裁判所・部 水戸地裁裁判所・刑事部
事件番号
事件名 住居侵入・強盗殺人・窃盗・強盗殺人未遂・建造物侵入
被告名
担当判事 林正彦(裁判長)
日付 2005.6.23 内容 被告人質問(第4回公判)

 6月23日午前10時から住居侵入・強盗殺人・窃盗・強盗殺人未遂・建造物侵入の罪に問われたA被告の第4回公判(被告人質問)が水戸地裁(林正彦裁判長)で開かれた。
 傍聴券が配られ、入廷してしばらく経つと拘置所職員に連れられ、被告も入廷。入廷した時に最前列の一番近い席に座り、遺影を掲げた遺族にしばらくの間礼をしていた。
 被告は凶悪犯という感じではなく、TIMのゴルゴ松本に似て、目を若干垂れ目にした色白の男であった。服装は上は赤で、下はジーンズを着用していた。朴訥とした語り口で中肉中背である。しかし被告人質問で明かされた事件内容は極めて悪質なものであった。

裁判長「それでは今日は検察官の被告人質問を始めます。前回あなたの声が傍聴席にまで聞こえないという指摘があったので、今日はもうちょっと大きな声でね」
被告人「はい」
検察官(女性)「Kさんを殺害した後、和室で物色していますね。それは息を吹き返したらもう1度殺すつもりで遺体を和室に運んだんですか。」
被告人「はい、そうだったと思います。」
検察官「そのなかで後悔はあったんでしょうか?」
被告人「・・・。何と言ったらいいか分からないです。」
検察官「その時は後悔の念を持っていたかどうかです。動揺していたと調書にありますが」
被告人「そうだったと思います。普通ではありません。」
検察官「あなたは色々な偽装工作をしていますね。言ってみて下さい。」
被告人「バックを押入れに隠す、網戸の移動、靴を隠して車を移動、鉢植えの移動、それとKさんの遺体を押入れに隠しました。」
検察官「他に携帯の電源を切る、衣服を背もたれに掛ける、そういうこともやっていますね。どうしてやったんですか?」
被告人「Kさんのバックから現金を抜き取ったが、キャッシュカードの暗証番号が分からなかったので、誕生日かどうか運転免許証を確認して、ATMに現金を下ろしに行ける時間を確保したかったからです。」
検察官「お金を下ろすまで何とか時間をかけさせる、そういうことですね。」
被告人「そうです。」
検察官「調書では動揺していたとあるが、動揺していたら偽装工作なんてやれないんじゃないですか。冷静に行動している」
被告人「その時には落ち着いていました」
検察官「そのせいで被害者の家族は強盗だとは分からず、2日後に遺体を発見した。時間の余裕が欲しいというというあなたの思う通りコトが進んだということじゃないんですか」
被告人「そうです」
検察官「そのお金で消費者金融に借金を全額返済している。罪の意識は本当にあったんですか?」
被告人「それはありました。借金は消費者金融はそれで終わりだったが、銀行にはまだありました」
検察官「2度と消費者金融は利用しないと思いましたか」
被告人「そうです」
検察官「返済して残ったお金でパチスロをやっていますね」
被告人「よく覚えてないけど、やっています」
検察官「どんな気分でパチスロをやっていたんですか」
被告人「一時のパニック状態から落ち着きましたが、人を殺したという罪悪感から気を紛らわせるためにやりました」
検察官「気を紛らわせるため?」
被告人「はい。ちょっと変になりそうでした」
検察官「ところが平成16年1月からまたサラ金に手を出していますね?」
被告人「時期は覚えていないが、出しています」
検察官「それはなぜですか?」
被告人「事件のことは自分しか知らないけど、罪悪感から自分を落ち着かせるにはパチスロしかなく、そのため」
検察官「事件の翌日に銀行に現金を下ろしに行った時はアルミサッシの配達に行くと勤務日誌に書いていますね」
被告人「覚えていません」
検察官「職場に警察が来たとき、勤務日誌にその日のことを書いてると言ったんじゃないんですか?」
被告人「覚えていません」
検察官「アルミサッシの配達に行く時は勤務日誌に書かなくてはならないんじゃないんですか?」
被告人「書き忘れたか自分で消したか覚えていません」
検察官「事件のことをインターネットや新聞でそれなりに調べていたとありますが、遺族がビラ配りや懸賞金を出している報道を見てどう思いましたか?」
被告人「一日でも早く捕まえて欲しいと思いました。遺族とか関係者の悲しみは理解しているが、自分可愛さと言いますか」
検察官「なぜ自首しなかったんですか?」
被告人「考えたこともありましたが、本当に行動に移すとなると、どうしたらいいか分かりませんでした。」
検察官「調書で家族のためにも捕まるわけにはいかないとありますが、遺族の悲しみはこんな程度じゃないですよね?」
