裁判所・部 大阪地方裁判所・第六刑事部合議係
事件番号 平成17年(わ)第4843号等
事件名 殺人、死体遺棄、未成年者誘拐、脅迫
被告名 前上博
担当判事 水島和男(裁判長)中川綾子(右陪席)山下真(左陪席)
その他 書記官:大島一雄
検察官:長谷透、広瀬智史
弁護人:下村忠利、寺田由美子
日付 2006.2.7 内容 被告人質問

 2月7日午後1時30分から、自殺サイト連続殺人事件の前上博被告の被告人質問が前回に引き続き大阪地裁201号大法廷で行われた。
 前上被告はこれまで通り、丸坊主で薄グリーンのズボンを来て、眼鏡をかけていた。どんどん肥大化していってる感じがする。
 下村弁護人は恰幅のいい男性。
 傍聴席の端には遺族が座るスペースがある。
 弁護側は前上が弁護人に出した手紙などを5つの報告書として提出した。

−河内長野警察署に接見に行った際の手紙−
拝啓
 本日は遠路ありがとうございました。
 私が3件の連続殺人を起こしたのは、歪んだ性欲のせいでした。私は人が暴れてもがく姿でしか性的興奮を感じることができず、女性の性器には私は全く興奮しません。唯一の性行為が人の口を塞ぐことでした。
 応援してくれた方のことは全く頭に出てこず、歯止めがきかない状態でした。歯止めがきく、きかないの違いは何だろうかと考えても、答えは出ません。
 事件として認知されていないのも2,3件あります。
 私は社会に出てはいけない、理性がないに等しいです。
 なぜ歯止めがきかなかったのか、平然と仕事をしていた自分がいるのはなぜなのか。これはある意味性犯罪です。
 私同様再犯率も高いので、矯正プログラムに私の事件を役立ててほしいです。
 私は控訴・上告するつもりはないですが、池田小の事件のように弁護士の先生に従うつもりでいます。
 どこで狂ってしまったのか落ち込むことが多いです。
 朝も夕べも被害者の方が成仏するよう祈りを捧げています。乱筆すみません
敬具

−加古川刑務所で受刑中のこと−
 本日先生から数珠を差し入れてもらいました。
 加古川刑務所のことを知りたいということで、ペンを取りました。訓練工場のこと、懲罰のこと、いじめについて詳しく書くことにします。受刑中は一般の作業と同じで特別な措置はなされませんでした。
 2回の懲罰を受けましたが、犯行時刑務所での辛い思い、家族や友人のことなどが頭をよぎることはなく、犯行のあとも次の獲物を求めていました。犯行が生活の一部のようになっていました。犯行の抑止力にはなりませんでした。だから減刑は望みません。

−第1回公判後の感想−
 私は「私の事件が性犯罪防止に役立てばいい」と言いましたが、そのように思うことも被害者にはダメなことで、私のわがままでした。被害者には関係ないことで、私は素直に死刑を受け入れます。

−前回逮捕されたときの前上の発言−
 度重なる不祥事を起こしてしまいました。
 心の中を正直にお話できなかったことをお詫びします。刑務所に行くことになりますがよろしくお願いします。
 鬱は朝方が酷く、些細なことで泣いたり、新聞の広告に犬が載っていただけで愛犬のことを思い出しました。
 私は女性の陰部や肢体を見ても性的興奮を感じません。自慰も過去の事件を思い出しながらやりました。
 事件のときはY2先生や両親のことは頭をよぎりませんでした。この異常な性的嗜好が直るか心配です。

−弁護人が集めた性犯罪に対する資料−
 インターネットで調べたもので、性犯罪者に対する処遇について奈良女児誘拐殺人事件を機に世論の高まりを受け、プログラムが義務付けられるようになったというもの。
 朝日新聞の新聞記事では、法務省から委託された専門家による研究会で、対人関係トレーニングや被害者への共感などが盛り込まれている。
 また2005年8月から集中連載された「性犯罪の連鎖を断ち切るために」では、カナダでは性犯罪者を治療して地域の安全を守っている。そのなかで
「性犯罪者はモンスターだと思っていた、しかし実際会ってみると普通の人間だった」
「不安はあったが、なぜ性犯罪に奔るのか知る必要がある」
「犯罪者をはじき出すのではなく、溶け込ませるのも社会の安全への選択肢」
とある。性犯罪者も
「もし支援者がいなかったら、刑務所にまた戻っていた」
「これからも友人でいてほしい」
と言うなど友人、友人ということを盛んに言ったという。支援を受けた場合、再犯率は半分以下に低下するという。
 また8月10日の記事ではセラピストが話していることで、彼らは長い葛藤のうえに自覚できるようになり、被害者やその家族の苦しみを理解できるようになる、彼らは人間の本質である性に問題を抱えているので、本能の部分を矯正するのは難しいということである。

