裁判所・部 神戸地方裁判所・第二刑事部
事件番号 平成18年(わ)第204号
事件名 収賄
被告名 渡部完
担当判事 佐野哲生(裁判長)岩崎邦生(右陪席)市原志都(左陪席)
その他 書記官:竹中さやか
弁護人:大野敢、サカイ
検察官:宮本、他1名
日付 2006.9.12 内容 被告人質問

 開廷前、神戸地方裁判所1階のロビーでは、支援者が雑談をしている。
 その中から、「ここの刑事2部は、先日の、神戸マリンエア侵入事件の判決も担当してるんや」という会話が聞こえてきた。
 101号大法廷(112名収容可能)には、記者クラブ専用席が16、確保されていて、一般傍聴者へは96席が割り当てられていた。この日は、傍聴券は配布されなかった。
 午後1時8分、定刻よりも7分早く、佐野判事が開廷を宣言した。

裁判長「本日は、被告人質問に入りますか?」
サカイ弁護人「その前に、書証の提出がございます」
 検事の同意を得て、書類が廷吏を通じて、担当裁判官3名に回覧される。
裁判長「では、前に出て、そこの椅子にかけてください」

−サカイ弁護人による被告人質問−
弁護人「それでは、弁護人のサカイから、お伺いをします。まず、平成18年2月28日付の公訴事実からです」
弁護人「あなたは取り調べの当初、セルシオを受け取った件は否認していましたね?」
被告人「はい」
弁護人「それは、どうして、なのでしょうか」
被告人「そのことによって、便宜を図った覚えはないということと、取調べのY1検事から、(共犯の)Sさんから依頼をされて、条例を代えて、その対価としてクルマを受け取ったことを認めろ、といわれました」
弁護人「しかし、あなたは認めませんでしたね?」
被告人「はい」
弁護人「それは、どうしてなのでしょうか?」
被告人「多くの事実ではないことを認めてしまえば、多くの無実の人を巻き込んで迷惑をかけるということが念頭にありました」
弁護人「ところでその後、あなたは単純収賄罪の成立を認める供述をしました。これは、なぜですか?」
被告人「取り調べの検事さんが、Y1検事から他の方に代わりましたし、『渡部さん、市長としては、広く収受の権限があるのだから、金品を特定の業者から提供して貰うだけで、法に抵触するんですよ』と言われました。この2つがキッカケでした」
弁護人「共犯のSさん、同じくFさんの件を自供したのは、どのようないきさつですか」
被告人「取調べで手紙を示され、新聞記事も沢山みせられました。ただ、決してこれらの情報は検察庁からはマスコミには流してはいないんだ、と。だが、読売新聞社だけは、検察庁出入り禁止にしているんだ、と取調べ検事から説明がありました」
弁護人「結局、あなたとしては、パチンコ店条例に係る件は、X1さんの法廷証言の通り、という立場ですか?」
被告人「はい。(X1証人は)時間の制約の中で、きちんと証言してくださったと思います」
弁護人「要は、街づくり条例検討会の提言は、あなたが宝塚市長に就任する前に、すでに、提言が出されていたわけですかね?」
被告人「まさに、そうです」
弁護人「街づくり条例に関してですが、市長は、自由な立場で、計画に同意・不同意の意見を述べることができるのでしょうか」
被告人「宝塚市の場合、市長は、その前に、審査会の意見を聴かなければなりません。そして、審査会の意見はできるかぎり、これを尊重しなければならない、ということになっています」
弁護人「しかも、この審査会は、その外部のメンバーの方によって、構成されていたのですか?」
被告人「はい、ですから、市長の有する裁量権といっても、事実上は、自由ではないですね」
弁護人「パチンコ店のモナコと、スーパーラッキー、それぞれ、あなたが市長に就任する前に、開店してますね?」
被告人「はい、いずれも、条例改正前、駆け込み的に許可申請が出されたものですね」
弁護人「これらの店、許可申請は、新条例が出来る前から、準備をしていたんですよね?」
被告人「はい、そうです」
弁護人「ところで、あなた、兵庫県議時代、ヒョウユウキョウ(兵庫県内の,遊戯団体協会)という団体に関与していたのですね」
