裁判所・部 名古屋地方裁判所・第一刑事部合議係
事件番号 平成17年(わ)第2418号
事件名 強盗殺人、死体遺棄
被告名 A、B、C
担当判事 天野登喜治(裁判長)高橋裕(右陪席)
その他 書記官:東昌哉
弁護人:ハツミ(A)、ヤマダ(B)、ソノダ(C)
検察官:梅田健史
日付 2006.2.13 内容 被告人質問

 2月13日14時から、強盗殺人等の罪に問われたA、B、Cの3被告の公判が名古屋地裁(天野登喜治裁判長)であった。
 複数の刑務官に連れられて入廷してきた3被告。弔慰の意図があるのか不明だが、3被告とも上下黒い服を着ていた。いずれも痩せていて小柄である。
 A被告は丸細い垂れた眉に吊り目をした丸刈りの男性で、B被告は眉をしかめた神経質そうな普通の髪型の男性、C被告は綿みたいな眉に垂れた目、頬ににきびがあるスポーツ刈りの男性だった。
 遺族の関係者が被告人が座る席に近い傍聴席の座ろうとしたが、移動させられていた。その遺族の女性は審理中に鋭い視線を被告人らに送っていた。
 ちなみに天野登喜治裁判長は地獄部判事である。
 童顔で背の低い検察官1名に、弁護人が各被告人1人ずつ計3人ついていた。
 今日の予定はB被告への被告人質問で、彼は軽度の知的障害者であるが、健常者と変わるところがないほど受け答えは的確だった。

−冒頭の検察官による若干の被告人質問−
検察官「Aからバットを取り上げたCはどんなことをしていましたか」
被告人「殴るような動作をしました」
検察官「どんな感じですか」
被告人「刀を振り下ろすような感じで、右肩の上あたりに振り上げて、腰まで振り下ろした。そのようにしてaさんに殴りかかりました」
検察官「aさんのどのあたりに当たったのですか」
被告人「頭のへんです」
検察官「顔を背けたので、殴った瞬間は見ていないのですか」
被告人「はい」
検察官「見たときは、あなたと何センチぐらい離れていたのですか」
被告人「30cmぐらいです」
検察官「その後どんなことが起こりましたか」
被告人「ドスンという音が聞こえました」
検察官「どれくらいあとですか」
被告人「すぐです」
検察官「何の音でしたか」
被告人「殴りつけたと思います」
検察官「何回ぐらい殴りつけていましたか」
被告人「数回ですが、5回よりは少ない」
検察官「Cが「もう死んだでしょう」と言ったので、被害者を見たのですか」
被告人「はい」
検察官「誰が殴っていたのですか」
被告人「Cです。Cが最後にバットを持っていました」
 また検察官と被告人のやりとりで分かったことは、自宅から奪ったお金は3人で山分けすることにして山分けする前に一つにまとめて、金額を数えながら分けた。山分けする前にBが3万、Aが2万を取った。山分けして一人当たり75万円くらいになり、500円から1万円余った。

−B被告弁護人による被告人質問−
弁護人「どのような態度で審理に臨みたいですか」
被告人「素直に真実だけを話したいです」
弁護人「陳述書と題する書簡があって、あなたの指印と名前が押してあるんだけど、この陳述書はどうやって作ったのですか」
被告人「自分で書きました」
弁護人「そして私の事務所に郵送してきたのを整えてワープロで打ったわけですね。ほとんどの部分はあなたが書いたのですか」
被告人「間違いないです」
弁護人「実際あったことを書いたのですか」
被告人「はい」
弁護人「今の心境とかも素直に書いたのですか」
被告人「はい」
弁護人「では陳述書に添って聞いていきます。あなたの母親は知的障害者だったのですか」
被告人「はい」
弁護人「どの程度ですか」
被告人「2級です」
弁護人「2級というのは具体的には?」
被告人「読み書きができない、耳が遠い」
弁護人「仕事はできたのですか」
被告人「はい」
弁護人「あなたにも小さいとき脳に障害があって、知的障害者と疑われたことがありますね」
被告人「はい」
弁護人「小学校に上がるまで知的障害者の通園施設に通ったことがありますか」
被告人「あります」
弁護人「小学校に入学したときから普通の学級に入ったのですか」
被告人「はい」
弁護人「母親はどんな話をしてくれましたか」
被告人「普通の学級に入れたかったと母親は言ってました」
弁護人「学校からは特殊学級に入れたかったという話を聞いたことはありますか」
被告人「聞いたことがあります」
弁護人「普通学級では勉強についていけましたか」
被告人「ついていけません」
弁護人「小学校でいじめられたことはありますか」
