裁判所・部 大阪地方裁判所・第六刑事部合議係
事件番号 平成17年(わ)第4843号等
事件名 殺人、死体遺棄、未成年者誘拐、脅迫
被告名 前上博
担当判事 水島和男(裁判長)中川綾子(右陪席)山下真(左陪席)
その他 書記官:大島一雄
日付 2005.12.2 内容 初公判

 12月2日午後1時30分から、殺人・死体遺棄・身代金目的誘拐・脅迫の罪に問われた、いわゆる自殺サイト連続殺人事件の前上博被告の初公判が大阪地裁(水島和男裁判長)であった。
 傍聴券抽選(倍率は約2倍)が行われ、報道機関によるカメラ撮影がなされて、しばらく経つと前上被告も刑務官2名に連れられ入廷。顔はテレビで放映されたまんまの顔で頬の骨が若干突き出ていて、丸坊主にしていた。やや猫背で太めの体格、上は緑のチェック、下はうすグリーンのズボンを着ていた。
 検察官3名・弁護人男女3名という構成で、眼鏡をかけた独特の顔の男性検事は大橋被告の公判も担当している。

−人定質問−
裁判長「被告人のお名前は」
被告人「前上博(まえうえ・ひろし)です」
裁判長「生年月日は」
被告人「昭和43年8月8日です」
裁判長「職業は無職ということでいいですか」
被告人「はい」
裁判長「本籍地や住居は紙に書いてもらった通りでいいですか」
被告人「はい」

−検察官の起訴状朗読−
■8月25日付起訴状■
 被告人はかねてより人が窒息して苦悶する表情を見て、性的快感を得ようと企て、いわゆる自殺サイトで知り合ったa・当25年に一緒に練炭を使用した自殺を装ったうえで、大阪府内で普通貨物自動車に乗せ手足を緊縛して、殺意を持って、その鼻孔を手で塞ぐなどして、失神させては覚醒させるなどの行為を繰り返し、鼻孔や口を手で塞ぐなどして窒息させて殺害した。
 また身元の発覚を恐れ、同女の死体から衣服を剥ぎ取り、あらかじめ河原に掘った穴に遺体を入れて、土砂をかけて埋没した。
 罪名および罰状、殺人刑法199条、死体遺棄刑法190条。
■9月22日付起訴状■
 被告人はかねてより人が窒息して苦悶する表情を見て、性的快感を得ようと企て、自殺サイトに投稿してさらに強い刺激を得ようとして、自殺サイトに投稿していたb・当14年の抵抗を排除して、一緒に練炭で中毒自殺するよう誤信させた上で殺害しようとして、南田辺駅でbを自動車に乗せ(未成年者誘拐)、自己の実力支配のもとに置いた。また殺意を持って手足を緊縛し、手でその鼻孔を塞ぐなどして苦悶させた挙句、車中で失神中の同人の鼻孔や口を塞ぎ窒息死させた。
 また身元の発覚を恐れ、同人の死体から衣服を剥ぎ取り、路上に運んだ上道路わきの山林に捨てた。
 罪名および罰状、殺人刑法199条、死体遺棄刑法190条、未成年者誘拐刑法224条。
■10月17日付起訴状■
 被告人はかねてより人が窒息して苦悶する表情を見て、性的快感を得ようと企て、インターネットの自殺サイトで知り合ったc・当21年を一緒に練炭を用いて自殺するかのごとく誘い出し、自動車で同人を同行させた上、社内で両手を緊縛して、多数回にわたりポリエチレンのタオルで塞ぎ、苦悶させた挙句窒息死させて殺害した。
 またcの身元の発覚を防ぐために、衣服を剥ぎ取り、道路わきの崖下山林内に遺棄した。
 罪名および罰状、殺人刑法199条、死体遺棄刑法190条。
■11月2日付起訴状■
 bを殺害したあと、その両親に身代金誘拐を偽装して、心痛を与えて満足しようと企て、NTTにかかる公衆電話から、父親Y1所有の携帯電話に「お前の息子を預かっている。300万円を持って、狭山市内のミスタードーナツに来い」とあらかじめ録音してあって声を再生して聞かせて、同人を脅迫した。
 罪名および罰状、脅迫刑法222条。

