裁判所・部 長野地方裁判所・刑事部
事件番号 平成16年(わ)第213号等
事件名 住居侵入、窃盗未遂、強盗殺人、銃刀法違反、邸宅侵入、窃盗
被告名 西本正二郎
担当判事 土屋靖之(裁判長)桂木正樹(右陪席)吉川健治(左陪席)
日付 2005.10.19 内容 被告人質問

 整理券配付の締め切り時間に間に合わなかったが、傍聴希望者が殆ど居なかったらしく、傍聴券を先着順で交付していた。なので、四階の書記官室で傍聴券を貰う事が出来た。
 法廷内には、報道記者席は四つ用意されており、他にも報道陣用のベンチが最前列に三つ用意されていた。また、関係者席と思われる席が十四用意されていた。
 傍聴人は十数名程度入廷した。報道記者席は一つ空席だったが、関係者席と思われる席は全て埋まった。

 山崎検察官は、二〜三十代位の女性。検察官はこの人だけだった。
 弁護人は、四十代ぐらいと五十代ぐらいの男性一名ずつ。開廷表によれば、二人の名前は鈴木と金子というらしかったが、当初は、どちらがどちらかは解らなかった。
 被告は、やや背が高い。丸坊主で、上半身は黒いシャツ、下半身はグレーの縞のズボン。眼鏡を掛けている。腕は布で隠され、かけられた縄が見えないようになっていた。傍聴席に背を向ける形で着席する。

 第四回公判は、一時十五分から開廷した。
 本日は、被告人質問が行われた。その冒頭に、やや異例の事態があった。裁判長は、質問の間、座っていて良いと被告に述べた。しかし、被告は、立ったままで良い、と述べ、結局これが認められた。

−鈴木弁護人の被告人質問−
弁護人「貴方、前回の公判で、自分の命を軽く見て、人の命も軽く見る考え方だったと話している」
被告「・・・・・」
裁判長「質問してるから答えて」
被告「はい」
弁護人「生い立ちが原因と言っているね」
被告「はい」
弁護人「家庭環境も含めて」
被告「はい」
弁護人「貴方にとって、小さい頃、家庭はどんな存在?」
被告「話したくないです」
弁護人「何故?」
被告「それも話したくないです」
弁護人「そうすると・・・・被告人質問は答えたくない」
被告「はい」
弁護人「何故?」
被告「話したくないです」
裁判長「弁護人の被告人質問に答えたくない」
被告「はい」
裁判長「理由も」
被告「はい」
裁判長「検察官には?」
 弁護人の言うところによると、被告人質問を4〜50分ぐらい考えていたらしい。
裁判長「弁護人から質問されても答える気は無い」
被告「はい」
裁判長「検察官からは?」
被告「質問による」
 弁護人による質問は、今日は取りやめになった。