被告人「はい、そうです」
弁護人「これは、どういう関わりだったのですか」
被告人「兵遊協で、マスコミが頂点に立って支援策を進めてゆくということで、わたしも一県議として関与させて頂きました。兵遊協主催で平山郁夫展を実施したときには、当時の神戸地検検事正も、その会場で挨拶をされています」
 ここで弁護人は、「ちょっと待ってください。あまり長々と喋らないで」と渡部被告に注意した。
弁護人「兵遊協に入っていたことで、あなたは、パチンコ業者さんと特別な関係になったのですか」
被告人「いえ、個々のパチンコ業者さんとは、その当時、特に繋がりはありませんでした」
弁護人「ところで、共犯者Fさんとは、どのような付き合いなのですか?」
被告人「大学時代からの親友でしたので、もう、30年来になります。私が県会議員に当選してから、彼とは,月1回、食事をするようになりました。Fさんのことは私自身も、親友と認識していて、彼には全幅の信頼を置いていたわけです」
 ここで、なぜか、熱心に傍聴をしている筈の支援者の一群から、居眠りをする人が出現した。鼾などをかかなかったせいか、廷吏も、法廷警備職員も、注意はしない。
弁護人「宝塚市長の職務に関連して、Fさんから金品の提供はありましたか?」
被告人「いえ、それは一切、ありません」
弁護人「ではなぜ、Fさんから、個人的とはいえ、各種の便宜を受けたのでしょうか?」
被告人「個人的に、いろいろと彼には助けてもらっていますので、わたしの政治心情に共感して援助してくれているんだ、というのが、その当時の私の感覚でした」
弁護人「捜査段階では、あなたは取り調べ検事に、Fさんとは仕事上の付き合いは一切ないんだ、と述べてますが、それはそのとおりでいいのですか?」
被告人「はい、そうです」
弁護人「ここで、検甲58号証のFさんの供述調書にある、添付資料3の1、を示します。これに関連してまず、おたずねをしますが、この土地は、売却されましたか?」
被告人「この土地で、売却という話はありません。市に行って、調べてもらえば、わかることです」
 ここで、左陪席の女性裁判官(昨年秋に、裁判官に任官した、所謂1年生裁判官である)から質問がされた。
市原裁判官「58号ですか?」
佐野裁判長「いや、われわれには、53号と聞こえたものですからね」
サカイ弁護人「すみません」
 ひきつづき、裁判所速記官立会いの下、弁護人の質問が続く。
弁護人「ところで、ゴルフコンペにSさんが来ていましたね?」
被告人「これは、県議時代から続けているモノでして、Sさんと親しくするために設けたのではありません」
弁護人「そのコンペに当日、出席したのはどれくらいですか」
被告人「250から300人くらいだと思います。そのときに、知っている誰かと会ったとかいう記憶はないです」
弁護人「このゴルフコンペの場で、Sさんと話をした記憶はありますか?」
被告人「そのときは、ないです」
弁護人「大阪北新地で接待があったと、検察官が指摘する件はどうですか?」
被告人「この件は、手帳をみて、確認をしました、私」
弁護人「手帳は、検察側から、払い下げられたものですか」
被告人「検察から、返してもらいました」
弁護人「それでは、今回、セルシオの提供を受けた件を、聞いてゆきますね。これは、あなたが、Fさんに依頼をしたのですか?」
被告人「いえ、そうではなしに、Fさんの側から、提供の話がありました」
弁護人「このセルシオは、もともと、Fさんの会社名義のクルマですか」
被告人「そうです」
弁護人「クルマの提供を受けたのは、親しい友人としてFさんから頂いたという理解なのか、それとも、友人でもあり業者でもあるFさんからだったのか、どちらでしたか?」
被告人「わたしの気持ちとしては、弁護人の先生が仰った前半部分でした。しかし、Sさんが費用を一部負担してくれたということを、そのときは、あまり気にしなかったのは、今思えば、迂闊でした」
弁護人「このときは、もう、Sさんがパチンコ業者であるということは、あなたもわかっていましたね?」
