裁判所・部 福岡地方裁判所久留米支部・刑事部合議係
事件番号 平成16年(わ)第276号、平成16年(わ)第298号
事件名 死体遺棄、強盗殺人、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反
被告名 北村孝紘、北村真美
担当判事 高原正良(裁判長)沢村智子(右陪席)増尾崇(左陪席)
日付 2005.11.15 内容 被告人質問

 11月15日の午後2時から、ともに死体遺棄・強盗殺人・殺人・銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪に問われた、北村孝紘・北村真美両被告の第11回公判が福岡地裁久留米支部(高原正良裁判長)であった。
 支部の裁判所だけあって、一般傍聴に割り当てられた席は少なかった。
 北村孝紘被告は入廷するなり傍聴席を睨みつけ、元相撲取りだけあって太っているが背は中程度の、目と眉が細く吊り上がった男性だった。上下スーツで、ベートーベンのような髪型で眼鏡をかけ、下はゼブラ模様で、さながら合唱団の指揮者のような出で立ち。
 北村真美被告は白髪が目立つ女性でジーンズを着用、すっぴんのため顔の至るところでデキモノが散見された。双方とも色白である。

 今回は真美被告弁護人による被告人質問。真美被告弁護人は眼鏡をかけて穏やかそうな男性。

弁護人「ご主人の実雄さんや孝君の証言によると、被害者のbさんとは7年くらいの前からのお付き合いだったのですか」
真美「最初は主人の知り合いの人の金銭問題で知って、顔は10年くらい前から知っていました」
弁護人「具体的に関わったのは何年前ですか」
真美「7年前です」
弁護人「あなたは借金の整理をしてあげたのですか」
真美「はい」
弁護人「あなたと出会ったとき、bさんはお金を貸している状態だったのですか」
真美「はい」
弁護人「それについてはどうだったのですか」
真美「子供のこと、cが当時いじめに遭っていて、その相談を受けているうちに親しくなりました。だんだん自分(b)が取り立てできない債権を取り上げるようになりました」
弁護人「取り上げた人数や金額については覚えていますか」
真美「30~40人。下は1万から上は数百万でした」
弁護人「bさんはどんな人のお金を貸していたのですか」
真美「幅は色んな人で、生活保護者、いわゆるブラックリストの人たちにもお金を貸していました」
弁護人「利息はどうでしたか」
真美「人によって異なりますが、1月1割が中心でトイチもありました」
弁護人「あなたはどれくらい債権を取り立ててあげてたという認識があるのですか」
真美「一口に言えば一千万円以上です」
弁護人「あなたの取り分は当初は折半していましたね」
真美「はい」
弁護人「きちんと回収金の半分をくれていたのですか」
真美「最初はもらっていましたが、途中から100万渡したとき50万が私のほうに来なくて、『貯めといてやる』と言われました」
弁護人「それはどうしてですか」
真美「家のバタバタで、200万とか100万を借りていました。bさんに金利は月5万でいいと言われ何回か払っていましたが、ゴチョゴチョしていたので、金利はいい、待つから、その分取り立てた分を充てるということです。それでbさんと揉めました」
弁護人「どういうことで揉めたのですか」
真美「『貯めといてやる』との言葉に私は預かってやるということだと思っていましたが、bさんは金利に充当させるつもりで、それで食い違いが生まれました」
弁護人「あなたが借りていた300万の元金は減ったのですか」
真美「いいえ、減っちょりません」
弁護人「具体的に借金の金額については知っていたのですか」
真美「私が取り立てていた分は、bさんの大学ノートに書かれていました」
弁護人「bさんは相手の弱みにつけこんで借金の取立てをしていたそうですね」
真美「ん?弱みにつけこんで?」
弁護人「言い方を変えると、金額を曖昧にして取り立てていたのですか」
真美「はい。eさんなんかは100万借りて80万返していたのに、150万の借用書を作らされていた」
弁護人「どういうことですか」
真美「私が取り立てるくらいだから、半年ぐらい逃げちゃった分、その期間を金利として取り上げるわけです」
弁護人「そういうことをするbさんについてあなたはどう思っていたのですか」
真美「そん時はbさんの取立てをしてるから、悪いこと言えんもん。結局eさんの件はご主人が倒れたので、これ以上私はよう行かんよということになりました」
弁護人「あなたのほうが暴力団組長の妻なので立場が強いように思うが、お金を借りていた弱みがあるから、強く言えないということだったのですか」
真美「影響は大きかった」
弁護人「あなたから見て、bさんはどんな人でしたか」
真美「事件を起こした当初は、とにかくお金お金で強欲な人だというイメージでした。しかし10年間もお金だけで付き合っていたわけではありません」
弁護人「あなたの調書のなかでは彼女はプライドが高いという記述がありますが」
真美「大学中退ということも知っていました」
弁護人「物怖じしないでズケズケ言ってくるともありますね」
真美「土足でどんどん入ってくることが事件当初では大きかった」
弁護人「あなたはbさんと仲良かったのですか」
