裁判所・部 大阪地方裁判所・第四刑事部合議係
事件番号
事件名 B:傷害致死
A:保護責任者遺棄致死
被告名 A、B
担当判事
日付 2005.8.2 内容 証人尋問

 両被告は長期勾留の為か少々やつれている様に思われた。別段、凶悪犯といった印象は無く、それこそ、どこにでもいる夫婦のようであった。

 この日は被害者の死因鑑定書の再鑑定を行った大学教授の証人尋問が行われた。

−検察官による証人尋問−
検察官「司法解剖の件数は」
証人「1500件前後あります」
検察官「死因についての再鑑定の経験は」
証人「30前後はあります」
検察官「被害者の死因の再鑑定をしましたね」
証人「はい」
鑑定書を見せ、検察官「あなたが作成したものですね」
証人そうです」
検察官「あなたの判断が正確に書かれていますか」
証人「はい」
検察官「あなたが実際に見て再鑑定しましたか」
証人「はい」
裁判長「弁護人、ご意見は」
弁護人「特にございません」

 死因の再鑑定書が証拠採用された。
 内容の要旨は、両被告人の長女で、被害者のaちゃん(6歳)の死因は、虐待による頭蓋内出血、高度の低栄養と貧血である、というものだった。

検察官「これらが死の原因か」
証人「はい」
検察官「頭蓋内出血のみでは死因ではないとしているが根拠は」
証人「これが死因となるためには脳そのものが腫れて、生命維持ができなくなることだが、被害者の脳は腫れておらず、それによって起こる脳ヘルニアもない。よって医学的に違う」
検察官「どのような過程で脳が腫れるのか」
証人「脳内の空間に血液や髄液が溜まることによって、脳が圧迫され腫れる。そして脳ヘルニアになる。今回の件では腫れていないので死因にならないと考えられる」
検察官「写真等で見て、どのように脳が腫れたとわかるのか」
証人「脳の表面の皺の溝が浅くなっているかどうかで判断する」
検察官「被害者の皺の溝はどうだったか」
証人「証拠写真をみてもくっきりわかる。溝もはっきりしているので、脳は腫れていない」
検察官「高度の低栄養はどこで認められるのか」
証人「体重が軽い、皮下脂肪が少ない、血中の蛋白などの濃度が低いという点においてです」
検察官「蛋白が低いと低栄養か」
証人「はい」
検察官「貧血と判断したのはどのような根拠からか」
証人「解剖時の、内臓や血管の血液量が少ない、赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリットが非常に少ないのでわかる」
検察官「これらのことから貧血が認められるか」
証人「はい」
検察官「ヘマトクリットとは何ですか」
証人「血液の中にどのくらいの割合で赤血球が含まれているかを、容積の比率であらわしたものです」
検察官「血小板の数が少ないことから被害者に出血傾向が認められるのか」
証人「はい」
検察官「被害者からは皮下出血が認められるか」
証人「はい」
検察官「被害者の循環血液を500〜600mlとした根拠は」
証人「体重からです。大体、体重の13分の1を目安として判断する」
検察官「10〜20%が皮下出血しているとした根拠は」
証人「解剖写真などから判断した」
検察官「3つの死因の関係で、貧血と低栄養の関係は」
証人「低栄養のため、ヘモグロビン等が十分に産出されない。栄養が取れないと、血中の蛋白質がエネルギーに変化するので、貧血が加速する」
検察官「これと頭蓋内出血との関係は」
証人「出血しやすくなっているので、なりやすいし、止血されにくい」
検察官「頭蓋内出血の量は多かったのか」
証人「くも膜下出血と合わせても、3.1gである。この程度の出血では腫れない」
検察官「なぜこの程度しかなかったのか」
証人「多くなる前に、脳への血液循環が悪くなり、死亡してしまった」
検察官「内出血したのはいつごろか」
証人「死亡する数時間前だと思われる。ヘモグロビン等も変化していなかったので、新しいものだと判断ができる」
検察官「本件では、死亡した12月17日か、12月14日に発生したと思われるがどっちか」
証人「死亡当日の17日だと思われる。仮に14日とするならば、もっと多量の出血をしていた筈である」
検察官「本件では肺炎が認められたか」
証人「いいえ」
検察官「頭蓋内出血で起こることはあるか」
証人「はい、気管支肺炎が起こる可能性はあるが、本件ではない。脳が腫れれば、起こりうる」
検察官「今回、外傷性くも膜下出血が死因とする鑑定もあるが違うのか」
証人「はい、違う」
検察官「外傷性くも膜下出血が死因でないと判断した根拠は」
証人「外傷性くも膜下出血が死因であった場合は、脳が腫れる筈である」
検察官「だから、外傷性くも膜下出血のみが死因ではないのか」
証人「はい」
検察官「今回は解剖に立ち会ってはいないのか」
証人「はい」
検察官「立ち会っていなくても、鑑定できるのか」
証人「解剖の記録がしっかりとしていれば可能である」
検察官「以上です」