 以上の事実を立証するために証拠等関係カード記載の証拠請求をします。
 その後裁判長が黙秘権の告知をしたあと、罪状認否。

裁判長「8月25日付の公訴事実について何か間違いはありますか」
被告人「間違いありません」
裁判長「9月22日付の公訴事実について何か間違いはありますか」
被告人「間違いありません」
裁判長「10月17日付の公訴事実について何か間違いはありますか」
被告人「間違いありません」
裁判長「11月2日付の公訴事実について何か間違いはありますか」
被告人「間違いありません」
裁判長「弁護人の方、何か意見はありますか」
弁護人「今、被告人が述べたとおり、公訴事実については争いません。ただ4件の公訴事実について、2件目と3件目は被告人は自ら進んで供述しており、自首が成立します。また被告人には精神科医への通院歴があり、犯行当時は事故の行動を制御する能力を著しく欠き、刑事責任能力はないというのが我々の意見です。本件は前例のない事件でもありますので、特に慎重な審理を望みます」

−検察官の冒頭陳述−
 被告人の身上経歴などであるが、被告人は大阪市大淀区で出生し、昭和60年4月に石川県内の大学を中退した後、工員・郵便局員・タクシーの運転手などを経て、人材派遣会社に勤め、印刷機械の清掃工をしていた。
 被告人に婚姻歴はなく、両親と居住していた。
 被告人は前科2犯・前歴1点を有し、前科の内容は1つめは大阪地裁堺支部で懲役1年執行猶予3年、2つめは大阪地裁堺支部で懲役10月により執行猶予が取り消され、昨年3月まで服役した。
 被告人にはかねてより、推理小説の窒息場面を見て自慰行為にふけるなどの性癖があり、自宅付近を通る小中学生らを襲って、何度も窒息させる行為を繰り返していた。また被告人は、中学生のときある教育実習生が履いていた「白色のスクールソックス」にも強い興奮を抱いていた。
 被告人は
1.高校卒業までは、小中学生らを襲い
2.大学時代には白色のソックスを履いていた大学の友人を襲い、それが原因で大学を中退した。
3.また平成7年2月には郵便局の同僚をスタンガンを用いて襲い
4.平成13年からは路上の通行人らを連続して襲って、逮捕されている。
 被告人は自己の性癖を抑えることができずにおり、人を窒息させる小説をウェブサイトに掲載していたこともあった。これが深化して被告人は、人が窒息して苦しんだのを見た後に殺すことに性的興奮を覚えるようになった。
5.平成14年4月には路上で中学生を襲い、前刑と併せて服役することになった。
 平成16年7月に出所後は、電車内などで対象者を探すようになった。
 ファーストフード店から出てくる、白いソックスを履いた女子大生を尾行するなどしていたが、実際殺害することは死体を処分する方法に困り、ためらっていた。
 被告人は出会い系サイトやSMサイトの電光掲示板を閲覧していたが、ここでも対象者を見つけられないでいた。そして被告人は自殺サイトの電光掲示板を見つけた。ここで練炭自殺の失敗談が載っており、「無意識に車のドアを開けてしまい失敗しました。練炭自殺をするには手足を縛る必要がある」との書き込みに着想を得て、その失敗談を理由に相手を騙して緊縛して、苦しむ姿を楽しむことができる上、殺害するという自己が望んだものを簡単に実行できると考えた。
 第一の被害者のaは両親の離婚後、実母に養育されていたが、平成10年3月頃から自宅に引きこもるようになり、精神病院への入退院を繰り返していた。
 被告人は自殺サイトでaの書き込みを見つけると同時に、計4名に対し、一緒に練炭自殺をしようと誘った。これにaから返信が来て、それ以後はメールでやりとりするようになる。
 被告人は両手足を縛って、薬品を嗅がせて、もがき苦しませたあと殺害して死体を捨てることを計画したが、この計画を隠したまま、一緒に練炭自殺をしようと持ちかけ、その際手足を縛ることを決意した。
 2月19日午後6時にaと新三国大橋で待ち合わせることにして、犯行現場の下見やレンタカーの準備などをした。
 2月19日午後3時50分ごろ、レンタカー(トヨタハイエース)を借り出し、三国大橋に向かう途中に大型日用品店に寄り、ビニールテープや白色ソックス、結束バンド、ガムテープなどを購入した。木炭は用意しなかった。
 午後6時30分ごろ、先に到着していたaと合流して、声をかけてハイエースに乗せた。
 山中の駐車場に到着すると、結束バンドやガムテープなどを取り出して並べた。
 被告人は後部座席に移動して、aに白色のソックスを履かせて、手足を緊縛した。
 aが「痛いです。薬を飲んでも眠れません。ほどいてください」と哀願するのを無視して、胡坐をかいた被告人の腹に、縛り上げたaの頭部を乗せて、シンナーを染み込ませたガーゼを口や鼻に押し付けて、失神させては覚醒させる行為を繰り返した。同時にaの苦しむ声をICレコーダーで録音していた。
 aを失神させて車から降り、砂地に穴を掘って、再びハイエースに戻り、被害者の鼻と口を10分間塞いで窒息死させた。
 その後身元が容易に判明されないようにするために、衣類を剥ぎ取って遺棄した。
 犯行用具等をマンション近くのダストボックスのなかに投棄したあと自宅に戻り、aを殺害したシーンを思い浮かべて自慰行為をして、就寝した。
 次の日、レンタカーを清掃して返却した。また犯行当日デジタルカメラを忘れていたので、再びaを遺棄した場所に行き、死体の一部が露出した状況をデジタルカメラで撮影した。