被告人「1,2年はひどかった。3,4年になってからはなくなった」
弁護人「どんな理由でいじめられるのですか」
被告人「母子家庭とか鼻水垂らしている、喋り方がヘンとか」
弁護人「どう喋り方が変なのですか」
被告人「幼稚っぽいと」
弁護人「他に何か言われましたか」
被告人「主にそれです」
弁護人「知的障害者みたいと言われたことはありませんか」
被告人「言われたかもしれない」
弁護人「小学校は6年まで通ったのですか」
被告人「はい」
弁護人「成績はどうでしたか」
被告人「ほぼオール1です」
弁護人「中学校は行っていましたか」
被告人「勉強がついていけなくなって行ってない」
弁護人「登校拒否していたのですね。他にも同級生とはうまくいってなかったのですか」
被告人「はい」
弁護人「どういう点で?」
被告人「気の合うような人がいなかった」
弁護人「中3になると途中から行きはじめたのですか」
被告人「はい」
弁護人「それはなぜですか」
被告人「定時制高校に行きたかった。自分の将来のことを考えて」
弁護人「中学校に行ったら、何をしていたのですか」
被告人「他の生徒と別の教室で、プリントをやっていた」
弁護人「プリントはどういった内容でしたか」
被告人「漢字の読み書きとか計算です。小学校低学年のレベルです」
弁護人「ちゃんと学校に通っていましたか」
被告人「いいえ、先生に自分の家庭環境や学力では高校は無理とはっきり言われた」
弁護人「どう思いましたか」
被告人「ちょっとあきらめ気味になった」
弁護人「自分の将来についてはどう思いましたか」
被告人「学校に行けんかったら、働かないとと思いました」
弁護人「それで中学出て働いたわけですか」
被告人「はい」
弁護人「知的障害を持った母親とは、兄弟のなかであなたが一番仲良かったのですか」
被告人「はい」
弁護人「他の兄弟は母親にどのように接していましたか」
被告人「あまり良く接していない」
弁護人「あなたは父親と会っていましたか」
被告人「母親と一緒に会いに行ったりしていた」
弁護人「どこで会ったのですか」
被告人「父親は仕事せずホームレスをやっていたので、橋の下で会った。1ヶ月で多いときは5回以上会っていた」
弁護人「どんな話をしていましたか」
被告人「家のこととか」
弁護人「他の兄弟は知っていたのですか」
被告人「内緒で行っていました」
弁護人「他の兄弟は、父親をどんな感じで見ていましたか」
被告人「あのようにはなりたくないという感じです。でも父親もそんな嫌な感じではなかった」
弁護人「他のあなたの兄弟と比べて、母と一番仲良かったということですが、それはなぜですか」
被告人「昔病気していたのと、末っ子だからと思います」
弁護人「どんな病気をしていたのですか」
被告人「痙攣、発作」
弁護人「初めてひったくりをしたのはいつですか」
被告人「中1くらいで、兄貴と一緒にやった」
弁護人「なぜひったくりをやったのですか」
被告人「生活費や小遣いを稼ぐためです」
弁護人「ひったくりは犯罪だと分かっていますか」
被告人「はい」
弁護人「犯罪をやっているときは、どういう思いでいましたか」
被告人「初めてのときは罪悪感や抵抗感があったが、そのうち日常になった。母も家出していたので仕方がないと思った」
弁護人「母親は家出してどうしていたのですか」
被告人「友達の家かホームレスをしていた」
弁護人「16歳のとき逮捕されて鑑別所に1ヶ月いましたが、そのときは反省していたのですか」
被告人「しました。もう2度とやらないと」
弁護人「振り返ってどのように思いますか」
被告人「怖い思いをさせたと思いました」
弁護人「どのくらいの期間、ひったくりはやっていないのですか」
被告人「5年間くらいはやってない」
弁護人「ひったくりをやろうとも言わなかったのですか」
被告人「言わなかった」
弁護人「あなたが20歳のとき、Y1という男と知り合ったのですが、どこでですか」
被告人「家の近くのパチンコ屋です。仕事の元同僚でした」
弁護人「Y1はどんな印象ですか」
被告人「人相が悪く、性格も悪い」
弁護人「このY1という男に、サラ金から金を借りさせられていたのですか」
被告人「はい」
弁護人「なぜ借りさせられたのですか」
被告人「身の危険を感じました。Y1はヤクザとつるんでいるような感じで、軽く脅迫された」
弁護人「何度かY1に嫌だという意思表示をしていたのですが、それでも金を出していた理由は何ですか」
被告人「家族を守るということです」
