裁判所・部 | 大阪地方裁判所・第七刑事部 | ||
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事件番号 | 平成17年(わ)第3497号 | ||
事件名 | 殺人未遂 | ||
被告名 | A | ||
担当判事 | 杉田宗久(裁判長)鈴嶋晋一(右陪席)菅野昌彦(左陪席) | ||
日付 | 2005.10.7 | 内容 | 被告人質問、証人尋問、論告(第三回公判) |
−検察官の被告人質問− 検察官「逮捕された日の調書には殺意について書かれていないが、どうなのか」 被告「はっきりと覚えていない」 検察官「『殺そうとしたのか』などと聞かれたか」 被告「はっきりと覚えていない」 検察官「罵られたのは事実ではないのか」 被告「はっきりと覚えていない。興奮していたから」 検察官「検察庁行った6月3日に殺すつもりがあったという箇所に訂正を求めているか」 被告「はい・・・、殺すつもりは全く無かった」 検察官「殴ったときに、死ぬと思ったか」 被告「思ってなかったが、後から刑事に言われて、そうかもしれないと思った」 検察官「以上です」 −裁判官の被告人質問− 裁判官「灰皿で1回目に殴った理由は」 被告「防衛です」 裁判官「2回目以降は」 被告「防衛です」 裁判官「警察官には逮捕当時から、この旨を言ったか」 被告「はい」 裁判官「殴った理由に腹を立てたからというのもあるか」 被告「多少は・・・」 裁判官「6月9日付調書に攻撃されたことを言ったか」 被告「何度も言った」 裁判官「a氏が胸倉を掴んで押してきたことを調書に書かれた記憶はあるか」 被告「覚えていない」 裁判官「灰皿の度の部分で殴ったのか」 被告「底の部分が当たった」 裁判官「そうすると直ぐに割れたのか」 被告「はい」 裁判官「どれくらいの強さで殴ったのか」 被告「咄嗟のことだったので覚えていない」 裁判官「a氏は普段から気が短いのか」 被告「はい」 裁判官「前回の件(2001年)はどうしてなったのか」 被告「仕事のやり方」 裁判官「前回の公判で、灰皿の底で殴ったのは、相手が怪我しないようにと言っていたのでは?」 被告「言っていない」 裁判官「何処で殴ったかは気にしていなかったのか」 被告「そうです」 ここで、弁護士が、a氏との示談状況を示した。内容は以下の通り。 入院治療費 16万4140円 慰謝料 6月21日 30万円 6月24日 100万円 7月 5日 25万円 8月 2日 25万円 合計196万4140円を示談金として被害者に支払済み。 また、a氏からの減刑嘆願書 被告の妻及び子の、被告を監督する旨の書類も提出された。 続いて、被告人の妻に対する証人尋問。 −弁護人の証人尋問− 弁護人「はじめはどう思ったか」 証人「吃驚して何が何だかわからなかった」 弁護人「これまで家庭内で暴力などはあったか」 証人「一切ありませんでした」 弁護人「頻繁に面会していない理由は」 証人「自分が受け入れることができなかった」 弁護人「a氏に現金を渡したのか」 証人「はい」 弁護人「被告が拘置所に入ってからは頻繁に面会に行っているが、心情の変化は」 証人「主人を落ち着かせ、安心させようと思ったかたら」 弁護人「どのような事を話したのか」 証人「体調などの事や、事件に関しても、罪を償わねばならないと駄目だということを話した」 弁護人「被告のそれに対する答えは」 証人「反省して、もう2度としない旨を言った」 弁護人「被告とは今後もずっといっしょにいるつもりか」 証人「勿論です」 弁護人「今後、どのように被告を監督するつもりか」 証人「会話をし、気持ちを探りたい」 弁護人「今、どのように生活しているのか」 証人「子の援助と自分の保険を解約して」 弁護人「以上です」 −裁判官の証人尋問− 裁判官「a氏に支払った金の出所は」 証人「子の援助です」 裁判官「保険の解約はどれくらいの収入になったのか」 証人「子の援助を含めて、196万4140円です」 裁判官「今後、どのように暮らしたいか」 証人「罪を償ってもらい、1日も早く元の生活を取り戻したい」 再度被告人質問。 −弁護人の被告人質問− 弁護人「奥さんの話を聞いてどう思っているか」 被告「有り難いと思っている」(涙ぐみながら) 弁護人「今、aさんに対してどう思っているか」 被告「悪いことをしたと思っている」 弁護人「今回の事件で誰に迷惑をかけたと思っているか」 被告「家族と、aさんとその家族・・・」 弁護人「今後、もし賃金で揉め事があったらどうするか」 被告「行政に相談したい」 弁護人「今後はきっちり反省して生活できますか」 被告「はい」 弁護人「以上です」 −検察官の被告人質問− 検察官「前回、被害者に腹を立てていると話したが、今もか」 被告「いいえ」 検察官「どうして考えが変わったのか」 被告「相手にも家族がいるということを考えたから」 検察官「考えが変化したきっかけは」 被告「やっぱり悪いことだと思ったから」 検察官「以上です」 −裁判官の被告人質問− 裁判官「今までに逮捕されたことは」 被告「前に飲酒運転で一回・・・」 これで、審理が終わり、検察官の論告求刑が始まった。 −検察官の論告求刑− 〜犯行状況は省略〜 要点は、被告に殺意のあったことは、警察署の調書から明確であり、また、過剰防衛の成立を主張しているが、胸倉を掴んで押されたぐらいでは到底成立しない。 被告は刃物などを用意して犯行に及んだわけではないが、そのとき事務所にあったものの中で一番の凶器になりうる灰皿を選択したのは、a氏を殺害する目的から照らし合わせても、非常に合理的。 身体の中でも最も致命傷を負わせやすいところのひとつである頭を殴打したことからも殺意は裏付けられる。 被告は賃金が支払われなかったことで、a氏に恨みを抱いていたという殺害しようとする動機もある。 逮捕後も、a氏に対して怒りがあったと証言していることから、相当強固な殺意があったと容易に考えられる。 また、被告の証言は調書と一貫しておらず、信用性が疑われる。対して、調書は警察署、検察庁と変化しておらず、また、被告の調書には殴った回数が3回と書かれ、a氏が主張した4、5回と書かれていないことからも、被告の自白は信用できるものである。 以上のことから、被告に殺人未遂罪が成立するのは明らかである。 被告の犯行動機は短絡的であり、犯行態様も重さが1kgを越える灰皿で殴り、割れた破片も尖っており、それで3回も殴るという執拗且つ悪質で危険なものである。a氏が負った怪我も全治2週間を要するもので、軽いとは到底言い難い。そこで、求刑ですが、被告人を懲役5年に処するのが相当である。 −弁護人の最終弁論− 被告は、自分より背も高く力の強いa氏から胸倉を掴まれ壁に押し付けられるという暴行を受けており、それに対して、灰皿で殴打した被告の行為は過剰防衛が成立する。 被告には当初から殺意は無く、賃金について話し合う目的であった。事務所でも、灰皿を持った後直ぐに殴りかかったわけではなく、a氏が胸倉を掴んでからであり、殺意は認められない。 また、a氏の犯行状況についての供述調書は信用できるものではない。 被告の供述調書も、被告が当公判廷内で証言したものと違い、信用性に大いに疑問がある。それに対し、公判の証言は、一貫しており、真実味を帯びている。 また、a氏の頭部殴打は咄嗟のことであり、敢えて頭を狙ったわけではない。a氏の怪我も加療2週間程度とさほど重篤なものではないと考えられる。 被告は犯行後、直ちに110番通報し、救急車も呼んでいる。殺そうと思ったのであれば、負傷し、ふらふらと逃げるa氏を追い、本当に殺害することもできた筈である。 以上のことより、被告には傷害罪が成立する。 被告は公判において、a氏に申し訳無いと証言したことなどから考えても反省していると考えられる。 被告は今まで、交通関係以外の前科はなく、妻や子が監督を誓っていることから、再犯のおそれは無い。また、動機にも酌量の余地がある。 被告は4ヶ月以上の長きに渡って勾留されており、十分な社会的制裁もうけた。 a氏にも、200万円弱の慰謝が講じられており、減刑嘆願書も提出されている。 これらを考慮すると、被告に実刑を科すことが相当ではなく、執行猶予をつけるべきである。 裁判官が、被告に最後に言いたいことは無いかと聞き、被告は「2度とこの様な事をしないで、生活していきたいと考えております」と述べた。 次回は判決である。 | |||
事件概要 | A被告は2005年6月1日、賃金の問題から雇い主である工務店経営者を殺害しようとしたとされている。 | ||
報告者 | 指宿さん |