−弁護人による被告人質問−
下村弁護人「あなたは沢山の手紙をくれているけど、その時の気持ちを表しているのですか」
被告人「そうです」
弁護人「検察官が冒頭陳述をした第1回公判が終わって、心理状態は落ち込んだのですか」
被告人「鬱に近い状態になりました」
弁護人「私の事件を今後に役立ててほしいと言っていたけど、それ自体を言うのが遺族に対して申し訳ないというのですか」
被告人「はい」
弁護人「あなたの責任能力についていろいろ話し合いをしたけど、現在では弁護人に任せているということですか」
被告人「はい」
弁護人「8月5日の朝、任意同行を求められたのですが、時間は覚えていますか」
被告人「6時30分頃で寝ておりました」
弁護人「河内長野警察署に任意同行を求められたのですか」
被告人「はい」
弁護人「そのあとはどうしたのですか」
被告人「刑事に「寒い時期に何か謝らなければならんことしているやろ?」「かえるさんってやつ知ってるやろ?」と言われた。最初は「知らん」と言って、捕まりたくないので黙っていた」
弁護人「認めるのはいつですか」
被告人「10時過ぎだと記憶しています。「すみません、私がやりました。あと2件やってます」といっぺんに認めました」
弁護人「刑事から他にもあるやろ?などと言われたからでは」
被告人「ではありません」
弁護人「その時の気持ちとしてはピリオドを打ちたい、もう幕を引きたいというものですか」
被告人「はい、間違いありません」
弁護人「自分の衝動をコントロールできない、それに終止符を打ちたかった」
被告人「はい」
弁護人「自供書を書いたのですね」
被告人「はい、2,3件目の自供や死体の場所を書きました」
弁護人「自供書を書いたのはいつですか」
被告人「昼までには。ちょうどその時刑事がコンビニの弁当を買ってきてくれたので、覚えている」
弁護人「その弁当代は誰が出したのですか」
被告人「私が支払いました。逮捕されたら、弁当代は警察持ちになる」
弁護人「弁解録取書のなかであなたは、弁護人はいらないとも言っていますね」
被告人「私選では金銭的な問題もありますから」
弁護人「事件のことは長期間にわたって取調べを受け、担当の警察官もいましたね」
被告人「聞いて納得したうえで調書を作っていき、過去2件の警官とは違っていました」
弁護人「聞いて納得するというは?」
被告人「双方が納得するということです」
弁護人「取り調べに不満はないね」
被告人「はい」
弁護人「その警官とはお互いのことをよく分かっていた」
被告人「はい」
弁護人「あなたを調べた検事はそこにいる広瀬さんですか」
被告人「はい」
弁護人「検事の調べは一般的にどんな調べでしたか。本人の前だけど」
被告人「過去の2件と同じく、私の言ったことを全て調書にはしてもらえませんでした。要約としてまとめられたりした」
弁護人「まとめるのが検事さんの仕事だからね」
被告人「bさんの事件では、犯行状況を録音しているのを止めて、「話したこと一字一句言え」と言われました。一部は要約としてまとめられた」
弁護人「取り調べ状況はどうでしたか」
被告人「私はこういうふうに言っているのに、録音したのを増幅して「君の言っているようには聞こえない」と言ってきました」
aさんの事件の調べでは、録音したものではaの声は「何するんですか!」と聞こえていて録音もそうされていたが、検事はそうじゃないだろうと言ってきた。検事は録音されたaの声は「いや・・・か!」であるといい、長時間にわたって反復して聞かされたうえに署名までした。前上は「折れても関係ないだろう」と思っていたが、結局それは証拠物にはならなかった。前上にしては検察官より警察官のほうが信頼できた。
弁護人「aさんの事件でも、窒息して苦しめるだけじゃなくて殺害してしまうということで準備していたのですか」
被告人「そうです」
弁護人「彼女と別れていることが影響しているのですか」
被告人「関係ないです。偶然時間的に重なっただけです」
弁護人「綿密にやっているということは感情をコントロールできたのではないですか」
被告人「性的欲求を満足したい、やりたい、ということで、寝ても覚めてもこのことばっかりでした。スイッチが入ってそのまま突っ走ったという表現をしたら分かりやすいと思います。冷静になることはなかったですね」
弁護人「そういう状態だったのですか」
被告人「目的を達するまで無我夢中でした」
弁護人「その最中にも興奮していたのですか、人の命を絶っているわけだけど」
被告人「はい」
弁護人「男性機能が勃起していたと」
被告人「はい」
弁護人「録音しているのはどういう理由で?」
被告人「後で聞いて楽しむため、思い出すためです」
弁護人「つまり思い出して自慰行為をしていたと」
被告人「はい」
弁護人「死体の状況を見に行っているのはどういう理由ですか」
被告人「その時のことを思い出すためです」
弁護人「スイッチが入ったような状態?」
被告人「寝ても覚めても、という状態ですね」
弁護人「aさんの死体が発見されたとき、我に返ることはなかったのですか」
被告人「我に返ることはなかったです。今後も続けていくことを前提にしていました」
弁護人「5月にはbさんの事件を起こしているけど、その際カメラで写真を撮影したりするのはどういう意味があるのですか」
被告人「aさんと一緒です」
弁護人「Y1さんに対する脅迫もスイッチが入ったまましてしまった?」
被告人「はい」
弁護人「cさんの事件でもそれが冷めることなく続いていたのですか」
被告人「はい」
弁護人「bさんやcさんの事件で、犯行を録音し写真を取ったあとでまた楽しむということは一緒ですか」
被告人「はい」
弁護人「4人目、5人目の犠牲者も出ていましたか」
被告人「出ていたかもしれません。7月に入ってから我に返ることが多くなり、このままではいけないと臨床心理士の先生に相談しようとしてました」
弁護人「自分と同じような事件があるかインターネットで調べたんですよね」
被告人「ホームページにあったアメリカの事件を見つけました。カウンセラーの先生に「そのことを次聞いてみましょう」と言われた。その時は冷静に戻っていました」
弁護人「犯行の最中のあなたの言動と、今温和な姿で受け答えをしているあなたの顔つきとは全然違うんだけど」
被告人「自分では分かりません」
弁護人「まるで獣が獲物を追っていくように見えるんだけど、どうして?」
被告人「分かっていたら止めていると思います」
弁護人「病院には惰性で通っていたのですか」
被告人「薬が切れたから、行っているような感じでした」
弁護人「自分と同じような犯罪者が外国にいるということで、調べて相談に行ったのですか」
被告人「はい」
弁護人「逮捕状執行の前に他の2件も自供しているのはなぜですか」
被告人「もう終わりにしたかったからです」
弁護人「3件の殺人だったら死刑になることは分かっていました?」
被告人「はい」
弁護人「今日の調子はどうですか」
被告人「今日はもう大丈夫です。鬱のときは人の顔を見るのが嫌、機械を見るのも嫌になります」
弁護人「拘置所のなかでも鬱になるのですか」
被告人「できるだけ悪い考えをしないようにしています」
別の3人目の弁護人に代わる。
弁護人「私からは脅迫その他の事件を聞いていくけど、その前に自分が人を殺してしまったことに対してどう思いますか」
被告人「自分の欲求のために3人の命を奪い、誠に申し訳ないと思っています」
弁護人「とんでもないことをして今我々も鑑定請求しているけど、なぜ止められなかったのですか」
前上によると我を忘れる=スイッチが入ることで、振り返ることはなかったという。
弁護人「こういうことをしてはいけないとか他のことを考えられない状態だったのですか」
被告人「はい」
弁護人「その一方で鬱病という診断も受けているわけですが、どういう状態のことを鬱というのですか」
被告人「人間関係に悩んだりすると、仕事ができなくなる」
弁護人「あなたは鑑定を受けたくないとも言ってますね」
被告人「鬱病に近い状態でした」
弁護人「何が鬱病の原因なのですか」
被告人「遺族の方の調書を読んだあとでしたので、その影響だと思います」
弁護人「特にどの遺族の方の調書ですか」
被告人「cさんのご両親です」
弁護人「どの部分ですか」
被告人「家族の団欒がなくなったという部分です。非常に悪いという気持ちです。精神鑑定とかは遺族の人にしてみれば関係ないから」
弁護人「弁護人は鑑定請求をしているけど、その経緯はどうですか」
被告人「事実を全て明らかにしていくことが大切で、まっすぐに裁判を受けることが大事ということです」
弁護人「2回自殺を図っていますね」
被告人「はい」
弁護人「それはどちらかと言えば鬱の状態?」
被告人「鬱が酷くなったときです」
弁護人「1度目はどんなものだったのですか」
被告人「平成7年の夏の終わりごろで、郵便局に平成5年の4月から懲戒免職になる平成7年の2月22日まで勤めていたのですが、アルバイトをスタンガンで襲い、その被害者が弁護士を立てて賠償金1500万を求めてきた。これを親に払ってもらうのもあかんということで、自殺して保険金で払おうとしました」
弁護人「実際払ったのは父親ですよね?あなたが何とも良い感情を持っていなかった」
被告人「その時は一生かかってでも頑張って返していかな、と思いました」
弁護人「平成9年の10月にキャリアカーの運転手になってからは事件は起こしましたか」
被告人「起こしてないです。性的欲求が湧いてこなかった」
弁護人「平成11年の秋ごろ、2回目の自殺を図っているのですか」
被告人「印刷会社に正社員として採用されたのですが、人間関係に悩みました。機械の責任者と見習いの間に挟まれました」
弁護人「その自殺未遂で入院したのですか」
被告人「その時腎臓がやられて、腎臓内科に入院しました」
弁護人「次はどこに勤めましたか」
被告人「電気機器製造会社ですが、平成12年の9月に倒産しました」
弁護人「犯行を開始するきっかけは何ですか」
被告人「突然欲求が湧いてきて抑えきれないです」
弁護人「生コンクリートの会社を辞めたのはなぜですか」
被告人「そこではコンクリートの強度の偽装がが行われていて、私はそれを担当する検査官に任命されたのです」
弁護人「不正は許せないと」
被告人「はい」
弁護人「事件を起こして執行猶予の判決を受けたあとはどうしましたか」
被告人「ファミレスの物流センターで働きました。小説を書いて、そっちのほうで欲求を解消しましたが2ヶ月と経たないうちに、起訴された事件以外にも2件の犯行をしました。それで懲役10月の判決を受けました」
弁護人「殺人以外にもあなたは1.駐車違反していた車のガラスを割る、2.法定速度を守っていた自分の車を抜かされたことで相手の車を追いかけて線路内に閉じ込めた、3.Y1さんへの脅迫をしている。これはあなたの性癖とは関係があるのですか」
被告人「全く関係はないです」
弁護人「この3つはどういう原因でやったのですか」
被告人「こいつは許せんと思ったら、とことんやってしまいますね」
弁護人「発現形態としては、歪んだ正義感だと思いませんか。Y1さんへの脅迫もそんな思いがあったのですか」
被告人「子どもに自分の意見を押し付ける父親は許せんと思った。車中ではNシステムのことばかりに気を取られていたが、b君が何でこういうことになったかをずっと喋っていました。理不尽なことで怒られ怒鳴られ、僕の意見を聞かず、希望する学校に行かせてくれなかったり、家事を手伝わせるとか言っていた」
弁護人「あなたとしても自分の父親にいい感情を持ってなかった?」
被告人「はい」
弁護人「小学校でいじめが始まったとき、父親がいじめを助けてくれなかったというのが影響しているのですか」
被告人「はい」
弁護人「あなたは父親のことを自慢していたこともあったね」
被告人「はい。刑事ドラマをよく見ていました」
弁護人「やはりいじめを助けてくれなかったことの影響ですか」
被告人「父親は仕事一筋というタイプでした」
弁護人「事件には父親の厳しいしつけの影響もあるのではないですか」
被告人「言われてみればそうなんかなーと思うが、分からないです」
 ここで弁護人からの主尋問が終了。
 弁護人はY1への脅迫を、前上の父親からの厳しいしつけと相関関係があると言いたいらしい。
 下村弁護人はときどき呆れたような口調になっていた。

