裁判所・部 大阪地方裁判所・刑事3部(合議係)
事件番号 平成20年(わ)518号等
事件名 覚せい剤営利取引、覚せい剤有償譲渡(変更後に追加された訴因:銃器保管罪)
被告名
担当判事 樋口裕晃(裁判長)橋本健(右陪席)能宗美和(左陪席)
その他 弁護人:戸谷茂樹
日付 2008.9.26 内容 判決

 当日は、大変に天候が悪く、日中でも照明が欠かせないような状況であった。司法記者の人たちは誰も法廷には来ず、警察関係者1名と、私を含めた一般傍聴者6名が、開廷を待っていた。平均年齢は48歳くらいだったろうか。

裁判長「それでは、被告人に対する判決を言い渡します」

−理由全文−

○罪となるべき事実
 被告人は、
・第1に、
 みだりに、平成18年×月×日ころ、大阪市中央区瓦屋町(番地略)の「松屋町レジェンドール」建物前路上にて、フェニルメチルアミノプロパンである覚せい剤5グラムを代金4万円で、知人のaに有償譲渡したほか、
・第2として
 前記aに対して、みだりに、前同様の場所にて、平成18年×月×日ころ、覚せい剤5グラムを、代金4万円で有償譲渡した。
・第3として、
 営利の目的で、平成19年8月01日、大阪市西成区出城1丁目グランソシエ今宮の賭博店営業所にて、bに対して、覚せい剤1グラムを代金1万5000円で譲渡した。
・第4として、
 営利の目的で、平成20年1月12日ころ、前記グランソシエ今宮の賭博店事務所にて、覚せい剤5グラムを10万5000円の代金で譲渡した。
・第5として、
 同年同月16日、前記グランソシエ今宮に家宅捜索に赴いた大阪府警察本部生活安全部保安課員らの面前にて、
1)営利の目的で、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶6.056グラム(平成20年押142号符号1ないし8は、その鑑定残量)を所持し、
2)法定の除外理由なく、自動装填式けん銃4丁および回転弾倉式拳銃1丁を、これと適合する実弾40発と共に所持し、
3)法定の除外理由なく、けん銃実砲1発を所持した
ものである。

○証拠の標目
 以上の事実は、判示第1、第2の事実については、
・被告人の司法警察員作成の供述調書(大阪府警察本部生活安全部保安課所属)
・aの検察官面前調書(大阪地方検察庁検察官検事作成)
・aへの判決謄本
・被告人の当公判での供述(3名の裁判官面前にて直接供述)
 判示第3、第4、第5括弧(3)の事実については
・被告人への司法警察員作成の供述調書(大阪府警察本部生活安全部保安課所属)
・bの検察官面前調書(大阪地方検察庁検察官検事作成)
・bへの判決謄本
・実況見分調書(写真および、添付図面、説明をすべて含む)
・売り上げ帳簿
 判示第5括弧(1)(2)の事実については
・被告人への司法警察員作成の供述調書(大阪府警察本部生活安全部保安課所属)
・被告人の当公判での供述(3名の裁判官面前にて直接供述)
・証拠物たるけん銃五丁(平成20年押142号.符号9、11、13、15、符号18)
・証拠物たる実弾41発(同押号、符号12、14、16、17、19乃至21)
・実況見分調書(写真および、添付図面、説明をすべて含む)
・大阪府公安委員会の証明書(銃器所持の許可が無いこと)
等により、これらを認める。

○法令の適用
 判示第1,第2については、覚せい剤取締法41条の2第1項に、判示第3,4については、同法同条第2項に、判示第5の括弧3は、同法同条2項に、判示第5括弧1,2は、それぞれ、銃砲刀剣類所持等取締法31条の3.第2項と、同法31条の8に、それぞれ該当するところ、これらはいずれも併合罪(刑法45条)であるから、刑法47条に従い、加重処理をしたうえで、被告人を前記懲役刑に処し、併科の罰金額を主文通りと定め、換刑処分につき刑法18条を適用し、さらに、本件押収物は、いずれも法律で所持が禁止され、なおかつ、これらは被告人の所有する物品であるから、刑法19条1項により、任意的没収し、密売金額50万円については刑法19条の2による任意的追徴とし、未決の懲役刑算入につき刑法21条を、訴訟費用の免除につき、刑事訴訟法181条1項但し書きを適用して、主文通り判決する。

○量刑の理由
 本件は、判示の通りの(1)覚せい剤個人的有償譲渡、(2)営利目的密売、(3)銃器加重保管の各事案である。
 (1)(2)については、身勝手かつ反社会的な犯行であるし、(3)についても、証拠上認定できる事実によれば、被告人は、建設業経営当時、ブラジル人から拳銃と実弾を買い取り、趣味で保管していたというのであって、このような動機・経緯には、何ら酌むべき事情は無い。
 犯行態様も、悪質であり、結果の重大性についてみても、多数の覚せい剤を現実にわが国に拡散させたうえ、殺傷能力の高い銃器を多量に営業所に保管していた点も重大である。
 わが国は、平成7年以降、内閣官房長官を頂点とし、水産庁・環境省・警察庁・税関(財務省傘下組織)・空港保安(国土交通省所管)らとの合同機関である銃器対策推進本部を設置し、銃刀法を改正し続けており、一般予防の見地からも、被告人の犯行は、強い非難に値(あたい)する。とりわけ、被告人は、昭和62年9月に大阪地方裁判所にて、殺人罪で懲役7年に処せられ、平成7年7月に刑期を満了したにもかかわらず、本件各犯行を引き起こしており、合計前科5犯を有しているのであって、規範意識に相当な問題が有り、かつて、このような重大犯罪を敢行しながら、個人の生命身体への侵害に結びつき得る本件を引き起こした被告人は、強い非難を免れず、犯情は重大である。
 そうすると、一般情状として、友人が証人として出廷し、今後の監督を誓約し、妻も情状証人に出廷して「夫の帰りを日本国で待つ」と述べていること、扶養すべき妻子の存在が認められるが、これらの点を考慮しても、主文程度の、刑期・罰金・追徴は、到底、免れない。
 よって、主文のとおり、判決する。

−主文−
 被告人を懲役12年および罰金50万円に処する。未決勾留日数中、150日を、その懲役刑に算入する。この罰金を完納できないときは、1日を5000円に換算した期間、被告人を労役場に留置する。押収に係るチャック式ポリ袋入り覚せい剤8個(大阪地方裁判所・押収番号…平成20年(押)第142号.符号1乃至8)、自動装填式けん銃4丁(同じく押収番号.符号9、11、13、15)、回転弾倉式けん銃1丁(同押号、符号18)、けん銃実弾41発(同押号、符号12、14、16、17、19乃至21)を、それぞれ没収する。被告人から、金50万円を追徴する。

裁判長「待ってくれている人もいるようです。一日も早く仮出所して、社会復帰できるように努力してほしいと思います」
被告人「有難うございました」

 被告人は拘置所へ戻る際、弁護人にも「先生、有難うございました」と挨拶をして、法廷を後にした。

報告者 AFUSAKAさん


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