裁判所・部 大阪地方裁判所・第五刑事部
事件番号 平成16年(わ)第7321号
事件名 強盗殺人
被告名 A、B
担当判事 中川博之(裁判長)入子光臣(右陪席)小坂茂之(左陪席)
日付 2005.10.27 内容 被告人質問

 10月27日午後1時05分から、強盗殺人の罪に問われたA・B両被告に対する公判(被告人質問)が大阪地裁(中川博之裁判長)で、前回に引き続いて行われた。
 傍聴席は前回と同じ布陣であるが、被告の関係者が多かった。

 冒頭、裁判長が公判手続きの変更として、検察官・弁護側双方に告げたが、従前通りということになった。
 検察官はあらたに甲92号証を証拠請求した。弁護人2名も同意した。
 検察側の甲号証の関係であるが、
・71号証:被害者の交際相手だったEの嘆願書「みんなが12日間をどんな気持ちで過ごしたか分かりますか。人工呼吸で脳波もゼロでしたが、奇跡を信じていました。なぜ犯人は生きていられるのか。これ以上神様もいない世界を作らないためにも、重い罰をお願いします」
・72号証:被害者の父母の嘆願書「何の落ち度もない息子の全てを奪われました」
・73号証:起業webサイトの印字
・74号証:被害者の知人の心情や被害者の生活状況、犯人に対する心情が記載されている。
 甲92号証は被害者を解剖した黒木医師の供述調書で、被告人の足蹴り行為のどの時点が死因となったかは、医学的に解明が困難であるとのことである。
 A被告の弁護人は、遺族や関係者の嘆願書の要旨をA本人に読ませて、受け取ってもらったかそうでないかは分からないが、それを受けてAが遺族に手紙を差し出したことを明らかにして、遺族への、弁護人・本人・Aの母親の手紙を書証として提出すると述べた。

−B被告の弁護人からB被告への質問−
弁護人「逮捕された当初、あなたは事件に関わりがないと嘘を言っていましたが、それは警察だけでなく、お家の人にも正直に言っていませんね」
被告人「言っていません」
弁護人「共犯者についても、そんな悪いことをするやつじゃないと言っていますね」
被告人「はい」
弁護人「本当のことを言うようになったのは、警察に捕まって何日ぐらいか覚えていますか」
被告人「あまり覚えていませんが、2,3日後ぐらいだったと思います」
弁護人「本当のことを言うようになった時の心境はどうだったのですか」
被告人「調べを受けている途中から悩みました」
弁護人「今まで嘘を付いていたけど明らかにする気持ちになり、淡々と事件のことを言うようになったのだけど、最初は相当感情的になって、それを警察の前にも出してしまったね」
検察官「弁護人が何に基づいて尋問をしているのか分かりません」
弁護人「心境の変化を情状として取り上げるために聞いているのです。あなたはどんな態度で弁護人に対応したか覚えていますか」
被告人「ちょっと覚えていません」
弁護人「あなたは平気な口調だったのですか」
被告人「普通に喋っていたように思う」
弁護人「私の記憶では当初とでは、説明の仕方が変わったように思ったのだが」
被告人「覚えていません」
弁護人「あなたは取り調べのときに泣いていますね」
被告人「泣いたことはあります。調べ中にも調べ終わったあとも、弁護人の前でも泣きました」
弁護人「なぜ泣いてしまったのですか」
被告人「被害者が亡くなって本当に申し訳ないと思いました」
弁護人「被害者の家族への気持ちもありますか」
被告人「あります」
弁護人「その時流した涙、気持ちは今も同じですか」
被告人「はい」
弁護人「あなたの気持ちとして、こういう長い裁判になるとは考えていましたか」
被告人「分かりません」
弁護人「あなたは裁判で真実をはっきりさせたいと思っていましたか」
被告人「はい」
弁護人「責任を取って早く裁判を終わらせたいとも思っていましたか」
被告人「はい」
弁護人「ところが法律的な問題があるので、弁護人にいろいろ調べてほしいと思ったのですか」
被告人「はい」
弁護人「何回かお詫びの手紙を遺族に書いていますね」
被告人「はい」
弁護人「裁判は事実が何かということを明らかにするものなので、(手紙を)保留したということですか」
被告人「はい」
弁護人「私と面会した時に、裁判を終えて責任を取りたいと言っていましたね」
被告人「はい、ありました」
弁護人「今まで遺族の話を聞いて辛いと思ったこともありますよね」
被告人「はい」
弁護人「判断を裁判所に任せて、責任を真っ当したいというのが素直な気持ちですか」
被告人「はい」