−広瀬検察官による被告人質問−
検察官「小学校や中学校からの性癖についてだけど、小5のときから人を窒息させてみたいと思うようになったのですか」
被告人「そういうことを考え始めたのはその頃ですが、最初は口を押さえて薬品を嗅がせるだけでした」
検察官「中2のとき、周りと自分の性癖が違うことに気づいたと言いますが、そのことをどう思いましたか」
被告人「びっくりしましたね」
検察官「中2になるまでも人を襲っていたとあるが、人を襲うのは普通のことだと思っていたのですか」
被告人「はい」
検察官「人に薬品を嗅がせることに抵抗はなかったのですか」
被告人「なかったです」
検察官「中2ともなると年頃だし、自分がやっていることは悪いことだという認識はなかったのですか」
被告人「深く考えませんでしたが、知識としてやってはいけないことだとは分かっていました」
検察官「事件のことはバレたのですか」
被告人「1件バレましたね」
検察官「バレたあともやめようとは思わなかったのですか」
被告人「考えなかったですねえ当時」
検察官「頭では悪いことだとは分かっている。だがその点についての抵抗感はなかったと」
被告人「はい」
検察官「つまり善悪の判断は付くわけですね」
被告人「はい」
検察官「犯行が見つかっても、なおやりたいという気持ちだったわけですか」
被告人「はい」
検察官「我慢していた時期はあるのですか」
被告人「我慢していた時期は3ヶ月ぐらいです」
検察官「犯行に及ぶときはどういう心境なのですか」
被告人「当時は学校でいじめられていて辛かったので、帰ってすぐに家を出て、襲っていました」
検察官「我慢しているときも常にそれを抱えていたわけですか」
被告人「はい」
検察官「性欲がおさまるのは、襲った直後になるのですか」
被告人「1日に2件襲ったときもありますので、マチマチですね」
検察官「人を襲うのと、いじめに遭っていることは関係あるのですか」
被告人「当時は考えたことはなかったです。犯行が楽しみの一つになっていました」
検察官「いじめによるストレスを解消するという意味合いだけではなかったのですか」
被告人「それだけではなく、性的快感を求めていました」
検察官「いじめと人を襲うのは、因果関係にはなかったのですか」
被告人「分からないですね」
検察官「高校生になってコンピュータークラブに入って、いじめがなくなったときも人を襲っていますね。それでも犯行はいじめと関係があるというのですか」
被告人「高校のときは、もう止められなくなったという感じですね」
検察官「欲望の度合いとかが強かった時期というのは」
被告人「中学校が一番きつかったですね。高校は少しおさまりました」
検察官「全部で事件は40〜50件起こしたのですか」
被告人「中学校が40件ぐらいで、一番多い」
検察官「あなたは強姦罪というものは知っていますか」
被告人「はい」
検察官「脅迫して性行為を無理強いすることなんだけど、自分の行為とそれを比較してどう思っていますか」
被告人「強姦は性器の結合ということになり、対象が違うが、根本は同じだと思っています」
検察官「性欲の類で、抑えきれずに起こしたということは強姦と同じだという認識はありますか」
被告人「はい」
検察官「自分のやっていることが悪いことだということは分かっていた?」
被告人「知識としてはありました。自分が悪いことは分かっていました」
検察官「それ以上にやりたいという気持ちですか」
被告人「そう思っていました」
検察官「大学時代は金沢にいましたが、事件を起こしたのはその1回だけですか」
被告人「1回だけですね」
検察官「高校のときのように通行人を襲ってみたいという気持ちはなかったのですか」
被告人「それはありました」
検察官「どう抑えていたのですか」
被告人「自分の昔の犯罪行為を思い出しながら、処理していました」
検察官「つまり行動に移さず、我慢していたと」
被告人「そうです」
検察官「同級生の家で事件を起こしたのには、何か理由があったのですか」
被告人「なぜムラムラきたのか、自分でも分からないです」
検察官「はじめから襲ってやろうという気持ちはなかったのですか」
被告人「なかったです」
検察官「普通に盗作のことで話しをつけに行ったということですか」
被告人「はい」
検察官「何か思い当たる理由はありますか」
被告人「ありません」
検察官「金沢時代に、欲求を我慢できたことは自分なりに理由があるのですか」
被告人「なぜ性的欲求がおさまっている時期があるのか、自分でも分からないです」
検察官「地理的に不安だったというのが調書にはあるけど」
被告人「挙げえ、と言われて挙げたが、それも一つあると思います。我慢しようとして、してたわけではなく、襲ってみたいという気持ちそのものにならなかった」
検察官「ムラムラは瞬間的に起こるのですか」
被告人「瞬間的ですね」
検察官「事件を起こすとき、兄弟や大学生活のことを考えて、自制心は働かなかったのですか」
被告人「そういう葛藤は一切なかったです」
検察官「郵便局の同僚を襲った事件は本当に覚えていないのですか」
被告人「覚えてないです」
検察官「どこまで覚えているのですか」
被告人「どこまでと言われても全くですね。年賀葉書の配達から記憶はないに等しい」
検察官「大学に入ってから、事件は起こしていないのですね」
被告人「起こしていませんでした。欲望が湧いてこなかった」
検察官「どういう欲求が湧いてこなかったのですか」
被告人「自慰行為はしていたが、人を襲ってみたいというのはなかった」
検察官「自慰行為のとき、人を襲ってみたいということを想像しているのですか」
被告人「襲うまでは至らなかった。自分の過去の事件を思い出すことで満足していました」
検察官「襲ってみたいという気持ちはあったわけですか」
被告人「はい。我慢していたという認識はないのですが、それでおさまっていたということです」
検察官「法廷でも読み上げられたけど、被告人の調書では、郵便局の事件は当日手錠やスタンガンを用意している。事前に用具まで揃えているのに、それでも記憶がないのですか」
被告人「はい。記憶がないので、どこで購入したかも分かりません」
検察官「あらかじめ襲ってやろうと考えたとされたことについては」
被告人「用具を用意しているから、そういうことなんだろうと思いました」
検察官「不起訴という結果についてはどうですか」
被告人「親に賠償金を払ってもらいましたし、今後は事件を起こさないように病院にも通わないといけないと思いました」
検察官「でも先生に性癖のことは打ち明けていませんね」
被告人「打ち明けてないです」
検察官「本当に治す気あったのですか」
被告人「襲ってみたいという欲求より、(襲った)記憶がないことを治療したかった」
検察官「それまでの性癖について関係あるんじゃないかと先生に言わなかったのはどうしてですか」
被告人「最初話すつもりでしたが、母が先に言ってしまい、言いそびれました」
検察官「それは最初の回だけで、他は一人で通院していたのでしょう?」
被告人「時間がなかったし、記憶のないところで襲ったというのが大きかったです」
検察官「取りようによれば、また襲ってやろうということではないのですか」
被告人「それはないです」
検察官「その間の5年ちょっとは人を襲うことはなかったのですか」
被告人「はい。昔のことを思い出して自慰行為をすることでおさまりました。自慰行為をする対象は、自分が襲っている間の頭から最後までですね。過去の事件をエクセルの表としてまとめています」
検察官「欲望を抑えることはできていたということですか」
被告人「想像で自慰行為をしていました」
検察官「具体的にどういう状態を指すのですか」
被告人「実際に人を襲っていないということです」
検察官「人を襲ってみたいという気持ちはあったのですか」