 第二の被害者のbは西宮市で出生し、両親と生活して公立中学校に通う中学3年生だった。学校生活に悩んで、精神科医の治療を受けており、自殺サイトに自らのことについて書き込みをしていた。
 被告人はaの遺体が発見されたことを知り、バレないように自殺サイトへのアクセスを控えていたが、しばらくして再び殺害相手を探すようになり、死体を遺棄したりすることにした泉南部で場所を探すなどしていた。そんななか、bから返信があり、メールおよびチャットで誘った。そこでbが中学3年であることを知ったが、却って強い興味を持ち、手足を縛ることを承諾させた。
 5月21日午後2時ごろ、JR南田辺駅で待ち合わせることにし、レンタカーを予約した。
 当日5月21日の12時にレンタカーを借り出し、前回と同様に、大型日用品店に立ち寄り、結束バンドやガムテープなどを購入した。またこの時も木炭は用意しなかった。
 14時ごろ先に到着していたbと合流し、ハイエースの助手席に乗せた。
 和泉市内の現場に到着すると、bを残して後部座席に移動し、購入したビニールテープや白色ソックス、結束バンド、ガムテープを並べた。bに白色ソックスを履かせて、結束バンドとビニールテープで両手足を縛った。そこで座っていたbを後ろに押し倒し、窒息行為を始めた。
 bはガムテープ越しに「やめて、やめて、こんなことやめて」と言って、しばらく手足をバタつかせて激しく抵抗した。口からガムテープを外した際にも「やめて、やめて、人殺しはあかんで」と哀願するのを無視して、抵抗するbに馬乗りになって、バスタオルで失神させては顔を叩いて覚醒させた。再度鼻と口を手で窒息させ、シンナー入りのガーゼを吸引させて再び失神させた。またこれらの状況をICレコーダーで録音したり、デジタルカメラで撮影した。
 車が来たので場所を変更して殺害することにして、再びシンナー入りのガーゼを吸引させて、今度は容易に覚醒しないようにして場所移動した。ところがここでも車が来たので断念し、山道にハイエースを駐車した。そこでなおも失神しているbの口や鼻を、10分程度塞いで窒息死させた。
 また容易に身元が分からないように衣服を剥ぎ取って、死体を遺棄した。犯行後はレンタカーを清掃して返却し、犯行道具をマンション近くのダストボックスに捨てた。
 そして自宅に帰ると、殺害行為を思い出して自慰行為をして就寝した。
 また数回にわたり現場に行き、死体をデジタルカメラで撮影した。
 その後、bが生前父親に不満を漏らしていたことと、bが自己の携帯を置き忘れていたことを思い出し、bの父親に身代金を要求して、強い恐怖感と苦痛を与えて楽しもうと考えた。
 自分の声でそのまま電話すると、声紋鑑定でバレてしまうと思ったので、パソコンで人工合成した声を作り出し、無言電話をかけて父が携帯に出ることを確認したうえで、5月29日に登録音声でY1を脅迫して、警察に通報することなく300万円を持って、狭山市内のミスタードーナツに入るよう指示した。
 被告人はトオルのうろたえている姿を見るためにミスタードーナツに行ったが、警察の指示ですでにトオルは店の外に出ていたので、目的を遂げなかった。被告人は再び携帯に電話をかけ、「bを殺害した」と伝えた。
 第3の被害者であるcは4人兄弟の長男として出生し、事件当時はワンルームマンションに一人暮らしをしていたが、留年のことで悩み、自殺サイトにアクセスしていた。
 被告人はbを失神させた回数が少なかったと不満を感じており、自殺サイトで一緒に練炭自殺してくれるよう送信していた。そこで返信があったcとチャットで連絡を取っていた。
 ところがcには被告人を警戒する気持ちがあり、両手を縛ることは承諾したが、両足を縛ることは拒否した。また保険と免責負担金だと言って、cに2,3万円払わせることにした。
 6月10日16時に狭山小西小バス停前でcと待ち合わせることにして、被告人は殺害場所を下見した。
 そして6月10日、これまでと同じ車種のレンタカーを借り、これまでと同じように大型日用品店でビニールテープ等を購入した。また両手を縛るため、警戒されないよう今回は練炭を購入した。
 あらかじめタオルにポリエチレン片を入れて、16時に、事前に来ていたcと合流した。
 車で目的地に行く途中に約束していた3万円をcから取った。
 現場に到着すると、cが近くを散歩したいと言うので、被告人はそのまま待った。戻ってきたcを後部座席に移し、結束バンドやビニールテープで緊縛し、座っているcを後ろに倒し、ポリエチレン片の入ったタオルで窒息行為をし始めた。cはうめき声を上げ、縛られていない両足をバタつかせていたが、被告人はこれに構わず窒息行為をして、やがてcを失神させた。
 失神したcに準備していた白色ソックスを履かせたが、意識を取り戻したcが縛られていない足で、被告人の足を蹴った。「約束が違う、やめてください!」と言ったが、被告人はその腹部を何度も殴打し、タオルを使って失神させた。
 またアンモニア水を嗅がせては失神・覚醒させる行為を繰り返し、その苦しんでいる姿をICレコーダーで録音し、デジタルカメラで撮影した。そしてシンナーの入ったタオルでcを窒息死させた。
 また身元が容易に判明しないように、衣服を全て剥ぎ取って全裸にして、崖下山林内に遺棄した。
 犯行後の状況であるが、前回と同様に犯行道具をダストボックスに捨てて、ハイエースを清掃して返却した。
 家に帰り、殺害した様子を思い出して自慰行為をして就寝した。その後も数回河内長野市内の現場に行って、cの死体をデジタルカメラで撮影していた。