弁護人「他にもY1から犯罪に使う銀行口座なども容易させられたね」
被告人「はい」
弁護人「それでお金はもらったのですか」
被告人「ほとんどもらっていない」
弁護人「警察官に相談しましたか」
被告人「しようと思ったが、自分にも過失があると思った。その過失というのは自分の遠い過去のこと(ひったくりのこと)」
弁護人「母や兄に相談しましたか」
被告人「してません」
弁護人「なぜ相談しなかったのですか」
被告人「母には自分のことで心配や迷惑をかけたくなかった。兄には馬鹿にされると思った」
弁護人「ともに相談に乗ってもらえる友達はいなかったのですか」
被告人「相談できませんでした」
弁護人「相談せずにY1にお金を取られるなど、自分一人で悩みを抱えていたわけですか」
被告人「はい」
弁護人「次に18歳のときから、中学校の同級生と一緒に遊ぶようになったのはなぜですか」
被告人「兄貴とコンビニに行っているとき、偶然会いました」
弁護人「遊んでいて楽しかったですか」
被告人「一緒に遊んで楽しかった記憶はなかったです。遊んでても全員分のお金を払わされる」
弁護人「あなたがお金を払っていたのですか」
被告人「はい。金がないとかそういう都合で」
弁護人「おかしいと思っていましたか」
被告人「はい」
弁護人「実際その友達に言わなかったのですか」
被告人「いろいろな都合を言われて、払わされました」
弁護人「その都合というのは?」
被告人「お金がないとか」
弁護人「みんな自分のは自分で払えとは言わなかったのですか」
被告人「はい。グループのなかで自分は孤立していました」
弁護人「同級生からいじめられたのですか」
被告人「見下された感じでした」
弁護人「同級生はあなたを友達じゃなくて、利便性のあるやつとか格下のやつと思っていたのですか」
被告人「私はそう感じています」
弁護人「なぜ付き合っていたのですか」
被告人「寂しかった。友達を作りたかった」
弁護人「あなたに友達と呼べるような人はいるのですか」
被告人「兄貴しかいない」
弁護人「本音を話せる友達は兄以外にはいなかったのですか」
被告人「はい」
弁護人「友達を作ろうと一生懸命我慢していたのですか」
被告人「そのように思います」
弁護人「自分だけ孤立していたというと、みんなも自分の分は払えよとはなぜ言えなかったのですか」
被告人「あまり反抗すると、殴られるのではないかと思った」
弁護人「平成16年の8月くらいから、5年くらいやっていなかったひったくりをやり始めたのはなぜですか」
被告人「借金返済や生活費を稼ぐためです」
弁護人「自分からひったくりをしようとしたのですか」
被告人「いいえ、兄貴に誘われました」
弁護人「誘われたとき、断ることはできなかったのですか」
被告人「断れなかった」
弁護人「ひったくりについては教護院で反省して、もう2度とやらないと思ったのではないですか」
被告人「やけになった」
弁護人「関係ない人にひったくりをすることについて罪の意識というか罪悪感はなかったのですか」
被告人「当時は自分のことで精一杯でした」
弁護人「誘われてその気になってしまったというのはあるのですか」
被告人「そのようなことがあったと思います。いろいろ頭のなかがゴチャゴチャしていた」
弁護人「平成17年の5月にあなたの母親が亡くなったことについて、どんなことを思いましたか」
被告人「どうして守ってやれなかったんだろうと思いました」
弁護人「どういった理由ですか」
被告人「1週間ぶりに戻ったアパートで亡くなっていました」
弁護人「物凄いショックな話だけど、そのことで悪いことをやるというのは?」
被告人「抵抗がありました」
弁護人「それでもやってしまうのはなぜですか」
被告人「自分はその時多重債務者になっていて、リフォーム代とかで大家から200万円の請求があったくらいでした」
弁護人「それでまたやってしまった?」
被告人「はい」
弁護人「強盗殺人の計画について、兄からキャッシュカードを奪って現金を引き出すという話が出たのはいつですか」
被告人「母が亡くなってからです」
弁護人「人を襲ってキャッシュカードを奪って、暗証番号を聞きだすということですか」
被告人「はい」
弁護人「どう思いました?」
被告人「半分冗談で半分本気だと思いました」
弁護人「どういう気持ちでしたか」
被告人「お袋が死んだあとは悪いことをせずに働こうと思っていました」
弁護人「兄と何回か話したのですか」
被告人「はい」
弁護人「その話が具体的になったのはいつですか」