被告人「はい」
検察官「片方ではどういう気持ちがあったのですか」
被告人「人を襲ってみたいというのはあったが、自慰行為でおさまって、ムラムラした気持ちが出てこなくなった」
検察官「襲ってみたいという欲望を自慰行為という代替手段で解消していた。襲えばいいじゃん」
被告人「自慰行為でおさまりました」
検察官「欲情は瞬時にくるのですか」
被告人「はい。瞬時にムラムラくる」
検察官「あなたはムラムラすると自慰行為で解消していた。この(事件に至った)ムラムラも自慰で解消できたのではないですか」
被告人「今振り返ればそうかもしれませんが、伝票整理のあと襲ってしまいました。食事を買いに行く途中で急にムラムラしました」
検察官「事件のとき、職場の同僚とかはいたのですか」
被告人「その日は休日出勤で、私だけが出勤していました」
検察官「なぜ欲望を抑えることができなかったのですか。一人だから自慰もやろうと思えばできたのではないですか。そうですね?会社のシンナーの件はどうでしたか」
被告人「その時に見つけて使おうと思いました」
検察官「その他に事件を12〜13件起こしていますね」
被告人「起こしました」
検察官「自慰行為でおさめようという気すら起こらなかったのですか」
被告人「はい」
検察官「また警察に捕まってしまうとかは考えなかったのですか」
被告人「犯行に至っているときは、冷静になることはなかったですね」
検察官「小説を書いて、それで解消されていたのですか」
被告人「解消されていました、当時は」
検察官「小説を書くことでより性欲が増長していったということはないのですか」
被告人「今思えば」
検察官「それに気づかなかったのですか」
被告人「はい」
検察官「妄想が先なのか、それとも小説に書いたからしたくなるのかどっちなのですか」
被告人「小説に書いたからというのは大きいです」
検察官「人を殺すことはいくらなんでも悪いことだと知っていましたね」
被告人「はい」
検察官「小説を書くのをやめとこうとは思わなかったのですか」
被告人「冷静に考えることがなかったですね」
検察官「このことをY2先生に相談することを考えましたか」
被告人「当時は思わなかったです」
検察官「ブレーキをかけたいという気持ちはありましたか」
被告人「なかったです」
検察官「加古川刑務所に服役中に記憶がなくなるということはありましたか」
被告人「ありません」
検察官「人を襲いたいという気持ちはありましたか」
被告人「ありました。波があって、欲望が出てくるときと出てこないときがある」
刑務所では前上は雑居房で、年配の受刑者が多く、性的欲求の対象者が回りに見当たらなかった。もちろん早く出て治療したいから、そういうことをするとまずいという気持ちもあった。
検察官「Y2先生に性的欲求を抑えるホルモン剤を頼んでいたというのは本当ですか」
被告人「間違いないです。それは厳格に適用されている薬なので、簡単に出すことはできないと言われました」
検察官「もう1回こういうことをやってしまうのはまずいと思ったのですか」
被告人「はい」
検察官「自分の彼女に何かしてほしいとは思いましたか」
被告人「同意のもとで、口を塞ぐことをさせてほしいと思いました」
検察官「SMサイトにはどういう理由でアクセスしていたのですか」
被告人「同じような理由です。同意でやらされてくれる人がいると、犯罪に奔らなくて済むからです」
検察官「合法的に欲望を満たそうとした」
被告人「はい」
検察官「つまり自分がやっていること(窒息させる)は犯罪だと知っていたわけですか」
被告人「はい」
前上の話では彼がSMサイトの利用を断念したのは、薬物を使ってほしいというのが大きかった。
検察官「自分の目的と合わないから、やめたのですか」
被告人「はい」
検察官「SMサイトに投稿する前も、盗撮や尾行をしていますね」
被告人「はい。しかし盗撮や尾行がどのような法律に触れるか分かりませんでした」
検察官「悪いことだとは思っていました?」
被告人「いいえ、いたずら電話とかしているわけではないですから。自重しようとしている自分がいました」
検察官「前回の公判で、自殺を決意していたと言っていましたが、本当ですか」
被告人「はい」
検察官「捜査段階の取調べではそういう話は出てこないのですが」
被告人「していますね」
検察官「本気で自殺を考えていたのですか」
被告人「万策尽きて、練炭自殺しかないんだろうな〜と関西付近の人を探していました」
検察官「獲物を物色していたのではないですか」
被告人「していたかもしれません」
検察官「自殺は本心だったのですか」
被告人「はい」
検察官「自殺の話は、窒息させれるということでどっか行ってしまったのですか」
被告人「練炭自殺の失敗談を見て、「これは使える」と思ったときにどっか行ってしまいました」
検察官「自殺を決意していたのでしょう」
被告人「はっきりと決意していたわけではなかった」
検察官「派遣でコニカミノルタに勤務していたとき、人間関係はどうでしたか」
被告人「良かったです」
検察官「人間関係のしがらみで性欲が増幅したとかありますか」
被告人「ありません」
検察官「先ほどスイッチが切り替わったように冷静さを失っていたと言っていたけど、あなたのいう冷静さを失ったというのは、何もできないようになることじゃなく、客観的に自分を見つめられないということですか」
被告人「そういうことです。自重する自分がいなかった」
検察官「自重する自分がいないと、悪いことをやっているとも考えられなかったのですか」
被告人「はい」
検察官「aさんの事件のあと、警察の捜査が来ないように何をしましたか」
被告人「ネットカフェには行くけど、自殺掲示板へのアクセスを控えました」
検察官「aさんのあとも、窒息プレイのあと殺してしまいたいという気持ちはあったのですか」
被告人「はい」
検察官「それを我慢していたのですか」
被告人「死体を発見されて不安になっている自分がいました」
検察官「捕まりたくないという気持ちが先にあって、我慢していたのですか」
被告人「そういうことです」
検察官「捜査状況のことを知るために大阪府警のページにアクセスして、事件は迷宮入りになるなと安心したともありますね」
被告人「捜査状況のことは新聞報道で知りました」
検察官「bさん→cさんと進んでいくのも、捕まらないと思ったからではないですか」
被告人「それはありますね。押し留める自分がいなかった」
cさんの事件では、前上はメールのやりとりから警察の囮捜査ではないかと思い、待ち合わせ場所を変えたりして警戒していた。
検察官「待ち合わせをした人が刑事みたいだったら、そのまま素通りするつもりだったのですか」
被告人「そうするつもりでした」
検察官「気持ちが高ぶりながらも、欲望を抑えることができたのではないですか」
被告人「捕まりたくないと思い、とどまっていました」
検察官「cさんの事件を起こしたのは、彼が刑事じゃないと確信したからですか」
被告人「はい」
検察官「逮捕後はすぐに一連の事件を認めたとありますが、しばらくの間否認していたこともありますね」
被告人「午前10時ごろに全て自供しましたが、3時間の間は否認していました」
検察官「その3時間の間はどう思っていたのですか」
被告人「捕まりたくないと思いました」
検察官「自供していきなり喋ったのですか」
被告人「そうです」
検察官「実際は刑事から「かえるさんとのやりとりがあるぞ」と言われて「待ち合わせ場所に来なかった」と弁解していますね」
被告人「最終的には認めました」
検察官「先ほどピリオドを打ちたかったと言っていましたが、結局は言い逃れできないから自白しただけのことなのでは」
被告人「それでしたら、残りの2件は自供するつもりはなかったです」

