裁判所・部 大阪地方裁判所・第四刑事部
事件番号 平成18年(わ)第26号 (公判前整理手続適用事件)
事件名 強盗殺人、住居侵入、強盗強姦、非現住建造物等放火
被告名 山地悠紀夫
担当判事 並木正男(裁判長)柳本つとむ(右陪席)中陳睦子(左陪席)
その他 書記官:林
日付 2006.10.31 内容 意見陳述

 10月31日午後1時45分から、浪速区姉妹殺人事件の山地悠紀夫被告の公判(遺族の意見陳述)が大阪地裁(並木正男裁判長)で開かれた。傍聴券が配布され201号大法廷で行われたが、ほぼ傍聴席は姉妹の関係者などでいっぱいになっていた。
 入廷してきた山地被告はほぼテレビ映像の通りで、黒い服を着ていたこともあって、やや薄暗い雰囲気を漂わせていた。傍聴席に背を向けて座るので、表情は読み取ることができない。
 傍聴席の2列目には遺族関係者が座り、検察官や検察事務官ら3人と意見陳述に際しての、打ち合わせをしていた。
 山地被告はこれまでの被告人質問では「分かりません」「知りません」「黙秘します」などという一定の端的な言葉しか話さなかったらしい。

裁判長「今回は遺族の意見陳述のいうことでよろしいですか」
検察官「その前に被害者両名のお母さんが書かれた書面を提出したいと思います」
裁判長「新たな証拠請求ということでいいですか。弁護人の方ご意見は」
弁護人「同意します」
検察官「実はお母さんは精神的な負担からとてもこの法廷に来られる状態ではないので、前回の意見陳述の申請は撤回します。その後、この書面を新たな証拠として請求するのはやむをえない事由に当たると考えます」
裁判長「それでは採用することにします」

 検察官が被害者姉妹の母親の意見陳述を代わりに読み上げる。母親の自筆で書かれている。

−被害者姉妹の母親の意見陳述−
 aとbが私たち家族に残してくれたものと言えば、写真と思い出だけです。
 aのものは(犯人による)放火でなくなってしまいましたし、bのものは友達が片身として持っていってしまいました。
 「bの服なんてお母さんに着れるわけないよ」と息子に言われました。
 今でもbのベッドはそのままにしています。
 今私の中では、2人がいないなんて信じていません。
 周りから、現実は2人はもう帰ってこないのだからと言われました。
 せめて2人のうち1人だけでもと思いますが、息子から「1人でも残されていたら、これだけの事件だから立ち直れないよ」と言われました。
 仲のいい3人兄弟で、仲のいい素晴らしい家族だと私は恥じることなく言えます。
 ところが何の関係もない1人の人間によって、その幸せは奪われました。
 私たち家族に明るい笑い声が戻ることは2度とありません。
 このことは一生忘れず、私の頭から離れることはありません。
 公判が続いていることを思うと、辛い気持ちになります。
 私は精神的な問題から、ミスが多くなり、コーヒーカップやお茶碗をよく割ってしまうようになりました。
 とにかく山地にはaとbと同じ思いをして苦しんで、反省してほしいです。
 2人は宝物です。返してください。これ以上何も言いません。
 山地自身に(自分を)死刑にしてもらいたいです。
 この世の中に同じように生きたくありません。

 検察官が意見陳述書を読み終わると、次に背の低い初老の男性が柵のなかに入る。

裁判長「お名前は」
証人「X1です」
裁判長「年齢や住居はこの紙に書いてもらった通りでいいですか」
証人「はい」
裁判長「ではどうぞ」

 縷縷涙声が混じり、法廷は沈痛な感じに包まれた。

−被害者姉妹の父親の意見陳述−
 先程検事さんがお母さんの今の気持ちを述べたように、私も同じ気持ちで・・(ううっという嗚咽を漏らす)
 まず2人の娘の思い出ということですが、20何年間か共に育てて、生きてきた娘の、この小さい頃からの、本当に、何というか、2人が幸せに人生を全うするようにと家庭で育ててきました。
 人に迷惑をかけないように、人に後ろ指を指されないように、ということでずっと育ててきました。
 先程から言いたいことは山のように頭のなかでは考えているのですが、口下手で支離滅裂な自分の意見を言うことになってしまうと思います。
 心から今おられる方々によく考えてもらって、私はこの犯人をもう公開処刑にしてほしいです。
 この人の命がなくなるまで、私は死んでも死にきれません。
 日本の法律があるから、裁判の手続きとかありますが、真実が何かということを皆さん判断してもらいたい。
 日本の国民は、世界に堂々と胸張って誇れる国民である、こういうことが2度と起こらないように、2度と起こしてはいけません!
 いろいろな事件の被害者の家族は、みんなそれを願っています。
 2人も娘は、僕はまだ死んでいないと思います。
 死んで骨になっているのは、十分分かっています!
 今現在、法廷が開かれている時点では、皆さん分からないことがあります。
 私は娘2人の骨を来るたびに食べて、この法廷に連れてきています!
 何の関係もない人にナイフで刺されて、この怖さ、痛さ、意識がなくなっていくときの辛さ、日本の国民はこれが分からないと良い国は造れません!
 それと嘆願書というものを我々素人なりにモノを考えてお願いしたところ、3万人近くの「この人を死刑にしなさい」という文書をお名前と住所をサインして、もらっています。
 日本の人はまだまだ捨てたもんじゃない、いい世の中を造っていこうということで、本当に心から有難くお礼を申し上げます。
 (意見陳述の時間は)20分と聞いていますけど、もっとたくさん言いたいことがあります。
 しかし全部を言うのでは、1年でも10年でも死を迎えるときまでの時間がいるでしょう。
 今まで法廷に皆さん来てもらって、傍聴席の方々、マスコミの方々、皆さん来てもらい、本当に心からお礼申し上げます。
 何卒、良いのは良い、悪いのは悪い、昔話で鬼が悪いことをしたら、桃太郎が成敗したという昔話がありますね。
 これに対しても日本の方々は、素直な心を多少なりとも忘れているように思います。
 本当ならば、法律がなければ、私は娘と同じように切り刻んで、苦しみを与えて、あの世に送ってもらいたいです。
 これが本人が起こした、今日の事件だと思います。
 支離滅裂なことばかりを言って、申し訳ないです。
 これで意見を終わらせていただきます。