被告人「いえ、そのときは、まだ、知りませんでした」
弁護人「確かに、コトバのヤリ取りこそなかったものの、SさんとFさんの会話で、Sさんが業者さんであることはあなたも、認識ができたでしょう?」
被告人「勿論、そういうことを聞いた記憶は、あります」
弁護人「条例上は、宝塚市長には裁量権限が有りましたから、Sさんにクルマの代金を負担して貰うのはマズイという感覚を、その当時も持つべきではなかったですか?」
被告人「その当時は、あまり、深くは考えなかったですね」
弁護人「結局、Fさん側に負担してもらったセルシオ代金はいくらですか」
被告人「618万2010円と、この場では記憶しております」
弁護人「続いて、平成18年3月24日付、公訴事実について質問をします。当時、共犯者のKさんは何をしていましたか?」
被告人「産廃会社の取り仕切りを、やっておられました」
弁護人「検甲74号の登記事項証明書を示すことにします。セーフティーアイランド社は、東灘区に、当初は存在したのですね?」
被告人「はい、本店は今でも、東灘区にあります」
弁護人「しかし、平成17年には、営業所を、Kさんの御自宅に移していますね?」
被告人「…………(返答なし)…………」
弁護人「失礼しました。この登記書類には、セーフティーアイランド社の営業所は載っていませんね」
弁護人「セーフティーアイランド社は、宝塚市の仕事は請け負っていたのですか?」
被告人「いえ、直接は、請け負ってはいません」
 ここで、佐野裁判長が口を挟む。(午後2時14分)
裁判長「あの、質問と答えが重ならないようにしてくださいね。前で、速記をしてますから」
被告人「はい」
弁護人「次に、宝塚市みどりのリサイクル事業について伺います。乙15号証に添付の資料1、失礼、資料2の1、を示します。これは、どのような資料なのでしょうか?」
被告人「塵芥焼却の為の搬送委託に関する書類です」
弁護人「次いで、資料2の2、を示します。これは、どのような資料でしょうか」
被告人「植木のゴミのチップ化の委託書類です」
弁護人「これらの書類を、なぜ、(共犯者の)Kさんに見て貰うことになったのですか?」
被告人「これは今まで、随意契約とか、或いはそれに近い形で入札が行われてきたので、いろいろ問題である。だから、一度、専門家の目で見て貰おうということで、お願いをしました」
弁護人「Kさんに便宜を図ろうという意図があったのですか?」
被告人「いえ、そんなことは有りません」
 ここで佐野裁判長は、弁護側が公判の冒頭で提出して採用された書類の番号に不備があると指摘した。
裁判長「今日提出された書類は、弁19号から、に後で、直しておいて下さいね。それに伴い、番号がずれて
くる筈です」
サカイ弁護人「わかりました」
 それを踏まえて、サカイ弁護人からの質問が行われた。
弁護人「ここで、弁9から12の振込納税記録、弁19から25の同じく納税記録、そして、弁6から8の修正申告の記録を、それぞれ示します。これらを行った理由は、何ですか?」
被告人「政治資金の中には、やはり量的制限がかかってきますし、政党支部名での処理をするのもどうかということで、検事さんや弁護士さんのススメもあって、国税当局に修正申告をさせていただきました」
弁護人「乙13号添付の平成17年度宝塚市長施政方針演説の書面を示します。法廷では朗読はしませんが、これは、平成15年の市長就任以来、あなたが思っていたことに間違いありませんか」
被告人「そのとおり、まちがいありません」
弁護人「今、事件全体を思うと、どういう気持ちですか?」
被告人「やはり、市長としての自覚が私自身、足らなかったと思います」
弁護人「弁5号証として採用済の市長辞職願ですが、あなたの署名に間違いないですね?」
被告人「間違いありません」
弁護人「これは平成18年2月24日付の作成ですね」
被告人「はい」
弁護人「その当時は、あなたは、否認をされていたんですが、なぜ、辞職を決意したのですか」
被告人「トップ不在のまま、市政が混乱してゆく。そのことへの政治的責任を感じてです」