−弁護人による証人尋問−
弁護人「解剖に立ち会わなくて、わかりにくい箇所は何か」
証人「影か傷かよくわからないものや、示したいものがはっきり写っていない場合」
弁護人「頭蓋内出血は本件では外力で発生したのか」
証人「被告人の虐待によるものであると考えられる」
弁護人「外力があるとした根拠は」
証人「くも膜下出血は遺伝的な動脈異常以外勝手には起こらない」
弁護人「被害者の出血傾向はどうなるか」
証人「それを考慮しても勝手には起こらない」
弁護人「頭蓋内出血は転倒などの外力でも起こりうるか」
証人「はい」
弁護人「本件においては暴行によるものか」
証人「転倒によっても起こりえた」
弁護人「解剖した黒木医師と違うのは、脳浮腫があるかどうかか」
証人「はい」
弁護人「外力の中に、頭部への暴行だけでなく、転倒もありうると言ったが、14日の転倒の可能性はあるか」
証人「脳も腫れていないし、出血量も少ないためない」
弁護人「脳の出血は止まることはあるか」
証人「循環が止まらない限りない」
弁護人「本件の場合、自然治癒はありうるか」
証人「小さな傷ならありうるが、本件のような場合にはない」
弁護人「被害者の出血は動脈か静脈か」
証人「静脈である」
弁護人「動脈と静脈の出血量の違いは」
証人「同じ太さなら、動脈のほうが多い」
弁護人「一般に頭蓋内出血して延命することはあるか」
証人「小さい血管ならある」
弁護人「14日に動脈が少し切れ、17日まで生存し、B被告の軽い暴行で死ぬ可能性は」
証人「ないと思われる」
弁護人「元々、食の細い子が低栄養になることはあるか」
証人「ある」
弁護人「低栄養が虐待の原因とした根拠は」
証人「ほかの事柄も考え、総合的に判断した」
弁護人「母子共における精神的ストレスで低栄養になりうることはあるか」
証人「体にある多くの外傷で身体的なストレスによって低栄養になりうる」
弁護人「本件において虐待以外で低栄養になりうることはあるか」
証人「多数の外傷があるので考えていない」
弁護人「頭蓋内出血が比較的新鮮であるとした根拠は」
証人「鉄反応などから判断した」
弁護人「食事によってすぐに総蛋白量が変化することはあるか」
証人「体内に吸収され、体に均等にいきわたるまでに数日かかるのでない」
弁護人「出血傾向の本件の原因は何か」
証人「低栄養」
弁護人「B被告の供述によると、軽く小突いて転倒しただけとあるが、それで外圧と言えるのか」
証人「軽いというのは主観的なので、やられたほうからしたら強いかもしれない。よって外圧である可能性は十分にある」
弁護人「全身のあざの出現時期はいつ頃か」
証人「秋頃であると思われる」
弁護人「食べることができなかったのか、親が食べさせなかったのかわかるか」
証人「わからない」
弁護人「今回は困難な再鑑定か」
証人「再鑑定はどれも困難」
弁護人「虐待によって死亡した子を解剖したことはあるか」
証人「10〜20件ある」
弁護人「以上です」

−検察官による証人尋問−
検察官「黒木氏から送られてきた脳の組織を顕微鏡で見たのか」
証人「見た」
検察官「以上です」

−裁判長による証人尋問−
裁判長「低栄養と貧血で死亡は早まったか」
証人「はい」
裁判長「亡くなる数日前に、被害者は自ら立って安定できたか」
証人「あり得ないことではない」
裁判長「蛋白量がここまで減少するのは1、2ヶ月でありうるか」
証人「はい」
裁判「暴力によるストレスからの食欲不振になった可能性は」
証人「十分にある」

 これで本日の審理は終わって、次回期日が指定された。

 両被告人とも審理中に大きな表情の変化もなく、ただ淡々と進んでいったように思われた。
 17時までの予定だったが、終わったときは16時30分くらいだった。
 閉廷後、弁護人と検察官が廊下で話すのを聞いていたが、これで死因が三転したらしく、何とも先の見えない公判であるというような話をしていた。

事件概要  B被告は2003年12月17日、大阪府豊中市の自宅で、しつけと称して長女を虐待して死亡させた。
 B被告の夫・A被告は妻の長女への虐待を知りながら、積極的に長女を救う手だてを講じなかった。
報告者 指宿さん


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