被告人「Cが来たときくらいからです」
弁護人「Cと兄とあなたで、計画の話をし始めたわけですが、あなたの立場はどうでしたか」
被告人「2人よりは弱い」
弁護人「あなたが提案したのは何ですか」
被告人「小学校でバットを盗むことくらいです」
弁護人「他にはありますか」
被告人「ありません」
弁護人「なぜ犯行に積極的ではなかったのですか」
被告人「aさんの家族に自分と似たことを味あわせたくない。借金も少し減らしたし働けるので、やりたくなかった」
弁護人「バットでaさんを殴ることに何か考えましたか」
被告人「下手すれば死んでしまうと思いました。自分がやらなければいいと思っていました」
弁護人「兄から場合によってはaさんを殺すと出たとありますが、それはいつごろですか」
被告人「車を借り入れたときです」
弁護人「兄はどういう言葉を言っていましたか」
被告人「『お前は手を出さなくてもいいから』『生かしたらバレる』などです」
弁護人「どう思いましたか」
被告人「aさんの家族に俺と似たような心境にはさせたくないと思った」
弁護人「そう思って、兄やCには何か言いましたか。反対はしましたか」
被告人「何回かした」
弁護人「何と言いましたか」
被告人「別に殺さなくてもいいんじゃない?と言いました」
弁護人「そしたら兄が何か言ったのですか」
被告人「お前は手出さなくてもいいと兄が言った」
弁護人「結局賛成したのですか」
被告人「賛成はしたと思います。分かったと言いました」
弁護人「やりたいと思っていましたか」
被告人「そんなに思っていなかったです」
弁護人「そんなにはって少しは殺害して金を奪いたいという気持ちがあったのですか」
裁判長「今の話26日の話なんですか!?」
 結局その件は「車を借りる前」ということになった。
 裁判長は厳しい口調だった。だがB被告にははっきりしていない。
弁護人「最初に兄から被害者を殺す話が出たとき、いったんは反対ししたが賛成した。そのあとCや兄に反対したことはありますか」
被告人「言ったと思います」
弁護人「具体的にどう言ったのですか」
被告人「『別に殺さなくてもいいんじゃない』『本当にやるの?』『殺すのは反対する』とか」
弁護人「兄はどういう反応をしましたか」
被告人「聞き流したみたいな感じでした」
弁護人「きっぱり反対はしたのですか」
被告人「できなかったです。計画が進んでくるにつれて、それが余計になってくる」
弁護人「あなたとしては殺害して金を奪うことには消極的だったのですか」
被告人「はい」
弁護人「しかしそういう方向で計画は流れていったということですか」
被告人「はい」
弁護人「実行しようとaさんのところに行ったが、その日は失敗してaさんを拉致できなかった。なぜ失敗したのですか」
被告人「自分が周りを見ていなかったです」
弁護人「あなたのミスだったのですか」
被告人「そのような感じです」
弁護人「どう共犯者に言われましたか」
被告人「『こんなんでやれん」とか『ちゃんと見とけ』と怒られました」
弁護人「どういう気分でしたか」
被告人「嫌な気分でした」
弁護人「どういった理由でですか」
被告人「自分があまりやる気がなかった。集中力がなかった」
弁護人「怒られたことで何か言いましたか」
被告人「『2人でやればいい』と怒った口調で言いました。『今更何言ってんだよ!』『お前しかもう仲間はいない』と言われた」
弁護人「それなのにまた計画に加わったのはなぜですか」
被告人「結局説得されて、引き出し役って決まったので承諾してしまいました」
弁護人「抜けようとは思わなかったのですか」
被告人「思ったけど、話が進んでいって抜けられなかったです」
弁護人「犯行の当日、本当はあなたは殺害現場に行かなくてもいいということだったのですか」
被告人「急遽行くことになりました」
弁護人「そのことについてどう思いましたか」
被告人「複雑な心境でした」
弁護人「嫌だったのですか」
被告人「嫌でした」
弁護人「車で山に向かうとき、Cや兄をとめようとはしたのですか」
被告人「車中でそのようなことを言ったと思うのですが、聞こえてなかったと思います」
弁護人「何と言ったのですか」
被告人「『本当に行くの?』とかそんな程度でした。これ以上何も言えなかったです」
弁護人「山に行ったあとも、やめようと言える機会はあったのですか」
被告人「何度かありました。「やらなくてもいい」と小さい声で言いました」
弁護人「大きい声でやめようとは言えなかったのですか」