−検察官からのB被告への質問−
検察官「あなたは事件のことを最初なんと説明していましたか」
被告人「僕はやっていませんと言いました」
検察官「暴力について警察にどう説明したのですか」
被告人「Aがやった、僕はしていないと言いました」
検察官「あなたは(暴行を)とめたとまで言っていませんか」
被告人「はい」
検察官「お金のことについてはどうですか」
被告人「Aが取ったと言いました」
検察官「お金を取ることに関与したと言いましたか」
被告人「いいえ」
検察官「検察庁でもあなたの説明はどうでしたか」
被告人「Aがやったと言いました」
検察官「あなたが事件の真実を言おうとしたきっかけは何だったのですか」
被告人「刑事からの調べで、僕ばかり嘘言えないと」
検察官「刑事から、共犯者がやったと供述しているぞと言われたのですね」
被告人「みんな言ってるから、僕なりに被害者に悪いと思った」
検察官「もし共犯者が本当のことを言わなかったら、ずっと嘘ついていたのですか」
被告人「そんなことはないです」
検察官「自供した理由は、共犯者の口から真実が明らかになることを恐れてということですね」
被告人「はい」
検察官「あなたは被害者に申し訳ないとか言っていますが、あなたの弟と遺族の方がトラブルになったということは知っていますね」
被告人「まあ怒鳴ったり、少し揉めたと」
 B被告の弟というのは、被告によく似た茶髪の男性のことではないかと思う。傍聴席にもいた。
検察官「どんなことで揉めたと思いますか」
被告人「そこまで深く聞いていません」
検察官「あなたのお母さんとはどんな話をしましたか」
被告人「僕はお母さんにごめんなさいと言いました」
検察官「具体的にどうやって揉めたかというのは聞いていないのですか」
被告人「聞いていません」
検察官「あなたは責任を取りたいと言っていますが、具体的にどんな責任を取りたいと思っているのですか」
被告人「一日も早く判決を受けて、刑に服すことです」
検察官「判決を受けてというけれども、どんな刑になると思っていますか」
被告人「こんな重大なことをしたのだから、死刑か無期しかないと思います」
検察官「それでも納得できるのですか」
被告人「はい」
検察官「それだけのことをしたというのは分かっていますか」
被告人「はい」
検察官「遺族からはあなたの態度が誠実ではないと聞いていますが、自分のどこが悪かったと思っていますか」
被告人「全てが悪いと思います」
検察官「遺族にこんなことをすればよかったというのはありますか」
被告人「こんなこと(=事件)がなければ、こんなところにも来ていないと思います」
検察官「それならば殴った回数やお金のことをきちんと説明すべきではないのですか」
被告人「自分としてはきちんと話しています」
検察官「誠実に話をしたら、供述がその場その場でコロコロ変わるのですか」
被告人「変わりませんが、自分も聞かれたその場で考えて話をしています」
検察官「それは自分自身の責任逃れと見えるのですが」
被告人「そう言われても仕方ないかもしれません」
検察官「あなたには、今までやったことを軽く見せたいという気持ちはありませんか」
被告人「それはないです」
検察官「ではなぜ殴った回数が少なくなっていくのですか」
被告人「事件のことを思い出して、考えて出た言葉です」
検察官「事件のことを考えたら、殴った回数が少なくなるのですか」
被告人「そういう思いではない」
検察官「捜査段階でも色々話をしていますが、当初と今では変わっている説明も多いですね」
被告人「はい」
検察官「これから遺族に対して何かをしようとか思いますか」
被告人「僕には刑に服すことしかできません」
検察官「重い罪でも受け入れると」
被告人「はい」

 A被告の弁護人からの質問はなし。

−裁判官からB被告への質問−
左陪席裁判官「前回あなたも俯きながら、遺族の話を聞いていたと思うのですが、それを聞いて強調したいことはありますか」
被告人「ただ刑を償うことしかできません」
裁判長「第1回公判から今までの裁判で、あなたの気持ちで変わったことはありますか」
被告人「一日も早く判決を受けて、罪を償うことしかできません」
裁判長「最初のころはどう思っていたのですか」
被告人「こういう重大な事件を起こして申し訳ありません」