−検察官の被告人質問−
検事「Wさんを殺害してタクシー強盗をした事件で、違っていた部分があった」
被告「はい」
検事「事件前に引ったくりの計画は無かったのは間違い無い?」
被告「はい」
検事「何故、引ったくりの話を捜査段階でした?」
被告「話したくないです」
裁判長「次の質問を」
検事「タクシー強盗を考えていないなら、名古屋に行くことは無いのでは?」
被告「話したくないです」
検事「運転手の家の金を盗もうとしたと前回言ってたね?」
被告「はい」
検事「其の時、被害者の家族構成を解っていなかったのでは?」
被告「話したくないです」
検事「前回、弁護人の質問で、Wさんの自宅の鍵を奪ったと」
被告「はい」
検事「それで、金を盗ろうとしたと言っていた」
被告「はい」
検事「鍵の話は、捜査段階では出ていなかったね」
被告「はい」
検事「その話をしたのは、遺族から鍵の話が出たからでは?」
被告「いえ、違います」
検事「窃盗することは無かったと、前に答えている」
被告「はい」
検事「Xさんの事件で嫌疑がかけられていて不味いと」
被告「はい」
 この後、検察官は一つ質問をしたが、被告は回答を拒否した。
検事「Xさんの事件について。この時も捜査と違う話をしているね」
被告「はい」
検事「Xさんの家の下見は無かった」
被告「はい」
検事「ならば、何故、当初、空き巣に入ろうとしていたという話を?」
被告「話したくないです」
検事「Xさんの身内の犯行に見せかけるつもりだった」
被告「はい」
検事「家族構成は何故解った?」
被告「Xさんから聞いていた」
検事「どのように?」
被告「話したくないです」
検事「Xさんは一人暮らしという認識だったのでは?」
被告「はい」
検事「遺族が疑われて辛い思いをしたので、身内の犯行に見せかけるつもりだったと言った?」
被告「話したくないです」
検事「窃盗に始めて入ったのは、病院で知り合った患者の自宅?」
被告「話したくないです」
検事「Aさん宅に何度も盗みに入っている」
被告「はい」
検事「申し訳ないとは(思っているのか)?」
被告「当時か、今の話か?」
被告「(当時は)ありません」
検事「給料目的だったのなら、その他の同僚の自宅にも入れたのでは?」
被告「給料以外にも別の目的があった」
検事「それは?」
被告「話したくないです」
検事「何故何度も?」
被告「解らないと思った」
検事「何故、盗みがばれないと?」
被告「話したくないです」
検事「被害者自宅を狙った三件の強盗殺人で、被害者の二人は障害があった。何れの人も被告人より弱い」
被告「はい」
検事「何故狙った?」
被告「立場が弱いからとかそういう目的で狙ったわけではない」
検事「では何故?」
被告「お金のため」
被告「年齢や性別は関係ないです」
検事「Wさんは中学卒業後から働いていた。遺族の話では、真面目で几帳面でつつましい生活を送っていた」
被告「はい」
検事「八十歳までタクシー運転手をすると、体を鍛えていた」
被告「はい」
検事「生き方について、如何思う?」
被告「話したくないです」
検事「(殺されるとき)俺の人生これまでか、と呟いたWさんの気持ちについて如何思う?」
被告「話したくないです」
検事「Xさんは、つつましい生活を送り、痴呆の症状も出ていたが、草花を育てるのを楽しみにしていた」
被告「はい」
検事「生き方については?」
被告「話したくないです」
検事「遺族は、(被害者が好きな季節に殺されたことを)非常に残念と思う、と述べているが」
被告「話したくないです」
検事「(遺族は)泥棒に入られてもすぐ忘れるから殺さないでも、と言ってもいたが」
被告「話したくないです」
検事「(被告に)水を持ってきてくれるなど、親切に接してくれたXさんを殺害することに躊躇は?」
被告「話したくないです」
検事「Yさんは、農業が好きで、その作物を近所に配るのを楽しみにしていた」
被告「はい」
検事「Yさんは、奥さんとお子さんを相次いで亡くされても懸命に暮らしていたが、如何思う?」
被告「話したくないです」
検事「Zさんは、夫を亡くしたが、女手一つで子供を育ててきた」
被告「はい」
検事「娘さんやお孫さんの成長を楽しみにしていた」
被告「はい」
検事「それについて如何思う?」
被告「話したくないです」
検事「遺族は、これからゆっくり出来るのに殺されてしまった、と述べていたが」
被告「話したくないです」
検事「最後には自分が死ねばいい、と考えて、殺人を繰り返した」
被告「はい」
検事「懸命に生きた人の命を奪ったことに、被告の命で償えると、本当に考えていた?」
被告「話したくないです」
検事「被告は、逮捕当初、Aさんへの住居侵入等について否認していた」
被告「はい」
検事「何故?」
被告「話したくないです」
検事「覚悟できていたのなら、話せばいいのでは?」
被告「話したくないです」
検事「Aさん事件について、何時認めた?」
被告「話したくないです」
検事「その他の事について、何時認めた?」
被告「話したくないです」
検事「どんな取調べを受けた?」
被告「話したくないです」
検事「その他の窃盗などについても警察に疑いを持たれているのは解っていた?」
被告「話したくないです」
検事「四件の強盗殺人について話したのは何時?」
被告「話したくないです」
検事「何故話した?」
被告「話したくないです」

−裁判長の質問−
裁判長「今日、弁護人からの質問に答える気は?」
被告「ありません」
裁判長「期日を変えれば?」
 一度被告は答えたが、聞こえにくかったらしく、裁判長は問い直す。
被告「解りません」

 裁判長は、一時四十分から二時まで休憩を宣言し、その間に今後についての打ち合わせをする、と述べる。休憩の間、被告、裁判官、検察官、弁護人は退廷した。
 休憩中、報道関係者は新聞記事のスクラップを見たりしていた。傍聴人は事件のことを小声で話すなどしていた。また、関係者の多くは、職員に先導されて何処かへ案内されていった。『仕事を休んで来たのにふざけやがって』という声も、関係者席の辺りから聞こえた様に思う(多少は人が残っていた)。
 再開五分前ぐらいに、外に出ていた人の多くが戻ってきた。
 再開の三分ぐらい前に、被告人は硬い表情で、関係者席に少し目を向けて入廷。弁護人も入廷する。
 そして、検事や裁判官もその少し後に入廷し、再び開廷する。
 礼をするために立ったとき、被告人はズボンをずり上げていた。

 被告人質問は続行するが、本日は行わないことになった。
 検察は、発覚の端緒に関する証拠調べを請求。

裁判長「弁護人は意見を述べますか?」
弁護人「いいえ、留保させていただきます」
 検察官は、本件が社会の耳目を集めた証拠として、新聞記事を請求するが、弁護人は反対し、裁判長は請求を却下する。検察官は、それに異議を唱えた。
弁護人「異議に理由は無い」
裁判長「異議を却下します」

 そして、裁判長が公判期日を指定し、閉廷となる。四時半までの予定だったが、二時五分ぐらいに終わった。
 被告は、傍聴席に目を向ける事無く退廷した。

 私が見た限り、関係者席の人々は裁判の間、被告人を見ていた。
 閉廷時も、職員に先導された。
 被告は声の感じを変える事は無かった。抑揚はあるが、感情が表れておらず、淡々としていた、と言えるかも知れない。
 被告の感情は読み取れなかった。

報告者 相馬さん


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