 ここで午後3時丁度となり、裁判長が15分の休廷を宣告した。
 傍聴席でおおむね熱心に公判を見つめていた渡部被告の支援者達も、法廷の外で休息する等していた。
 3時15分に再開された公判では、地検特別刑事部所属の宮本検事(中年男性検察官)が、渡部被告へ質問した。

−宮本検察官による被告人質問−
検察官「検察官の宮本から、お伺いをします。裁判長から言われたように、質問が終わってから、ゆっくりお答えください」
検察官「あなたは、共犯者Sさん、共犯者Kさんに関する件で、それぞれ単純収賄罪で起訴されていますね?」
被告人「はい、そうです」
検察官「そして、収賄罪になるということを認めたのは、間違いありませんね?」
被告人「はい」
検察官「ところで、あなた、いわゆる供述調書、乙号証については、中身を確認して、サインされましたね?」
被告人「それは、そうです」
検察官「それについては、信用性も一切争うことなく、同意するということで証拠採用がすでにされていますが、
結局、自分の記憶どおりに相違ないということで、サインされたということですか?」
被告人「はい」
検察官「では、それを前提にして、お話を伺います」
検察官「あなたは当初、加重収賄罪になるかもしれない、ということで敢えて否認をしたんですか?」
被告人「はい、取調べの時、そう、説明さしてもらいました」
検察官「加重収賄罪になるよって、誰から、言われたんですか?」
被告人「取調べのY1検事からです」
検察官「そうですか」
被告人「はい」
検察官「ところで、2月23日の時点では、単純収賄罪であるということがハッキリわかったんですか?」
被告人「はい、取調べ検事が交代して、ハッキリ、わかりました」
検察官「ところで、宝塚市長さんという地位は、県会議員の権限よりも遥かに幅広い権限があることは、今はもう、充分に認識なさっておられるのですね?」
被告人「はい」
検察官「Sさんがパチンコ業者であることを、あなたがハッキリ認識した時点は、いつですか?」
被告人「それが、今はもう、ハッキリしないですね」
検察官「ところであなたは、先程以来、この法廷で、審議会や市民の皆様からのシバリがあって、宝塚市長が新条例について裁量を振るうことは難しい、と述べておられますね?」
被告人「はい、そうです」
検察官「しかし、考え方によれば、裁量権は、自由に使おうと思えばできた、わけですね?条例上は?」
被告人「はい、そうです」
検察官「ところで、今、Fさんの調書添付のFAXを示しますが、これは、捜査段階では示されましたか?」
被告人「はい、さっき、この法廷で弁護士さんから見せて頂いたのと同じです」
検察官「あなたは、事件当時、このFAXを見た記憶はございませんか?」
被告人「いえ、その当時は、ないです」
検察官「ところで、Fさんの調書で、この法廷に出されたものは、あなた自身、御覧になりましたか?」
被告人「はい、今は、内容を知っております」
検察官「Fさんが、捜査に迎合しているとあなたは、その調書をみて思いましたか?」
被告人「いえ、それは私にはわからないです」
検察官「Fさんはあなたとトラブルを起こした人じゃないですよね?」
被告人「はい」
検察官「あなたを陥れたり、ことさらウソを言ったりする人なんですか?」
被告人「そうではないでしょうが、調書を読むと、私の記憶と違う箇所が、ありました」
検察官「それは、あなたの記憶とFさんの調書が違うということなのでしょうか?それとも、Fさんの話を録音・録画されているので、違うと断言できる、という意味でしょうか?」
被告人「私の記憶と違うことは、多少なりとは、ありました」
検察官「ふーん、あなたの記憶は100パーセント真実だ、という自信がお有りなのですね?」
被告人「はい、そうです」
検察官「ま、そのように、聞いておきましょう」
被告人「…………(返答なし)…………」
検察官「ところで、あなた、Fさんと会うときは、必ず、手帳に記載するんですか?」
被告人「はい、そうです」
検察官「会ったことを、全部、手帳に書かれるんですか?」
被告人「はい」
検察官「あなたの手帳、どれだけ、分厚いんですか?」
被告人「押収済の手帳を見ていただければわかりますが、記載がアチコチに飛んで、真っ黒です」
検察官「それだと、わかりにくいんではないですか?」
被告人「いえ、本人には一番、これがわかりやすいんです」
検察官「ま、そのように、聞いておきましょう」
被告人「…………(返答なし)…………」
検察官「ところで、あなた、弁護士からも尋ねられていましたが、市の公文書をKさんに見せてますね?」
被告人「はい」
検察官「公文書をコピーして、私人にみせてもイイんですか?」
被告人「当時は、不公正な入札方法ばかり、目が行ってましたので、そこまでは気が回りませんでした」
検察官「公文書って、大事なものじゃないですか?」
被告人「それは、そうです」
検察官「しかも、この公文書は決裁前のモノなんですが、市の許可は得たんですか?」
被告人「いえ、得ておりません」
検察官「公務員として、そのような行為を、今、どのように思われていますか?」
被告人「今は、もう、不適切だったとわかっております」
検察官「あなたは先ほど、『不公正な入札方法の是正に、目が行ってました』と言われましたが、そういう思いがあれば、こういう行為は許されるものなんですか?」
被告人「いえ、関係ないです」
検察官「公文書の件ですとか、市長という立場にありながらの、業者との距離感。これには問題が有ったということは、今回の裁判を通じて充分にわかったのではないですか?」
被告人「はい、充分にわかりました」
検察官「わたくしからは、以上です」