被告人「はい」
検察官「防犯カメラに顔が映り外出する際気になったとありますが、その後サングラスまでかけてパチスロに出かけてますね。このサングラスで人目をごまかそうと思ったんですか?」
被告人「パチスロに出かけたのは少しでも紛らわせるためで、サングラスでなく眼鏡です。眼鏡は仕事に行く時も掛けていました。」
検察官「偽装までしてパチスロに行きたいということですか」
被告人「そういうことではないです」
検察官「あなたは失踪する前、奥さんに結婚なんかしなければよかった、子供なんて生まなければよかったと言っていますがなぜですか?」
被告人「当時はおかしくなりそうだった」
検察官「なぜ失踪したのですか?」
被告人「自分か自分でない悲しい感じがしました。普通ではありません。なぜと言われても答えられない。」
検察官「家族を捨ててまで逃亡するのも、さっき言った自分可愛さのためがあったんですか?」
被告人「なんて答えたらいいか分からない」
検察官「あなたは逃走資金のためにジャックスカードで借り入れしていますね?」
被告人「覚えていません」
検察官「その後、ジャックスカードにカードが紛失したと電話までしている。そしてカードを捨てている。返す気ありませんでしたね」
被告人「・・・。」
検察官「あなたは携帯電話も捨てていますね?」
被告人「6月に家を出たときに自分を捨てました、そのことで携帯電話も捨てました。」
検察官「その時データも全て消しているのはなぜですか?」
被告人「それは拾った人にどう使われるか分からないからです」
検察官「失踪直後は毎日パチスロで暮らしていたんですね」
被告人「そうです」
検察官「お金がなくなったので働いたわけですね」
被告人「はい」
検察官「被害者のことを考えると本気で死のうと思ったと供述していますが、上野まで逃げて毎日パチスロで遊んでいたわけですね。それに市役所に住民票を取りに来たときまた盗みをしていたのはなぜですか。また家の人に見つかったらどうするつもりだったんですか」
被告人「もう捕まってもいいと思っていました」
検察官「あまりにも衝撃的な事件を起こしたと言っていますが、また盗みに入ってパチスロに興じる。変わってないんじゃないんですか」
被告人「まあ、そういうことになります」
検察官「バイク屋で現金を下ろすときに使ったヘルメットを盗んだ日をごまかしたのはなぜですか」
被告人「嘘は付いていました。計画的な犯行と思われるのが嫌だった」
検察官「防犯カメラに映った画像でそのヘルメットの出所が分かったんですよね。それに被害者の膣内に多少なりともあなたの精液が残っていたのは知っていますね」
被告人「はい」
検察官「警察に追及されて強盗殺人未遂を自供したのですね」
被告人「取り調べを受けている時はKさんの件ばかりでしたが、いろいろ深く考えるうちに思い出しました」
検察官「被害者の顔面を包丁で切り付けたのはそれだけでも強烈な思い出でしょう。また盗みを始めた時期を最初は平成15年としていたが、実際は平成9年だという。6年も前から盗みを始めていたのに、なぜ事件のたった1ヶ月前から盗みを始めたように供述していたんですか」
被告人「取調べのなかであれもあった、これもあったということです」
検察官「どこに思い違いをする余地があるのか」
被告人「そういうことです」
検察官「7月10日の強盗殺人未遂の件で伺いますが、被害者の目を狙って刺したということはありませんか」
被告人「目を狙ったということはありません」
検察官「警報装置をいじったことはないか」
被告人「外したかなんかしたかもしれません」
検察官「すぐに侵入を発見されないようにするためか」
被告人「補助ロックみたいなものをいじったかもしれません」
検察官「7月17日の強盗殺人の件で、被害者が家の前に来たとき、この家の人とは思わなかったとあるが、それなら風呂場に隠れる必要があったのか」
被告人「それは自分でも分かりません」
検察官「ヘルメットの件以外は正直に話していますね」
被告人「はい」
検察官「2つの事件の前の平成15年の6月か7月頃、元吉田で現金を盗み、借金返済に充てていたという調書があるが覚えていますか」
被告人「覚えています」
検察官「実際お金が入っても借金返済には焼け石に水でもうどうしようもない状況にあったと調書にあります。逃げずにブレーカーを切って待ち構えていたわけですね。また借金の利息分は竹内から借りた10万円で返済できたものの、利息だけでなくもっと多くのお金を手に入れたいという気持ちはありましたか」
被告人「それは常に思っていました」
検察官「お風呂に隠れたのは、空き巣程度ではダメで、強盗なら確実にお金を手に入れることができるという意図からじゃないのか」
被告人「そこのことは覚えていない」

