裁判所・部 大阪地方裁判所・第四刑事部合議E係
事件番号 平成16年(わ)第2909号
事件名 建造物侵入、強盗強姦、強盗致傷、強盗強姦未遂、住居侵入
被告名
担当判事 並木正男(裁判長)
日付 2005.12.20 内容 判決

 A被告は紺色のトレーナーを着たやや太めの、優しげな目をした丸刈りの男だった。見た感じでは温厚そうな中年男性であった。

−主文−
被告人を無期懲役に処する。未決拘留日数のうち420日をその刑に算入する。

−認定事実−
被害女性の実名は出さない。

1:被告人はマンションに立ち入って、女性から金品を強取して、強いて姦淫することを企て、被害者が玄関ドアを開けると同時に続いて入室し、「静かにしろ、殺すぞ!」などと申し向け、首を絞めてソファー上で馬乗りになったが、被害者の声を聞いた人が駆けつけたため、強取と姦淫の目的を遂げず逃走した。その結果被害者に加療2週間を要する頭部打撲などを負わせた。
2:被告人はマンションに立ち入って、女性から金品を強取して、強いて姦淫することを企て、被害者が玄関ドアを開けると同時に続いて入室し、語気鋭く脅迫し、手拳でBの顔面を数回殴打し、同女の犯行を抑圧したが、被害者の声を聞いた隣人がドアに駆けつけたため、強取と姦淫の目的を遂げず逃走した。その結果被害者に加療1週間を要する怪我を負わせた。
3:被告人はマンションに立ち入って、女性から金品を強取して、強いて姦淫することを企て、被害者が玄関ドアを開けると同時に続いて入室し、背後からその口を塞いで、犯行を抑圧した。同女の所持金が少なかったことから強取の目的は遂げなかった。被告人は「殺さへんから、いっぺんやらせろ」などと言い、同女を全裸にして姦淫し、1週間の加療を要する怪我を負わせた。
4:被告人はマンションに立ち入って、女性から金品を強取して、強いて姦淫することを企て、被害者が玄関ドアを開けると同時に続いて入室し、叫び声を上げた被害者に「うるさい、黙れ!」と言って、頭部を手拳で殴打した。また室内から30万4000円の現金やクレジットカードを奪った。
5:被告人はマンションに立ち入って、女性から金品を強取して、強いて姦淫することを企て、被害者が玄関ドアを開けると同時に続いて入室し、抵抗した同女の首を両手で締め付け、手首をタオルで縛った。その上で室内から3万5000円を奪い、「痛い目に遭って犯されるのと、痛い目に遭わないで犯されるのとどちらがいいか」などと言って強姦し、加療一週間の怪我を負わせた。
6:被告人はマンションに立ち入って、女性から金品を強取して、強いて姦淫することを企て、被害者が玄関ドアを開けると同時に続いて入室し、帰宅した被害者をベッドに押し倒し、「金どこにある」と言いながら、粘着テープで同女の手を塞ぎ、着衣を剥ぎ取って姦淫した。その結果加療一週間を要する処女膜裂傷などの怪我を負わせた。
7:同日、エレベーターから女性を引きずり出し、エレベーターホールの床に落とした。その上で顔面を殴打し、「騒いだら殺すぞ!」と申し向け、落ちた財布から4000円を抜き取り、同女に「脱げ」と言って、着衣を剥ぎ取り、マンションの同女の部屋まで連れて行ったが、そこで同女が部屋にいた妹に叫んだため、姦淫の目的を遂げなかった。
8:被告人はマンションに立ち入って、女性から金品を強取して、強いて姦淫することを企て、被害者が玄関ドアを開けると同時に続いて入室し、「殺さへんから、落ち着いてくれ」などと言って、同女の右腹部を手拳で殴打し、強いて姦淫した。
9:正当な理由がないのに、マンション内の非常階段に女性を物色する目的で立ち入った。