−長谷検察官による被告人質問−
検察官「8月5日の取調べで、最初は知らないと否認していましたが、その理由は何ですか」
被告人「捕まりたくないというのが大きかったです」
検察官「それが3件とも自供したと」
被告人「はい」
検察官「Y2先生との関係についてだけど、性癖について話さなかった理由は何ですか」
被告人「正直に話す意味がなかった。前に手錠を買ったときに「入院するか」と言われて、そのときは仕事もうまくいっていたので、そのころから何か相談すると入院という形になるからです」
検察官「それほど入院が嫌だったのですか」
被告人「はい。気分が落ち着くまで閉鎖病棟にいるというイメージしかなかったです」
前上の残り2件の自供は、いずれ家宅捜査されるとすぐに分かったのはないかと感じた。

−左陪席裁判官による被告人質問−
左陪席「あなたの性癖のことなんですが、当初は薬品を嗅がせることだったのが、窒息させて息を止めることに変わったきっかけは何だったのですか」
被告人「ある被害者を襲ったとき、偶然に鼻と口を同時に塞ぐことになって、それからです」
左陪席「そして窒息させる→殺害するというように変化していったのも、一番興奮する行為だったからですか」
被告人「はい」
左陪席「最後にマスターベーションして射精して完了すると、そういうことですか」
被告人「はい」
左陪席「自殺する目的で自殺サイトにアクセスして、失敗談を見て事件を起こしたのも、窒息行為と殺害を両方とも満足できるからですか」
被告人「はい」
左陪席「普通の人を殺すのと、自殺願望のある人を殺すのでは、良心に抵抗が少なかったということはありますか」
被告人「当時は考えていないが、今思えばハードルを乗り越えやすかったのはそういう意味合いもあると思います」
左陪席「あなたは、aさんとメールのやりとりをして殺害するまでに3回ほどカウンセリングに通っているが、Y2医師にそれを相談することはなかったのですか」
被告人「犯行を止める自分がいなかったです。入院云々が頭をよぎることはなかったです。そういう入院しようとか考えるのは犯行を思いつく前の話になります」
左陪席「そういう性癖と被害者の父親のY1さんに対する脅迫とはどう結びつくのですか」
被告人「自分の性的欲求とは関係ありません」
左陪席「性癖とは違う話だから、犯行を思いとどまるように考えなかったのですか」
被告人「考えなかったですね」
左陪席「被害者の死体を写真撮影したのは、死体そのものに何らかの感情があったのですか」
被告人「特に思い入れはなかったです。死体への興味はなく、犯行を思い出すための道具ですね」
左陪席「現在も人を窒息させて興奮する性癖は変わっていないのですか」
被告人「変わってないです」
左陪席「法廷のスクリーンで映し出された画像を見て興奮するのですか」
被告人「はい、興奮しました」

