裁判所・部 大阪地方裁判所・第五刑事部
事件番号 平成16年(わ)第7321号
事件名 強盗殺人
被告名 A、B
担当判事 中川博之(裁判長)
日付 2005.9.29 内容 証人尋問

 9月29日午後1時30分から、強盗殺人の罪に問われたA・B両被告に対する公判(証人尋問)が大阪地裁(中川博之裁判長)であった。
 B被告は丸坊主でガッチリした体格で、眼鏡をかけニキビが目立つ男で、A被告は角刈りで同じくガッチリしており、目つきが鋭くレッドキングを思わせる風貌だった。

 冒頭、検察官が、両名は軽度の酩酊状態だったが、完全責任能力を有し、死亡と暴行の因果関係においても、被害者の頭部を集中して足蹴にしており、殺人についての共謀が成立すると弁護側の主張に反論した。
 強盗もいつの時点での強盗が被害者に死をもたらしたのかはっきりしないが、強盗殺人が成立するとした。
 ここで傍聴席からNさんとEさんが検察側の証人として、柵の中に入って宣誓をしたあと証言台に立った。最初はNさんが証言した。

検察官「証人は被害者のTのお母さんですね」
証人「はい」
検察官「事件に巻き込まれたのを知ったのはいつですか」
証人「10月26日です」
検察官「その後どうしましたか」
証人「すぐに病院に急ぎました」
検察官「何時間ぐらいかかりましたか」
証人「一時間ぐらいかかりました」
検察官「すぐにTさんに会えましたか」
証人「いえ、意識レベルが低く、非常に厳しい状態だったので面会謝絶でした」
検察官「いつ会えたのですか」
証人「当日の夜が明ける頃でした」
検察官「Tさんとは頻繁に顔を合わせていたのですか」
証人「何度も電話はしていたが、1年ぐらい会ってなかったです」
検察官「Tさんはどのような状態でしたか」
証人「顔が2倍も3倍も腫れ上がって、同じ子とは思えませんでした。誰だか分かりませんでした。顔も凹凸がなく、鼻の骨も折れていました。あんな顔は見たことがありません」
検察官「Tさんにどんな声をかけられましたか」
証人「話しかけても声が返ってこなくて、手もダラーッとしたままです」
検察官「何分間くらい面会されましたか」
証人「20分間会いました」
検察官「病院でどのようなことを思われましたか」
証人「やりたいことがいっぱいあっただろうに。犯人も逮捕されていないし。Tの顎の腫れがちょっと退きましたが、もう薬の力に頼るしかありません。脳波はゼロで、自発呼吸もありませんでした」
検察官「証人はどんなお祈りをしましたか」
証人「命だけでも助かったら、頑張り屋のあの子はリハビリで直るかもしれないと思いました」
検察官「加害者に対してはどんな思いですか」
証人「何で道を歩いていただけで、こんな目に遭わないといけないんですか。Tは起業家になるという夢と目標を持って懸命に努力していました。私たちのこれからの人生をどうしてくれるのかと言いたい」
検察官「それは誰にですか」
証人「AとB」
検察官「裁判の傍聴には誰と来ているのですか」
証人「家族みんなで傍聴しています」
検察官「犯人を目の前にしてどういう行動を取りたくなりますか」