 その他に累犯前科として、佐賀地方裁判所で強盗強姦や住居侵入の罪により懲役9年に処せられた前科がある。以上の事実を認定して、そこに法律を当てはめて、被告人を無期懲役に処することにする。

−量刑の理由−
 本件は強盗強姦4件その他の事案で、被害者も6名に上り、うち1名は2度の被害に遭っている。
 被告人には累犯前科があり、強盗強姦や強盗強姦未遂、住居侵入などで平成4年に佐賀地方裁判所で懲役9年に処せられて、平成13年に刑を終えたのちに、そのわずか1年6ヵ月後に最初の犯行を行い、その後1年4ヶ月にわたって本件犯行を重ねている。
 犯行には、同一の被害者を2度襲ったり、同一の日に2件も犯行をしたり、同一のマンションで4件もの犯行をするなど、常習性が顕著に認められる。
 被告人は唯一の肉親の父親が他界し寂しい気持ちになったことや、自己に対する嫌悪感が忘れられなかった旨の供述をしているが、被害者の人格を無視して行動したものであって酌量の余地はない。
 一連の犯行の常套的で、女性が多く住むマンションに狙いをつけ、郵便受けを覗き込んで女性を確認すると、非常階段からあらかじめその住居に向かい、女性が玄関から入るのと一緒に押し入って、女性が抵抗したら躊躇いなく顔面を殴打したり首を絞めている。
 また先に金銭を要求すると、女性は姦淫目的がないと思って抵抗が弱まることを見越していたり、体液を残さないように工夫したり、極めて計画的で悪質かつ巧妙な犯行である。
 女性達は夜間で周囲に助けを呼べない空間で、強度の暴行や「殺すぞ」などの強度の脅迫を受けて、手足を縛るなど抵抗を著しく排除された上で強姦されている。
 また被告人は「彼氏に見せたらいいねん」などと言ったり、被害者がトイレで用を足すのを見るなどしている。
 結果も重大で、被害者はいずれも身の安全を注意していたのに、安全でくつろげるはずの自宅で被告人に襲われ、性的尊厳を蹂躙されたもので、その肉体的苦痛や精神的恐怖は想像に難くない。被害者のなかには現在でも心療内科に通院しカウンセリングを受けている者もいれば、大阪から故郷に戻って引きこもっている状態の者もいる。被害者らは「生きながら殺された」「あの日から心底笑った記憶がない」などと証言しており、被害者の悲痛な声は痛ましい。
 刑罰を考える上で、以下の事情も考慮しなければならない。
 被告人はある事件では、事前に郵便受けを見て女性を確認し、目だし帽を被って、強度な暴行を加えて、ハンドバッグなどを奪うなどしており、計66万円もの経済的被害が出ている。その被害者は転居を余儀なくされている。
 またマンションを姦淫する場所にしており、同種の危険も危惧される。
 被告人には同種の前科があり、長期間更生の教育を受けたにもかかわらず、犯行は前回よりもさらに巧妙になっている。
 一方、逮捕当時はともかく一応事実関係は認めていること、1名の被害者の父親に謝罪の手紙を送付していること、事件後別れた妻が離婚していることを前提で被告人を監督していくことなど有利な事情を斟酌しても、犯行態様や結果の重大性、同種前科を持っていることなどを考慮すると、有期刑をもって臨むのは相当でなく、よって主文の通りの判決にした。
 最後に「被告人も事件を冷静に考えて、とりわけ大きな苦痛を被害者に与え続けていることを理解していると思います。被告人にとっても、今までのことをもう一度振り返って考えてもらいたいと思います」と諭して、訴訟費用は被告人に負担させないことを告げて閉廷した。
 被告人は裁判長に2回おじきをして退廷していった。

 団体傍聴の若い男女が多いなか、30代くらいの細身の女性が慟哭していたが、おそらく被告人の関係者だと思われた。

事件概要  A被告は、2002年12月〜昨年5月、大阪府大阪市で、帰宅した女性宅に押し入り、金品を奪ったうえ、4件の性的暴行をしたとされる。
報告者 insectさん


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