 ここで、主任弁護人の大野弁護士が立ち上がる。(大野弁護士は、法務省本省勤務経験を持ち、雪印食中毒事件や、西村眞吾衆院議員の弁護人などを務めている)

−大野弁護人による被告人質問−
弁護人「一点だけ確認をさしてほしいんですが、あなたは、Sさんがパチンコ業者だと確認したのは、県会議員時代には、まだ、そのことはわかっていなかったですね?」
被告人「はい、そうです」
弁護人「では、秋にセルシオを入手した時点ではいかがでしたか?」
被告人「ええと、5月、6月はハッキリしなかっただけで、11月末には、もう、パチンコ業者さんということはわかっていたと思います」

 ここで午後4時8分。左陪席の市原裁判官から、質問が出る。

−市原裁判官による被告人質問−
市原裁判官「2〜3点、おたずねをしますね。まず、Sさんの件ですが、あなたの調書では『Sさんの下心はわかっていました。』という記載が有るんですが、あなたの第1回公判での認否では、『有利な取り計らいを受けたいとは思っていませんでした』と有るんです。これは、どういうことですか?」
被告人「いえ、調書とほぼ同じ認否のつもりです。供述調書では、単純収賄なんだ、ということを強調したかったものですから」
市原裁判官「あなた自身は、Sさんの気持ちというのは理解していたんですか?」
被告人「いえ、私にはわかりません」
市原裁判官「では、なぜ、単純収賄罪の成立を認める気になったのでしょうか?」
被告人「客観的には明らかなものですから」
市原裁判官「当時はともかく、将来的には、便宜の要求へと発展してゆく可能性があった、ということは否定できないということですかね?」
被告人「はい、そうです」
市原裁判官「新しい条例の下では、パチンコ業者に対して、より、市長の裁量権が拡大した、とは思いませんでしたか?」
被告人「いえ、それはないです」
市原裁判官「次に、Kさんの件についてお尋ねしますが、検察官や弁護人からも先ほどから聞かれてましたが、公共事業の見積もりを見せている件ですけれども、あなたの言い分としては、見積もりを上げたり下げたりするつもりはなかったということですか?」
被告人「はい、そうです」
市原裁判官「これ以外で、Kさんに個人的に何かを依頼したことはないですか?」
被告人「いえ、それはないです」
市原裁判官「どうして、この分野だけ、Kさんに見せたんですか?産廃の資料を」
被告人「やはり、産廃の分野は長年、随意契約で、価格も高止まりだと感じてました。
それで、専門家に見てもらおうと思いました」
市原裁判官「どうして、産廃の分野だけ、Kさんに見せたいと思ったのですか?」
被告人「それは、Kさんが、そちらの専門家だからです」
市原裁判官「わたしからは最後の質問なんですが、政治資金を、今回の裁判まで、処理してなかったのは何故ですか?」
被告人「政治資金規正法の改正や、市長自身が所属する政党支部名を使うのはマズイだろうという思惑ですね。それで、今回、国税局へ修正申告をさせて頂いたわけです」

