裁判所・部 大阪地方裁判所・第二刑事部(三係)
事件番号 平成19年(わ)第3417号
事件名 傷害
被告名 A、B
担当判事 多田裕一(裁判長)
日付 2007.8.17 内容 初公判

 審理の一部を傍聴したことで分かった事件の概要は、一緒に起業しようとした専門学校時代の友人を、彼が断ったことから激昂して、駐車場に連行して多人数でリンチしたというものである。
 事件の中心的役割を担ったとして起訴された保釈中の2被告は、ダークスーツ姿で刑事被告人特有の陰湿な雰囲気を醸し出していた。もちろん保釈中なので刑務官は付き添わないし、履物も緑のスリッパではない。Aの風貌は、茶髪がかった長い髪に大きな目で、Bは角刈りでサングラス状の眼鏡をして鋭い目つきだった。
 傍聴席には情状証人として来たのか被告人の家族が在廷していた。

 弁護人の被告人質問ではBのほうは専門学校時代から被害者をいじめて使い走りにしていたことが明らかにされた。被害者は謝罪を受け付けない状態で、Bは「本当に申し訳ない」と謝罪していた。
 検察官は「自分より怖い立場のヤクザに拉致られてボーンと殴られたらどう思うか」「やっている本人とやられている側は前提が違う」「あなた方は刑務所に行ってもおかしくないギリギリの立場にいる。仮に今回執行猶予がついても次はないからね」と厳しく指摘していた。
 検察官は論告で「被告人両名に共通の情状だが、犯行のきっかけは被害者がAが立ち上げた仕事に無断で手を引いたり、貸していたスロットマシンを返却しなかったというもの。無断で手を引いた件は親の反対という合理的な理由があり、被害者はBからいじめられていて恐怖心もあった。本件以前にも被害者を脅して誓約書を書かせたり、両名に責任の一端があり、被害者に殴られるほどの落ち度はない。犯行態様も自動車で帰宅した被害者を待ち伏せして、人気のない駐車場まで連行して車内で暴行を加えた執拗なもので結果は重大。被害者は両名からの慰謝の措置すら拒否するほど厳重な処罰を求めている。Aの情状だが、真っ先に被害者に暴行するなど主導的な役割をしている。執拗に複数回に渡り暴行を加えており、極めて粗暴かつ執拗だ。被害者に対する悪感情が未だにあることからすれば再犯の恐れは高い。Bの暴行も執拗なもので、他の共犯者と比較すればBの刑責は重い。粗暴性や被害者に対する悪感情からすれば再犯の恐れは高い。Aに前科がないこと、被害者に若干の落ち度があることなどを考慮しても被告人両名の刑事責任はいずれも重大」と述べて2被告に懲役10月を求刑した。
 検察官の論告が終わると弁論の用紙が検察官・裁判官に配布されて、A被告弁護人の弁論に移った。
 A被告の弁論で弁護人は「被告人自身は公訴事実は争わない。被害者の傷害の程度は1週間程度と軽微である。一方的な暴力は正当化されないが、全体的に見ると新しい事業を断念せざるを得なかったことが愚かにも被害者への暴力へと向けられた。被告人は勤務先の上司に被害者を雇ってもらえないかということで面接の機会まで用意したのに、被害者は来なかった。被害者が一緒に働けないと言ったことで新規事業は頓挫したことも判決に当たり考慮してほしい。被告人の反省の念は顕著で、逮捕・勾留は1ヶ月にも及び、捜査にも協力している。父親からの助言・監督も見込まれて、元来粗暴な性格ではない。被告人は24歳と若手で、示談の申し入れは残念ながら拒否されたが、社会内での更生の機会を与えていただきたい」と述べて、執行猶予判決を求めた。
 Bの弁護人も同様に「被告人はAの新規事業について同級生でありながらがんばって欲しいと思っていた。だがAが片腕にするという被害者については頼りないと感じていたので、被害者に意思確認をした。被告人はAのために頑張ってほしいと思っていた。ところが一度被害者を見直したにもかかわらず裏切られてしまった。被害者がAに偽造マシンを返却しなかったため30万円の損害が出た。(この損害の件はAの嘘だったことが判明)居留守を使われていたので被害者が帰宅するのを捕まえるしかないと思った。Cを含めた多人数で殴ることは考えていなかったが、駐車場でAが怒りを爆発させて、被告人も蹴るなどして、被害者の返答がないことに怒って殴ってしまった。弁明を真に聞こうとすることなく苛立ちをぶつけていた。被告人はAの話の嘘を単純に信じていたのであり、そのような損害を与えながらも不誠実な態度を取ることに怒りを感じたのであり、主観的な事情とはいえ、難癖をつけて暴行に及んだ事案ではない。自己が返答できないような状態にさせていたことを素直に反省して捜査官の取調べに素直に協力した。被害者が被告人にいじめられていると感じていたことはあまり自覚していなかったが、被害者が自分に二度と会いたくないと言っている以上は自分からは接触しない。暴行の最中「ヤクザを呼ぼうか」と言ったが、これも暴力団の先輩がいることから発生したもので今後はやらない。被告人は自己の生活態度を考えて、両親および2人の弟は交友関係を把握して監督していくことを誓っている。前科は銃砲刀剣類所持等取締法違反だが、これは今回の事件とは性格を異にする」と述べて執行猶予判決を求めた。
 最後の最終陳述でAは「a君に直接会えたら謝りたい」、Bは「これからはそういうことをしないようにしていきたい」などと反省の言葉を口にした。

 裁判官は判決日を8月31日と指定して閉廷、保釈中の被告2人は家族や弁護人ともに出て行った。

 執行猶予の判決は間違いないと思われるが、真摯に反省しているようには思えなかった。

報告者 insectさん


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