 ここで冒頭陳述が終わり、裁判長は弁護人に意見を求めた。

弁護人「甲53〜56号証は留保します。他の甲号証や乙号証については同意します」
検察官「同意のあった部分の要旨の告知をします。添付されている部分を大型スクリーンに映したいと思いますが、そこには被害者が苦しんでいる写真や遺体の写真もありますので、そこの部分については遺族の心情や被害者の名誉のために映しません」

 甲号証ではaの身上関係、深田の捜査報告書、殺害番地の特定、aの死体検案書(死因は頸部の圧迫による窒息で、喉や肺にも鬱血点が散在)、窒息行為を20回ぐらい1時間程度繰り返したというもの、失神から死亡までは酸素を入れないと5分くらいで起こるというもの、脱糞と失禁は窒息させて20秒ぐらいで起こり、おならも腹筋が圧迫されることで発生するというもの、普通の人が鼻口閉塞されると2,3分で死に至るというものなどが挙げられた。
 ここでインフォシークのメールボックスでの、aと被告人のメールのやりとりがスクリーンに映される。aのハンドルネームはかえる、被告人はアタピーである。被告人のメールの一部を時系列的に抜粋すると以下。

被告「掲示板を拝見しました。38歳で、ハイエースを用意できます。当方、本気です」
被告「場所の希望はありますか」
a「場所は見つからなければ、どこでもいいです。出来れば迎えに来てほしいです」
被告「なかの室内を計算して、7個の七輪を用意してあります」
被告「爪は長いですか。アルコールアレルギーがある場合、水などは用意します」
被告「スクールソックスですが、これはこの時期にしている人がいないので、見つけやすいという意味合いです」
被告「大便が漏れてしまうので、24時間前からの食事はやめて下さい。直前の食事は消化して直腸にたどり着くまで時間がかかるので、大丈夫です」
被告「練炭を2個用意しているようですが、当方で用意しますので大丈夫です」
被告「何分、そちらのほうは分からないので、目印の付きやすい服装で来てください」
被告「確認のため、かえるさんの名前を決めておきましょうか。鈴木とかではちょっと・・・」
被告「かえるさんとの希望メンバーがいないようなので、2人で安らかに逝きましょう」
被告「当方の名前は横山とします」
被告「(aが携帯を持っていないことを受けて)それではヤフーのメールでお知らせします」
被告「(どうして死ぬのか聞かれて)過去に自殺未遂で、薬を20錠飲んだことがあります。旅は道連れという形で安らかに逝きたいです」
被告「(コンロは)結構重いですが、大丈夫ですか?」
被告「親より早く逝くことになりますが、自分の人生です。あなたと出会えて良かったです。嬉しいです」
被告「(そこは)警察の巡回も見たことがありません。念のため代替場所もあります。ですがそこは(吉川友梨ちゃん事件の)熊取町なので警察の巡回が多いです」
被告「この寒いなか、山で歩いている酔狂な人はいましたが、夜はいないでしょう」
被告「声をかけてくれると助かります。当方は少々、小太りです」
被告「(遺書について聞かれて)そうですね。当方も遺書で事件性については記していたほうがいいですね」
被告「現時点では2月19日にしていただきたいのですが」
被告「バファリンですか?一酸化中毒の場合、最初に頭痛が来るので有効かもしれませんね。お酒は当方で用意します」
被告「今まで送受信したメールを消去してほしいです」
被告「寒い日が続きます。来週は暖かければいいですね」
被告「食事は晩だけ抜いてください。家族に不自然だと思われそうなら、食べてもいいです」
被告「今高速を降りました。まもなく176号線に入ります。メールを消去しておいてください」

