裁判所・部 神戸地方等裁判所・第4刑事部
事件番号 平成24年(わ)第887号等(裁判員事件)
事件名 死体遺棄、逮捕監禁、殺人、監禁、詐欺、生命身体加害略取
被告名
担当判事 佐茂剛(裁判長)空閑直樹(右陪席)若林貴子(左陪席)
その他 書記官:高倉美由紀
日付 2016.6.24 内容 判決

 この日、神戸.裁判所庁舎では、数日前の「号泣会見」元議員へのすったもんだ裁判とは対照的に、旧正月が到来したとはいえ、冬の2月にしては穏やかなお天気ではあった。ただ、やはり、尼崎連続変死事件の判決宣告だけあって、二十数名の利害関係者、さらには生命保険会社の関係者、警察関係者、マスコミ記者などが大勢、開廷前から約80の一般傍聴席を求めて、この穏やかな日々の下、行列を作っていた。
 裁判所事務職員の人も、一般傍聴席に空席が出来たときのために、俗にいう「補欠」式先着入場券の準備などに余念がなく、慌しい開廷準備がされていたが、開廷時間が近づき、裁判所女性書記の手引きの下、被告人が、黒色の髪を束ねて、かつ、小柄な姿で入廷した。
 裁判長は被告人に正面に立つように命じると、「では、判決宣告に要する時間は60分前後になるだろうと思われます」と事前に告げてから、宣告に移った。

−理由の要点−
○第1.当事者の陳述
・被告人本人「検察側が冒陳で指摘した事項のうち、細かいことについては、もう、はっきりした記憶が無い。だから、殺意などについては、もう、今は、記憶があいまいになっていて、自信のある法廷陳述は、むつかしい。」
・弁護側「検察側冒陳には、@殺意についての前提事実、AAとの共謀の点につき、事実誤認と法令解釈の誤りが有るし、この点は起訴状についても同様であるから、殺人罪の成立については明確に争う(無罪主張)ことになる。つまり、起訴状には、重大な事実誤認と、法令適用の過ちが存在する」

○第2.当裁判所の判断概要
(0)総論
当裁判所は、すべての起訴状(以下の事実)について「完全」有罪
 @aさんの保険金殺人詐欺事件
 A「実姉」bさんへの殺人等事件
 Bcさんへの殺人死体遺棄事件
 C「実母」dさんの拉致事件
 Deさんへの監禁事件
被告人の刑事量刑については、以下
 A.被告人固有の刑事責任の大きさ
 B.未成年時代からの、Aによる悪影響・支配力
 C.別件の(叔父に対する)年金窃盗事件での「尼崎の裁判所」宣告の実刑判決の「実質」控除
を特に踏まえて実施したものである。

(1)殺意と共謀について
 @G証人、夫の証人尋問、その他共犯者の証人尋問によって、裁判員法廷ではっきりした、被告人の言動
 A角田一家における、普段の生活状況や、Aの支配力の実勢
 Bその他、争う余地の無い客観的事実
以上のことから、殺意と共同正犯性については、明らかである。

(2)法律技術面の検討
また、証人尋問結果を総合すると、実行行為性も明らかだから、起訴状、冒頭陳述でいうところの「実行共同正犯」性は、充分に立証されたと断定できる。

(3)刑事責任能力について
当審で実施したY1鑑定人による法廷証言、それについての被告人質問結果(および分離共犯者の当法廷証言含む)などから、完全責任能力も、優に認定されるところである。

(4)事実認定等の総括
そうすると、本件では、起訴状や検察側冒頭陳述の重要部分には、何ら事実誤認も、法令適用の誤りも存在しない。
無罪主張についての弁護側論旨は、理由が無い。

○第3.完全有罪判決
(犯罪事実)神戸地方裁判所本庁提出済の、平成24年(わ)第887号、第987号、平成25年(わ)第116号、第208号、第443号、第574号、第828号各起訴状記載の通り

(確定判決)なお、被告人には、平成24年3月、神戸地方裁判所尼崎支部にて、叔父の年金窃盗罪で懲役2年(実刑)宣告⇒確定(受刑)済

(証拠の標目)当公判廷では朗読を省略するが、主要なものとしては、Dの公判供述、G・F・Eの公判供述、さらには被告人自身の公判供述

(法令について)@起訴状記載の刑罰法令、A刑法21条(未決通算)、B刑事訴訟法181条1項但し書き(訴訟費用免除)

(量刑概要)
 3件もの殺人行為への参加⇒刑事責任は、なるほど、検察側論告の言うように重大ではある。しかし
1:未成年時代からのAによる圧倒的な支配力、かつ、Aの巨大影響下で起こった全事件
2:基本的な事実関係は認めて、かつ、共犯者の法廷でも積極的に事実解明をしている(⇒別件での受刑中に、証人尋問実施となったケースも多い)
3:別件の叔父年金窃盗で、すでに、実刑判決を受け、これは、訴訟上は本件全犯行と刑法上の併合罪関係にある
とりわけ、宣告刑を定めるについては、3の点にも配慮が欠かせないことになる。

−裁判結論−
 懲役23年・別件受刑後完了の未決のうち、250日控除

 なお、判決全文は、裁判所公式hpの判例検索で、「事件番号」を入力すると出てくる。なお、この日は、霞っ子クラブの高橋元代表は欠席されたようだが、過去の本公判等については、同氏自身が、活字媒体などで発表済でもあるし、この日の状況については、どうやら、「愉快な裁判官」著者氏も、昼休憩時には観察をされていた、との事である。
 ところで、今回は、抽選倍率は丁度1倍であり、とりあえずは無抽選での入場ということになったが、つめかけた数少ない常連的な 純粋一般傍聴者 からは、丁度1倍というのは、珍しい事象だな、という声も聞かれた。
報告者 AFUSAKAさん


戻る
inserted by FC2 system