被告人「言えなかったです」
弁護人「あなたにとって殺害することは抵抗があったのですか」
被告人「はい。2人の勢いに流されました」
弁護人「具体的はどんな勢いですか」
被告人「自分以外は乗り気だったので・・」
弁護人「なぜ止められなかったのですか」
被告人「怖かったからです。殴られたりするのではと思いました」
弁護人「兄に殴られたことがあるのですか」
被告人「ないんですが、当時はそう思いました」
弁護人「Cについてはどう思っていましたか」
被告人「甘く見られると思っていました」
弁護人「Cはあなたのことをどう思っていましたか」
被告人「見下していると思いました」
弁護人「Cは本音を話せる人でしたか」
被告人「そのように思ったことはありません」
弁護人「結局最後まで手伝ってしまったのですか」
被告人「はい」
弁護人「何で手伝ってしまったのですか」
被告人「自分がボーッとしとったら、今さら何言っとんだという感じになってしまった」
弁護人「今回の事件をあなたが手伝うようになったのは、何が一番大きかったですか」
被告人「2人の影響力です」
弁護人「自分もお金が欲しいという気持ちはあったのですか」
被告人「それはあった」
弁護人「でも殺してまでお金を取るという気持ちはなかったのですか」
被告人「はい」
弁護人「事件の後はどのような心境でしたか」
被告人「自分たちがこんな事件を起こさなかったら、aさんはお孫さんたちと楽しく暮らしていると思います」
弁護人「じゃなくて捕まる前のことですが?」
被告人「夜寝れませんでした」
弁護人「自首しようとは思わなかったのですか」
被告人「自首しようと思ったが、怖くてできなかった」
弁護人「逮捕されてどんな心境になりましたか」
被告人「ほっとしました」
弁護人「それはなぜですか」
被告人「aさんにあのようなことをして許される行為でないことは分かっています」
弁護人「aさんの遺族に対してどのように思っていますか」
被告人「私たちがこのような事件を起こさなければ、今頃お孫さんと楽しく暮らしていたと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいです。遺族の恨みは一生消えることはないので、納得できるような判決をいただきたいです」

−A被告弁護人の被告人質問−
弁護人「山の中の林道の上でAとaさんをバットで殴ったということなんだけど、林道の上でCもaさんを殴っていましたか」
被告人「声は聞こえた。殴っているような。見てないから分からない」
弁護人「本当にCの声だったのですか」
被告人「間違いないです」
弁護人「どんな声でしたか」
被告人「オラオラ!という」
弁護人「それは殴るとき上げる声なのですか」
被告人「はい」
弁護人「まずCが林道の下に行ったんですね。ライトを持ってCは林道の下に下りていった。なぜかというとAが林道の下にaさんを放り投げたとき、「痛い!」というaさんの声で生きていることが分かったから。そのあとあなたはどうしたのですか」
被告人「私は下に降りていった」
弁護人「Aも降りていったのですか」
被告人「はい」
弁護人「バットは誰が投げたのですか」
被告人「兄貴がバットを林道の下に放り投げて、自分(Aのことを指していると思われる)も降りてきた」
弁護人「Aは林道の下に降りてきて、バットを取り上げた。それは見ていますか」
被告人「はい」
弁護人「Cが林道の上に上がってきたということはなかった?」
被告人「はい」
弁護人「CがAからバットを取り上げて、何回ぐらい被害者を殴ったのですか」
被告人「Cが一発殴る直前まで見たが、それ以後は見ていない。途中で目を背けたが、殴る音は聞いている。振り向いたら、Cがaさんの遺体のそばでバットを持っていた」
弁護人「兄はどこにいたのですか」
被告人「横らへんです」
弁護人「兄は林道下でaさんを殴ったことはない?あなたが見たのはCが殴ったところで、その後の状況から殴ったであろうということですか」
被告人「はい」
弁護人「あなたと父親との関係は今まで仰った通りなんですが、Aは父親にどんな感情を抱いていましたか」
被告人「憎たらしいと思っていた」
弁護人「どんなものですか」
被告人「小さいころからの積み重ねで、Aから聞いていました」
弁護人「兄と母親との関係はどうですか。兄は小さいころ母親に殴られたそうですが」
被告人「それは覚えていない、喧嘩していたというだけ」
弁護人「Aの性格について検察官にいろんな説明をされていますが、どんな性格ですか」
