裁判所・部 大阪高等裁判所・第五刑事部
事件番号 平成16年(う)第1845号
事件名 住居侵入、強盗殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、強盗殺人未遂、窃盗未遂、現住建造物等放火、建造物侵入、窃盗
被告名
担当判事 片岡博(裁判長)石川恭司(右陪席)浅見健次郎(左陪席)
日付 2005.8.30 内容 証人尋問

 8月30日、死刑求刑に対し一審無期懲役判決のA被告の控訴審(証人尋問)が大阪高裁(片岡博裁判長)であった。
 被告人は背が高く、色白で顔をクシャクシャにしたような表情をしていた。
 今回出廷したのは黒い服を着た女性であった。通訳の打ち合わせで弁護人が「被告人は日本語が相当分かっている」と話していた。

裁判長「それでは今日は証人尋問ですので、Tさんは前へ。住所や氏名は出頭カードに記載の通りですね」
証人「はい」
 そして宣誓をしてから、弁護人の質問。なおこの小林弁護人は林真須美被告の主任弁護人であった。
弁護人「あなたは京都経済短期大学資源活用推進課の課長をしていますね」
証人「はい」
弁護人「この推進課でどんな仕事をやっているのですか」
証人「主に大学の総務の仕事をしています」
弁護人「あなたが京都経済短期大学に就職したのはいつですか」
証人「開学が平成5年ですので、そこから勤務しています」
弁護人「大学開学以来というと、一番古い職員さんということになるのですか」
証人「はい」
弁護人「被告人のAは在学していたが、本人だと知ったのはいつですか」
証人「2002年の2月に外国人留学生3次入試があり、その日に本人が受験して、4月に入学しました。そこからです」
 ここで大学案内のパンフレットらしき弁4号証を弁護人が証人に示す。
弁護人「これはどういうものですか」
証人「受験生に配る合格案内です」
弁護人「これを見ながらでいいので答えてください。学部としては1つしかなかったのですね?」
証人「はい。経営情報学部のみです」
弁護人「1学年に何人いたのですか」
証人「150名です」
弁護人「すると短期大学は2年だから、定員は300名ということになるのですか」
証人「はい。定員は300名です」
弁護人「弁5号証には入学試験の日程や募集要項が入っています。それによると150名の定員のうち30名が外国人だということですが、どこの国からの学生が多いのですか」
証人「中国からの留学生が多いです」
弁護人「教職員の数は何人ですか」
証人「教職員が30、職員が20で50名程度です」
弁護人「大学の特色としては、徹底した少人数教育、学生と教職員は固い絆で結ばれている、そういうことですか」
証人「そうです」
弁護人「中国からの留学生は日本語学校を経て入学してくるのですか」
証人「大部分はそうですが、直接来る人もいます」
弁護人「中国で就学ビザなら取りやすいから、日本の大学で留学ビザを取るということですか」
証人「就学ビザが簡単なのではなく、留学ビザが少ないためだと思います」
弁護人「Aの場合は学費の59万3,000円を払えずに問題になったのは知っていますか」
証人「知っています」
弁護人「あなたが財務・庶務の立場できちんと解決しなければならない立場だったのですか」
証人「はい」
弁護人「Mという方はあなたの部下でしたね」
証人「はい。Mから報告を受けました」
弁護人「1月15日までに残りの金を納めなければならないとあるが、どういうことですか」
証人「当日は学籍移動を決定する教授会があり、そのなかで学費未納者は除籍になります」
弁護人「1月15日の午後にはどういう処分が下ると予想していましたか」
証人「除籍処分になると思いました」
弁護人「1回も待ってくれない最後の期限が1月15日ということですか」
証人「例外措置を講ずるには該当項目がたくさんあります。一般的にはその日の会議で決まる」
弁護人「退学と除籍では本人の不利益がどう違うのですか」
証人「退学は自分から辞めることで、他の短期大学にも転入できるが、除籍処分となると入国管理局に通報しなければならず留学ビザもなくなります。つまり帰国しなければならなくなります」
弁護人「張の場合は寮費を入れて125万を払わなければならなかった。留学生に対する奨学金はどうなっていたのか」
証人「奨学金は文部科学省と大学からの2種類あり、大学の成績、出席率、その他を考慮して50%〜100%の減免を受けることが可能です」
弁護人「そういうことはどこで説明するのか」
証人「入学後のオリエンテーションや留学生交流会でその募集要項の説明をしています」
弁護人「アルバイトをする留学生は多いのか」
証人「ほとんどが入国管理局の資格を取ってアルバイトをしています」
弁護人「アルバイトの条件は知っているか」
証人「週25時間以内と聞いています」
弁護人「どんなところでアルバイトをしていることが多いのか」
証人「大学の近くのスーパー、コンビニ、飲食店が多いです」
弁護人「学生寮はありますか」
証人「現在はありませんが、当時はありました」
弁護人「学生の部屋で45室あって張もいたが、寮にいたら仕送りなしで学生生活を送れるということは考えられるのか」
証人「収入は主に、仕送りとバイト代だけなので、計画性の違いはありますが難しいと思います」
弁護人「中国から京都経済短大に来た人と、日本から京都経済短大に来た人では勉学に対する姿勢の違いはありますか」
証人「留学生は在留期間が限られていますので、何かを取得しようと2年間勉学に励む学生が多かった」
弁護人「日本人の学生グループと中国人の学生グループは別の場所で過ごしていたのか」
証人「少人数のゼミが本校の特徴なので交流はあったと思います」
弁護人「Aは勉強熱心だったといえるか」
証人「熱心だったといえます。1年生のとき多くの単位を取得しようとしていたため履修登録が多く、A評価も多かった」
弁護人「張が大学で勉強している姿を多く見てきたのか」
証人「国際センターや図書館、情報処理室で勉強している姿を私自身も見ている」
弁護人「あなたが教職員の立場でも勉強熱心だったと思うか」
証人「はい。勉強熱心な学生だと思います」
弁護人「事件が発表される前まで、彼を見て、色々心配をかけるような様子は見せなかったのか」
証人「勉強している姿しか印象はないです」
弁護人「事件が大きく報道され、学校内部ではどのようなショックがありましたか」
証人「予想もしていないので大変驚きました。大学としてもこれからどうなっていくのだろうと言う気持ちでした」
弁護人「証人もどういう事件なのか知っていますね」
証人「はい」
弁護人「事件についての処罰感情というかAのために言いたいことはあるか」
証人「被害者やご遺族の苦しみや悲しみは計り知れないものだと思います。私自身も命の大切さを学生にも教え、勉強し直しました。Aもいろいろな被害を与えましたが、大切な命の一つです。私への手紙でも償いと反省と言う言葉と連ねています。寛大な判決をお願いして、ご指導いただければと思います」