 X1さんは傍聴席に戻る際、「ううっ」という大きな嗚咽を漏らした。傍聴席の関係者らしき複数の人は涙ぐんでいた。
 続いて被害者姉妹の兄弟である若い男性が柵のなかに入る。温厚そうな感じである。

裁判長「お名前は」
証人「X2です」
裁判長「年齢や住居はこの紙に書いてもらった通りでいいですか」
証人「はい」
裁判長「ではどうぞ」

 X2さんは意見陳述の紙を読み上げる。

−被害者姉妹の兄弟の意見陳述−
 意見陳述書を書かしてもらったことは書かしてもらいましたが、紙に書くのは記録に残すためのもので、本当の自分らの気持ちは伝わらないと思います。
 今の気持ちは一日も早く山地を死刑にしてほしいということだけです。
 毎日のように涙を流している母親を見ると、どうしたら楽になれるのか、僕には何もしてやれないという虚しさだけが残ります。
 大事な姉と妹を奪われ、何をするにもやる気がなく、仕事も仕方なくしている状態で、本当は家に引きこもっていたいです。
 ところがこれ以上、姉を妹のことを思い続けている母親に負担をかけると、母親は自殺してしまいかねません。
 僕は家では明るく話して、母親の頭のなかから姉と妹のことが少しでも忘れられてほしいという気持ちで接しています。
 父親とは一緒に酒を飲むことぐらいしかできません。
 姉と妹が死んだのは認めたくなく、自分の気持ちは隠しています。
 山地は人を殺したという自覚があるのかないのか、僕が見た限りでは自覚があるようには思えません。
 死んだ2人はできないのに、山地が3食ごはんを食べているのは許せません。
 山地が死刑になったからと言って、姉と妹が帰ってくるわけではありませんが、同じ空気を吸っているだけでも腹が立ちます。
 法廷のなかには、僕がどうなっているか心配で、傍聴に来てくれている人もいます。
 山地のせいでみんなが揺れていることを申し訳ないと思います。
 嘆願書に署名をしてくれた全国の人達、大変誠にありがとうございます。
 最初の数は2万6千ぐらいだったのですが、それから続々と送られて3万近くになりました。
 それを判決に反映していただければと僕は思います。
 今何を言っていいのか分からないのですが、山地を早く死刑にしてもらいたいです、それである程度段取りというかカタがつくと思います。
 それが間違って無期懲役にでもなったら、母親は自殺しかねないと思います。
 僕らの気持ちや嘆願書を書いてくれた皆さんの力で、山地を死刑に持っていってほしいです。

 意見陳述を終えるとX2さんは書面を書記官に手渡し、それは裁判長の席に持っていかれた。

裁判長「これで証拠調べや意見陳述が終わり、次回は論告・弁論ということにしたいと思いますが、双方いかがでしょうか」
検察官・弁護人「結構でございます」
 そして裁判長は被告人に「それではあらかじめ指定した11月10日の午前10時から、被告人の処分についての意見を伺うことにします。本日の法廷はこれで終了することにします」と告げた。

 閉廷すると、山地被告は傍聴席を見ることもなく刑務官3名と退廷。
 マスコミが遺族関係者の周りと取り囲む。なかには名刺を渡している人もいた。
 遺族関係者は検察官の男女と一緒に打ち合わせに向かった。

 22歳で3名の一生を終わらせた山地被告がたとえ無期懲役になっても、今のままでは小田島鉄男や長谷川静央のようになる可能性が高いように思えた(軍隊式管理の日本の刑務所では矯正教育が全く行われていないため)。

事件概要  山地被告は2005年11月17日、大阪府大阪市浪速区でマンション住人の姉妹を殺害自体を目的として殺害したとされる。
 山地被告は、2000年8月29日に、山口県で実母を殺害した前科がある。
報告者 insectさん


戻る
inserted by FC2 system