証人「頭の一つでも殴れないかと思いました。頭ぐらい下げてくれると思いました。息子をこんな目に遭わせて死刑にしてほしい。弁護人の方も頭を下げろと被告に教えないのですか」
検察官「何で謝ってくれないのでしょうか」
証人「謝っても息子は帰ってこないが、まず謝るのが人としての心です。何でこんな人間じゃないのを弁護するのでしょうか」
検察官「誰と傍聴しているのですか」
証人「主人や(被害者の)弟や親戚の方と傍聴しています」
検察官「被告人質問を傍聴していてどう思いましたか」
証人「何回も聞いているうちに、月日が経ったら忘れることもあるのでしょうが、あまりにも曖昧だと思いました」
検察官「これは反省していないと思いましたか」
証人「はい」
検察官「どなたか謝罪はありましたか」
証人「ありません」
検察官「それは被告人の家族を含めてですか」
証人「全くありません」
検察官「現在被告人両名に民事訴訟を起こされていますが、それはいつごろからですか」
証人「初公判が始まったくらいからです」
検察官「それはどういう意図があるのですか」
証人「息子のことを一生かけて償ってもらうと思って起こしました」
検察官「彼らに負担が残っていくだろうと」
証人「はい」
検察官「証人自身、生活の変化みたいなのはありますか」
証人「今は地獄のどん底に突き落とされたようです。今までのように笑うこともできず、Tのことが忘れられません」
検察官「被告人に今どういう思いでいますか」
証人「本当のことを正直に話してほしいです」
検察官「裁判官に処罰のことで言いたいことはありますか」
証人「道を歩いていただけで一方的に路地に連れ込んで、それも人目につくとまずいという理由から、お金を奪って、死ぬかもしれない顔や頭を蹴るなんて人間のすることじゃないです。おなかでも十分危険なのに。人を一人殺したら死刑にする、そういう法律に変えてほしいです。警察の方には犯人逮捕に努力していただき、とても感謝しています。また同じweb起業仲間もホームページで情報提供を呼びかけてくれて感謝しています。彼らが犯人に対する思いを綴った60通の手紙を裁判所は採用してください」
検察官「人を一人殺したら死刑という発言はどういう趣旨で言ったのですか」
証人「多くの人に迷惑をかけている、ということをBとAに分かってほしい」
検察官「そのBとAにはどういう処罰感情を持っていますか」
証人「Tと同じ痛みを与えて死刑にしてほしい」
検察官「最後に裁判官に言いたいことはありますか」
証人「裁判官と検事さんを信頼してお任せします」
 弁護人からの反対尋問はなく
左陪席裁判官「加害者から謝罪の申し出がTさんにはないのですか」
証人「ありません」
右陪席裁判官「民事の審判はまだ結論が出ていないと、そういうことでいいですか」
証人「はい」
右陪席裁判官「加害者の母親とも、話すことはないと」
証人「はい」
裁判長「Tさんの目標だった起業とは、どういう内容だったのですか」
証人「環境に優しい自然エネルギーを使った、例えば風力発電とかそういう内容でした。Tは行動的でしたから、地元の市長にも声を掛けていたことがありました」
裁判長「その嘆願書は誰が書いたのですか」
証人「起業webという同じ志を持つ仲間が嘆願書を書いてくれました」

