裁判所・部 大阪高等裁判所・第五刑事部
事件番号
事件名 強盗殺人等
被告名 A、B
担当判事 那須彰(裁判長)白神文弘(右陪席)浅見健次郎(左陪席)
日付 2005.1.11 内容 判決

 午前10時から強盗殺人などに問われたA・B両被告の控訴審判決が大阪高裁(那須彰裁判長)であった。
 両被告とも黒のジャージ姿で俯き加減に入廷した。
 A被告は背が低くどこにでもいそうな田舎青年の風貌だった。
 B被告は事件概要のイメージとは異なりお世辞にも美人とは言えず暗そうな雰囲気だった。

 判決は本件各控訴を棄却する。
 検察側は各控訴申立書で残虐さ、悪質性、社会的影響に鑑みると両被告には死刑をもって臨む他ないと主張した。一審は評価を誤り無期懲役は不当である、また余罪の懲役10月も不当というのである。
 ここで一審の判決文を引用した事件の成り行きが読み上げられる。それが終わった後、無期懲役を言い渡した一審の諸点を順次検討していく。
 検察が主張するには、Hは死亡という最悪の結果は免れ強盗も未遂に終わっており被害者はM1人であると一審は述べているが、Hは精神的にも肉体的にも死亡寸前の状態になり、今なお後遺症に悩まされ、経営する店舗を一店閉鎖するなどしている。
 両被告が繰り返したのは当初から殺意をもった法律上最も悪質な強盗殺人であり、それをわずか2週間の間に敢行したものである。これはまさに2件の強盗殺人に匹敵し、死者が1名、強盗が未遂に終わったなどとは情状評価にはなり得ないというのである。
 ここで最高裁の永山基準が述べられ、結果の重大性、とりわけ殺された被害者の数が死刑選択の最も重要な因子になっていることはほぼ異論がない。もちろん11人殺害の場合も結果が極めて重大である時は死刑もあり得るのであり、それ(被害者数)を過大に捉えて無期懲役選択の幅が広がるというわけではない。
 そこで分析・検討を加えるに、Hは幸いにも命は助かり家族と暮らしているので2名の強盗殺人と解するのは無理がある。また一般予防の見地から見ても無理があると言わざるを得ない。
 そこで仔細に検討を加えるに、まず確定裁判の余罪(懲役10月)は死刑か無期かの情状には関係がないと退けた。
 次に検察は、一審ではAはBに金蔓として利用されたのであって従属的だとして無期、Bは実行犯でなく殺害行為はやっていないから無期というのは偏った見方と偏見であると主張した。というのも2人は共同正犯の関係にありAは主体的に犯罪行為に及び、Hという人物を選び出しサバイバルナイフで刺したのもAの勘案であり、Mの事件では自分の判断で扼殺ないし絞殺に切り替えるなどしているというのである。
 だが各犯罪行為の経緯や形成の上でBの影響はあったのは否定できない。
 一審のBに対する情状についても一審は実行犯でないのを、ことさら大きく解釈しているわけではないと述べ、検察側の主張は当たらないとした。
 また検察はAは自らサバイバルナイフを用意するなど、他人の命を奪うのを厭わない性格の持ち主で、一審は公判で謝罪したのを有利に斟酌しているが、Aが被害者に謝罪したのは一回だけで、その一方裁判所には数回の手紙を送っている。これは真に反省していないことの証左である。
 だがAはMの優しい人柄に触れて犯行を躊躇したとも供述しており、危険な犯罪性向は否定できないものの、重大な犯行を前に逡巡しており、そこにAの人間性を垣間見ることもできないわけではない。
 また事の意外な展開に驚き『暴走した自分が情けない』とも供述しているのであり、それは真摯な反省も顕れとも評価できるし、そこにはBに罪をなすりつけるという態度は認められない。また人を騙して金蔓とするBからの無謀な要求に対し限界に近い状態にあったことも事実である。
 また平成15年7月には養父が亡くなっていることもある。
 またBについては『(Aが)人を焼いているのを見た』と自ら警察に申告したのは、Aが罪を被ってくれるという思いがあるのも供述調書から否定できないばかりか、愛情の独占欲が強いAを切り離す算段があって動機が不純であると検察は主張するが、自分の関与が分かると罪の重圧を次第に意識し始めたも事実である。
 未だ若年で服役経験がなく家族の間では優しい人柄であったという一審の情状評価は、強盗殺人事件ではMの落ち度を非難したり、出会い系サイトに夢中になり離婚した元夫に一旦引き取った子どもを預けるなど普段の生活歴から家族を大事にしているとは言えないが概ね反省の態度を示しており一審が過大に評価しているとまでは言えない。
 検察は被害者が1名の事件も多数の死刑判決の前例があると主張した。とりわけ検察が引用した1名を殺害し、妻に保険金を掛けてバットで殴り殺そうとした死刑事件とは、この事件が高度な計画性を有しているもので、本件より悪質であり、この基準を被害者2名とするのは採用し難い。
 かくも重大な事件を起こし骨を川に捨てる、世情稀で衝撃的な事件であり自己中心的な動機に酌量の余地はない。非情冷酷かつ残忍な犯行で凄惨極まりなく、被害者両名の驚愕と絶望は計り知れないものがあり、遺族の怒りが峻烈なのも当然で死刑を選択することも十分考慮すべき事案である。
 だがAは特異な性格を持つBに依存・傾倒したものでためらいや躊躇も見られ特段の前科も有しておらず犯罪性向が顕著であるとは即断できない。
 また『暴走した自分が情けない』との供述から内省を深めており長期の更生教育によって改善する見込みがないとは言えない。
 Bに関しても『人にやらせたら罪にはならないと思っていました』との供述は倫理観が欠如しているがそこには未熟さも見られ、事件を述懐しているのも内省の顕れである。
 未だ25歳の若年であり長期の更生教育によって改善の見込みが全くないとは言えない。
 以上の観点から極刑を認められる場合には当たらなく軽過ぎると評価することはできない。論旨は理由がない。
 本件各控訴を棄却して、弁護費用は被告人に負担させないこととする。

 そこで両被告を前に立たせて『当裁判所の結論は以上です。もう取り返しはつきません。被害者の冥福を祈ることを裁判所としても希望します』と諭して終わった。

報告者 insectさん


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