 ここで検察官が裁判官の許可を取り乙40号証を被告人に示す。
検察官「最後の行はあなたの署名ですね。この風呂場の件はどういう趣旨で書いたのか」
被告人「刑事が人は何かの意志を持って動くんだと言われ、うまく表現できないが、あえて理由を付けるとしたらそういうこと(強盗を働くために風呂場に潜む)になる」
検察官「カードを手に入れてATMから現金を引きおろす目的で、最初から被害者の殺害を考えていたんじゃないのか」
被告人「それは否定します」
検察官「あなたは事件後奥さんと離婚しましたが、家は持ち家だったようだけど財産分与はどうなっているのか」
被告人「元妻にあります」
検察官「資産がない、つまり遺族に慰謝料を支払えないことになるのか」
被告人「はい」
検察官「それではどうやって償うのか」
被告人「それは刑が決まってそれに素直に従うことだ」
検察官「今回の事件ですが、強盗殺人1件だけでも死刑か無期しかないということは弁護人から聞いて知っていますね」
被告人「はい」
検察官「それなのに今回は殺害した女性を強姦したり、他にもいろいろやっている。また遺族も死刑を願っている。相当重い処罰が下ることは分かりますね」
被告人「はい」
検察官「自分の刑罰について裁判官にお願いしたいことはあるか」
被告人「お願いっていうか、裁判官の先生に従う」
検察官「死刑でも仕方ないと思うか」
被告人「正直に言って、そうなりたいかと聞かれれば素直には言えない」
検察官「被害者は声も出せないまま、どれほど死にたくないと思ったか」
被告人「首を絞めている間は考えなかったが、後になって考えた」
検察官「繰り返しになるけど、被害者を殺さなければならなかったのはどうしてか」

 ここで傍聴席の被害者と同年代らしき女性達から呻き声が漏れる。
検察官「どんな厳しい判決になってもそれを覚悟しているということか」
被告人「はい」

 ここで被告側弁護人のよる被告人質問。
弁護人「空き巣をしている時期、通帳やカードを目にしたこともあるが、それは取らなかった。現金だけ盗んでたということになるのか」
被告人「そうです」
弁護人「カードを取らなかったのはなぜか」
被告人「暗証番号が分からない、下ろす時に顔を見られる」
弁護人「暗証番号が分かる時というのはどういうことか」
被告人「暗証番号は誕生日か車のナンバーが多くて、過半数が誕生日ということをTVで見た」
弁護人「空き巣に入った時に、カードの暗証番号を得られるという気持ちはあったか」 被告人「なかった」
弁護人「つまり現金を下ろす時には確定的な意識はなく、使えるかもしれないというだけだったのか」
被告人「はい」
弁護人「たくさんの上申書があるが、自発的に書いたのか」
被告人「はい」
弁護人「7月17日の事件の日もカードを取ってやろうという気持ちはあったのか」
被告人「行く前は思ってないです」
弁護人「つまりあなたの意識としては結果的にそうなったということですね」