−右陪席裁判官による被告人質問−
右陪席「客観的に見つめる自分がいなかったと言っていましたが、aさんを殺すまでに仕事をしたり、食事をしている。そのなかでふと我に返るということはなかったのですか」
被告人「なかったです」
右陪席「例えばメールのやりとりや粘着テープなどの買い物をするときなどに我に返るということはどうですか。今までは手袋を買ってしまったときはY2先生のところに行っているのですが」
被告人「なかったです」
右陪席「人を殺すことを考えて、それに突進していくのですか」
被告人「はい」
右陪席「どの被害者でも構わないのですが、被害者のどんな方法にせよ「やめて、やめて」という思いを知って、我に返るということは」
被告人「なかったです」
右陪席「誰かがどんなに苦しむだろうと思うと、行動できないことが多いと思うのですが」
被告人「それはなかったです」
右陪席「aさんは服を剥ぎ取られて、寒い夜空のなかダムの下に埋められた。被害者の立場を考えたこととかはありますか」
被告人「全くありませんでした」
右陪席「先ほど審理の過程で、スクリーンに写真などが映し出されるのに興奮したと言っていましたが、私もあなたの表情を上から見ているのですが、淡々としている感じがしました」
被告人「真面目に裁判を受けようと思ったのですが、写真とか見せられて犯行のことが思い出されて興奮しました。そのことで帰りのバスのなかでは落ち込んでいる自分がいました」
右陪席「先ほど両親も極刑を望んでいると言っていましたが、両親は面会に来たのですか」
被告人「面会には来ていませんが、警察官の調書でそういう記載を見ました」
右陪席「あなたには面会に来てくれるような身内の方は一人もいないのですか」
被告人「いません」

