| 裁判所・部 | 大阪地方裁判所・第十三刑事部（単独二係） | ||
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| 事件番号 | |||
| 事件名 | 常習累犯窃盗 | ||
| 被告名 | Ａ | ||
| 担当判事 | 三上孝浩（裁判官） | ||
| 日付 | 2007.8.16 | 内容 | 初公判 |
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テレビ特集で見た出所後の厳しい現実生活に適応できずに再犯を繰り返してしまう老齢受刑者の姿を彷彿とさせた公判があった。 被告人は痩せて額にたんこぶ状のものがある老婆だった。留置所から連れてこられたのかスーツ姿の男女の警察官が被告人を連れてきた。逃走防止のためか法廷に引き出される被告人はいつもサンダルを履かされている。 裁判官１人の単独体の審理ではたいてい４０分を目途に冒頭陳述→証人尋問(主に情状証人)→被告人質問→論告・弁論まで進んで次回判決という流れが一般的である。 被告人は昭和１９年３月１９日(６３歳)の生まれで、北朝鮮国籍、住所不定の無職の身だった。前科として常習累犯窃盗で平成９年３月１９日に懲役３年に、平成１２年１０月２６日に懲役３年２月に、平成１６年に懲役３年４月にそれぞれ処せられ、各刑の執行終了後の平成１９年６月１５日に大阪市の難破シティでａにかかる２万２００９円入りの財布を窃取した。 罪名および罰条、常習累犯窃盗刑法２３５条。 被告人は罪状認否で起訴事実を認めた。 弁護人も事実関係は争わない意向を示した。 冒頭陳述では被告人が前科１４犯を有すること、平成１９年５月２３日に岡山刑務所を出所したあと売春をして生活をしようとしたがうまくいかず窃盗の犯行に及び、犯行後巡視中の保安員に発見され犯行が発覚したことが明らかになった。 弁護人の被告人質問では、被告人には身寄りも婚姻歴もなく現在は天涯孤独の身であること、中学１年まで福祉施設で過ごしたこと、置き引きや万引きを相当件数繰り返してこの２０年は刑務所に出ては入りの繰り返しであることが挙げられた。今年の５月に刑務所を満期で出所したあと住みやすいという理由に西成にやってきたという。 弁護人「刑務所の生活で人生を終えたいのですか」 被告人「いいえ」 弁護人「法律上は刑務所に行かなければならない。出所しても必ずしも仕事があるとは限らない。次も同じように窃盗行為に及ぶのですか」 被告人「しませんです」 被告人は文字を満足に書けない状態であるという。手紙を送ったりした経験もないという。 弁護人「平均寿命からすればあと２０年もある。私は生きていくためには最低限の勉強をしないといけないと思う。あなた自身の気持ちを人に伝えたり、仕事を探すのにもそれは必要になる。しっかり勉強していただけますね」 被告人「はい」 検察官「あなたにとって刑務所とはどんなところか」 被告人「辛いところ」 検察官「今回で１５回目でまた繰り返すのでは」 被告人「もう最後にします」 裁判官は被告人に諭すように言った。 裁判官「生活保護も決まった住所がないと難しい。生きていくためにはあなたは公的なものに相談するしかないと思う。これまでに字を覚えるとかそういうこともしていたらよかったのですが・・・。あなたは６３歳で人生はまだまだある。私の記憶では女性の平均寿命は８８歳だったと思うのですが、２５年これからの人生がある。福祉とはどういうお金になるのか、どういう道があるのか、必ず(お金が)下りるかどうかどうとも言えないんだけど。生きるためというのは、あなたの生い立ちとして分からなくもないが、取られるほうはたまらないわけでね」 証拠調べが終わると、すみやかに論告・弁論手続に入った。 検察官は「動機は手っ取り早く靴の購入代金を得ようとしたもので自分勝手だ。態様も巧妙かつ悪質。暴力を受けないように女性に狙いを定め、赤ん坊に注意がいっている隙を狙った。被害額は合計で５万３００９円で、鞄や携帯電話は被告人が川に捨てたため被害者の手元に戻っていない。出所後わずか２０日の犯行で、窃盗の常習性が認められ、規範意識は皆無。前科１４犯を有しており再犯の恐れは極めて大きい」と述べて懲役５年６月を求刑した。 弁護人は「公訴事実は争わないが、有利な情状を斟酌していただきたい。本件被害額は相当程度大きいとまでは言えない。被告人は家族に恵まれず、福祉施設で中学校までを過ごした。戦後の混乱期でまっとうな教育を受ける機会がなかった。西成に職を求めたが『間に合っているから』と冷たくあしらわれた。ハローワークとか福祉事務所の存在すら知らなかった。本件は更生緊急保護が適用されるべき事案だ。被告人は被害者に対し『簡単には許してくれないと思います』と言うなど規範意識が芽生えている。生い立ちや生活環境を考慮して、今後の更生が速やかなものになるよう寛大な判決を賜りたい」と述べて寛刑を求めた。 判決は８月29日の午後１時５分から言い渡されることが決まった。被告人は警察官に身体を拘束されて法廷を去っていった。 | |||
| 事件概要 | Ａ被告は２００７年６月１５日、大阪府大阪市において２万２００９円入りの財布を窃取したとされる。 | ||
| 報告者 | insectさん | ||