 弁護人からの質問は短時間で終了し、次に左陪席裁判官からの質問。
裁判官「ギャンブルをやっていたとのことだが、宝くじ、パチンコの他にはやっていたのか」
被告人「その当時はそれだけです」
裁判官「かなり頻繁にパチンコには行っていたのか」
被告人「思い出すだけでもかなりの数」
裁判官「平成15年の7月頃も頻繁に盗みをおこなっていたのか」
被告人「考えたけど分からない。実際に何年ごろやっていたのか記憶にない。だいたいは仕事の帰りで、上申書でも結構前のことで思い出せない」
裁判官「盗みに入る家の基準は何か」
被告人「まず近くに犬がいない、なるべく人が頻繁に通らない、アパートを選んだのは昔入った経緯があり、夏場にはまさか2階まで上がってこないだろうと無用心さがあるところを選んだ」
裁判官「盗みに要する時間は」
被告人「30分もあれば」
裁判官「盗むのはどういう状態にあるときか」
被告人「押入れとか居間に置いてあったときとか」
裁判官「7日の事件では直前にパチンコに行くほど、借金返済には1ヶ月間の猶予があったと供述があるが」
被告人「切羽詰っていたけれど、時間を逆算してパチンコをしたり盗みをしたりしている」
裁判官「空き巣に入る段階で、逃げようとは考えていたのか」
被告人「逃げることもできるが逃げないでいることもできるということ。入った時は空き巣で入ったのでそこまでは考えない」
裁判官「人がいるとは思わなかったのか」
被告人「空き巣というふうにしか考えていない」
裁判官「どうして被害者を脅してお金を取ろうと思ったのか」
被告人「包丁を見せて脅す言葉を言ったが、間髪入れず悲鳴を上げられたので脅すというのではなくパニック状態になって刺してしまった」
裁判官「隠れて出てきた時点から殺そうと思っていたのか」
被告人「ここは取調官ともかなり言い争ったが、自分としては殺すつもりはなかったが、刺すという行動が殺すということらしいので、殺意があったということになる」
裁判官「7日の被害者は顔を目がけて刺していたのか」
被告人「自分のなかの記憶としては左頬を刺していたことが強く印象に残っている」
裁判官「7日の事件で、被害者を殺した後どうするかという気持ちはあったか」
被告人「考えていない」
裁判官「その3日後にバイク屋でヘルメットを盗んでいるが、そこから17日の間に盗みはしていたか」
被告人「盗みはしていない」
裁判官「17日に被害者の部屋に入るとき、人が帰ってくることは考えていなかったのか」
被告人「人が帰ってくることはまさかないだろうと思った。人が帰ってくるということは想定から外している」
裁判官「アパートの廊下を歩く足跡がこの家の人だと思ったのはいつか」
被告人「足跡が止まり、鍵をガチャガチャとした時です」
裁判官「風呂場に隠れていたのは脅してお金を取るためか」
被告人「帰ってきたときは脅して取ろうということは考えてない。足がすくんだわけではないが逃げるに逃げられずという気持ちで、よく分からない」
裁判官「17日の事件で『静かにしろ、騒ぐな!』と言って1時間ぐらい押さえつけていたが、押さえつけている時は何をしていたのか」
被告人「じっとしていた。被害者の肩を掴み、仰向けに寝させていてその右隣に座っているという状況だった」
裁判官「1時間もあれば他にできることもあったのではないか」
被告人「押さえたのはいいけど、結論が出ないままどうしようどうしようとしていた」
裁判官「そのどうしようといった状況のなかで、被害者を殺すことも考えていたのか」
被告人「それは考えもしました」
裁判官「財布のなかにお金が入っていたことは知っていたか」
被告人「バッグがあったので当然お金も入っていることになる。実際入っていたのは2枚か3枚のクレジットカードと、あとは現金でキャッシュカードは取るつもりはなかった。まあ番号が分かればいいとは思っていた」

 ここで右陪席裁判官からの質問に切り替わる。
裁判官「7日の事件は黙らせようと思って刺したのか」
被告人「悲鳴を上げられて驚いて刺した」
裁判官「黙らせるには殺してしまうのが一番手っ取り早いと思うが、そういう心理状況だったのか」
被告人「そういうことではないです」
裁判官「冷静に判断できず刺したということか」
被告人「夢中でした。あまり考えられなかった」
裁判官「17日は殺害することとか色々考えていたということだが、それは包丁でか」
被告人「包丁は前の事件の影響でダメだった。どこかに連れて行って殺そうとかそういうこと」
裁判官「首を絞めたら確実に殺せると思ったか」
被告人「経験ないので分かりません」
裁判官「被害者や遺族以外で誰に対して一番申し訳ないと思うか」
被告人「あまりにも影響が大きく、一概には言えないが特に自分の妻や子どもに対して申し訳なく思う」