−裁判長による被告人質問−
裁判長「審理の過程で性的興奮を感じてしまい、拘置所に帰って落ち込むと言っていましたが、拘置所に帰って自慰行為をすることはあるのですか」
被告人「何度かあります」
裁判長「なぜ落ち込むのですか」
被告人「裁判の場にもかかわらず興奮してしまって、自己嫌悪に陥りました」
裁判長「それは寝るときに思い出すのですか」
被告人「はい」
裁判長「こんなことをしてはいけないという自分は出てこないのですか」
被告人「出てこないです」
裁判長「こんなこと(自慰行為)をやってはいけないと思うけど、自慰行為をしてしまうのですか」
被告人「はい」
裁判長「当時と今で違いはあるのですか」
被告人「今はこういうことはしてはいけないと葛藤するようになっています」
裁判長「自殺しようと自殺サイトにアクセスして、練炭自殺の失敗の書き込みを見たのが発端になって、事件を起こしてしまったと」
被告人「もうそのことしか考えられませんでした」
裁判長「人を殺すことは大変だと思わなかったのですか」
被告人「そういうふうに冷静に考えることはなかったです」
裁判長「Y1さんへの脅迫も歪んだ正義感があったのですか。つまりb君の、お父さんに対する反感に、自分の父親に対する気持ちが投影されているのではないですか」
被告人「(可能性は)高いと思います」
裁判長「脅迫事件では、捕まる危険性もあったわけだけど」
被告人「公衆電話から電話をかけているので大丈夫だと思っていました」
裁判長「だけど人口音声まで使っている。それには捕まってはいけないという意識があったのですか」
被告人「ありました」