 ここでB被告が席に戻り、ついでA被告が証言台に座り、A被告の弁護人からの質問が始まる。所々で口ごもり、幼げな印象を受けた。

−A被告の弁護人からA被告への質問−
弁護人「この前の公判のあと、遺族を含めいろんな人からの嘆願書をあなたは全部読みましたね」
被告人「はい」
弁護人「自分なりにそれらの方に手紙を書いたね」
被告人「はい」
弁護人「考えて自分の気持ちをそのまま書いたと」
被告人「はい」
弁護人「遺族があなたのことを、ふてぶてしい、反省していないとおっしゃっているのは聞いているね」
被告人「はい」
弁護人「あなたはどういう気持ちで法廷にいたのですか、ありのままに言ってください」
被告人「(遺族に)顔を合わせられないです」
弁護人「それはなぜですか」
被告人「自分のしたことが大き過ぎて」
弁護人「事件のあった次の日のお昼過ぎに、君は起きたんだけど、君の頭にはどんなことが残っていたのですか」
被告人「事件のこと、喧嘩してお金を取って・・どうやって帰ったんやろかとか」
弁護人「トイレに行って吐いてから思い出したんだよね」
被告人「細かいことは頭になかったです」
弁護人「あなたは喧嘩したことはこれまでありますか」
被告人「ないです」
弁護人「中1のとき、喧嘩したことがありませんか」
被告人「8年前にあった」
弁護人「どんな喧嘩をしたのですか」
被告人「分からないです」
弁護人「何が喧嘩の原因になったのですか」
被告人「周りで揉めて、ぶつかって、喧嘩しました」
弁護人「そのとき相手の人は怪我をしましたか」
被告人「してないです」
弁護人「それ以外に暴力を振るったことはありますか」
被告人「ないです」
弁護人「何でこんなことになったのか、考えてみたことはありますか」
被告人「ないです」
弁護人「何でやと思う?遺族に対する義務やと思って答えてくれ」
被告人「毎日どうなってもええわという気持ちで生きてきたからだと思います」
弁護人「君はパチンコ屋に勤めて、自分の給料で生活し、ごく普通に生きてきたわけだよね」
被告人「はい」
弁護人「そんな君が何でこんな事件を起こしたんやと思う?答えなさい」
被告人「生活が安定していなくて、後先のことを考えていなかったというのがあります」
弁護人「今ではそんな気持ちではないな?」
被告人「はい」
弁護人「被害者が亡くなったことは何日かあとに知ったということだけども、それは誰から聞いたの」
被告人「C君から、母親から、同じ時ぐらいに聞きました」
弁護人「それを聞いたとき、どう思いましたか」
被告人「実感が湧かないという状態でした」
弁護人「『取り合えず来い』と先輩(=CとB)に呼び出されて、どう言ったのですか」
被告人「何も答えられませんでした。どうしていいか分かりませんでした。事件のことを考えているうちに、仕事にも行かない、家にずっといる状態になりました」
弁護人「それからあとはどうしたらいいか分からなかったと」
被告人「はい」
弁護人「警察に行こかと、Bに言われたこと言われたことがありますね」
被告人「はい」
弁護人「何で警察に行かなかったのですか」
被告人「どんなふうになるのか分からなくて怖かった。僕の頭では捕まったら怖いというのがありました。自分の母親のところにも刑事が来るのではと思いました」
弁護人「どうしたらいいか分からぬままに日にちが過ぎていったということですか」
被告人「はい」
弁護人「そうしているうちに警察に逮捕されたと」
被告人「はい」
弁護人「警察には正直に話しましたか」
被告人「覚えている限りは正直に言いました」
弁護人「あなたは夏までは接見禁止で弁護人以外には会えなかったよな」
被告人「はい。7月中旬に母親と会いました」
弁護人「そのときお母さんとは話をしましたか」
被告人「お母さんはどないしていくんやと言いました。答えることができなかった」
弁護人「母親からどんな差し入れがあるのですか」
被告人「いっぱいありますが・・お経の本があります」
弁護人「なんというお経の本ですか」
被告人「般若心経です」
弁護人「その本はお経だけしか書いていないのですか」
被告人「お経とその意味とかが書いてあります。32ページあります」
弁護人「それはどういうことなのですか」
被告人「悪いと思っているなら、東側の家で、相手のことを考えてお経を唱えるということです」
弁護人「あなたは毎朝毎晩お経を唱えているのですか」
被告人「はい」
弁護人「被害者やそれに関わるたくさんの人に、あなたが出来ることといえばそれくらいしかないのか」
被告人「それくらいしかありません」
弁護人「これからも一生続けるのですか、そうやね」
被告人「はい」
弁護人「一通り聞いてきたわけだけど、まだ聞いていないことで言っておきたいことはありますか」
被告人「被害者に頭を下げるしかありません。口で言うのもなんなのですが、申し訳ありません」