−岩崎裁判官による被告人質問−
岩崎裁判官「先ほどから、検察官や左陪席の裁判官からも聞かれているんだけれども、あなた、さっきから、Kさんが専門家だと述べておられますけれども、それは、どういう趣旨なんですか?」
被告人「Kさんは廃棄物の専門家ですから」
岩崎裁判官「廃棄物の会社を経営されているから、ということですか?」
被告人「はい、そうです」
岩崎裁判官「単純に、競業他社に見せているだけ、としか思えないですけれどもね、我々には」
被告人「いえ、見積もりそのものが、目的ではないですから」
岩崎裁判官「これ、尼崎の産廃業者のノウハウの入った文書だとは、あなたは考えなかったんですか?」
被告人「いえ、そこは考えなかったですね」
岩崎裁判官「宝塚市にも、公文書開示条例があると思いますが、その条例によっても、この文書は、競業他社の利益を害するので、情報公開できないでしょう?」
 被告人は黙ったまま、裁判官の問いに、うなづく。
岩崎裁判官「あなたは、Kさんには、便宜を要求したとは思ってはないんですか?」
被告人「いえ、思っていません」
岩崎裁判官「友人というよりも、市長さんが業者さんに言うわけですから、これは要求に当たるんじゃないか、とは思いませんでしたか?」
被告人「いえ、当時は思いませんでした。政治理念に共鳴して、出資して下さるという感覚でした」

−裁判長による被告人質問−
裁判長「ヒョウユウキョウという団体で、あなたの肩書きは何ですか?」
被告人「いえ、わたしは加入してはおりません」
裁判長「兵遊協に関して、あなたのやっていることは、どういうことでしたか?」
被告人「兵遊協と共に社会福祉を進める県会議員の会、がありまして」
裁判長「そこの事務局長をされていたんですか」
被告人「はい、そうです」
裁判長「その仕事は、どういう内容ですか?」
被告人「他の議員の方へ連絡をするのが、主な仕事ですね」
裁判長「経営者との交渉などは、されたんですか?」
被告人「いえ、それはなく、奉仕活動・文化活動のための話し合いですね」
裁判長「はい、それから、市長として掲げられた職務の中に行政改革があった、と。それはいいんですよ。改革は改革でいいと思うけれども、あなたは、業者さんから、携帯電話や現金を貰ってましたよね?」
被告人「はい」
裁判長「その当時は、これは応援やから構わない、という気持ちだったわけですか?」
被告人「もちろん、これは、どういう風に処理すればいいのかと、迷いながらでした」
裁判長「ん? だったら、なぜ、そうしなかったの?」
被告人「市長自身が所属する政党支部名を使うのはマズイだろうという思惑ですね」
裁判長「そういう方法を使わずに、個人のモノにしちゃった、と?」
被告人「はい」
裁判長「それって、何か、おかしくないですか?客観的にはワイロですよね?」
被告人「…………(返答なし)…………」
裁判長「本来ね、改革は改革でいいと思うけれども、それに関連してお金を持ってくると。それはね、断らないといけないでしょ?」
被告人「先ほども言いましたように、政治資金として処理する方法を思いつかずに、ですね」
裁判長「返さないといかんでしょ?そこの感覚はおかしくないですか?」
被告人「今思えば、そう思います」
裁判長「ある意味、政治家として失格とも思いますけれど、どうですか」
被告人「…………(返答なし)…………」
裁判長「ま、そういうことについても、弁護人から説明を受けたし、結果として行政不信や政治不信を招いたと。そのことは、今は、わかっていますかね?」
被告人「はい」
 これで被告人質問は終了し、裁判長は、保釈中の渡部被告に「元の席へ戻って下さい」と告げた。

 次回期日を10月13日午前11時から(論告)、次々回を10月27日午前10時から(結審)
とそれぞれ指定し、午後4時半過ぎ、予定よりも30分早くの閉廷となった。

事件概要  渡部被告は、パチンコ店の出店の見返りに2名の業者から金品や乗用車の提供を受け、産廃事業に関する賄賂も受け取っていたとされる。
報告者 AFSAKAさん


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