 ここで最後に林正彦裁判長からの質問。
裁判長「現金以外にカード類も一緒に取ろうと思ったか」
被告人「それはない。具体的に言えば現金が欲しいが、バッグごとなので、そのなかにカードも含まれるということだ」
裁判長「積極的にカードを取ろうとは思わなかった?」
被告人「そういうことです」
裁判長「脅したとき、暗証番号を聞きだすことは考えなかったのか」
被告人「それはないです」
裁判長「一時的にカードを入手したことはあるが、使ったことはこれまでないということか」
被告人「そうです。なかにカードも入っていたということだ」
裁判長「7日の被害者の目を刺して失明させてあなたの顔を見ることをできなくするということはないか」
被告人「考えていない。そこまで冷静でない」
裁判長「悲鳴を上げたのだったら、口やノドを刺せばいいのではないか」
被告人「考えていない」
裁判長「胸にも包丁の傷があるが」
被告人「何かの拍子でどちらかの胸にいったのだろう」
裁判長「包丁が逆手だが、持ち直すということは考えなかったのか」
被告人「ずっと逆手に持っていてそのままいった」
裁判長「違う手に持ち返るという気持ちはあったのか」
被告人「ないです」
裁判長「手加減はしたか」
被告人「してないです」
裁判長「包丁が曲がったり、傷がいっている。相当な力で刺したということか」
被告人「かなりの力が入っていたんだなあとは思う」
裁判長「17日の件で被害者が家に入ったとき、脅して現金を取ろうという気持ちはあったのか」
被告人「自分でも納得がいかないところで、なぜ風呂場に逃げたのか、そこで立ち尽くしていたのかどう考えてもそこしか行き着かない」
裁判長「自分の行動だから、あなたがはっきり言ってほしい」
被告人「はっきり言いたいんですが、何とも言えない」
裁判長「残って強姦して殺害してから、お金やカードを取ってもいいわけでしょう」
被告人「押さえつけていたとき、お金は目と鼻の先にあるが、どうやって取ったらいいか考えた」
裁判長「そのどうしようという状況のなかで顔を見られないように殺してしまうという選択肢もあったのか」
被告人「自分のなかでは奪ったあとのことを考えた。『うわ、泥棒!』とか言われて近所の人が出てきても困るということだ」
裁判長「暗証番号を聞きだすということは考えなかったのか」
被告人「人から言われてああそうかという程度。バッグのなかに免許証が入っているから、その誕生日と暗証番号が違っていたらそれでいいという気持ち」
裁判長「あなたはお金に困っていますよね」
被告人「まだ軽い気持ちだった」
裁判長「被害者が逃げようと振り払ったのはなぜか」
被告人「夏場で汗ダラダラだったので、肩で汗を拭う仕草を何度も見せた。その時自分の片手が離れるので、隙を捉えたのではないか。また『自分には仲間がいるから、抵抗しても無駄だ』と脅していたが、仲間も来ないので一人ならと考えたのではないか」
裁判長「逃げようとしたとき、助け声を上げたか。」
被告人「上げたが、どんな助け声だったかははっきり覚えていない」
裁判長「逃げようとした行為が引き金だったと供述しているが」
被告人「逃げようとされたのでもうダメだということだ」

 ここで裁判長からの質問が終わり検察官からの再度の質問。
検察官「先ほど、盗みに入る条件をいくつか挙げていたが、あからさまに男性だと分かる部屋には入らなかったのでないのか」
被告人「そうです」
検察官「できれば女性の部屋と考えて盗みを繰りかえしていたのか」
被告人「どちらかと言えばということ」
検察官「黙らせるためには殺すしかないという気持ちで刺したのでないか」
被告人「思ってないです」
検察官「最初の調書ではそうなっているし、それは検事に訂正までして言っているが」
被告人「思っていない」
検察官「7日時点での生活状況は脅すことが当たり前のような生活になっていたのか」
被告人「そうです」
検察官「裁判長、勤務日誌の写しを証拠請求したいのですが」
裁判長「わかりました」
裁判長「今日はここまでにします。次回の期日は指定された7月28日で遺族の意見を聞くことと論告ということにします」

 被告人は退廷するとき、数秒間遺影に頭を下げていた。年老いた遺族は無言だったが、傍聴席からは「形だけ」との声が被告人に向かって叫ばれた。

報告者 insectさん


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