−検察官からのA被告への質問−
検察官「捜査段階であなたが言ってきたことに比べて、公判での供述は曖昧だと思いませんか」
被告人「はい」
検察官「記憶がないのに調書を作られたとか、お金を取ろうとした時期が以前と変わったりしています。どっちが本当なのですか」
被告人「この法廷で言ったことが正しい」
検察官「遺族の方も証人尋問であなたの説明は曖昧だと・・・」
弁護人「異議!被告人が本当のことを言っていないという前提で質問をしている」
検察官「では質問を変えます。あなたはこの法廷で言ってきたことを、遺族の話を聞いたあとも維持するということですか」
被告人「はい」
検察官「あなたは警察には何と言っていましたか」
被告人「事件のことを僕は知らないと」
検察官「事件とは無関係と言ったのですか」
被告人「分からないと言った」
検察官「暴力については何と?」
被告人「振るってないですと言った」
検察官「お金を奪ったという話もしましたか」
被告人「してないです」
検察官「そのあと自分自身が暴力を振るったと話したあとも、なぜCがお金を取ったと供述していたのですか」
被告人「財布を取るのがC君で、暴行を加えるのがA(自分)という口裏合わせをしていたからです」
検察官「なぜそんな口裏合わせをしたのですか」
被告人「言うてこられたので、それに乗りました」
検察官「もし本当のことを言ったらどういうふうに処罰されると考えていたのですか、Cが財布を取ったことにすれば、あなたの罪が軽くなると言われたのですか」
被告人「はい。だけど軽く言われただけで、口裏合わせというほどではない」
検察官「なんで自分が財布を取ったと言うようになったのですか」
被告人「実際僕が取ったからです」
検察官「本当のことを言うようになったきっかけは何ですか」
被告人「刑事から、『Cは財布取ってない』と言われて、嘘がバレたと思いました」
検察官「遺族のことを聞いたり、手紙を読んだりしているようですが、遺族にできることはお経を読むことぐらいしかないのですか」
被告人「はい」
検察官「どんな責任を取らなければならないと思いますか」
被告人「法的に刑罰を受けることです」
検察官「遺族を納得させるには、どんな刑を受けるべきかと思いますか」
被告人「それは嘆願書に書かれているように、無期か死刑かと」
検察官「あなた自身そういう刑罰でも納得できるということですか」
被告人「自分のやったことなんで責任を取りたいと思います」
検察官「それなりのことをしたという自覚はあるのですか」
被告人「はい」

 ここで検察官の質問が終了、再度弁護人から。

−A被告の弁護人からA被告への質問−
弁護人「君は11月18日の朝に逮捕されたんやけど、その日のうちに財布を取ったことや暴力を振るったことを警察に言ってるよね」
被告人「はい」
弁護人「それは検事さんにも言ったんやね」
被告人「はい」
弁護人「あなたとしては被害者を殺すような意思はなかったということですか」
被告人「はい」
弁護人「その気持ちは少しも変わらないな?どんな刑を受けるかは別にしても、真実はこうなんだというのはあるのですね」
被告人「はい」
弁護人「でも責任は取らなあかんよ」

−裁判官からA被告への質問−
左陪席裁判官「あなたが唱えているお経にはどんな意味があるのですか」
被告人「全てのものは苦?の存在を逃れられないということです」
左陪席裁判官「それを自分としては納得しているのですか」
被告人「最初は分かりませんでしたが、だんだんとその意味が分かってきました」
左陪席裁判官「役割分担のことだけども、先ほど『言うてきたから、乗っただけや』と言っていましたが、それは誰が言ったのですか」
被告人「C君が言いました」
左陪席裁判官「Cが自分の罪が重くなるようなことを言うのですかね」
被告人「C君です、A(自分)ではありません」
左陪席裁判官「手紙の内容の写しがここにあるのですが、『一生かけて償っていきたい』とはどういうことですか」
被告人「自分でできることはやっていきたいと思います」
左陪席裁判官「これはいろいろ考えた上で書いたと取っていいんですか」
被告人「はい」
左陪席裁判官「一生をかけて償ったら、償いきれると思いますか」
被告人「思ってないです」
裁判長「いつこの手紙を書いたのですか」
被告人「20日前くらいです」
裁判長「どのくらいの時間をかけて書いたのですか」
被告人「夕方から書いて、夜9時になったので朝ちょっと書きました」
裁判長「これは自分の言葉で書いたということですね」
被告人「はい」

 ここでこの日の審理は終わり、証拠調べは終わりという形になった。
 次回は論告と弁論で12月5日と指定した。

 傍聴している限りでは、典型的な強盗殺人と性質を異にしているので、むしろ傷害致死のほうが犯罪事実として正しいのではと感じた。もちろん法定刑が全く違うので、詳しいことは分からないが、それが争点になって審理が長期化していたのだろう。
 女性検事もこれを強盗殺人として無期懲役で処断することに躊躇いを感じたのか、しきりに被告人らに予想される量刑を尋ね納得させていた。

報告者 insectさん


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