしれないと思いました」
弁護人「あなたはこれまでいろんな目に遭ってきているわけだけど、例えば事故で指を落としたから仕事がないとか」
 ここで被告人はもう一本指を飛ばすか、もう一間接深くないと○級なので(障害)手当てが出ない云々と医者が話したと不満を言ったが、弁護人はすぐ次の質問に移った。
弁護人「本当は一日も早く出て被害者に償いたいということで、控訴審を受けているのですか」
被告人「はい」
弁護人「終わります」
検察官「私からは一点、今日法廷に被害者の遺族も来ていることは知っていますね。被害者の気持ちは分かっていますか」
被告人「はい」
右陪席裁判官「控訴した理由がよく分からないんですが、何で控訴したのですか」
被告人「罪の償いです」
右陪席裁判官「どうすれば罪の償いになると思いますか」
被告人「これからもずっと彼女の冥福を祈りたいと、そして私が今度こそ立ち直っていくことが罪の償いになると思います」
一同「???」
裁判長「被告人は後ろに下がって。判決の言い渡しは1月17日にします」

 ここで傍聴席にいた被害者の父・母・兄弟もしくは交際相手と思われる遺族3名が叫ぶ。
遺族(父)「今日のことに反論があるので、その機会はないのですか」
裁判長「そういうことは検察官と相談してください。裁判所が傍聴席から直接聞くことは法令上できません。できないものはできません」
遺族(若い男性)「そんなこと言ってるから、人殺しが・・(ここで父に制止される)」

 閉廷し、被告人が傍聴席の方を向く。
遺族(若い男性)「こっち見んな、気持ち悪い!お前が一日も早く死んでくれることが罪の償いじゃ!はよ死ね!くたばれ!」

事件概要  A被告は、2004年11月15日、大阪府大阪市において強盗目的で看護師を殺害したとされる。
報告者 insectさん


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