真美「私も電話がかかって呼び出されて、嫌やとは言ってないから、周りの人から仲良く思われているやろうとは思う」
弁護人「縁を切ろうとしたことはありますか」
真美「全くないわけではないが、お金を借りているから」
弁護人「c君やa君とも面識があって、家族ぐるみで付き合いをしていましたね」
真美「はい」
弁護人「c君のことはどう思っていたのですか」
真美「小学校のこと、あの子は村八分になっていました。それで学校に一緒に行ったこともあります。ウチ(の子)は元気がいいもんで、cはそれを真似て、勉強がおろそかになった」
弁護人「cのことを自分の子供のように見守っていたとあるが本当ですか」
真美「いろんな子がウチには出入りしてて、その辺の子と変わらないように接していました」
弁護人「a君についてはどう思っていましたか」
真美「a君はc君と違った。一言で言えば、cちゃんは要領の悪い子で、a君は要領の良い子です」
弁護人「事件当時のことですが、bさんの様子が変わってきたと思ったのはいつですか」
真美「前の月とかすごく違っていました。何かこう、私らの知らないところで知らないことをやっているという感じで、八つ当たりが私のほうにくる」
弁護人「bさんの家の隣の方と、土地の境界線をめぐって揉めたが7月11日くらいだったのですか」
真美「そうですね。この方と大きく揉めたのは2回で、小競り合いは数え切れないくらいあります」
弁護人「資本金1億円で、金融屋を立ち上げるというのはbの口から聞いたのですか」
真美「そのことで金融の手続きを孝に聞いたこともあるが、あんまり個人的にタッチしていなかった。bさんは『cを社長にして、取立ての面であなたの息子を使ったるばい』と言っていました」
弁護人「それを聞いてどう思いましたか」
真美「あの人ならやるなと思っていました。10年間付き合っているなかでそれは思いました。私からしてみれば、雲を掴むような話なんだけど、彼女は本気だろうと感じた」
弁護人「それはご主人の実雄さんにも話していたのか」
真美「かえって主人もビックリしていました。また資本金の1億円という言葉に反応しました。電話を切った瞬間に実雄が『今1億円持っとる?』と聞いてきました」
弁護人「fが6000万円持ち逃げしたと言う話は、bさんは何と言っていましたか」
真美「やりとりが狂ったんでしょうね。その6000万について実雄も『探さないかん!』と言っていた」
弁護人「あなたはb家の見取り図を書けますか」
真美「私は2階に上がったことがないので、間取り図を書けと言われても分かりません。ただ仏間にbさんが休まれるベッドがあることは聞いていました」
弁護人「bさんを打ち殺さないかんと口走ったと調書にありますが、打ち殺したいと思うようになったのはいつですか」
真美「軽い気持ちで言うことが多かったが、根に持って殺さないかんと思ったのは9月16日からです」
弁護人「本当に殺すというのは思わずに言っているということですが、どんな意味合いですか」
真美「一言で分かりやすく言えばハッタリですね」
弁護人「7月ころからよく言うようになったということなんだけど」
真美「それくらいからイライラしていたのは事実です」
弁護人「イライラを解消させる意味合いがあったのですか」
真美「イライラを解消させるというわけではなく、殺さないかんという間隔が短くなりました」
弁護人「あなたの家族の前でも言ったことはありますか」
真美「あります」
弁護人「どんなときに言ったのですか」
真美「揉めたときです」
弁護人「どんなことで揉めたのですか」
真美「借金の取立てがうまくいかなくて、ガーッという感じ」
弁護人「あなたはbさんにどれくらい借金を返さなければいけなかったのですか」
真美「bさんの大学ノートによると、全部で900万返してくれと言われました」
弁護人「北村家の借金が6000万だったのは事実ですか」
真美「はい」
弁護人「どんなところから借金をしていたのですか」
真美「検察での調書の一覧表に書かれています」
弁護人「bさんやその親族からも借金していたわけですね」
真美「はい。bさんのお母さんからは2300万円の借金がありました。残金がどうこうというのは迷惑をかけているから出なかったです」
弁護人「なぜbさんのお母さんから借金をしていたのですか」
真美「一時期gさんと仲良くなったからだと思います。お母さんとの付き合いは3年ぐらいです」
弁護人「収入の目処が立たなかったのですか」
真美「900万もの金額が埋め合わせできずに空回りするようになりました」
弁護人「事件より3~4年前は建設会社を経営して、従業員も雇っていましたよね」
真美「ゴチャゴチャしていて下火になりました」
弁護人「石橋建設の台所はあなたが把握する立場だったのですか」
真美「そうですよ」
弁護人「生活費だけでも月30万から40万いったとありますが、ご主人や孝君が自分で仕事を見つけてきたことはありますか」
真美「それはないです」
弁護人「家計は火の車なのに、主人や息子が我関せずで全部自分に降りかかってきたということですか」
真美「どっちにしろ金銭を扱うのは私ですが、苦しいときは手伝ってくれたらいいのにと思ったのは事実です」
弁護人「主人は仕事をせずに金だけくれくれと言っていたのですか」