被告人「非常に几帳面、細かい、負けず嫌い、人にケチをつける、引きこもり、疑り深い」
弁護人「非常に几帳面で、心配性の性格だったのですか」
被告人「はい」
弁護人「何かやるのに準備しないと気がすまないというわけですか」
被告人「はい」
弁護人「引きこもりは兄はいつの頃からですか」
被告人「中学校のころから。兄はほとんど中学校に行っていなかった」
弁護人「中卒だったと」
被告人「はい」
弁護人「家で兄は何をやっていたのですか」
被告人「本とか音楽とかテレビですね」
弁護人「あなたは家で何をやっていたのですか」
被告人「似たようなことです。たまにサッカーを一緒にやっていた」
弁護人「兄は両親に対して恨むような感じでしたか」
被告人「少なからず持っていたと思います」
弁護人「世の中に対して恨みの感情を持っていたか分かりますか」
被告人「分かりません」

−C被告弁護人の被告人質問−
弁護人「あなたはお兄さんと一緒に中1からひったくりをしていたということでよろしいですか」
被告人「はい」
弁護人「Aと何件ぐらいひったくりをしたのですか」
被告人「30件以上です。車でやっていたときもあります」
弁護人「その30件のうちCと一緒にやったのはありますか」
被告人「なかったです」
弁護人「CがAと一緒に引ったくりをやっているのは、聞いたことがありますか」
被告人「兄から聞いた」
弁護人「いつごろからかは分かりますか」
被告人「平成16年くらいからです、Cがひったくりをやっとったのは」
弁護人「それについてCと話しましたか」
被告人「話してない」
弁護人「あなたとAは調書によると3月くらいから「一発当てようか」と言って、ひったくりだけでなくキャッシュカードから現金を下ろすことを考えていたのではないですか」
被告人「正確には分からないけど、春くらいから考えていました」
弁護人「あなたも賛成していたのでは?」
被告人「してました」
弁護人「そして「私もAも運転技術がない。私たち2人だけでは実行に移すことができない」と調書にあるけど、それでもう1人仲間が必要だということじゃないのですか」
被告人「はい」
弁護人「あなたはひったくりの対象者のことをどういうふうに呼んでいましたか」
被告人「獲物と呼んでいたこともあります」
弁護人「今回の計画についてあなたはメモを取っているんですが、そのノートに獲物と書いていますね」
被告人「分かりやすいと思って書いた」
弁護人「Aはどういうふうに呼んでいましたか」
被告人「獲物とかアレとか」
弁護人「今回の事件を話すようになってからも、獲物と呼んでいたのではないですか」
被告人「少なからず呼んでいたと思います」
弁護人「最初に被害者を殺そうとAがしたとき、Cも反対していたと言っていますね」
被告人「はい」
弁護人「あなたの調書にもAと7月26日に車を借りに行ったとき、Aに『生かしとったら、俺たちのことが証言される』『殺らなくてもいい、その代わり現金を引き出すとかはやってくれ』と言われたとありますね」
被告人「はい」
弁護人「多治見の山林内の林道上で、Aがタオルを巻いていないバットで被害者の後頭部を被害者の後ろから最初に殴ったのですが、どこまであなたは見ていますか」
被告人「殴る寸前まで見てた」
弁護人「殴る直前のとき、あなたは懐中電灯をCに取り上げられたということはありませんか」
被告人「はい。『ちゃんと照らせ』ということです」
弁護人「懐中電灯を取り上げられたあとにAは被害者を殴った。だからAと被害者をまともに見ていなかったのではないですか」
被告人「はい」
弁護人「殴る直前から見ていないと言っているが、実際はCに懐中電灯を取られた段階から、その状況を見ていないのではないですか」
被告人「見てました。バットが当たる直前に顔を背けた」
弁護人「目を背けたとあるが、どんな状況だと分かったのですか」
被告人「殴りつけるような鈍い音が聞こえたので、殴りつけたんだな〜と思いました」
弁護人「林道上のことを教えてください」
被告人「そのあとCの声らしい『オラオラ!』という声がしました。振り向いたときにCがバットを持っていたので、最後にCが殴ったと分かった」
弁護人「その『オラオラ!』はAの声の可能性はある?」
被告人「ではないです」
弁護人「断定できる?曖昧な言い方されたけど」
被告人「兄貴の声ではなかった」
弁護人「林道上で殴られた被害者の方を林道の沢の下に投げ捨てたというけど、そこからCが懐中電灯で照らしていた。どのあたりを照らしていたか分かりますか」
