裁判所・部 大阪地方裁判所・第九刑事部合議係
事件番号 平成19年(わ)第813号等
事件名 恐喝、詐欺
被告名
担当判事 笹野明義(裁判長)安永武央(右陪席)野村昌也(左陪席)
日付 2008.8.15 内容 判決

 スエット姿で入廷した被告人は剣呑とした目に皺の多い中年男性であり、一部のゴシップ情報ではグリコ森永事件にも関与したのでないかとあった。収益で豪邸に住んでベンツを複数台所有していたとされ、公判中は入ってくる傍聴人を必ずじーっと見るという。開廷前撮影が終わり、被告人は証言台の前に立たされる。

−主文の要旨−
 懲役14年、未決360日算入

−理由の要旨−
○第1.被告人の陳述趣意
(1)事実誤認の主張
 被告人は3事件とも冤罪であるから、起訴状には事実誤認がある。いわゆる3名の被害者は、全員、@虚偽被害申告(刑法172条違反),A偽証(刑法169条違反)を犯しているとしか思えない。
(2)法令解釈の誤りについて
 仮に、A弁護士の法廷証言が真実だとしても、起訴状記載の文言では、刑法上の恐喝罪は成立しないから、起訴状には法令解釈の誤りがあり、結局、被告人は無罪である。

○第2.受訴裁判所の判断概要
(1)当裁判所の基本的立場
 当裁判所は、起訴された「A弁護士事件」「キャバレー嬢事件」「c氏事件」について、被告人が犯人であり、被告人は、被害者3名の名誉を毀損し、被害弁償もせず、刑事責任は重大であり、検察官の求刑通りの量刑は免れない、という結論に至った。
(2)A事件についての補足説明
 Aは当法廷で、検察官を通じて録音テープを証拠申請し、当裁判所は公開法廷で、その録音テープを再生したが、これによれば、A証言は充分に信頼できる。さらに、A証言は、(一)A自身が作成した、メモ書き、私文書などの客観的証拠とも合致しているし、(二)共犯者Cの法廷証言とも共通しており、相互補強関係に立つ。
(3)キャバレー嬢事件、c氏事件について
 キャバレー嬢と被告人の出会いの関係、男女関係の強要状況、代理人弁護士から被告人へ発送された内容証明郵便などによれば、キャバレー嬢、c氏の法廷証言には、ともに、客観的証拠による裏づけが有り、ともに、高度の信用性が有る。
(4)被告人の弁解について
 従って、これらと矛盾する被告人の弁解など、何ら信用できないし、客観的証拠などから、共犯者Cの法廷証言もまた、信用性が高い。
(5)恐喝罪・詐欺罪についての法律技術面の検討
 これらの事実関係を踏まえて法律技術面を検討するが、A法律事務所宛にFAX送信された文書の文言自体が、脅迫文言であるから、被告人に対して、「刑法249条1項」の恐喝罪が成立することは明らかであるし、ミス大阪事件についても同様である。また、詐欺事件(判示第3)についても、@欺網行為→Aそれに伴う錯誤→B金銭交付 という因果関係が成り立ち、刑法246条の詐欺罪の構成要件に該当することは間違いない。
(6)情状の検討
 A弁護士事件は共犯者Cと共謀のうえ、債務の処理に不手際があったとする架空の話を信じ込ませて金融会社の者がAを刺しに来るなどと脅してAの身にいかなる危害を加えかねないものと畏怖させたうえで、近隣の法律事務所に多量のビラやAの事務所に多量のファクシミリ、事務所の近くで車のクラクションを鳴らし続けるなどした陰湿かつ強烈な脅迫行為を行ったものである。日常的に脅迫行為を敢行しており、極めて狡猾で常軌を逸した悪質なものである。Aが3億円もの業務上横領を犯した陰には本件被害の影響があることは疑いないところであるし、Aの家族の人生もおおいに狂わせており財産的被害に留まらない損失を与えている。
 ミス大阪事件は借金の相談をしてきた被害者の弱みに付け込んで被害者が畏怖しているのに乗じて、2年間に渡ってお金を借り入れさせるなどして400万円を脅し取ったもので、20歳代にその数年間を脅迫された被害者の精神的苦痛は大きく、被害金の返金をしているもののその送金は十分でなく被害回復はなされていない。Aとキャバレー嬢の処罰感情が誠に厳しいのも十分に理解できる。
 本件各犯行の罪質、結果、態様、動機についてみるに、極めて自己中心的、悪質、巧妙、計画的であり、被害者はいずれも、程度の差はあれ、財産的にも、精神的にも甚大な被害を受けており、なおかつ被告人は、当法廷で被害者の名誉を毀損するような応訴態度であり、反省の気配はなく、被害弁償もゼロという状況のほか、余罪も多数伺えるところである。そうすると、被告人に罰金刑以外の前科がないことを考慮しても、処断刑の最大限の15年の宣告も視野に入れる事案であるけれど、公益の代表者である検察官{検察庁法4条参照}の科刑意見は、やはり最大限の尊重をされるべきであるから、本件は検事求刑通りの量刑をもって臨むほかない。
 ゆえに、下記の法令適用をして、主文通り判決する。

○法令適用 
・犯罪行為:刑法249条1項(恐喝)、刑法246条1項(詐欺)
・併合罪:刑法45条
・併合罪の加重処理:刑法47条
・未決算入:刑法21条
・訴訟費用の免除:刑事訴訟法181条1項但し書き

裁判長「この判決に不服がある場合は明日から2週間以内に控訴申立書をこの裁判所に出してください」
被告人「はい!?」
裁判長「いやだからね、控訴するときは・・」
被告人「もちろん控訴します!」

 閉廷すると被告人は素早く刑務官に拘束され、被告側弁護人は次の法廷の弁護人に苦笑いをするなどその是非はさて置き「信念を持った」弁護人ではないような気がした。

事件概要  被告人は、2000年3月−06年12月、弁護士に対して債務整理に不手際があったと恐喝し、約3億1200万円を脅し取ったとされる。
 その他にも2件の恐喝を行ったとされる。
報告者 AFUSAKAさん、insectさん


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