真美「仕方ないですね」
弁護人「夫や孝への不満を、『bを打ち殺さないと』という言葉に変換して言っていたのですか」
真美「そうです。主人から小言を言われたとき、何で私が小言を言われながらやってるのかと思いました。薬は自分の何かをごまかすために呑んでいたんじゃないですか。10〜20錠くらい呑んでいました」
弁護人「なぜご主人は自殺しようと考えたのですか」
真美「あの人自身が借金の金額を知っているから、ここで何十万払っても無駄だ、俺がダンプに轢かれて死んだら保険金があると話していました」
弁護人「結局それはできずに実雄は帰ってきた。その後どういう様子だったのですか」
真美「しばらく無言で、『払わないかんところに行こか』と言った」
弁護人「それでbさんも含め、返済の猶予を頼んだのですか」
真美「どの家も主人の顔は立ててくれました」
弁護人「そのころから、bさんを殺すことを2人で相談し合ったとありますが」
真美「そうですね、一番必要なやり方だったんでしょうね」
弁護人「お金を取ろうと具体的に言い出したのはどちらですか」
真美「まず1億円の話が出てきたときに『こんな機会はない』と私が、芯からそう言っているわけではなく、軽い気持ちで言いました。そこからbさんとのトラブルが出てきて、私は自分の分が悪くなると、『殺さないかん』と言っていた。そしてbさんには悪いが、なんとなく人を殺してしまったというわけです。1年間bさんを殺さないかんと計画を持ってやったものではない」
弁護人「bさんについてどう思いますか」
真美「bさんには申し訳ないけれど、その時期に何かしら取り付かれたようにそんな話になっていきました」
弁護人「9月の何日にどういうことがあったのか知りたいのですが」
真美「だから先生、何月何日からbさんを殺そうということになったとか、そういう表現はできないんですよ。ただbさんに2610万円の土地代を用意するよう言ったのは私です。三井鉱山の件でもお金をbが持っているか持っていないかを確認するための野心が私にはありました」
弁護人「明日の16日以降、いよいよ実行すると言ったのは誰ですか」
真美「私です」
弁護人「実雄がそういうことを言ったのではないですか」
真美「いよいよ実行するという話をしたとき、その場にいたのが実雄でした」
弁護人「あなたと実雄はその後どういう段取りをするとか決めていたのですか」
真美「どこにbさんを呼び出すかとか、もうその時にはbさんを殺すということを決めていたと思います。人目につかないところで、例えばハッカク(場所)は車が少ないよね、ハッカクに連れ込んで私が殺すと言うことを主人に言いました」
弁護人「実雄が殺ると言ったのを静止して、私が殺すと言ったのはなぜですか」
真美「あくまで私は私ですから」
弁護人「なぜ私は私と言い張ったのですか」
真美「分からないけど、この事件のなかでいつも私が私がと言い張っていますね」
弁護人「殺す方法とかは相談していたのですか」
真美「自分がやるならアイスピックで、ということしか記憶に残っていません。私があの人を殺すんやからと言っていました」
弁護人「カッターナイフをずっと持ち歩いていましたね」
真美「主人と話すとき、カッターナイフでbさんを殺すとは言っていません」
弁護人「遺体をワゴンRに乗せて、砂浜に捨てるというのがご主人の考えでしたね。そして明日やるから、と孝君にも話をしていたのですか」
真美「その時点では何も言っていません。翌日明けてから孝に話をしました」
弁護人「16日の話というと、bさんを殺害するかしないかという話もあったんだろうけど、丸山建設だけでもという思いは本当になかったのですか」
真美「諏訪公園にbさんを連れて行ったとき、いろんな話をbさんとしていて、その時に、土地代が用意できる200〜300万円出来るなら(私に)回してという話もしました」
弁護人「bさんに会ったのはこの日の午後からですか」
真美「それくらいだったと思います」
弁護人「では午前中はどういう件で動いていたのですか」
真美「金策に行っていました」
弁護人「知りあいからお金を借りようと、福岡の病院とかに行っていましたね」
真美「はい」

 ここで真美被告の尋問が終わり、期日を11月22日、28日とあらかじめ決めて閉廷した。

 真美被告は涙を流すシーンもあり、孝紘被告は尋問中食い入るように真美被告を見ていた。
 手錠を掛けられているとき孝紘被告と目が合ったら、暴力団のような形相で睨み付けられたのでゾッとした。4人もの人間を次々に手にかけた彼の残虐な本質を垣間見た気がした。

事件概要  被告は、福岡県大牟田市において、以下の犯罪を犯したとされている。
1:2004年9月16日夜、孝紘被告は兄・孝被告と共に、親の知人の次男(a)を強盗目的で絞殺。
2:同月18日未明、孝紘・孝・真美被告と、真美被告の夫の実雄被告の4人は、強盗目的でaの母親(b)を絞殺。
3:同日、4被告は、aを探していた同人の兄(c)とその友人(d)を、口封じのために射殺。
 真美被告は2004年9月22日に、孝紘被告はその3日後に逮捕された。
報告者 insectさん


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