 次にプロジェクターでは、被告人のICレコーダーに録音された、窒息されたりしているaの声が文字で映された。

−aの母親の検察官調書−
 私はaの母親です。
 aは平成17年2月に、河内長野の河原で死体で発見されました。このことは大阪府警の刑事さんから知らされました。
 aは1人で在室したままいなくなりましたが、ようやく外で出れたのだろうと思って好きにさせていました。どこかで元気で暮らしているだろうと思いましたが、こんなことになって今でも信じることができません。aの2つ上の兄も悲しんでいます。
 aを産んだあと、私は夫と暴力が原因で離婚しましたが、aは幼いことから頭が良く、しっかりした子で、悪く言うと我侭ですが、他人に流されることはありませんでした。
 夜間の定時制高校に通いながら、ガソリンスタンドで働き、自分のお小遣い分は稼いでいました。
 その後阪神大震災が起こり、現住所に移り住みました。
 19歳のとき、aは京都市のパチンコ屋で住み込みで働くようになりました。そこで同僚の年配女性に苛められたそうで、帰ってきたaの痩せ方にびっくりして、仕事先を変えるように言いましたが、aは一週間は頑張ると言いました。それはaの強い性格からだったのかもしれません。
 私は精神的に落ち着いてくれるだろうと思って、パソコンを買い与えました。
 私たちは宗教を信仰していたので、お経をしていました。私は宗教の本部まで行ったくらいです。お祈りをすることでご利益があるということで、aも回復して、「もう少しや」と思いました。
 ところが今度はaは「死ね」という幻聴が聞こえ始めたというのです。この間、aはベランダから飛び降りようとしたり、練炭を購入したりしていました。私たちにとってお経を唱えることは精神的に安定させることでした。
 aが事件のとき、お経を唱えていたというのは、この苦しさを払いのけたいという意味でお経を唱えていたのであり、生きたい、助かりたいという希望を持っていたから出たものでしょう。
 aを殺した犯人は前上博という男だと聞かされました。aはどこかで元気に暮らしているのではなく、殺されていました。犯人の男が自分の欲望のためにaをいたぶり殺したことを思うと、憎くて憎くてなりません。
 私のかけがえのない一人娘だったので、幸せになっていました。aはどれだけ可哀想で、できることなら自分が代わってほしいくらいです。
 犯人にはもはや更生の余地はなく、死刑にして命をもって償わせたいです。

−aの父親の検察官調書−
私が今も心に残っているのは、私の暴力に耐えかねて妻が出て行き、aの様子を見に行ったときに、aの可愛らしい顔を見て、自分を戒めたことです。事件を聞いたとき、大変驚き、体から力が抜けるようでした。aをこんな目に遭わせた犯人を早く捕まえて死刑にしてください。そうしたらaも成仏できます。

−aの兄の検察官調書−
 妹が亡くなったと聞きましたが、信じられません。目を閉じると、母と一緒にaのことが浮かんできます。
 妹の顔は骨が剥き出て、誰だか分からない上に、パンツ一枚でした。
 犯人が私の前に現れたら同じ目に遭わせたいです。警察は一日も早く犯人を捕まえて、処罰してほしいです。
 犯人は死刑になってほしいと強く願っています。

 次に検察官は、aの首を絞めた駐車場の写真や、殺害した場所の写真、死体を遺棄した場所の写真をプロジェクターで映した。ここで一旦休廷になった。

 被告人が退廷するとき、傍聴席から「コラ!」という罵声が浴びせられた。

事件概要  前上被告は人の窒息するところを見たいため、以下の犯罪を犯したとされる。
1:2005年2月19日、大阪府河内長野市で女性を窒息死させた。
2:2005年5月21日、大阪府和泉市で中学生を窒息死させた。
3:2005年6月10日、大阪府河内長野市で大学生を窒息死させた。
 前上被告は2003年8月5日に逮捕された。
報告者 insectさん


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