被告人「被害者の顔のへんを照らしていた」
弁護人「林道上を照らしていたわけではない?」
被告人「はい」
弁護人「そのあとどうしたのですか」
被告人「そのあとは兄貴が沢にバットを投げて、山林に下りていって、しばらく経ってCが被害者をバットで殴った」
弁護人「被害者のaが殴られている間あなたは何をしていたのですか」
被告人「顔を背けていた」
弁護人「何も見てないわけですか。Aは何をしていました?」
被告人「近くにいました」
弁護人「Aが懐中電灯で、Cが殴りやすいよう照らしていたということはありますか」
被告人「覚えていない」
弁護人「林道の下の沢は懐中電灯を照らさないと暗くて見えなかったのではないですか?前回Aは照らしていなかったと言っています」
被告人「記憶していない」
弁護人「では誰も照らしていないというのですか」
被告人「顔を背けていたので、状況は分かりません」
弁護人「前回Aは林道上は木で囲まれていて暗いが、沢は月明かりで見えていたと言っています」
被告人「確かに沢のへんは若干明るかったと思います」
弁護人は犯行現場の沢の写真を弁護人に見せる。
弁護人「ここに被害者を投げ捨てたのではないですか」
被告人「はい」
弁護人「Cが殴る直前まで見たと言っていますが、被害者はどういう体勢でしたか。AとCも被害者は仰向けだったと言っていて、あなただけは言っている顔の向きが違うようだけど」
被告人「目を背けていたので見ていませんでした」
この件は検察官と裁判長の指摘で、矛盾はないことが確認された。
弁護人「殴る直前も見てないのではないですか」
被告人「殴りつける瞬間は見ました。間違いないです」
弁護人「豊川の河川敷で被害者の衣服と所持品をガソリンで燃やしたあと、お金を分けたということなんだけど、札束を数えたのはCで間違いないですか」
被告人「はい」
弁護人「あなたとAは、警察が来てどんな事実を突きつけられてもシラを切ると示し合わせていたと、Aの調書にありますが間違いないのですか」
被告人「はい」
弁護人「Cが最初に自首したんだけど、それはどういう形で知ったのですか」
被告人「自首したとは刑事もはっきり言っていなかったので、分からなかった」
弁護人「Cが先に出頭して今回の事件を話しているとは刑事から聞きませんでした?」
被告人「はっきりとは聞いていない」
弁護人「自首したということだからCが話したということは知ってるわけですね。どう思ったのですか」
被告人「素直にしゃべってんな〜と思いました」
弁護人「あなた自身は最初に全部話したのですか」
被告人「喋ってます」
弁護人「Aと示し合わせがあったんだけど、素直に供述したということですか」
被告人「はい」
 C被告弁護人は他の共犯者のほうが罪責が大きいことを何とか立証したいようだった。
 C被告弁護人からの質問が終わると、検察官からの質問に移る。

−検察官の被告人質問−
検察官「高校に行けなかったことが、今回の事件を起こすようになった原因の一つだと思いますか」
被告人「自分にも原因はあったと思う。それはないです」
検察官「家庭環境が悪かったことが、今回の事件を起こすようになった原因の一つだと思いますか」
被告人「多少はありました」
検察官「あなたの2人のお姉さんは普通に生活していますね」
被告人「自分の考え方が甘かった」
検察官「家庭環境のせいにはできないんじゃないですか」
被告人「はい」
検察官「生活費を得るためにあなたのお姉さんはひったくりをしましたか」
被告人「してません」
検察官「どうしてあなたとAが生活費を得るためにひったくりをするのですか」
被告人「・・・」
検察官「答えがないので進みます。働けばよかったじゃないですか」
被告人「働いていた時期もありました。自分の考えが甘かった」
検察官「1回ひったくりで警察に捕まったあと、再開するときY1という男に脅されていたからだという。だからひったくりは仕方ないと思っているのですか」
被告人「思っていません」
検察官「犯罪に使うための携帯電話や銀行口座までY1に作らされたともいう。どうして警察に行かなかったのですか」
被告人「行っても相手にしてもらえない」
検察官「警察に実際行ったのですか」
被告人「いいえ」
検察官「なぜ相手にしてもらえないと決め付けるのですか」
被告人「証拠がない」
検察官「自分にも過失があるから、警察に行かなかったわけですか。結局自分が警察に捕まりたくなかっただけですね」