−下村弁護人による再度の被告人質問−
弁護人「先ほどの話だけど、法廷で興奮したあとで自慰行為をするなどという性癖は変わっていないのですか」
被告人「変わりません」
弁護人「取り調べの犯行再現が被害者を人形に見立てて、3件ともやっているけど、そのときはどうだったのですか」
被告人「興奮して、陰部は勃起しっ放しでした」
弁護人「では取り調べをする際はどうですか」
被告人「なってました」
弁護人「すると留置所でも自慰行為はしていたのですか」
被告人「警察の留置所ではしていませんでした」
弁護人「自分ではどうにもならないのですか」
被告人「はい」
弁護人「あなたは断種とか去勢とかということを考えたことはありますか」
被告人「そのこともインターネットカフェで探しました。海外に行けば、そういうこともできるということでした」
弁護人「職場で友達はいましたか」
被告人「食事したりする友達は一人いました」
弁護人「でもその人とは表面的な付き合いに留まったと」
被告人「はい」
 他にも弁護人は病院への診療のことで、前上の母親が26歳にもなって一緒に来て、前上に病状のことを全部話したり、家では前上を管理したいのか郵便物のなかを勝手に見たことを明らかにした。

 ここで被告人質問が終了、弁護人は責任能力に対する鑑定と情状に対する鑑定の2つを申請する。検察官は意見書のなかで裁判の迅速化という観点から反対していた。

−責任能力に対する鑑定の弁護人意見の要旨−
 人間存在というのはいかに不可思議であるか考えてしまう。司法の部分だけでは判断できない。
 本件は財産や営利目的、激情に駆られたもの、恨みなどいずれにも当てはまらず、まさに異常な性倒錯が抑えきれずに至ったもので我が国の犯罪至上、稀に見る異常な事件である。
 検察官がいくつかの点を挙げて、被告人に刑事責任能力があることを主張しているが、被告人が自らの衝動を制御することができない状態で犯行に及んだことは明らかである。今ここにいる被告人と犯行当時の被告人は同一の人格を持った人間と言えるのか。本人でも気づくことができない闇があるのではないか。現在精神医学の分野はめざましい発展を遂げており、このような専門分野の意見を聞くべきだ。さまざまな分析がなされることが、被告人や一般予防の見地からも必要だ。

−情状に対する鑑定の弁護人意見の要旨−
 刑の量刑を決めるに当たり、裁判官が単純な良識だけで裁くことは適当でない。この人類の英知とも言うべき情状鑑定を利用すべきであり、本件は遺伝なども考慮する必要がある。
 被告人は性的サディズムに該当する性倒錯で、それは歴史上例を見ないほど極端かつ異常なものだ。また解離性障害の可能性もあり、被告人は犯行当時、まさに制御不能な状態に陥っていた。
 審理に当たり、人類の英知を尽くすべきであり、裁判は慎重に慎重を尽くしても足らないぐらいだ。それなのに検察官は被告人を早く処刑してしまえと言っている。科学的に分析することで、国民の刑事司法に対する信頼も生まれてくるのではないか。

−検察官の鑑定への意見の要旨−
 Y3教授に電話して聞いたところ、被告人の解離性障害は一般論にとどまると言っていた。
 被告人の本件性癖を有するに至った経緯は、当公判廷で明らかになっている。これ以上臨床心理で解明したところで、刑事司法という観点から必要不可欠とまでは言えない。むしろそういう性癖を持ったあと、どう行動したのかを重視すべきである。
 これに弁護人2人が「Y3教授が一般論にとどまると言ったのは、電話という形でそれを説明する時間が制約されていたからだ」などと反論した。

 裁判長は「合議します」と2人の陪席を従え、法廷から出て行った。数分後法廷に戻った水島裁判長は「弁護人が申請していた精神鑑定を採用します。情状鑑定については保留ということにします」と双方に告げた。すかさず検察官が異議を申し出たが、却下された。裁判長は「検察官の異議は棄却します。鑑定人の選定からということになりますので、期日は追って指定ということにします」と述べて、閉廷した。

事件概要  前上被告は人の窒息するところを見たいため、以下の犯罪を犯したとされる。
1:2005年2月19日、大阪府河内長野市で女性を窒息死させた。
2:2005年5月21日、大阪府和泉市で中学生を窒息死させた。
3:2005年6月10日、大阪府河内長野市で大学生を窒息死させた。
 前上被告は2003年8月5日に逮捕された。
報告者 insectさん


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