 ここで検察官からの質問に変わる。
検察官「あなたはAを図書館で見かけたとあるが、話したことはあるのか」
証人「はい」
検察官「どんな話をしたのか」
証人「私の当時の担当部署は国際センターの統括で、そのなかで声をかけたり、学生寮の交流会に出てくるよう話しをしました」
検察官「外国人留学生一般に対してそういう対応をしていたとあるが」
証人「少人数なので個々に話をすることもあります」
検察官「Aと特別に話をしていたというわけではないのですね」
証人「個別の相談を受けたとかはなかったですね」
検察官「他の留学生と同じ対応をしていたというわけですね。他の日本人とは会話は違うのか」
証人「留学生に関しては時間をかけて話すようにしている」
検察官「留学生は常時定員通りなのか、欠員もあるのか」
証人「常時30名から40名はいる」
検察官「途中でドロップアウトして母国に帰る例はあるのか」
証人「はい」
検察官「その割合はどうか」
証人「5名から10名が退学・除籍という処分になる」
検察官「それは1年に5名ということなのか」
証人「いえ、卒業時に5名から10名ということです」
検察官「では35名から40名のうち2年経ったら何人卒業するのか」
証人「30名ほどが毎年卒業していく」
検察官「Aとのお金の対応はMさんがしていたということだが、どんなやりとりがあったのか」
証人「態度が高圧的だったとの報告を受けている」
検察官「興奮していたと聞いているわけか」
証人「いつもと違うが、話を聞いているうちに落ち着いてきたとのことです」
検察官「(学費未納の)督促状と保証人への連絡はその学生にも行うのか」
証人「日本人にも保証人への連絡は同じようにしている」
検察官「Aは保証人に連絡するのを嫌がったということをMから聞いているか」
証人「そうみたいとの報告がある」
検察官「Aについては学費納期の延期とかは考えなかったのか」
証人「全ての項目が該当しないと例外は認められない」
検察官「どこが該当項目に当てはまらなかったのか」
証人「記憶にないが、(該当項目が)非常に少なかった」
検察官「日本人のなかにも結構未納者はいるのか」
証人「日本人もそんな多くはございません」
検察官「 学費が納入できないで、除籍処分になるのは年間何人でしたか」
証人「年度によって違いますが、2学年で5名から10名の間です」
検察官「入学から卒業までに学生人数が減るということだが、学費が納入できないで大学を去る者も結構な割合なのか」
証人「退学は稀で、学費未納による除籍処分で大学を去っていくほうが多い」
検察官「最終手段として保証人と連絡を取るということか」
証人「それ以前に国際センターで面談をするが、ほとんどの学生は呼び出しに応じないので保証人に連絡することになります」

 ここで裁判官からの質問
左陪席裁判官「あくまで一般論と捉えてくれていいのですが、学費を未納で大学を去らねばならないと時の表情はどんなものか」
証人「国に帰らなければいけないと言われたことがある」
右陪席裁判官「私からは一点、今回の事件が及ぼした他の留学生に対する影響はどんなものか」
証人「大学としては当時マスコミから学生達を守らなければならないほどだった。留学生も動揺が激しかったので、カウンセリングみたいなことをした」

 ここでこの日の審理が終わり、裁判長が次回は弁護人尋問、次々回が検察官尋問と指定して終わった。次回の公判は10月4日3時から。
 閉廷後、証人のTさんは国語辞典をAに差し入れてくれるよう、弁護人と話をしていて「雨だったから本が濡れてしまって」と言っていた。

報告者 insectさん


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