裁判所・部 神戸地方裁判所・第二刑事部
事件番号 平成18年(わ)第714号
事件名 殺人
被告名
担当判事 佐野哲生(裁判長)岩崎邦生(右陪席)市原志都(左陪席)
その他 書記官:阪田和也
日付 2006.10.27 内容 判決

 保釈中のA被告は、司法記者ら30名近くが在廷する、神戸地裁2階の刑事合議法廷に、親族の人に伴われて、車イスで静かに入廷した。

裁判長「それでは、開廷します。Aくん」
被告人「はい」
裁判長「耳が遠いようなので、便宜上、判決言い渡しに使うのと同じものを、あなたにも目で見て貰います。これは、後で回収をします」
被告人「はい」
裁判長「被告人に対する殺人被告事件につき、当裁判所は、検察官小野寺明の出席のうえ審理を遂げ、次の通り判決する」

−理由−
○犯行に至る経緯
 被告人Aは、昭和20年に妻aと婚姻したが、約30年前からaと二人で、公営住宅で暮らしていたが、平成17年9月にaがパーキンソン病であることが判明してからは、買い物などは被告人が行うようになり、平成18年2月にaが鬱病であると診断されてからは、aは次第に我が儘を言うようになっていった。
 平成18年3月30日、被告人自身も、自宅で転倒して骨折したが、その後は、被告人自身、足の不自由な状態が続き、このまま妻が寝た切りになってしまうのではないか、という不安が、被告人自身の中で次第に強くなっていった。その後、介護ヘルパーが用意したトイレを、aは気に入らず、Aや介護者に我が儘を言う等したことから、その気持ちは一気に、被告人の中で、高まっていった。事件当日、aの簡易トイレの使用状況を見た被告人は、このまま妻を殺し、自分は刃物で自殺しようと決意した。

○罪となるべき事実
被告人は、平成一八年五月二六日未明の2時ころ、自宅において、a(当時85歳)のくびを、自宅にあったロープで強く絞めつけて殺害し、もってその目的を遂げた、ものである。

○法令の適用
殺人について・・刑法199条
刑の選択・・有期懲役刑
凶器の没収・・刑法19条1項
訴訟費用の免除・・刑事訴訟法181条1項但書
このほか・・刑法66条、刑法25条1項

○量刑の理由
 被告人は、長女Y1や介護者が定期的に自宅を訪問していたにもかかわらず、今後の身の振り方などを、自分からは積極的に切り出すこともなく、一方的に自分たちの将来を悲観して妻を殺害したのであり、誠に短絡的といわねばならない。約60年にわたって付き添ってきた夫から殺害された被害者の無念は、察するに余りあるものがある。生じた結果は、重大であり、被告人の刑事責任は重い。
 しかしながら、
(1)以前は活発だった妻が、パーキンソン病と鬱病により、まるで別人のようになってしまい、それまでとは生活状況が一変したこと
(2)被告人自身も自宅で骨折してからは、一時期、入院生活を余儀なくされ、退院後も歩行困難は続き、以来、被害者の些細な言動にも、被告人は神経を擦り減らす日々であったという、これら一連の事情には、同情の余地がかなり大きく認められるほか
(3)長女Y1も処罰感情をまったく有しておらず、当法廷で、被告人の今後の監督を制約していること
(4)現在では、自殺を図ったことも含め、反省の念を深めていること
(5)現在89歳と、高齢であること
(6)前科前歴が一切ないこと、等の酌むべき事情が認められる。
 そこで、これらの事情を考慮すれば、刑法66条により酌量減軽の上、その刑の執行を猶予するのが相当である。よって主文の通り判決する。

−主文−
 被告人を懲役3年に処する。この裁判が確定した日から5年間、この刑の執行を猶予する。
 神戸地方検察庁で保管中のロープ1本(平成18年領置番号1251番、符号1)を没収する。

 判決の後、裁判長は書類を回収しながら、「aさんの冥福を祈ってあげてくださいね」とA被告に語りかけた。

事件概要  被告人は、2006年5月26日未明、介護疲れから、自宅で妻のくびをロープで絞めつけて殺害した、とされる。
報告者 AFUSAKAさん


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