被告人「少なからずあったと思います」
検察官「どうして働かなかったのですか」
被告人「ひったくりのほうが手軽にお金が手に入る」
検察官「働くだけの体力はあったね?」
被告人「自分の考えが甘かった」
検察官「母親の死にショックを受けたことが、ひったくりの原因になったのですか」
被告人「それはない」
検察官「それはないね。多重債務だからひったくりをするというけど、どうして働かなかったのですか」
被告人「働いても給料は低額です」
検察官「少ない給料で借金を返している人はいっぱいいますよね。どうしてあなたはそれができなかったのですか」
被告人「そのときはしっかりと考えていなかった」
検察官「母親が請求されたリフォーム代ですが、あなたは一円でも払いましたか」
被告人「払ってない。葬式代は払った」
検察官「被害者を殺害したことについて、消極的だったのを強調しているけど、それでいい?」
被告人「はい」
検察官「どうして2人を本気で止めなかったんですか」
被告人「2人に何を言われるか分からない」
検察官「どうしてそれを警察に相談しなかったんですか」
被告人「捕まるのが怖かった」
検察官「強盗殺人ですよ!?人を殺すことですよ?普通の人だったら2人を殴り倒してでもすると思います」
被告人「そこまで頭が回らなかった」
検察官「本当にやめたいと思っていたんですか」
被告人「できませんでした」
検察官「あなたの殺したくなかったという気持ちが弱いものだったんじゃないですか」
被告人「はい、それはあります」
検察官「せめて自分だけでも逃げ出すんじゃないですか」
被告人「それも説得されてできなかった」
検察官「あなたが殺害を反対するための『本当にやるの?』という言葉ですが、その程度でいいんですか?」
被告人「はい」
検察官「あの程度の言葉で、調書のように『強く反対した』と言えるのですか」
被告人「はい」
検察官「犯行に消極的なのにどうして多治見の山に下見に行ってるんですか」
被告人「計画がずれたからです。成り行きで行ったと思います」
検察官「そんな消極的な人がなぜ被害者を殺害することを決めたあと、タオル・ナイフ・スコップ・ポリタンク・帽子・サングラス・変装用の服などを買ったのですか」
被告人「(Aと)2人で一緒に住んでいたので、行きました」
検察官「行くのやめればよかったじゃないですか?どうしてそうしないんですか」
被告人「断ることができませんでした」
検察官「CとAと一緒に被害者の家の下見に行ったり、原動機付自転車を買いに行ったり、UFJ銀行を下見したり、遺体の匂いを消すための消臭剤まで買っている。これだけやっているのに消極的と言えるんですか」
被告人「消極的でした」
検察官「普通の人も私もそう思えないんですがね」
被告人「当時はそのように感じた」
検察官「犯行日の前日失敗したのに、わざわざ深夜にUFJ銀行まで行ってお金を下ろすやり方を確認したのですか」
被告人「はい」
検察官「あなた自身がメモしていることだけど、3人で原動機付き自転車を買っていますね。それだけやっていても消極的と言えるんですか」
被告人「そう思った」
検察官「最初にAが被害者を殴ったとき被害者を車の内側から引っ張り出したり、被害者の手首をビニールひもで縛ったり、声を上げられないよう口をタオルで巻いたり、被害者の体を押さえつけたり、外から見えないよう被害者の体にバスタオルを巻いたり、毛布にチェーンが掛かっていたのでこれを外すためクリップを用意したり、被害者の鍵を見つけて捨てるものとは別に取っておいたり、被害者を埋めるための穴を探すため山のあたりを歩きまわったり、被害者から口座の暗証番号を聞いたあと車の外に引っ張り出して歩いて連行している。全部自分がやったことですが、覚えていますね。殺すのに消極的だった人の行動とは思えますか」
被告人「・・・」
検察官「終わります」

 検察官は犯行態様を並べ立てて質問をする厳しい人だった。
 次回はC被告への被告人質問で2月27日の午後2時からと指定した。

 被告人3名が退廷したあと、検察官と、お年寄りと茶髪の中年女性である遺族関係者が法廷の外で打ち合わせをしていた。

事件概要  3被告は2005年7月30日、愛知県名古屋市の路上で強盗目的で飲食店従業員を拉致し、岐阜県多治見市で殺害した。
報告者 insectさん


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