 ここでNさんの尋問は終わって、Eさんが証言台に座る。Nさんは涙声で、傍聴席でTさんの遺影を掲げていた父親のGさんの嗚咽が時折大きくなって響いた。
 傍聴席には被告人の関係者らしきヤクザ風の男女もいた。被告人らは終始うつむいていた。

検察官「証人は当時Tさんと交際していましたが、将来どのような家庭を築きたいと思っていましたか」
証人「普通の暖かい家庭を作ろうと思っていました」
検察官「交際していたTさんからは、どのようなことを言われていたんですか」
証人「彼はずっと守って、おばあさんになっても幸せにするから、と言いました」
検察官「連絡はメールでのやりとりが多かったのですか」
証人「はい、主にメールで『会社から帰ったよ』とか毎日送られてきた」
検察官「今でもそのメールは残しているんですか」
証人「はい。今でも合計500通くらい残しています」
検察官「事件であなたの生活も変わってしまった」
証人「はい。彼は将来の目標のため、毎日9時半から出社して帰りは夜の10時か11時になっていた。お盆休みのときも自分から仕事に行ったぐらいでした。私はお金はいいから、普通の家庭に変わろうと言いました。彼も分かったと言っていましたが、その一ヶ月後に事件が起こりました」
検察官「今回の裁判の傍聴は何回くらい来ているのですか」
証人「全部の公判のうち、2回休みました」
検察官「そのうちの1回は森上の公判で、被告人らの裁判には1回以外全部出ているということですね」
証人「はい」
検察官「被告人ら2人に対してどう思いますか」
証人「私はそれまで裁判に来たことはありませんが、最初に弁護士と犯人の挨拶と謝罪があって始まるものだと素人の考えで思っていました。ところが単に犯人の罪を軽くするためだけに裁判は開かれるものと知って驚きました。また裁判官や検察官が以前と変わってから、被告が警察に責任を転嫁するようになって、それが審理の中心になってしまっているので、今までの時間は何だったのだろうと思いました」
検察官「法廷で被告人らに会ってどんな気持ちでしたか」
証人「彼の殺した人間の姿を見て、びっくりしました。この人の手が彼を殴ったんだ、この人の足が彼を蹴ったんだ、と思いました」
検察官「裁判を傍聴してどうでしたか」
証人「私はお父さんたちと違い裁判の書類とか送られてきませんから、法廷で聞く話が初めてなので、ショックでした」
検察官「もう平静ではいられないと」
証人「毎回、愛する人の死に方を聞いて普通の神経でいられるはずがありません。私はその時気分が悪くなり、法廷から出て行ってトイレで吐きました」
検察官「その後の様子はどうですか」
証人「怠け者ではないかと思うくらい働かなくなりました。またパニック障害になって薬に頼っています。裁判の度に体調を崩してしまい、9月8日は吐き気もないのに、吐いてしまいました。今日は午前中診察を受けていて、来れそうだということで急遽来ました」
検察官「事件のことを聞いてどう思いましたか」
証人「なぜ殴るだけでは終わらなかったのか、なぜお金を取ろうと思ったのか、なぜ死ぬまで殴ったのかと思いました」
検察官「どういう処罰を望んでいますか」
証人「法律はあまり知りませんが、人を一人殺したぐらいでは死刑にはならないといいます。昨日、7人を殺した男女に冷酷非道として死刑が言い渡されましたが、人数を殺したから死刑ではなく、将来に目標を持って遊ぶこともなく仕事をしていた人間を、冷酷非道に殺したのは一緒です。できる限り重い罪を与えてほしいです」
検察官「加害者に手紙を送ったのですか」
証人「亡くなって四十九日の日にB宛てに、住所が分からなかったAと森上の分も一緒に、謝罪していただけないかという手紙を送りました。ところが、受け取ったという配達記録もあるのに、返事のなく謝罪もありません。謝罪がないんだったら、重い罪で罰してほしいと思います」
検察官「この配達証明というのは、届いていなかったら出ないのですか」
証人「はい、必ず行っています。近所のオマワリさんについてきてもらって投函しました」
検察官「つまり向こうからのリアクションはなかったと」
証人「はい」
弁護側からの反対尋問はなく
左陪席裁判官「起業webとはどういうものだったのですか」
証人「主に自営業者と、起業を目指す人がホームページ上でやりとりをするものです」
左陪席裁判官「サークルのような形だったのですか」
証人「はい。本人が作りました」
左陪席裁判官「だいたい何人くらいが参加していたのですか」
証人「メーリングリストの数は相当あります。オフ会は20人ぐらいで集まっていました」
左陪席裁判官「この嘆願書は起業webの人が中心に書かれたのですか」
証人「嘆願書は高校や大学の友人が中心です。彼は私を友人に紹介してくれました」
右陪席裁判官「Tさんとご家庭を作ろうと考えていたとありますが、Tさんの家族と面識はありましたか」
証人「彼はお金を稼いで、もうちょっと立派になったら紹介すると言っていました。でも彼のおばあちゃんとは面識はありました」
 ここでEさんの証人尋問が終わり、裁判長が91号証の意見を弁護人に求めたが、「まだ本人に見せていない」として意見を留保した。
 次回を両被告への被告人質問で10月27日と指定して終わった。

 被告人2名が退廷するのを、被害者の弟らしき人がじっと見つめていたが、目を合わせることはなかった。
 殺人者には、被害者は勝手に死んだんだ、あいつが死ななければこんな目に遭うこともなかった、という独自の感情が生まれてくると言われるが、そういう心理状態なのかなと個人的に思った。


報告者 insectさん


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